当会からCS支援センターへの公開質問状
2019年4月2日
特定非営利活動法人化学物質過敏症支援センター
理事長 広田 しのぶ 殿
公開質問状
電磁波問題市民研究会
代表 野村 修身
平素より化学物質過敏症支援等のためにご活動いただき、ありがとうございます。
貴法人発行の会報「CS支援第107号」(2019年2月26日付)に羽根邦夫氏による「スマートメーターとは何か、その電磁波について」と題する記事(以下「本件記事」と言います。)が掲載されました。本件記事には、「(スマートメーターの)マルチホップ式通信機の920MHz帯の電磁波の強さは、家庭内やバスや電車内の携帯電話が基地局と行う交信の電磁波よりも小さいです。30分に1回の通信時間は最大で1秒間、これは電車やバスの車内で席を離れた向こうの人が持っている携帯電話の基地局と交信する際の電磁波と、同じ様な周波数、同じ様な信号形式、同じ様な通信時間で、頻度ははるかに低く、強度は40分の1以下です」(14頁)と書かれています(上記引用箇所を含め、電波の送信が「30分に1回(度)」という表現が、本件記事中に3回使われています)。
貴法人は本件記事以前に少なくとも2回、スマートメーターについての記事を会報に掲載しました(2016年4月25日付「CS支援第90号」、及び2017年2月23日付「CS支援第95号」)。両方ともスマートメーターの電波の弱さを強調したうえで、「電磁波過敏症でも無視できます」(第90号)と断定し、「スマートメーターを危険とする説が、日常生活に刺激が欲しい方々のお好きな、茶飲み話程度であった」(第95号)と、スマートメーターによる被害を訴える方々を揶揄する内容でした。
当会は2回目の記事が掲載された後の同年3月24日付に貴殿あてに公開質問状(以下「前回質問状」と言います。)を送付し、これらの記事中で電磁波過敏症にも影響がないと断定し、被害を訴える方々を侮辱した貴法人の姿勢を問いました。前回質問状ではまた、貴法人による2回の記事中のデータの誤りも具体的に指摘し、「無線マルチホップはバケツリレー方式でデータを受け渡しするので通信頻度も『30分ごと』ではなく、コンセントレーターにもっとも近いスマートメーターは30分間に数百回通信する場合もあり得る」と指摘しました。しかし、貴法人は私たちの指摘を無視し、本件記事で同様の説明を繰り返しました。前回質問状ではさらに、「スマートメーターによって電磁波過敏症が悪化したという訴えを複数の方々がされていることについて、貴法人はご存知ですか? ご存知の場合、それらを貴法人はどのように受け止めていますか?」と質問しました。貴殿は同月31日付「2017年3月24日付公開質問状へのお答え」の中で「スマートメーターによって電磁波過敏症が悪化したとの訴えを複数の方々がされていることについて、CS支援センターでは下記のような事情(スマートメーターにより電磁波過敏症が悪化したとの訴えが直接には寄せられていないという事情)で直接には存じ上げませんが、貴会の会報誌により承知しております。お困りのご様子も容易にお察しできますし、憂慮しております。」と回答されました。
つきましては、以下の通り質問します。
1.無線マルチホップ方式のスマートメーターは、その大半について通信頻度は30分間に1回よりもはるかに多いものと私たちは考えております。当会による指摘にもかかわらず、再び「30分間に1回」と本件記事に書いた理由をお示しください。本件記事が誤っていることが確認された場合は、貴法人の会報誌上に訂正記事を掲載してください。
30分に1回よりも多い理由について、以下に説明します。
国内の電力会社が採用しているスマートメーターの正確な通信頻度は不明です。私たちの再三の要求にもかかわらず、電力会社が情報開示を拒み続けているからです。私たちは分かっている情報から以下に示す通りに推測しておりますが、私たちの推測は、大きくは外れていないだろうと考えています。
スマートメーターが、そのメーターが設置されている住宅や事業所の消費電力量データを送信する頻度は30分に1回です。それに加えて、バケツリレー方式で近隣メーターからデータを受け取り、そのデータを別の近隣メーターへ送信します。2016年3月23日に都内で行われた講演で、中嶋好文・東京電力スマートメーターオペレーションセンター所長(当時)は、「各メーターからデータを送信するタイミングは、毎時00分、30分であるとは限らず、メーターごとにずらして設定されている」と説明しました[1]。メーターの個数が膨大であるため、一斉に送信すると受信側の処理が間に合わないからです。
データはバケツリレーによって、コンセントレーターという携帯電話基地局のような施設に集められ、そこから光ケーブルなどで電力会社側へ送信されます。したがって、コンセントレーターからもっとも遠いスマートメーターの送信頻度は30分間に1回程度なのかもしれませんが、コンセントレーターから近いメーターほど送信頻度は増えます。このことは上述の講演で、中嶋所長も認めています。1台のコンセントレーターは、最大1,000台のメーターのデータを収容できます[2]。ですので、仮にコンセントレーターから最も近く直接データを送受信できるスマートメーターが5台ある場合、それらのメーターは1台あたり最大200台分、すなわち30分間に200回程度は送信する計算になります。
しかも、通信はメーターからコンセントレーターへの一方通行ではありません。メーターのファームウェアの更新データや、通信エラーのときに再送信を求めるなどの指令をメーターに与えるためのデータは、コンセントレーターから目的のメーターまで、逆方向のバケツリレーで受け渡されます。
したがって、メーターからの電波の送信頻度は、双方向を合わせた頻度になります。
また、通信エラーによる再送信などのために、さらに頻度が増える場合も考えられます。
米国カリフォルニア州のガス電力会社PG&Eは、無線マルチホップ式スマートメーターの送信頻度は1日9,600~190,000回以上であると報告しています[3]。
2.スマートメーターによって電磁波過敏症が悪化したとの訴えを複数の方々がされていることについて、貴法人は、それはスマートメーターからの電磁波のせいではなく、気のせいだとお考えですか。
本状送達後30日以内に文書にてご回答ください。
[1]網代太郎『スマートメーターの何が問題か』2016年 緑風出版 92頁
[2]東京電力パワーグリッド株式会社電子通信部「920MHzを用いたスマートメーターシステムについて」2017年12月8日
[3]PACIFIC GAS AND ELECTRIC COMPANY’S RESPONSE TO ADMINISTRATIVE LAW JUDGE’S OCTOBER 18, 2011 RULING DIRECTING IT TO FILE CLARIFYING RADIO FREQUENCY INFORMATION
CS支援センターからの一部回答書
2019年4月12日
電磁波問題市民研究会
代表 野村 修身 様
2019年4月2日付公開質問状へのお答え
認定NPO法人化学物質過敏症支援センター
理事長・事務局長 広田 しのぶ
ご質問1につきまして
本会報107号に記しましたとおり、ご質問につきましては次号誌上にてお答えいたします。
ご質問2につきまして
気のせいとは考えません。しかしスマートメーターの電磁波のせいとも言えません。原因は不明です。貴会がスマートメーターの電磁波測定をなさったのは電磁波研会報99号掲載の、スマートメーターによる健康被害を受けた方のご自宅を測定なさった一例しか存じ上げませんが、それはこの種の電磁波測定がたいへん難しいものであることも一因であると思われます。何かを危険と訴えるには実測データを出せば一目瞭然なのですから。
しかし、化学物質過敏症であれ電磁波過敏症であれ、一般的な毒性影響だけでは理解することはできません。たとえば先のスマートメーターを設置されてESが悪化したとの方が、シールドクロスでヴェール状の防護グッズを製作し販売するとのことが他団体の会報で紹介されておりましたが、スマートメーターや携帯電話のような電磁波は回り込んできますから、宇宙服のようにすっぽりと体を覆う物でなければ防ぐことは出来ません。しかし何らかの効果を実感されなければ販売はなさらないでしょうから、被害を受けたと感じるのも、効果がないはずのもので楽になるのも、その方にとっての真実であって気のせいではありません。過敏症を理解するのはそう簡単なことではなく、気のせい、と退けるようであればCS支援センターの相談窓口はそもそも成り立たないのです。
最後に、ES症状に苦しんでいらっしゃる方がご自宅にスマートメーターを設置され、その後近隣の方々のご協力を得て一斉にアナログメーターに替えたものの症状はおさまらず、アナログメーターの低周波磁場がスマートメーターよりも高いのをお知りになって、スマートメーターに戻したいとまで苦しんでいらっしゃる例があることをお伝えいたします。
厳密な測定を行ってもどうしても原因が見つけられずに、CS支援センターではご相談電話をいただくたびに非力を嘆いた後、夢想するのです。脳科学者と神経解剖学、皮膚科ほかの各科医師、もちろんCS専門医、工学や化学や環境空気質の専門家、電力会社も一堂に集めてご自宅を調査し診察いただき、この方の苦痛を減じる手立てを探せたらと。
末筆でございますが、貴会のますますのご発展をお祈り申し上げます。
以上
解説 不可解な独自の理論 当会は再質問の予定
当会は二つの質問をしました。そのうち「1」(通信頻度を30分に1回と書いた理由)については、CS支援センターは「本会報107号に記しましたとおり…次号誌上にてお答えいたします」として、「CS支援第109号」で回答するとのことです。107号に「109号で回答する」とは書かれていませんでしたが、109号を待ちたいと思います。
また、「2」(スマートメーターによる健康影響は電磁波のせいではなく気のせいと考えているのか)については、「CS支援」がこれまでも「スマートメーターはEHSでも問題ない」旨を掲載し続け、今回の記事ではそう明記されていないものの「スマート通信機の電波は弱く稀にしか発放されません」などと強調しているため、同センターの見解を質したものです。これに回答書は「気のせいとは考えません。しかしスマートメーターの電磁波のせいとも言えません」と回答。「電磁波のせいとも言えません」とは「電磁波のせいかもしれないが現時点では不明」の意味なのか、それとも「電磁波のせいではあり得ない」の意味なのかハッキリしないので、再質問しようと思います。
また、スマートメーターからの電磁波の測定が「難しいものである」としたうえで「何かを危険と訴えるには実測データを出せば一目瞭然」と同センターは言っていますが、仮に○○μw/c㎡というような実測データがわかった場合、それをもってEHSの原因になるのかどうか「一目瞭然」であると同センターは考えているのでしょうか。EHSの閾値を世界で初めて同センターが特定したのでしょうか。再質問したいと思います。
同センターはまた、シールドクロスを用いても「スマートメーターや携帯電話のような電磁波は回り込んできますから、宇宙服のようにすっぽりと体を覆う物でなければ防ぐことは出来」ないとして、EHSの方々が「効果がないはずのもので楽になる」と言っていると決めつけています。しかし、すっぽり覆わなくてもシールドクロスのかけ方などの条件によっては電波を弱めることが可能なことは実験で示されています。ですので、EHSの方々は「効果があるもので楽になっている」と考えられます。
同センターと羽根氏が電磁波やEHSについて独自の理論にこだわる理由は、どこにあるのでしょうか。
CS支援センターによる回答拒否(『CS支援第109号』掲載記事より)
電磁波問題市民研究会
代表 野村 修身 様
4月2日付公開質問状 質問1につきまして、お詫びとお願い
本会報108号公開質問状へのお答え中「質問1につきましては次号誌上にてお答えいたします」と記しましたが、CS支援センターの不手際により、質問1へのお答えを掲載することができませんでした。
また、次号以降も掲載する予定はございません。誠に申しわけございません。貴会に心よりお詫び申し上げます。また貴会報誌第118号に再質問したいとありますが、私どもにはお答えができませんことから、あらかじめ本号にてお断りし、重ねてお詫び申し上げます。電磁波過敏症は未だ診断ができないという現状に鑑み、そもそもご質問1につきましても、情報公開がされないために推量の上での質問になっておりますことから、今後貴会におかれましては、電力会社への情報公開の要望や、スマートメーター開発・運用技術者等、専門家との議論に注力いただけますよう、衷心よりお願い申し上げます。
認定NPO法人 化学物質過敏症支援センター
理事長・事務局長 広田 しのぶ
『CS支援第109号』に添付された「事務局たより」から関連部分
14ページの公開質問に関する その後の問題でお答えします。
電磁波の問題はまだ不明なことが多く、基準になるところがあいまいです。そのような中での質問や応答はあまり意味がないと考えています。専門の研究者の今後の研究を待って確実な情報の基で学んでいきたいと考えています。(広田)
当会からCS支援センターへの要求書
2019年7月18日
特定非営利活動法人化学物質過敏症支援センター
理事長 広田 しのぶ 殿
要求書
電磁波問題市民研究会
代表 野村 修身
貴法人発行の会報「CS支援第107号」(本年2月26日付)に掲載された、羽根邦夫氏による「スマートメーターとは何か、その電磁波について」と題する記事について、当会は本年4月2日付で公開質問状を貴法人に送付し、2点について質問いたしました。
貴法人から4月12日付書面で「質問2」への回答をいただきましたが、「質問1」については未回答でした。
その質問1とは、以下の通りです。
無線マルチホップ方式のスマートメーターは、その大半について通信頻度は30分間に1回よりもはるかに多いものと私たちは考えております。当会による指摘にもかかわらず、再び「30分間に1回」と本件記事に書いた理由をお示しください。本件記事が誤っていることが確認された場合は、貴法人の会報誌上に訂正記事を掲載してください。
その後、「CS支援第109号」(6月27日付)に「4月2日付公開質問状 質問1につきまして、お詫びとお願い」と題する記事が掲載されました。その記事は「質問1へのお答えを掲載することができませんでした。」「次号以降も掲載する予定はございません」として、回答を拒否する旨の内容でした。また、「お詫び」と書きつつも、「ご質問1につきましても、[スマートメーターの通信頻度について]情報公開されないために推量の上での質問となっております」と、「推量」に基づいて質問した私たちに落ち度があるかのような書きぶりです( [ ]内は当会による補足)。
さらに、会報に添えられた「事務局たより」には「電磁波の問題ではまだ不明な点が多く、基準になるところがあいまいです。そのような中での質問や応答はあまり意味がないと考えています」とまで書いて、回答拒否を正当化しています。
スマートメーターの通信頻度について電力会社が情報公開しない状況であっても、私たちは複数の具体的な根拠に基づいて通信頻度が30分に1回よりはるかに多いことを論証し、CS支援に掲載された羽根氏による記事の誤りを指摘しました。
それが「意味がない」のであれば、もともとの羽根氏による記事も「意味がない」ことになります。より正確に言えば、私たちと比べても極めて薄弱な根拠に基づく「推量」によって書かれた羽根氏による記事は「意味がない」どころか、電磁波について誤った情報を読者に伝える可能性が大きいという意味で、有害な記事であると言えます。そのような記事を掲載すべきではありません。
したがいまして、貴法人がこれまで掲載してきた、羽根氏がスマートメーターについて書いた記事をすべて撤回すること、そして、撤回する旨をCS支援誌面に掲載することを求めます。
本要求書につき、本状送達日より30日以内に書面にてご回答ください。
『CS支援第110号』に添付された「謹告」
(当会にもほぼ同内容の回答あり(2019年8月5日付))
本会報CS支援に現在まで掲載いたしました羽根邦夫氏による記事のうち、以下のスマートメーターについて言及した記事すべてを撤回いたします。
- 会報CS支援第90号(2016年4月25日発行)「CS患者の生活改善のために14.『生体と電磁波』の参考文献のまとめ」中
「付録 スマートメーターについて」全文 - 同 第95号(2017年2月23日発行)「大気汚染と血液脳関門と認知症、そして化学物質過敏症」中14頁スマートメーターに言及した部分
- 同 第107号(2019年2月26日発光)「スマートメーターとは何か、その電磁波について」全文
また、109号に同送いたしました事務局便り中、「14ページの」に続く4行も併せて撤回いたします。
撤回に至る記事を掲載いたしましたことにつきまして、みなさまに心よりお詫び申し上げます。
CS支援センター 事務局長 広田しのぶ