フランスで牧場の近くに携帯電話基地局(4G)が設置されたところ、設置後数日で乳量減少や牛の死亡などが起こったため、酪農家が提訴し、裁判所は基地局を一時停止して専門家に調査させるよう命じる判決を出しました(会報第137号参照)。その後、携帯事業者側が上訴し、上級審で酪農家は逆転敗訴、基地局停止判決は取り消されてしまいました。しかし農家は黙っておらず、仲間とともに実力行使して基地局を停止させると、牛は元気になったとのことです。このことを報じたニュースサイト「The Connexion」の9月7日付記事「French farmer on a mission to prove 4G tower is harming his cattle」をご紹介します。【訳・網代太郎】
4Gタワーが牛に害を与えていることを証明する作戦に出たフランスの農家
フランス中東部のある農家では、アンテナ設置後数日で乳量が15~20%減少し、200頭の牛のうち40頭が死んだという
フランスの国務院に逆らって基地局をオフにし、「牛の違いは顕著だった」という
By Brian McCulloch
4G携帯電話基地局のせいで乳牛が病気になったと考え、通信事業者と闘っている農民がいる。
オート=ロワール県のマゼラ=ダリエで家族とともに農場を営むFrédéric Salgues(フレデリック・サルグ)さんは、基地局の電気が家畜に悪影響を与えていないか確認するため基地局の電気を止める命令を、裁判所からもらった。
しかし、携帯会社側がフランスの国務院[1]に上訴した結果、裁判所の命令は覆された。
控訴審の翌日、農民と支援者たちは、基地局のブレーカーを切り、通電再開を遅らせようと装置の周りに古い車のタイヤを積み上げた。
市長は、牛がより幸せになるのを見た
地元市長のPhilippe Molheratは言う。「その1時間後に農場に行くと、牛の様子は驚くほど変わっていました。以前、私が農家の人たちと問題について話したときには、牛たちは不機嫌そうに集まっていたのですが、基地局への電流が切られると、リラックスして動き回るようになったのです」「また、厩舎を避けていたツバメやハトが戻ってくるなど、わずか25分ほどで変化が見られました」。
農家にとってのジレンマ
フランスの携帯電話会社4社が共有する基地局の運営者は、翌日警官とともに現場に来て、電力を回復させた。
「これからどうなるのか分からない」と市長。「控訴審が技術的な問題を解決するために下級審に差し戻したので、さらに裁判は続くでしょう」「根本的な問題は、裁判所に受け入れられるような専門家のレポートを得るには、基地局のスイッチを切って牧場への影響を見るしかないということです。しかし、事業者はそれを拒否しています」「これは多くの農家を動揺させ、私は農家が何をするか心配です」。
原因不明の牛の死
そもそもサルグさんは、地域社会に役立つサービスだと考えて、家畜小屋から400m離れた自分の土地に基地局を設置することに同意した。農村部の携帯電話普及率を向上させるための政府計画「ニューディールモバイル」による資金も一部提供された。200世帯が3Gや4Gの高速電話回線にアクセスできるようになった。
しかし、このタワーが稼動して以来、未経産牛20頭と子牛30頭が死亡し、獣医も論理的な理由を見出せないでいるという。
残った牛は外のアンテナに近づかず、牛舎に入ると集団で群がり、牛舎内のある場所を飛ばしながら移動しているという。
基地局から出る電磁波、あるいはその電源として敷設されたケーブルから出る電磁波が、家畜に影響しているとしか考えられないという。
長年にわたって、多くの人がそのような害があり得ると主張してきた。しかし、通信事業者は、基地局がヒトや動物に害を及ぼしたという科学的な事例は一度もないと言っている。
[1]フランスの国務院は政府が法案や政令案などを準備する際に政府から諮問を受けて答申したり、法に関わる問題について政府から求められた場合に意見を述べるなどを行う。行政最高裁判所の機能も有しており、国、地方公共団体、行政施設などの行為に対する最終審裁判所でもある(国務院のウェブサイト)