大久保貞利(電磁波問題市民研究会事務局長)
8月24日の院内集会における、当会の大久保貞利事務局長による基調報告の概要を掲載します。院内集会の模様は「インターネット・ウェブ・ジャーナル(IWJ)」による録画をネットで視聴できます(一部報告を除く)。
基地局は高周波と低周波、両方使うが、主に高周波を使う。高周波で、大きく問題になったのがレーダー。レーダーは、対象物にぶつけて返ってくる。それで距離を測る。イタリアのマルコーニがその利用法を見つけた。初めは船の位置をつかんで制海権を握った。次に、飛行機へ適用することで制空権=空を支配する力になる。アメリカ海軍がミッドウェー島に初めてレーダー基地を造った。曇りだろうが何だろうが、飛行機、航空母艦がどこにいるか分かる。ミッドウェーを建てる前は日本のゼロ戦が強かったが、これで逆転。日本の連合艦隊はわずか3日間で撃沈。戦争はこの段階で変わった。もう日本は負けです。
レーダーは戦争には大変威力があるが、レーダー従事者に白内障、無精子症が多発し、アメリカのイエール大学レーダー研究所は、レーダー従事者は「4時間従事・4時間休止」を提案した。それぐらい危ない。
「基地局直近の電波は弱い」はウソ
携帯電話は無線なので、中継設備がないと使えない。その中継機関が基地局。意外と知られていないが、携帯電話は全部が無線ではない。基地局と携帯やスマホとの間は無線だが、基地局からは有線を使う。有線網を持つNTT本体は携帯事業でももうかるという構図がある。
携帯電話システムは1Gから5Gまであり、Gは「ジェネレーション=世代」という意味。今は4Gと5Gの時代だ。もちろん2Gの時代から色々な被害は出ていた。周波数で使うギガ(G)は10億の単位(GHz=ギガヘルツは10億ヘルツ)。ギガのGと、ジェネレーションのGを混同している方が多い。
総務省は携帯電話の基地局の影響は、基地局から200m付近が一番強いと言っていて、基地局付近は弱いという言い方をする。確かに電波を飛ばす方向を下げるから、200m付近が一番高い。しかし、基地局周辺に建物がいっぱいあれば乱反射するので、近場も強い。近場が弱いというのはウソ。フランスの国立応用科学研究所が今から20年前に調べた。基地局から10m以内で吐き気、食欲不振、視覚障害。100m以内もかんしゃく、うつ症状、性欲減退。200m以内も頭痛、睡眠障害、不快感。300mでも疲労感の訴えがあった。今日も省庁交渉のときに言うが、基地局から300m以内と、301mより離れた所を比べる調査を日本でもやるべき。総務省や携帯電話会社は安全と言うが、うそっぱちで、こういう調査をやらない。
ベルサイユ高裁の基地局撤去判決
日本の電波規制値(総務省の電波防護指針)は1000μW/cm2。一方でフランスのベルサイユ高等裁判所は2009年2月、0.024~0.86μW/cm2で被害を訴えた原告住民を支持して基地局撤去を命じる判決を出した(会報第58号参照)。この違いをきちんと日本は見るべき。
フランス政府の基準値は日本と同じ1000μW/cm2。ただし、パリ市は6.6μW/cm2で、全然厳しい。政府とパリ市と基準値が違う場合には、フランスではパリ市を優先する。これが日本人はなかなか分からない。日本には自治がないことで有名。日本でも山の中とか、人があまりいない所なら1000μW/cm2でもいい。しかし、人が住んでいる所では厳しい基準を作るべきだ。それを日本の総務省は許さない。逆らうと補助金とか交付金でいじめてくる。ものすごい嫌な政府ですよね。ヨーロッパの先進国では、外交・軍事・金融は連邦政府がやる。生活面では地方自治が力を持っている。予算配分は連邦政府が3割、地方政府が7割だ。
ベルサイユ判決は「携帯会社は電磁波の安全性を立証してない」と指摘。日本の裁判所は反対に、被害者が被害を立証しろと言う。できっこない。疫学調査は5000万円以上はかかる。そんなお金、住民にありますか。逆にドコモやKDDIはいっぱい金持ってるから、金がある製造者のほうが安全性を立証すべき。これが逆転してるのに、日本人は黙ってる。
ベルサイユ判決は「国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドライン値以下の厳しい基準値を設けている国もある」とも指摘。フランス政府が採用しているICNIRPガイドラインは電磁波の熱作用だけを考慮している点で、日本と同じ。電磁波には、細胞温度を上げる熱作用と、温度は上げないけども人間の体に影響を起こす非熱作用がある。日本の政府の基準は熱作用。確かに細胞温度が上がると大変だが、問題はそんな強い力じゃなくて、非熱作用のほうだ。例えば、神経、脳への影響、DNAの損傷、酸化ストレスの増進、血液脳関門が開く、ホルモン分泌への影響、カルシウムイオンの漏出は、みんな非熱作用で起きる。日本の総務省はそれを見ない。今日は第2部も総務省が来るが「平気」と言うだろう。
総務省は旧郵政省。郵政省は、電波を広めて、もうけようという官庁。そこが基準値を扱うのは間違っている。基準値を作るべきなのは、健康問題を管轄する厚生労働省、あるいは環境を扱う環境省であるべき。今日の2部でもこれが争点ですよ。
基地局による被害・沖縄の事例
では、どういう被害があるのか。沖縄で実際に起きた事件をお話しする。2000年、那覇市の10階建てマンションの3階に5人の医者の家族が住んだ。奥様は看護師。その年に第2世代基地局ができた。基地局が稼働してすぐ、長女が鼻血、続いて夫が鼻血、長男が不整脈。しかし、基地局が原因とはこの家族は考えなかった。2004年、家族は同じマンションの最上階へ転居。翌年から妻に手のしびれ等の症状。私、この方をよく知っているんだけど、こう言っちゃ悪いけど、私よりおしゃべり。それがしゃべらなくなっちゃった。すごいことですよね。体重が減り不眠になって8カ月入院した。まだこの段階でも基地局が原因だと分からなかった。2008年、基地局が増設されて、第2世代から第3世代に移った。家族の健康はさらに悪化して、妻がピリピリ感じて右手が使えず、めまい、耳鳴り、ろれつ回らず、運転もできなくなった。長女と三女は鼻血。二女は眠気。長男は頻脈。夫は頭痛と不眠。一家全員やられちゃった。8月にふと、屋上の基地局が原因かもと考え、10月26日にウイークリーマンションに避難。数日後から家族全員の健康が回復し始めた。これは携帯電話基地局が原因ということが明らか。
この家族が偉いのは、自分たちは金があるから引っ越せばいいんだけど、このマンションの他の住民はどうするの?と。医者である夫は理事会にかけあい、居住者に説明会を行い、健康診断アンケートを無料で行った。170の症状があり、他の住民も苦しんでいると分かった。それで、KDDIの基地局を撤去させた。撤去後にもう一度同じアンケートを取ったら症状症状は22(8分の1)に減った。これは誰が見ても、小学生でも分かる。携帯電話基地局の電磁波は危ないと。
基地局阻止第1号
これまでに私たちは住民と連携して、全国で296基の基地局を計画中止または撤去した。記念すべき第1号は千葉の長生村。ここで1996年に東京デジタルホン(現ソフトバンクで)が、九十九里浜に来るサーファーのために基地局を造るという。しかも高さ40mの大きさで、景観を損ねる。東京の大企業に闘って勝てると思えないので「携帯電話基地局ってどういうものなんです?」と私に聞きに来た。私が「危ない。良くない」と言ったら、火が付いた。同年12月の説明会は大荒れ。やじ、怒号が飛ぶ。東京デジタルホンはびっくりしちゃって、計画を断念。初めて勝ったので、周りにものすごい勇気を与えた。
(それから9年後)高知県野市町(のいちちょう)の事例。人口1万8000人で「太陽と水と緑の豊かな町」がキャッチフレーズ。2005年7月、ここの母代寺地区の裏山にKDDIが20mの鉄塔を造るという話が出た。住民は驚いて、説明会を開かせたら52人集まった。KDDIの説明がひどく、住民から質問がいっぱい出た。そこで8月に第2回説明会が開かれ、60余名が集まった。10月に私が呼ばれ、80名以上が参加。私が「頑張れ。危ない」と言ったら「健康を守る会」をつくって、元校長が会長。何しろ偉いのは60代後半の奥さん。あと、その周りの60~70代のおばちゃんたち。これが元気なんですよ。おしゃべりで。「大久保さんの話を聞いて、びっくりしたわ」「許せないわ」と、うわーっと立ち上がって、つぶしちゃった。さらにそこから見える周囲の基地局三つも全部撤去させた。
バス乗車拒否で基地局撤去
2005年5月、兵庫県川西市の清和台という一戸建て団地にドコモがかなり強引に基地局を建てた。2006年5月、私が呼ばれ豪雨なのに110名も参加した学習会。参加者の一人が「娘はニューヨークに住んでて、お産のためにもうすぐ戻ってくるんだけど、出産とか育児に携帯電話基地局って安全ですか」と質問した。私が「駄目だ。危ないよ」と言ったら、その女性に火が付いて、本当、燎原の炎のごとく、うわーっとやった。
住民たちは反対署名、アンケート、議会活動、簡裁への公害調停、やれることは何でもやった。でも、ドコモは譲らない。基地局が建てられたのは阪急バスの敷地。住民は阪急バスの乗車拒否運動を始めた。大勢で組んで、家族の送迎などを全部やった。阪急バスがごめんなさいとなって、勝った(会報第50号参照)。ここも私、忘れられない。
生態系への影響
2000年10月21日の『朝日小学生新聞』に「伝書バトが帰ってこないんです」という記事が掲載された。日本伝書鳩協会の役員が、「この頃は伝書バトレースで喉ってくる割合が2割前後に落ちている。以前は6割ほどだった」とデータを示した。理由の一つは「携帯電話基地局ではないか」と語っている。
2007年4月15日の英国紙『インディペンデント』は、世界各地で起きている「ミツバチコロニー(集団)崩壊騒動」の原因として、ドイツの研究者は「送電線の周辺や携帯基地局周辺で起こっている」、有名なジョージ・カルロー博士は「電磁波が原因と確信している」と発言。記事の結論は「諸説あってまだ確立はしていない」だったが。 愛知県瀬戸市の高さ245mの電波塔「瀬戸デジタルタワー」が2003年に完成した。瀬戸タワーができたら、タワー周辺のひまわりが南を向かないで、デジタルタワーのほうを向いたと、私の友達のジャーナリストが写真週刊誌『フライデー』に書いた。ヒマワリは太陽を向くはずなのに。
オランダでは、5Gの実験中に野鳥300羽が死んだとの情報も。
フランスで、4G電磁波で牛が死んだり、乳量が落ちた(会報第137号、第139号参照)。
人間だけじゃない。ミツバチ、花、鳥、いろいろなところに害を与える。
国際がん研究機関の評価
国際がん研究機関(IARC)というWHOの下部機関は、低周波磁場と高周波電磁波を「グループ2B」=ヒトに対して発がん性がある可能性がある(possibly)と評価した。この段階で携帯電話安全説は崩れたと私は主張している。
携帯電話端末と基地局の違い
携帯電話は頭にくっつけて使うから脳がやられる。心臓ペースメーカーとか色々な機器へ干渉する。運転中に操作すると酒気帯び運転並みに事故る。リスクアセスメントのないところで爆発的に普及した。
携帯電話の場合は電話を使っているときだけだが、基地局の場合はマイクロ波を24時間365日、のべつ幕なし。だから怖い。基地局のアンテナからは高周波電磁波が出て、電源装置からは低周波電磁波が出る。だからマンションの屋上に建てると、最上階の住人は低周波の影響も受ける。それから、景観を害する。高いから倒壊や落雷の危険。私が沖縄の講演で「倒れますよ」と言ったときに、携帯電話会社のスパイがいて、「大久保ってやつが訳の分からないことを言ってくるからとんでもない」って言ったが、台風が来て本当に倒れちゃった。私の学習会に来た人が「大久保さん、倒れましたよ」。
それから、基地局建設について周辺住民に事前に説明がない。
欧州連合(EU)の2007年の世論調査では、76%が基地局に不安、73%が携帯電話に不安。基地局のほうが多い。電話は使っているときだけ。基地局はずっと電波が出る。だから基地局のほうが怖いというヨーロッパ人の合理性。基地局は造られたら浴びない選択はできない。
携帯電話会社の言い分
携帯会社は「総務省が決めた電波防護方針より、かなり低い電磁波しか基地局から出てないから安全」と言う。
それから、基地局設置時に近い範囲内では説明してると言う。実際には昼間1回だけ訪問し、不在ならばチラシだけポストに入れておく。こんな例はいっぱいある。全然説明してない。しかも「電柱が建つ程度」「こたつ程度の電磁波が出ます」と説明する。こういう駄目な会社なんですよ。また「近場の住民には同意をとっている」と言うが、住民が調査したら取ってないことも。うそをつく。これが原因でつぶした例が20~30基ある。
「住民説明会は法律にないから実施しない」とも言う。とんでもないよね。例えば、皆さん方が引っ越したらば、隣ぐらいにあいさつしますよね。これは法律じゃない。市民の常識。だから、基地局を造るなら、住民へ説明をするのが当たり前。こういう常識が企業にはない。
私たちの要求
①電磁波の熱作用じゃなくて、非熱作用を考えた新しい厳しい基準値を作ること。
②現行では地権者と携帯電話会社の契約だけで基地局設置が決まる。地権者はお金をもらうが、周辺住民は電磁波はもらって、お金はもらえない。こんなばかなことがありますか。理不尽ですよ。周辺住民の意向が反映する「リスクコミュニケーション」を取り入れた形に改善すべき。具体的には、契約前の住民説明会を義務付ける。
③既存の基地局について、設置場所、会社名、高さ、出力、用途などを公開すること。
④先程も言ったように、旧郵政省である総務省=電波を広めている所が基準値を作るのは、全く矛盾。厚労省か環境省が所管すること。
⑤フランス国立応用科学研究所がやったように、基地局から300m以内と301m以上の住民の健康影響を比較する調査を日本でも実施すること。
⑥4G、5G電波の非熱作用によるヒトや生態系への影響を、総務、厚労、環境の合同で調査すること。
⑦総務省は過疎地に基地局建設促進のための補助金を出している。「大久保さん、助けて。私は川崎にいたんだけど、川崎が嫌で高知県に逃げたのに、高知まで、山奥まで基地局が来る。どこに逃げたらいいの」という悲鳴のような声が届いている。むしろ、電磁波が飛ばない、電磁波過敏症の方が逃げて行けるゾーンをつくること。【まとめ・網代太郎】