5月18日にベルギーのブリュッセルで「第5回パリアピール会議」という国際会議が、電磁波・化学物質過敏症をテーマに開かれました。その模様を報告した「電磁波過敏症の会議が「ノセボ効果」理論の正体を曝露(Electrohypersensitivity conference debunks‘nocebo effect’theory)」と題する記事をご紹介します。この記事は健康住宅がテーマのカナダのウェブ雑誌「21世紀の家」に6月25日付で掲載され、同会議を「歴史的な会議」と評価しています。
電磁波問題市民研究会は、この記事の和訳を会報第95~97号の3回に分けて掲載しました。この3回分を合わせ、さらに会報掲載時に省略した部分も含めて、原記事のすべての和訳をここに掲載いたします。【網代太郎、訳も。監訳、杉野実さん(市民科学研究室)】
「新しい科学的真理が勝利を収めるのは、反対者への説得によってではなく、ゆくゆくは反対者が死に、新しい真理に馴れた新しい世代が育つことによってである」マックス・プランク
ジョゼ・レベク(Jose Levesque)は2001~2009年、商業無線電話基地局を設置していた。サン・コロンバン(カナダ・ケベック州)に住む彼は、これらの装置から放出されたマイクロウェーブによって、2005年遅くに突然、高周波電磁波過敏に陥ったと述べている。「最初は、電話をかけたときに、耳の中が締め付けられた。性能の良いヘッドセットを使った時も、めまいと耳鳴りがした。ある朝目覚めると、私は酔ったように歩き、耳の中で煙探知機のような音がした」。
いわゆる電磁波過敏症(EHS)が悪化した2009年、レベクは最終的に仕事を辞めた。「今では私が高周波電磁波に曝露され続けると、顔の感覚がなくなり頭痛がする。鼻血や目の血管の破裂すら起こる」。それは無線電話とWi-Fiアンテナがある病院で起きた! 入ってくる電波で頭痛になるので私の同僚の電話が鳴ろうしていることを予知することができたので、私たちは仕事中に笑っていたものだ」。しかし、それは笑いごとではない。「2013年1月に近所にスマートメーターが設置されてから、私の頭痛は絶え間がない」。
今日の無線に満ちた世界で、約3%のカナダ人が環境過敏症(電磁波過敏症および/または多種化学物質過敏症(MCS))という、議論の的である診断を受けた。「そして、さらに多くの人が環境中のほんのわずかな化学物質および/または電磁波に敏感である」と、カナダ人権委員会(CHRC)が2007年に出版された環境過敏症の医学的見地に関する報告書に書いている。EHSは、多くの人々が耐えられる、非常に低い電磁波曝露によって若干の人々に引き起こされると信じられている、種々の非特異的症状を特徴とする病気であり、論争の的にもなっている。医学的コンセンサスがないが、CHRCは環境過敏症への差別を止めることを目指す政策を採用した。発症者の多くは仕事を失い、精神科へ送られないとしても心理学者を紹介される。
つい最近、2015年6月17日に、カナダ議会の健康に関する常任委員会が、ヒトに対する電磁波の曝露に関する安全規定6についての公聴会を行った後で、カナダ政府に12の提言を行う歴史的な報告書を公開した。高周波電磁波とカナダ人の健康と題された報告書は、注目すべきことに国に対して「カナダ人権法の下で求められるものとして、電磁波過敏症を含む環境過敏症の人々に妥当な価格の宿泊施設を提供し続ける」ことを要求した。報告書はまた、電磁波過敏症の検査、診断、治療についてと、職場における健康に与えうる影響についての研究に資金提供することと、医療ガイドラインと(訳注・保険免許更新のための)継続教育を最新の科学的根拠に基づいて更新することも勧告した。去る5月18日にブリュッセルのベルギー王立医学アカデミーで世界的に有名な専門家によりEHSとMCSの最先端の証拠が提示されており、この報告書はタイムリーだった。第5回パリ・アピール会議のテーマは「本態性環境不耐症:電磁波と多種類化学物質の役割」だった。会議のパワーポイントのプレゼンテーションとビデオはすべて会議のウェブサイトで閲覧可能だ。そして、記者会見と独占インタビューも私たちのユーチューブ・チャンネルで閲覧できる(そして、私が初めて作成を試みたiPad動画の素人っぽさを乞うご容赦)。
私は会議を報道するために、まとめ役であり、1200名以上のEHS・MCS患者を治療してきたドミニク・ベルポム(Dominique Belpomme)医師に招待された。彼らはヨーロッパで現在もっとも大きい単独の研究された環境病患者群である。抗がん治療研究協会(ARTAC)と欧州がん環境研究所(ECERI)の長であるベルポムは、最近EHSの診断と治療の新たな方法を編み出した。その症状は、多くの人々(医師さえも)が信じているような心身症的ではないと彼は言う。「化学物質・電磁波過敏症を新しい科学データに基づき国際疾病分類(ICD)に含めることを認めるよう世界保健機関(WHO)へ求めるために、私たちは独立した国際ワーキンググループを作った」と彼はあるインタビューに答えた。WHOは電磁波や他の汚染物質について研究の優先順位と公衆衛生の報告書を公表するが、そのような研究に資金を供給しない。環境と公共政策のコンサルタントであるシンディ・セイジ(Cindy Sage)(電磁波の健康影響について分かっていることを要約したバイオニシアティブ報告書の共著者)は、電磁波への長期、低レベル曝露の健康リスクの証拠はとてもたくさんあり、もし私たちがそれを無視すれば、電磁波はますます大きい、そしていっそうコストがかかる世界的な公衆衛生の問題になるだろうと言った。公衆衛生の基準を変えて、生物学的基礎による曝露基準を採用するために、証拠は十分である。「私たちは昨日それらを必要とした、しかし今日、私たちは良しとする」。
ベルポムはWHOの2005年12月の背景説明(編注・ファクトシートのこと)が緊急に更新される必要があると付け加えた。WHOはEHSが長続きする症状と深刻な障害を引き起こすことを認めたが、これは医学的診断ではなく、電磁波が引き起こすという決定的な証拠がない、と付け加えた。「EHSでない人々に比べ、EHSの人々はより正確に電磁波曝露を検知できないことを大半の研究は示している」「十分に制御され、二重盲見法により実施された研究から、症状が電磁波曝露と相関しないことが示された」「EHSには明確な診断基準がなく、EHSの症状を電磁界曝露と結び付ける科学的根拠はない」とWHOは書いた。
利益相反
しかし、私たちがブリュッセルでインタビューした数人の専門家は、WHOが引用した研究は失敗するよう設計されたと言った。なぜなら、第一に、電磁波を即座に感じることができる人は(EHS発症者の中でさえ)めずらしい。第二に、それらの研究(それらは通常、電気または電気通信産業と関わりのある科学者によって実施される)は、多くのタイプの電磁波と、電磁波が曝露後数分または数時間たってEHSの症状を引き起こすことを無視する。実際「確かな誘発研究は、電磁波曝露後に瞳孔・心拍の変化、赤血球の損傷と、脳の糖代謝障害を示した」とスウェーデンの腫瘍学・伝染病学者レナート・ハーデル(Lennart Hardell)はブリュッセルで言った。それらのデータを反映させて、オーストリア医師会は2012年に、全国的医師組織としては世界で初めて電磁波関連の健康問題と病気(電磁波症候群)の診断・治療ガイドラインを発表した。それは「2011年5月、欧州議会は(決議1815によって)報告書「電磁波の潜在的危険性とその環境への影響」(Pace2011)を採択した」と記している。その報告は健康と環境を、特に高周波電磁波から守る多くの方策を求めている。勧告の一つは「電磁波曝露を、特に携帯電話からの高周波を、特に頭部の腫瘍リスクが大きいと思われる子どもや若者への曝露を減らすためにあらゆる合理的な措置を取る」ことを求めている。
WHO国際電磁界プロジェクトのトップである電気工学者エミリー・ファン・デベンター(Emilie van Deventer)は、彼女のチームが高周波の健康効果について国際的な科学文献を現在レビューしていると電子メールで私たちに伝えた。「WHOの一連の環境保健基準のモノグラフが来年発表される。これに電磁波過敏症の文献のレビューも含まれる」。
しかし、多くの人々は、新しいモノグラフがWHOの見解を大きく変えることはないだろうと考えている。WHOの電磁界プロジェクトは当初から利益相反で汚されている、と脳腫瘍の生存者ロイド・モーガン(Lloyd Morgan)は告発した。彼はアメリカ中央脳腫瘍登録所のディレクターとして患者を代表している。電気工学博士のファン・デベンターは、無線大手のベル・カナダとノーテルからの資金によりトロント大学で電磁波の研究講座を率いた。「私が知る限り、ファン・デベンターは生物学、医療行為、公衆衛生の知識を皆無ではないとしてもほとんど持っていない」とモーガンは私たちへ手紙を書いた。彼女は師・マイケル・レパコリ(Michael Repacholi)(元カナダ保健所の科学者で、電気事業者のコンサルタント)の後任者だ。レパコリは1996年にWHO国際電磁界プロジェクトを「マネーロンダリング」の仕組みで設立したと、2006年にマイクロウェーブ・ニュースが暴露した。彼は前の雇用者であるロイヤルアデレード病院へ送金されるよう手配し、後にそれをWHOに「寄付」させた。レパコリはまた、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)を設立し、同委員会の高周波曝露推奨値は安全規定6や他の多くの国の基準値のもとになっている。これらは体の加熱のリスクのみを考慮し、頭痛、不眠症、血液脳関門を開くといった低レベルだが長期にわたる曝露による電磁波の非熱影響を無視している。「結局、国際電磁界プロジェクトはWHOに送り込まれた産業界のスパイだ」とモーガンは書いた。この告発へのコメントを私たちは求めたが、ファン・デベンターは答えなかった。
EHSを心身症的と主張する科学者たちは電機通信業界と関係がある、とブリュッセルの会議で他の多くの演者が指摘した。ICNIRPはメンバーが産業的利害関係から独立していると述べる。しかし、何人かが利益相反を告発された。レパコリの他に有名なのがカロリンスカ研究所の疫学教授で、以前たばこ産業のコンサルタントだったアンダース・アールボム(Anders Ahlbom)だ。2011年に彼は国際がん研究機関(IARC)の高周波に関するワーキンググループのメンバーの辞任を余儀なくされた。スウェーデンのジャーナリストのモナ・ニルソン(Mona Nilsson)は、通信会社に仕えるコンサルティング会社グンナルアールボムAB(彼の兄弟が設立)のディレクターだったことを明らかにしたと、マイクロウェーブ・ニュースが伝えた。数日後にIARCは高周波電磁波を「発がん性の疑いがある」に公式に分類した。
歴史的な会議
約160人の医師、科学者、弁護士と他の関係者が、15人の国際的な電磁波影響についての専門家(全員が英語で話した)に耳を傾けるためにブリュッセルの会議に参加した。ベルポム医師はプレゼンテーションで、多くの彼のEHS・MCS患者は脳血流の不足で苦しむことを脳スキャンが示したと述べ、医学の父であるヒポクラテスが薦めたように、医師は患者の話を深刻に受け止めなければならないと主張した。「これまでの4年間で、私は個人的に1213人の患者を診断し、三つの客観的臨床基準を満した人たちのうち90%が本当のEHSだ。(1)患者の症状が周知の病理学で説明できない(2)症状が電磁波の影響のもとで現れ再現が可能であり、電磁波を避けると軽減または消失する(3)頸動脈のドップラー超音波と同様、客観的な血流と尿検査が、患者が脳の、特に大脳辺縁系と視床のとても重要な部位の病変に苦しんでいることを示す。私たちの成果は国際的な研究によって確認される必要があるが、しかし、政府がこの病気を認識するためには十分な科学的知見を私たちは持っている」。
彼の患者の多くがヒスタミン(炎症の指標)、IgE免疫抗体(アレルギーの徴候)、熱ショックタンパク質HSP27とHSP70のいずれかか両方(細胞のストレス)、S100Bタンパク質(大脳の苦しみ)、抗Oミエリン抗体(細胞のストレス)のレベルが異常に高く、逆に、ビタミンD(新陳代謝の異常)と尿のメラトニン(体内時計を調節し腫瘍と闘うこの重要なホルモンの生産を電磁波が止めてしまう)のレベルが低いことをベルポムは見いだした。電磁波曝露を下げる必要の他に重要なことには、希望が持てるEHSの治療には、抗ヒスタミン剤と、イチョウや特に発酵パパイヤ製剤(FPP)のような天然の抗炎症剤の使用が含まれるとベルポム医師は述べた。(略)ベルポムはまた、治療はそれぞれの患者特有の生物学的状態と症状に合わせて行わなければならないと指摘した。たとえば患者の多くは神経毒性のある重金属のレベルが高く、すべての金属(身に着けられたり埋め込まれた)が高周波を捕らえるアンテナのように機能する。ベルポムは700人以上のEHS・MCS患者についての彼の研究が2016年に査読付き医学雑誌で公表されるだろうと言った。
古くからの問題が激増
1995年から2004年までの間に、電磁波に多かれ少なかれ不寛容だと言った人々の割合が、スウェーデンの1.5%から英国の11%へ急上昇したことをいくつかのヨーロッパでの調査が示した。北欧諸国がEHSを機能障害として認知しさえした、とスウェーデンの脳神経科学者オッレ・ヨハンソン(Olle Johansson)がブリュッセルの会議で説明した。ストックホルムのカロリンスカ研究所の実験的皮膚科部門の長であり、1980年代からのEHS調査のパイオニアであるヨハンソンは、WHOが医学的診断として認知しない間に、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、デンマーク代表によるノルディック閣僚会議によって公表された国際疾病分類第10版(ICD-10)の職業関連障害(病気と症状)分類のノルディック版に機能障害としてEHSが2000年に含まれたことを指摘した。その報告書には、いわゆる本態性(原因不明という意味)環境不耐症は、多種化学物質過敏症(MCS)、電磁波不耐症(または電気アレルギー)が含まれると明記され、電磁波不耐症は以下のように定義される。「テレビ・PC・データスクリーン、電気変圧器、蛍光灯の使用に関係した通常一般的な症状(疲労、吐き気、記憶と集中の困難など)。電気のない環境では症状がなくなる」。
しかし、EHSは新しいものではない。それは1932年にドイツの医師エルヴィン・シュリーファーケ(Erwin Schliephake)によってマイクロウェーブ症候群として初めて診断された。そして第2次世界大戦の間に、高周波に過剰被曝したレーダーのオペレーターがしばしばマイクロウェーブ病と言われるものにかかった、とデイビッド・カーペンター(David Carpenter)博士がブリュッセルで説明した。ニューヨーク州立大学アルバニー校公衆衛生学部の前任・創立時学部長で、現在その健康環境研究所長であるカーペンター博士は、バイオイニシアティブ・ワーキンググループによって2007年と2013年に発表された電磁波の健康影響についての有名な独立報告書のシンディ・セージとの共著者だ。
カーペンターによれば、その原因やメカニズムについての科学的コンセンサスの欠如にもかかわらず「電磁波過敏症が本当だと宣言するための証拠は十分にある。それはわずかなショックで引き起こせるが、それぞれの個人の反応は異なる。多くの人々は、長い間神経衰弱のように記述されてきた様々な非特異的な症状の原因が電磁波であることに気付いていない。一方で心理的な原因で症状が起こることもあると認識しており、患者が本当の過敏症かどうかを決定する客観的なテストの設計は重要だ。EHSとMCSに多くの共通点があると見ることは私は正しいと思う。加えるに、慢性疲労、線維筋痛症、湾岸戦争病を、環境不耐病のリストに加えたい」。彼は高周波の周波数と出力のみに注目すべきではないと付け加えた。「過渡周波数の急上昇と高調波は、私たちが一層関心を寄せるべきだろう。それは強烈でとても短いパルスを発するスマートメーターのような無線装置で起きるのと同じ現象だ」。
カーペンター博士は、Wi-Fiルータに無線接続されたパソコンを使う子どもでいっぱいの教室は「生涯続くEHSの発症の引き金として十分な巨大レベルの高周波を生み出すかもしれない。このような電磁波の発生源の近くでは、EHSの人々は一般に頭痛、疲労、精神の不活発、いらいら、行動能力の一般的低下に陥る」と付け加えた。「子供たちは単にすべての環境曝露に脆弱であるだけでなく、もし私たちが(学ぶ場所であるはずの)学校の子どもたちを、注意力と学習力を減らし病気を促進する作用因子に曝露させることを許せば、それは悲劇だ。それはばかげており、私たちは曝露を減らすために、まさにそこで行動をすべきだ…。有線のコンピュータは高周波を曝露させるような接続なしに、すべての子供たちが必要なインターネットへの同様にアクセスをさせられる。しかし長期の健康影響を熟慮せず先を急いですべてを無線にすることは賢明ではない」。
何千もの矛盾する研究と業界出資の役割
高周波電磁波の熱的でない生物学的効果は、2300以上の研究を網羅した1972年の海軍医学研究所の文献目録で、そして1986年の国立放射線防護測定委員会で、米国政府によって初めて認められた。米国環境保護庁の元研究者カール・ブラックマンによる2009年の携帯電話電磁波の記事「超低周波と高周波の研究からの証拠はより包括的なリスクの同定と評価を支持する」は必読。-タイトルをグーグルで検索してwww.stichtingehs.nlからPDF版をダウンロードできる。
環境過敏症についての医師らの誤解の一部は独立した研究のための資金の不足のせいだが、産業界から資金を得る研究者たちに不足はない。「EHSを見つけることができなかった研究のほうが、その存在を確認した研究より多い」と、ワシントン大学特任教授(生物工学)で「電磁生物学と医療ジャーナル」の共同編集長であるヘンリー・ライ(Henry Lai)は、私がブリュッセルへ出かける前に私に手紙をくれた。「基本的に、電磁波過敏症のサイエンスは、多くの人が思っているほど強くはない。電磁波過敏症について明確で決定的な声明を発することは、産業界が携帯電話使用がまったく安全であると言って私たちを信じ込ませようとしていることのまねでしかない」。
1980年から電磁波の生物学的影響を研究しているライは、経験を語る。90年代初期に、彼と同僚のNPシン(NP Singh)はレーダーからの非常に低い高周波曝露(国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)とカナダ保健省の推奨制限値を十分に下回った)がDNAを損傷することを見いだした。彼らの発見が確認された時、携帯電話メーカーのモトローラは、彼らの信頼を傷つけるためにできること全てを行い、彼らが解雇されるようにしようとさえした、とライはシアトルマガジンに話した。そして2006年に、彼は1990年から2006年の間に携帯電話の影響について行われた326の研究の資金源を分析した。独立した研究の68%が肯定的(電磁波による影響がある)だったのに対して、産業界から資金を受けた研究の73%が否定的(影響がない)だったことがわかった。このテーマについての研究の30%のみが産業界から資金提供されたのに、全体としての結果は五分五分になった。「50%のすべてが、ごみのような研究であり得ますか?」と彼はシアトルマガジン(のインタビュアー)に尋ねた。実際は、生物学的または健康への影響を示した研究の86%が独立の資金源だったことも彼は見いだした、とタウンゼントレター誌が報じた。彼の結論:全体の50%の研究が影響を示している事実は、被曝を最小にする予防的アプローチを正当化するのに十分重要である。
ブリュッセルの基調講演は、1970年代後期から殺虫剤について、もっと最近では脳腫瘍と携帯電話使用について研究し、グリホサート(モンサント社の除草剤ラウンドアップ)と高周波電磁波を発がん性がある可能性ありに分類させるのにも貢献したレナート・ハーデル博士によって行われた。電磁波研究には利益相反が多数見られるとハーデルは言う。講座への寄付、研究計画の後援、勤務時間外のプロジェクトのために教授たちを雇うといった小さな投資が、公共の利益にはならないかもしれないが確かに企業の利益に役立つ報告、論文、レビューや書籍を作るという費用以上の利益を産むことができることを企業は学んだ、とハーデルは述べた。科学研究を行う者を選ぶ力によって、産業界は研究自体とそれがどう解釈されるかについて主導権を握る。「問題は議論中だ」「科学者たちの意見は分かれている」、あるいは影響は「決定的に証明されていない」と言われることができるようにするために、警鐘を鳴らすすべての発見に対し産業界の科学者が「反証拠」を作る。よって一般人の心に疑いが生じ、法規制が遅れる。この分野の専門家は、多くのお手盛りの委員会や組織に所属する。これらの専門家は不可避的に業界に結び付けられ、業界の主導下に置かれている。一方で、病気の子どもをWi-Fiがある学校から退避させる親たちは、ほとんど犯罪者のように扱われる(さらに詳しくは、パンドラ財団のフランツ・アドルコファー(Franz Adlkofer)教授による「過去50年間高周波電磁波リスクに対処した組織的腐敗」を参照)。
デイビット・カーペンターは、生体電磁気学コミュニティーが医療専門家ではなくエンジニアと物理学者に支配されている、と述べた。熱効果だけに基づいて電磁波の曝露基準を作ったICNIRIPメンバーであるエンジニアと物理学者たちには「人の健康影響を判断する資格はない」と彼は付け加えた。
たいていのEHSの研究が否定的である理由
スロバキアがん研究科学者協会アカデミーの放射線生物学研究所長であるイゴール・ベリャーエフ(Igor Belyaev)は、超低周波(60Hz)や高周波に反応する人がいることを示すことにたいていのEHS研究がなぜ失敗するのかを説明した。「不幸なことに、生体電磁気学の分野のレビューや委員会の中には、異なる研究の電磁波影響データを比較する際に、種々の生物学的変数や身体上のパラメータの分析を含めないものがあった。結果として、弱い電磁波は「再現可能な」影響を起こさないという、人々を誤解させる結果となった。電磁波過敏症を含む電磁波の生物学的影響を検討するときには、電磁波の信号の違い(帯域幅、周波数、変調、偏波)を注意深く考慮すべきであることを、私たちの分析は示唆している。データはまた、曝露と曝露後の継続時間が電磁波の影響を決める上で重要なパラメータであることを示している。電磁波の反応時間・速度、個別の感受性、生理機能の違いと身体上のパラメータへの依存性を考慮に入れるなら、さらに多くの曝露条件が、電磁波過敏症の研究で実証されなければならない。研究の重要な主要部は、電磁波の効果は二価金属、フリーラジカルスカベンジャーと抗酸化物質の体内蓄積に依存することを示している。これらの研究は、二価金属をキレートし、ROS(活性酸素種)を減らし、ビタミンのバランスを保つという電磁波過敏症治療メカニズムにバックグランドを与える」。搬送波の周波数、帯域幅(周波数の幅)、変調(搬送波に乗っている情報)、偏波、曝露・非曝露時間の間欠と一貫性、静磁界と迷走電流の存在に加えて、EHSの症状は重金属による体への高い負荷にも左右される。
1993年から1999年まで携帯電話使用とがんの関連について2800万ドルの無線技術研究プログラムを率いた弁護士で医師のジョージ・カルロは、自分はベリャーエフと同じ意見だと電子メールに書いた。「因果関係のもっとも重要な決定要素は疫学データではない。なぜなら、疫学はEHSのような複数の症状の出現を扱うには十分に正確ではないからだ。EHSに関して因果関係を決定するもっとも重要な局面は害の生物学メカニズムだ。私たちの経験で、それは、交感神経ストレスの連鎖を引き起こす波形を含む「情報を運ぶラジオ波(Information Carrying Radio Waves ICRW)」である。EHSで苦しむ人にとって最も問題なのは、パワーで押し出され体に浸透する、時間、暗号、音声、データの重ね合わせで変調された波であることを、このことは意味している。電磁放射線の他の形式は通常、より影響が小さい症状の引き金である。そのため、例えば有害電磁波や送電線からの電磁波が多かれ少なかれ引き金となる人々もいる。同様に、周囲の騒音やまぶしい照明のような違う形態が引き金となる人々もいる」。
カルロは加えた。「この反応の不一致は、研究(発表された多くのチャレンジ(曝露させる)研究のようにシミュレートした電波を用い、ノセボ効果、心身症的誘因、または因果関係欠如の主張を支持する研究)が症状を引き起こす可能性が高くない曝露を測定していることを意味する。彼らが「影響を起こす」ことができる曝露パターンを持っていないから、彼らには「影響がない」と見えるのである。なので、因果連鎖と医療介入の道を前進させることを決めるにあたって、発表されている大多数の研究は価値がないか、あっても限定的だ。紛れもなく「EHS」が存在しているかどうかを明らかにする効率的なスクリーニングツールがある。それは、この記事で先に挙げた研究所の血液と尿を用いる測定法だけでなく、正確に目標を定めた心拍変動評価と、現在の「適応能力」を明らかにするために設計された的確な質問を含む。EHSは「病弱の終身刑」の比喩である必要はない。無線のシグナルでいっぱいの世界で質の良い生活の維持できるまでに管理することができる」。(電磁波過敏症の症状を60%の人々が廃除でき、他の人々も際だって減らせるというブライアン・クレメント(Brian Clement)医師についての私たちの記事を読んでください)
心身症ではないが、それは頭の中に
EHS症候群は単一の病気に特定できないにしても、心身症であることはまれであることについて、ブリュッセルの講演者たちはすべて同意した。しかし、二重盲見試験でEHSが本当に電磁波で引き起こされることを示した少数の優れた研究があるにも関わらず、WHOあるいはオーストラリアのような国々は、EHSをノセボ効果(有害であると認知された物質への不安)が引き起こすことを示す研究もあると指摘している。ホセ・レベックはカナダ保健省と公衆衛生担当官に、高周波への生物学反応を測定するためにテストされるボランティアを申し出たと(私たちに)答えた。彼らは拒否した。「あなたたちに説明責任が生じ、適宜に行動をしなければならなくなることを恐れるから、あなたたちは私をテストしたくない。ノセボ効果と言うのは簡単だ」と彼は言った。「私はテストをした時に私に起こる結果をすべて知っている。Wi-Fiルータのスイッチを入れて5~10分後に症状が出て、3、4日間私は病気になる。でも、人々が無線の危険性を理解するのに役立つことができるのなら…」。
テキサスの外科医ウィリアム・J・レイ(William J. Rea)は、環境医学のパイオニアとしてダラスに環境健康センターを設立した1974年以来、この種の話を何千回も聞いてきた。元は外科の教授だった彼は、35000人以上のMCSとEHS患者を治療し、患者には数百人の同僚医者が含まれ、その多くに彼は環境医学を指導した。1991年にレイ医師は電磁波過敏症の診断方法の画期的研究を出版した。それは、汚染物で疲れ切った神経系統を落ち着かせ、症状の本当の引き金を隠す体の代償作用を除去するクリーンでコントロールされた環境で3~4日間、患者が過ごすことを必要とする。700人以上の彼の患者の脳断層写真が、脳血流や神経細胞活動の低下を意味する脳表面の穴や欠落を示した。80歳の彼はブリュッセルでの講演で、「それは本当に頭にある。そして私はその証拠を持っている!」と冗談を言ったあとで、彼のEHS患者の80%がカビ毒のマイコトキシンに侵されていると私に話した。
レイ医師は外部の電磁波から保護されたファラデーケージタイプの部屋で異なった周波数でEHS患者に試験をすると言った。「電気刺激で250の牛を失った牧場労働者が入ってきて、私たちはスクリーンされた部屋で彼に試験を行い、彼の電磁波過敏症を再現し、彼の症状を再現した。私たちは、私たちが彼の症状を引き起こしたという事実に加えてこれを引き起こした特定の周波数を見つけた」。EHS患者の治療に関して、彼はホルモンのシグナルの中和の役割をする特定周波数のサイン波を探し出す。この技術は英国で1980年代に生物物理学者シリル・W・スミス(元サルフォード大学講師で、書籍Electromagnetic Manの共著者)と医師ジーン・モンロー(Jean Monro)(ハートフォードシャーの私立ブレイクスピア病院医長)によって開発された。デイビット・カーペンター博士はブリュッセルの会議の後に言った。「私はこれまで会ったことがなかったビル・レイにもっとも感銘を受けた。そして、環境のマスキング効果を除去しなければ過敏症を十分に証明することはできないという彼のコンセプトは正しいと私は断言する」。
ノセボ理論に関して、ミヒャエル・クンディ(Michael Kundi)(ウィーン医科大学環境健康研究所長で、1980年代半ばから電磁波の健康影響を研究している)は、インタビューでこう述べた。「電磁波過敏症の人々の多くは最初は自分たちが電磁波に曝露されていることすら知らなかったと思う。だから曝露の恐怖が症状の原因だとは私は考えない。それは後に症状の持続要因になるかもしれないが、多くの症例ではもともとの症状は曝露を知らずに起こる」。それでもなお産業界と政府の多くの人々が、EHSは報道があおる恐怖のせいだと繰り返し続けている。オッレ・ヨハンソン教授は言う。「その指摘は、ネズミやトマト苗木やバクテリアが電磁波にネガティブな反応をなぜするのかを説明できない。なぜなら、それらはテレビも新聞も見ないから!」。
ブリュッセル会議の他のハイライト
レナート・ハーデルは、インタビューで付け加えた。「私は(EHSの)研究を追跡してきたが、それが電磁波曝露と関係がある本当の病気であるという証拠は明らかに存在する。これらの人々は病気だと認められる必要がある。多くの医師がこれまで「ああ、これは認知療法が必要な精神病です」と言いがちな精神疾患ではなく。それよりも、彼らは病院で慎重にケアをされる必要がある。診断基準の必要性と、医師たちがEHSの患者たちを治療し彼らを真剣に受け止めることを促すために他の病気のようにEHSがICDコードを持つべきであることとを、この会議を通して私たちは指摘した。そのような診断コードがなければ、彼らを軽んじることが容易になる。症状が患者により特異的であり得ること、そして現在まで診断を確定するための確立された基準がないことが問題であると私は承知している。私たちは症状を確定して、生物的指標を得て、それによってWHOにこれを病気として認めさせ、治療を確立させるようにし続ける必要がある。私はベルポム医師の研究結果をいくつか見たが、それらは非常に興味深かった。彼がEHSの人々ではいくつかの指標が増加することを見いだしたので、これらの指標は将来診断に寄与するかもしれない。多くの人々は電磁波には問題がないと考えているので、私たちは世間の人々を教育する必要もある。そして将来は私たちは医師の教育も必要だ」。
ハーデル博士の最近の研究の一つ(Michael Carlbergとの共著)は、未知のタイプの神経系腫瘍の発症率と死亡がスウェーデンで2008年からかなり増加したことを示した。発症率は男性で約5%、女性で4%強増え、死亡率は男性で24%、女性で20%跳ね上がった。全国入院患者登録と死因登録の両方が、近年ではがんの記録をかなり過少に報告していることを、彼らは見いだした。「無線電話使用と脳腫瘍のリスクについての疫学研究の結果を退けるために使われているスウェーデンがん登録は、信頼できないと私たちは結論した」。
イタリアの小児科医のエルネスト・ブールジョ(Ernesto Burgio)(「環境のための医師の国際協会」の科学委員長)は、「DNA配列の変化が引き起こすのではない細胞と生理的特性変異、または、外部の環境因子がどのようにして遺伝子をオン・オフにして細胞による遺伝子の読み方に影響を与えるのかについての学問」とウィキペディアが定義したエピジェネティクスの役割を説明した。ヨーロッパで、子どものがんがこれまでの25年間で50%増加し、そして驚くべきことは、2歳以下の乳児の間で特に増えている。がん、アレルギーや2型糖尿病のような慢性疾患、そして統合失調症でさえも、増加しているのは不運のためではなく、環境が私たちのゲノム(彼が私たちの遺伝辞書と呼ぶDNAを変えることができる遺伝子ソフトウェア)をどのように変えているのかということに起因する、とブールジョ医師は言った。「これらの病気は、妥当でない情報に対する生物学的応答だ。環境はあまりにも速く変化し、私たちの体はついていくことができない」と彼は述べた。私たちができる最も重要なことは根本的な予防、すなわち電磁波、重金属、そして殺虫剤を含む環境ホルモンへの私たちの曝露を減らすことだと、ブールジョは付け加えた。「電磁波曝露はあらゆる場所で増加しており、その問題は絶対的に過小評価されている。もし私たちがこの危険のすべてを理解し始めれば、私たちは曝露を減らすことができる(特に成長中の胎児の臨界期(critical window)においてや、精子によって他の世代に伝えさえされる汚染が大きな脅威となる人々に対して)」。
ミヒャエル・クンディ博士は付け加えた。「我々は専門的な解決策を持っている。しかし、ただ(体内組織の)加熱を避ければ問題はないという考えを持ち続ければ、それは実行されないだろう。なので(生物的、そして健康への)非熱作用は実際の作用であると認めることが第一歩であるが、それに十分必要な程度のことが科学界にはまだ起こっていない」。彼は未来を楽観しているか? 「私には若干の希望がある。科学界には、メカニズム、診断、そして治療の見地から真剣にEHSを真剣に研究する新たな強みがある。そして、特定の診断指標に未来があるかもしれないという証拠が増えている」と彼は答えた。
最後の言葉は2012年に私たちに手紙を書いたカロリンスカ研究所のオッレ・ヨハンソン教授から引用する。「スウェーデンではEHSは公式に完全に機能障害として認められている。すなわち、それは病気とは見なされず、そのため診断は存在しない。これはスウェーデンに特別なことではなく、「機能障害」と「病院」の用語は様々な国際的文書で定義されている。したがって、スウェーデンで機能障害がある人々の最初のステップは、平等(これは国連の障害をもつ人びとの機会均等化に関する22の基準原則に従っている。2007年から国連障害者権利条約へアップグレートされた)に基づいて社会で平等な生活を送る絶対的な目的のために様々な種類の行動可能性(アクセシビリティ)手段を達成するために、様々な障害者団体と同様に、自治体の障害者問題専門公務員に連絡を取ることである」。
「電磁波過敏という機能障害を持つ人々は自分たちの障害者団体であるスウェーデン電磁波過敏症協会 (http://www.feb.se 英語版あり)を持っている。この組織はスウェーデンの障害者連盟(http://www.hso.se 英語の概要版あり)に加わっている。このため、スウェーデン電磁波過敏症協会は年1回の政府の助成金を受けとっている。障害(があること)は、その定義上、他のだれかが確定するものではなく、特定のテストなどで証明されるものでもない。障害は常に個人的(私的)であり、劣悪な環境と接触するときに起きる。機能障害は、それぞれの個人の劣悪な環境への(そして接触による)行動可能性の損失に基づいていることを憶えておくべきだ(国連参照)。そのため、各地の法律によるいかなる「承認」も実は必要ない。何はともあれ、スウェーデンでは、前スウェーデン保健・社会政策大臣のロース・エンクヴィスト(Lars Engqvist)(前内閣のメンバー)が2000年5月付の手紙で、「承認」を与えた。彼はまた、EHSの人々について、障害者法の規定において制約も例外もないことを明確に答えた。そのため、これの法律と規定は、EHSの人々のためにも完全に適用されている」。
「社会のメンバーを平等に扱うことは、親切な行為として行われるべきことではなく、どこかの議会や政府が他人にそうするよう住民へ丁寧にお願いすべきことでもない。平等は「だれかの良心から」なされることではない。それは、すべての市民に期待されているから、そして、行動不可能性と差別が法律で禁止されているから、行うのである。だから、あなたの症状を故意に悪化させることは問題なのだ。したがって、電気に過敏な人たちは、すべての状況で、すべての利用可能な手段によって、尊重、主張、権限を要求しなければならない。彼らは「患者たちへの哀れみ」や「患者たちへの気遣い」の心理を反映させたすべてのアプローチを極めて明確に拒まなくてはならない。行動不可能性は個人の問題ではない。それは社会問題だ。行動不可能性は態度ではない。それは差別である。そして治療についての好意的な口ぶりによって差別的な行為や行動がなされるべきではない。差別は既に非合法である!」。
そして第5回パリ・アピールの記者会見で、彼は結論した。「もちろん、私たちのすべてが間違いであることを望む。私たちは「電磁波」が完全に安全であることを望む。私たちは、親たちに、無線の利用はOKと伝えてあげたい。しかし、そのためにはもちろん、すべての科学論文の大部分が同時に間違っていなければならず、そして、私たちは既に出版された何千何百という論文について話している。そして、さらに来る。私のコンピュータに来る論文は、週に20、25かもしれない。そしてもちろん、非常に多くの調査と成果は、実は一人の科学者から始まったことを憶えていなければならない。もし私たちが正しかったら、それは悲しいことだ」。