環境社会学会で電磁波問題を議論

 6月5日に関東学院大学(横浜市)で開かれた「環境社会学会第43回全国大会」において、電磁波問題について約2時間のセッション(会議)が行なわれました。水俣病、カネミ油症をテーマとしている研究者の方々などと有意義な意見交換ができ、「台湾電磁波公害予防協会」の著作の翻訳もご紹介いただくなど、公害問題・環境問題の専門家の方々と新たなつながりを築くことができました。
 このセッションは、同学会員で、市民団体「こどもと電磁波」代表、大分大学公衆衛生・疫学講座研究生の土器屋美貴子さんが、「環境社会学会は、環境問題や公害問題に関心のある研究者が多数参加しているので、電磁波問題に目を向けてもらうよう現状を伝えたい」と提案。筆者は、土器屋さんからセッションのコーディネーターを務めよとのご依頼をいただき、企画段階からご協力させていただきました。

公害研究者と情報交換
 今回の企画にあたり「電磁波影響の疫学研究結果や、市民活動の報告だけではなく、何か(広い意味での)社会(科学)的な考察が加わり、セッションの中で議論できるような形にしてほしい」という趣旨を、土器屋さんを通じて同学会側から伝えられました。そこで、被害の訴えにもかかわらず国が調査や対策を講じない要因としての国の「委員会」などの問題と、電磁波問題が一般化しない要因としてのマスメディア報道をテーマにしたいと考えました。そこで、国の委員会などの利益相反問題について指摘し続けているジャーナリストの植田武智さんにご報告をお願いしました。
 また、健康問題の事例紹介を土器屋さんに、国や産業界が一層の電波利用推進を進めようとしていることについてジャーナリストで「VOC-電磁波対策研究会」代表の加藤やすこさんに、それぞれご報告をお願いしました。
 同じ時間帯に、自然エネルギーの利用をテーマにしたセッションが開催されていたこともあり、参加してくださった方は報告者を除き数名と少なかったのですが、電磁波によって生体影響が起きるメカニズムや、国内の発症者数、各団体が行政への働きかけを含めてどのような活動を行っており、どのような人が関わっているのかなどについて、盛んに質問が出ました。
 以下、ご報告の概要をご紹介します(紙幅の都合によりほんの一部で恐縮です)。

「電波は50年研究」に疑問
■土器屋美貴子さん

  • 自分が電磁波問題にかかわったきっかけは、子どもが通う小学校の隣への携帯電話基地局建設。当時の説明会で「電波は50年の研究に基づき安全である」と言われたが、携帯電話を持っている人が50年前にどれほどいたのか疑問に思った。基地周辺での健康調査結果を調べたところ健康影響を疑うものもあり、電波の安全性については研究途上であることもわかった。しかし、学校、PTA、自治会は、「国や業者が安全というものをどうしようもできない」とのことだった。そこで解決のために、環境社会学における理論を取り入れながら、市民団体としての活動を始めた。
  • 那覇市、宮崎県延岡市、兵庫県川西市では、携帯電話基地局周辺の住民に起きた健康問題について調査がなされている。
  • 海外では、欧州議会が基準値の見直しを要望するなどの動きがある。
  • 危険性が明確ではない問題への対応は、行政が市民の意見も聞いて予防原則を適応し、迅速で早期に行うことが必要である。

総務、経産、文科省の電波利用推進
■加藤やすこさん

  • 総務省は「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」情報通信技術を利用できる「ユビキタスネット社会」化を掲げており、第4世代携帯電話などが、そのためのインフラに位置づけられてる。
  • 経済産業省は、「効率的なエネルギー利用を図るスマートグリッド」構築の要として、電気・ガス使用量などの情報を電気会社・ガス会社へ送信する機能を持つ「スマートメーター」の各家庭などへの導入を推進している。この情報送信が電波によって行われる。米国では、スマートメーターがベッドの頭から約30cmの所に設置後、一晩中眠れなくなった、などの健康問題が既に報告されており、スマートメーター設置反対運動も起きている。懸念を受けてカリフォルニア科学技術評議会がメーターから約30cmで電波の強さは180μW/㎠との見積り(1)を発表した。
  • 文部科学省は、デジタル教科書などの普及を目指しており、そのために学校内に高速無線LAN環境が必要だとしている(文科省「教育の情報化ビジョン」、2011年4月)。
  • 以上のように電波の発信源が増え続けている。電磁波過敏症患者、その予備軍、妊婦(胎児)、子どもなどへの配慮が求められる。

電波リスク研究の利益相反
■植田武智さん

  • 3種類の科学がある。学術的探求のための「学術的科学」、産業のための「開発のための科学」、安全のための「規制のための科学」。しかし、電波のリスクについては、「開発のための科学」と「規制のための科学」を同じ研究者が担当している。たとえば、「総務省生体電磁環境研究推進委員会」(1997~2006年度)の委員には、電気通信業界関係者や出身者が複数含まれていた。NTTドコモ出資の研究が、総務省研究として発表されてもいる。また、公的研究と業界の研究を同じ人たちが行っている(図)。
  • 「医薬品産業がスポンサーの研究が、スポンサーの医薬品に好意的な結果になる確率は4倍」との研究報告がある。たばこ産業の場合は88倍。同様に、高周波電磁波の遺伝子影響「有り」の結論の研究43件のうち大学・公共団体出資の研究が74%なのに対し、「無し」42件のうち52%が企業出資である(Microwave news July 2006)。
  • 安全と安心のための最低条件として、安全性検証は事業推進官庁から切り離すべきであり、業界団体から資金供与された研究のみで判断すべきでなく、また、リスク評価者の利益相反の開示が重要である。

【網代太郎】

各研究者が総務省の研究と電波産業会(もしくはNTTドコモ)の研究に関わった年度。矢印が総務省研究に関わった期間、アミが電波産業会の研究に関わった年度(植田武智さん作成)

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