「電磁波問題よろず相談会」オンラインで開催 当会と市民研共催

 電磁波についてのさまざまな質問、相談に答える「電磁波問題よろず相談会」が6月13日、オンラインで開かれ、26名(回答者4名を含む)が参加。当会(電磁波研)とNPO法人市民科学研究室(市民研)の共催で、当会としては初のオンラインでの催しでした。
 当会は毎月都内で定例会を開き、参加者からのご質問、ご相談に応じています。今回は、参加者からあからじめご質問などをいただいたので、回答を事前に準備することができ、より的確に、また、必要に応じて図表や説明文を示しながら回答することができました(当日出された質問にも応じました)。
 しかし、中には回答が難しいご質問もあり、きちんと答えられなかった方々には申し訳なく思いました。質問の意図が分からない場合、質問者へ逆に尋ねることで回答が見えてくる場合もありますが、リモートの場合は質問者の顔が見えにくいことから、そのような対応を取りにくこともありました。リモートのご相談に慣れていないためかもしれません。
 良かった点としては、普段の定例会には参加しない(参加できない)方々にもご参加いただきました。この方式なら参加しやすいという声もいただきましたし、当会としても貴重な情報を得る機会になりました。地方議員の方も3名参加しました。可能なら、年2、3回程度、開催したいと思います。
 以下に、当日の質疑応答の一部を要約してご紹介します。【まとめ・網代太郎】

鉄道車両の場所による違い
 Q 鉄道は乗る場所によって電磁波の強さは違うか?
 鮎川 新幹線は、ほぼすべての車両にモーターが付いているので、どの車両もほぼ同じ。在来線はパンタグラフがない、モーターがない車両は比較的低い。
 上田 車両ではないが、新幹線の線路沿いに測定した例[1]があり、最小2mG、最大30mG、平均10mGと高かった。電車の周波数は超低周波から中間周波数帯まであり、走行状態や車内の場所によっても違うだろう。

ねじり電線で電磁波低減
  これから家を建てるが、配線をねじり電線にすると、電磁波は低減するか?
 大久保 三つ編みにすると、低減する。電柱と電柱の間の配電線についての相談を受けたことが何度もあり、10年以上前は(超低周波磁場で健康影響が出る人などが)東京電力に言えば無料で三つ編みにしてくれたが、今は東電が頑なで、三つ編みにするなら費用を負担しろと言ってくる。困っている方からの要求の声が多くなれば、また違った対応に変わるのではないか。

超低周波の強さごとのがん論文
 Q 商用周波数(50Hz、60Hz)における、0.4μTと1.0μTにて、発生原因やがん発生の機序を説明している論文はあるのか?
 網代 磁場の強さごとにどのような研究があるのかというところまでは、正直言って私は調べていない。ざっくりと発がんのメカニズムについて私の知る範囲で答えると、一つはメラトニン仮説。メラトニンは、脳内で合成されるホルモン。電磁波曝露によりメラトニンのがん細胞増殖抑制効果が打ち消されるという研究報告がある。
 もう一つは、よく言われている酸化ストレス。酸化ストレスはDNAを直接傷害することによってがんの原因となる。スイス連邦環境局に対する諮問グループが、高周波電磁波または超低周波磁場についての多くの実験が規制値以下でも酸化ストレスを引き起こすことを示しているとの報告をまとめている(会報第128号既報)。
 上田 アーヘン工科大学が提供している「EMF-PORTAL」は最新の論文を分類、要約している。低周波磁場と小児白血病については、今でも相反する結論の論文が報告されていて一筋縄ではいかないが、こういうものを参考にして調べていくことも必要。

ブラインドテストは不正では
 Q WHOや政府(系の研究者)は、電磁波過敏症患者のブラインドテスト[2](による方法でヒトに電磁波を負荷する誘発試験)を、患者が反応しない的外れな条件で行っている。不正なテストなので、詐欺罪などで告発したり、民事訴訟を提起すべきでは?
 大久保 スウェーデンのブラインドテストがWHOに影響を与えていると思う。そのテストの結果は、過敏症発症者の半分以上が、電磁波を浴びても反応しなかった。その理由として考えられることは、一つは、質問者は反発するかもしれないが、あえて名前は言わないが、電磁波過敏症に理解がある複数の医師が「自分が会った患者の中で半数以上は電磁波過敏症ではなく、電磁波恐怖症などだ」と言っている。つまり自分で電磁波過敏症だと言っている人が本当にそうなのか、という問題がある。
 もう一つは、電磁波を浴びてもすぐに反応する人ばかりでなく、時間差をおいて、あるいは日数をおいて症状が出る人が、ブラインドテストでははじかれるという問題がある。
 網代 ブラインドテストの方法で行われている誘発試験は、大久保さんが言った遅延反応などがあり、きちんとやっても、なかなか難しいテストだ。当会の会報第135号にも、米国の学会での発表者が、様々な原因によって誘発試験がうまくいかないことがあると指摘している。加えて、目の前の幹線道路の排気ガスが入ってくるような場所で行われたような、かなりいい加減なテストも中にはあると聞く。
 学問に対する刑事告発や民事訴訟は、難しいと思う。

基地局を撤去させるには
 Q 息子が通う小学校の隣にある保育園の屋上に携帯基地局がある。どのように撤去に向けた行動を起こせばいいか?
 大久保 私たちは住民と共闘して今まで290基の携帯基地局を中止させている。基地局を一つ作るのに5000万円以上の多額の費用がかかるとKDDIから聞いたことがある。だから携帯会社側も必死であり、これに反対するには大変な運動が必要。
 まず何が問題なのかを地域の住民に知らせることから始まる。そのために、分かりやすいチラシを作る。多くの市民は電磁波に問題があるという認識を持っていないので、イラストを付けて懇切丁寧に。私の著書『電磁波の何が問題か』(緑風出版)に、基地局運動のノウハウが書いてあり、チラシの見本、業者や行政への要望書のサンプルも載せている。
 署名も集める。チラシをまくだけでなく、直接会って話をすれば、意識も変わる。
 学習会を開く。手前味噌だが、基地局が建つ前に私を呼んで地域で学習会をすれば、住民の方々の意識が変わって、4割は中止できてきた。

地方議会に何ができるか
 (渡辺順子・神奈川県大磯町議) 国が電磁波対策に動かない中で、地方自治体には何ができるか。
 大久保 環境基本条例は理念法で、あまり役に立たない。また、基地局を建てさせないという、国の方針に逆らった条例は作れない。なので、景観条例に「高さ10m以上の建造物を建てるには、必ず周辺住民に周知させること」を入れる。推進派議員につぶされるかもしれないので、わざわざ「基地局」を盛り込まなくて良い。

基地局からの電波の閾値は
 Q(保坂令子・神奈川県鎌倉市議) 自宅など毎日長時間を過ごす場所の場合、携帯電話中継基地局が発する電波の、健康に影響が及ぶリスクが高まる閾値は、どれくらいだと考えれば良いか。
 鮎川 残念ながら閾値は、一概に言えない。電磁波の発生源を減らす、距離をとる、基地局の見えない所に身を置くことで対応を。

マンホール型基地局から電波防護指針の10分の1~100分の1の強い電波
 Q 2021年3月末に総務省情報通信審議会が「地中埋設型基地局等の新たな無線システムから発射される電波の強度等の測定方法及び算出方法に係る技術的条件」に関する一部答申を出した。その主な内容は、地中埋設型基地局から発射される電波による人体への安全性は担保される、という理解でよいか。また、これを踏まえ、今後5Gの小型基地局は地中埋設型が主流になると見られるのか。

図1 総務省情報通信審議会 情報通信技術分科会 電波利用環境委員会の報告書概要より

 網代 地中埋設型基地局、いわゆるマンホール型基地局について、このような答申が出ていたことを、実は私は見逃していた。質問してくださってありがとうございます。総務省の審議会が出す答申なので、質問者がおっしゃる通り、安全で問題ないという結論に決まっている。この答申によると、基地局からすぐ上の場所(3歳児モデル水平位)で電波防護指針の10分の1ぐらいの電波を浴びる(図1)。成人男性モデル(立位)でも100分の1ぐらいだ。電波防護指針より2~3桁下で健康影響の訴えが出ているのだから、とても強く、危ない。
 地中埋設型が主流になるかどうかは、携帯事業者が公表していないので、分からない。一般論で考えれば、従来のように高い場所に設置したほうが、効率よく電波を飛ばせる。事業者に尋ねてみてもいいと思う。

測定器の信頼性
 Q AlphaLab社の「トリフィールドメーターTF2」を最近購入し、発生源や対処方法を試行錯誤している。この機器の信頼性についてお考えを。推奨される測定器があれば。
 鮎川 残念ながら信頼性は低い。数値自体は信頼できない。電磁波がある、強い、弱いという目安にはなる。信用できるものは数百万円したり、測定方方法が難しい。推奨ではないが、EMF-390という測定器を僕も使っているが、これも数値を得るというよりは参考にするために使っている。
 上田 どこまでの精度を求めるかだが、EMF-390の程度の測定器でも、たくさんの場所を測って、同じ場所も何回も測って、おおよその値を推測していくという使い方はできる。

基地局鉄塔の共同利用
 Q 「ジェイタワーはドコモから6002基の通信鉄塔を購入して携帯大手4社の共同利用を進めている」と新聞報道された。我が家のすぐ近くにドコモの基地局があり、これが売却されると4社分の電波が照射されるということか?

図2 インフラシェアリング普及率の比較(株式会社JTOWER「事業計画及び成長可能性に関する事項」(2022年5月12日)より)

 網代 株式会社JTOWER(ジェイタワー)のウェブサイトを見ると、同社は基地局等インフラシェアリング(共用)市場における日本のパイオニアだと、自己紹介している。日本ではドコモの基地局はドコモが、KDDIの基地局はKDDIが建てるのが当たり前。しかし、JTOWERの資料によると、海外では70%の基地局が、他社と鉄塔などを共用している(図2)。日本でも5Gなどで基地局を増やすためには、今後共用化が進むだろうと考えて、おそらくJTOWERはこのビジネスを始めた。
 今回報道された件は、条件が整った通信鉄塔からドコモから順次譲渡を受け、譲渡された通信鉄塔については、JTOWERが他の携帯事業者などへアンテナ設置を呼びかけるというもの。呼びかけられた他社が必ずこぞってアンテナを設置するかというと、一般論で言えば「うちは間に合ってますから結構」というケースもあると思うので、必ず4社すべての電波が出るのかどうかは分からない。
 上田 この件の関連報道によると、JTOWERは「他事業者との共用が可能な一定規模以上の鉄塔を選定している」「郊外・ルーラル(田舎)エリアが中心になる」とコメントしている。なので、どちらかというと田舎のほうの鉄塔がドコモからJTOWERへ譲渡され、そこに他社の基地局も付けていくという感じだ。

どのような条例が良いのか
 (保坂・鎌倉市議) 鎌倉市では携帯基地局についての条例があるので、高さにかかわらず基地局を設置するときには近接の住民に周知を図るという運用をされていて、その結果、市民の関心も高い。一方で、「どこにも建てるな」とは言いにくいので、ここには本当に建ててほしくないというときに、「ここに建てると電波の影響が強いから」または「ホットスポットができるからやめてほしい」という言い方ができればと思い、閾値について質問をした。
 上田 先ほど鮎川さんが答えたように明確な値は言いにくい。ただし、日本の電波防護指針は緩やかな国際指針値をほぼ踏襲しているが、ヨーロッパのいくつかの国はより厳しい独自の基準を作っている。それらの基準値と比べるとこうだ、ということは言える。一般的な環境の中でイタリアの基準である10μW/cm2を超えることは非常にまれ。その程度の数値になるのであればかなり高い、尋常でないということは言える。
 大久保 ホットスポットがどこにできるかを予想することは難しい。
 一番強いビームが出る方向が学校へ向かわないよう設置させる、ということは外国でもやっている。
 基地局が反対運動でつぶれると、事業者は「あの地域は住民がうるさいからやめよう」と考える。逆に何もしないと、基地局がその地域に集まる、反対の声を挙げることがとても重要だ。
 Q(川口絵未・千葉県佐倉市議) 我が市では15m以上の中高層建築物を建てるときは周辺住民に言ったり市に届出をすることになっているが、楽天が14mの基地局をどんどん建てている。条例改正で10m以上にしたほうが良いか。景観条例は景観重点地区の一部にしか適用されていない。
 大久保 15m以上で規定を設けている自治体が多いため、まさに楽天が14.9mの基地局を建てたりしているので、私は10m以上に規定を変えるのが良いと先ほど言った。10mより低いと電波を効率よく飛ばせない。日照権を守るなどの大義名分もあり、基地局を前面に(出すと反発されるかもしれないので)出さないで、条例をさらりと10mに変えるのが利口なやり方だ。
 渡辺・大磯町議 中高層建築物を対象にするのではなく、鎌倉市のように基地局を直接対象とした条例を作れればと思っている。こういう場所だったら建てても良いが、こういう場所はやめてほうが良い、ということも盛り込めれば良いと思っている。
 保坂・鎌倉市議 基地局からの電波について予防原則に基づく条例にしたかったが、ハードルが高かった。
 網代 電磁波研のウェブサイトに、携帯電話基地局に関する条例・要綱をまとめているので、ご参考にしていただければ。対象は基地局か中高層建築物か、近隣住民はどの程度の範囲かなど、いろいろなバリエ-ションがある。また、東京都多摩市などのように条例にはしないが、市が携帯事業者に、基地局設置についての事前周知を要請しているところもある。地方の実情や住民パワーがどれだけ大きいかによって、いろいろな選択肢があると思う。

基地局周辺住民への健康影響
  基地局問題について住民に理解してもらうために、基地局と病気などとの相関関係を示した資料はないか。
 大久保 フランス国立応用化学研究所のサンティニらによる携帯基地局周辺の疫学調査(会報第24号など既報)[3]と、インドの最高裁が基地局の操業停止を命じた判決(会報第106号既報)が良い。他にもたくさんあるが。

[1]新幹線沿線の電磁波測定調査結果を発表します
[2]ヒトに電磁波を負荷して症状などが出るかどうかを調べる誘発試験などにおいて、試験を行う側と受ける側の双方が、いつ電磁波が負荷されていて、いつ負荷されていないのか、分からないようして行う試験をダブルブラインドテスト(二重盲検法)と言う
[3]Investigation on the health of people living near mobile telephone relay stations:I/Incidence according to distance and sex

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