スマートメーター火災について東京新聞が初めて報道した昨年11月18日の時点では、都内の火災は16件は、すべて東光東芝メーターシステムズ(東光東芝)の製品であり、コンデンサー部品の不良が原因でした(同21日付同紙などで報道された中部電力エリア内の火災1件も同社製品)。しかし、東京電力パワーグリッド(東電PG)は12月5日になって、これら16件とは別に「施工不良」による火災が計7件起きていたことを発表したのです。前述の12月6日付東京新聞「こちら特報部」掲載記事でこれら7件の火災についても取り上げたため、7件の火災を隠してきた東電が、同紙による取材を受けて急遽、方針を変えて発表したものと考えられます。
施工不良が原因で火災が起こるということは、東光東芝製の不良機種に限らず、どのメーカーのどの機種のスマートメーターでも火災が起こる可能性があることを意味します。
青白い炎が
12月6日付記事によると、7件のうち、11月30日に茨城県つくば市の飲食店で起きた7件目の火災の様子は次の通りでした。午後2時ごろ、店員がアスファルトの舗装工事のような石油っぽいにおいに気付きました。外に出るとスマートメーターから青白い炎が出ていて、メーターのケースは溶けてぽたぽたしたたり落ちていました。店員が店の粉末消火器で消し止めましたが、メーターが設置された木の壁は黒く焦げました。店員は電気は使えないと考えて客に頭を下げて帰ってもらったとのことです。
店員は同紙の取材に「営業補償をもらいたいぐらい。店にいなかったらどうなっていたか」と話しました。
東光東芝製に限らず出火
施工不良で火災になった7件のスマートメーターのメーカーは、大崎電気が4件、東光東芝が2件、三菱電機が1件でした。
その後も、火災は続きました。表の通り、この年末年始も既に3件発生しています。1月10日付東京新聞記事によると、これらのうち横浜市磯子区と東京都荒川区のスマートメーターは、ともに東光東芝製ではないので、施工不良が疑われるとのことです。
背景に作業員の「労働条件」か
施工不良に関連するかもしれないニュースが、1月6日付『しんぶん赤旗電子版』に掲載されました。東京電力のメーター交換(すなわちスマートメーター設置)を行っている作業員が労働組合を結成しました。
記事によると、労働組合「全労連・全国一般労働組合計器工事作業分会」を結成したのは「ワットラインサービス」という会社と請負契約を結んで働いている作業員らです。同社は東電PGが約35%出資する重電会社・東光高岳の100%子会社です。東光高岳の歴代社長は東電出身者が務めています。
作業件数で収入が決まる
記事によると、交換工事に31年従事するベテランである組合代表は「いいかげんな作業をすれば事故につながるので、ルールは必要です。しかし、会社の罰則は、あまりに厳しい」と訴えています。たとえば、作業終了の確認のために撮影した写真が不鮮明だと判断されるなどで減点されます。大きな減点がつくと2週間などの作業停止になります。作業件数で収入が決まるため、生活が苦しくなります。「これでは、収入を確保しようと、安全上トラブルが起こりやすい雨天でも無理に作業してしまう恐れがあ」ると組合代表は指摘しています。さらに減点が累積すると、契約打ち切りの恐れがあります。
会社がスマートフォンの「ライン」でいっせい送信した作業手順変更を作業員の一人が見落としたことがありました。その時は注意だけで済んだのに、後から会社が一方的に罰則を適用して昨年11月、契約を打ち切ると通告してきました。組合は12月7日、契約打ち切り撤回を求めて会社に団体交渉を申し入れました。会社側は「労働契約を締結している従業員ではない」などとして団交を拒否。組合は12月17日、都労委に不当労働行為を申し立てました。作業員は請負契約ですが会社の指揮監督を受けており、労働組合法上の「労働者」であると組合は主張しています。
組合代表はまた「交換作業者が2週間程度の短期間の研修で現場に送られている」とも指摘しています。スマートメーターへいっせいに交換するため、経験の浅い作業者が増えているというのです。
東電のスマートメーター設置をめぐっては、事前の通知なしに勝手に交換されたり、通知するチラシを入れたその日に交換されたなどの苦情が当会に相次いで寄せられています。こうしたトラブルや施工不良の背景に、作業員が収入のためにスマートメーターの設置件数をとにかく増やそうとしたり、または、経験の浅い作業員によって、作業がずさんになっているという事情があるのかもしれません。もちろん、どのような事情があっても、ずさんな作業は許されませんが、作業員の「労働条件」が改善されて余裕を持って働くことができれば、トラブルもいくらかは減るのかもしれないと筆者は感じました。
「ネジの締め付け不足・緩みが原因」
昨年12月5日付東電PGの発表文によると、施工不良の中身は「スマートメーターの端子部の締め付けネジの締め付け不足・緩み等に起因した放電により発熱・焼損に至ったものと推定」されるとのことです。
これについて、1月10日付東京新聞記事は「ネジ止めは基本中の基本で、締めが甘いのは考えられない」という男性電気工事士の言葉を紹介しています。この男性は「設置台数が多くて作業員が急いでいると、締めが足りなくなるのではないか」と推測しています。
急ぎすぎるから事故が起こる
東電は、電気メーターの有効期間満了に合わせて10年かけてアナログメーターをスマートメーターに交換するのではなく、3年前倒して2020年までの7年間で、2900万台ものメーター全部をスマートメーターに交換しようとしています。1月10日付東京新聞記事の中で、消費者問題研究所代表の恒田達哉氏は「単純に、急ぎすぎているから事故が起こる。家は多くの消費者にとって、一生のうちで最も高い買い物であり、日々の生活の基盤ともなる大切な場所。立ち止まって、ちゃんとやれる準備ができてから進めていくべきだ。スマートメーターの設置を早く進めても消費者にとっては得にならない」と述べています。もっともな指摘ですが「得になるかどうか」で言えば、スマートメーター設置による消費者のメリットは「1%ぐらいの省エネマニア」(会報前号参照)などに限られます。スマートメーターを急ぐ必要はまったくないし、そもそもすべての電力消費者に設置する必要もありません。
スマートメーター設置を止めよ
1月10日付記事によると、施工不良で火災が起きた7台のスマートメーターはすべて別々の作業員が設置しました。東電は7人が施工したスマートメーター約30000台の1割にあたる3000台と、7人以外が設置したスマートメーターのうち5200台以上の、計8200台以上を対象に抜き取り調査をして、施工不良がないか調べているところだそうです。しかし、抜き取り調査の対象にならなかったところで火災が起きない保証はまったくありません。
電力会社はスマートメーターの新設を今すぐにやめるべきです。そして、不良スマートメーターの撤去と、既設スマートメーターの(抜き取り調査ではなく)全数調査に全力を傾けるべきです。もちろん、アナログメーターへの交換要求にも応じるべきです。【網代太郎】