スマートメーターから出火した火災事故について、だれでもネットで情報を見られる「事故情報データバンクシステム」へ報告しないよう、総務省消防庁が昨年4月に東京消防庁(都内のほぼ全域を管轄する自治体消防)に指示し、東京消防庁がその指示に従っていた事実を、12月6日付『東京新聞』が1面トップ記事で暴露しました。総務省消防庁は市民の生命と財産を守るという使命よりも、国策を優先したと見られます。東京消防庁は、指示を唯々諾々と受け入れました。ともに恥を知るべきです。
消費者庁は「報告は必要」
事故情報データバンクシステム(以下、「同システム」と言います)は「関係行政機関が保有する生命・身体に係る消費生活上の事故の情報を一元的に集約したデータベース」で「事故の再発、拡大の防止に資する環境整備の一環として、消費者庁と国民生活センターが連携して、関係行政機関等の協力を得て実施している事業」です(同システムのウェブサイトより)。だれでもインターネット経由で事故情報を自由に閲覧・検索できます。
記事によると、総務省消防庁はスマートメーターについて同システムに掲載することは「誤り」であると東京消防庁に指摘しました。それまで東京消防庁はスマートメーター火災について同システムに報告していましたが、指摘を受けた後に調査が終わった火災については報告をやめたため、掲載されませんでした(この記事を書いている1月22日現在も、掲載されていません)。総務省消防庁は同システムの運用が始まる2010年に消費者庁と報告対象の製品を協議し「メーター類」を報告対象から除外。「送電線などの設備と同様、スマートメーターは電力会社が送配電事業を行うために設置し、所有権も電力会社にある」からだと、総務省消防庁は同紙に「誤り」の理由を説明しました。
一方で消費者庁の担当課長は同紙の取材に「消費者安全法上、火災は重大な生命・身体被害を発生させるおそれがある事案で、行政機関による報告は必要だ」と述べ、総務省消防庁による「報告不要」との見解を真っ向から否定した形となりました。
2018年12月6日付『東京新聞』1面
当会による追及がきっかけか
総務省消防庁が東京消防庁に同システムへの報告は誤りだと指摘した昨年4月は、ちょうど当会主催の「スマートメーター強制をやめさせる院内集会」が開かれた月であることを、この東京新聞の記事は言及しています。当会が同システムに掲載された情報からスマートメーター火災が発生していることを知り、総務省消防庁に対して院内集会の場で火災原因を明らかにすることなどを求める書面を提出していました。東京新聞の記事は断定しないまでも、当会のこの要求がきっかけとなって、総務省消防庁が東京消防庁に指示を出した可能性が大きいことをにおわせています。
12月6日付東京新聞は、この1面の記事に関連して、26~27面の見開き記事「こちら特報部」でも詳報し、「(総務省消防庁は)『消費者の所有物ではないから』などと説明するが、(同システムに)載せる必要があるのは、火を見るより明らかだ。スマートメーターの設置という『国策』に忖度(そんたく)していないか」と追及しています。
記事には、筆者(網代)のコメントが、以下の通り掲載されました。「火災の報告を上げないのは、普及に不都合な情報を隠そうとしているように見える」「(スマートメーターの)設置は事実上の強制。消費者にはその危険性も知る権利がある。海外のように、消費者が従来のアナログ方式を選ぶ権利も認めるべきだ。消費者の思いをないがしろにして、国の方針に沿って強引に設置を進めようとするから、今回のような事態が起きる」。
問われる消防当局の不作為
総務省消防庁の言い分は明らかにおかしいですが、同庁があくまでも正当だと主張するなら、同庁が独自にスマートメーター火災の情報を公表して警戒を呼びかけたり、または公表するよう電力会社を(必要なら東京消防庁を通して)指導してこなかったことを、どう釈明するのでしょうか。火災を起こしたスマートメーターと同型の不良メーターは当時分かっていただけで東電エリアに24000台設置されていましたが、消費者は出火するかもしれない不良品が自分の家などに設置されていることを一切知らされていませんでした。同庁が注意喚起を行う必要性は極めて大きかったのに、何もしなかったのです。スマートメーター設置推進という国策のためなら市民が火事にあっても仕方がないという姿勢では「消防庁」の名が泣きます。
総務省消防庁が「誤り」と指摘した同システムへの情報提供がまったくされていなかったならば、火災発生の事実を私たちが知ることはできず、東京新聞が報道することもなく、今でも東電は火災を隠したままでしょう-それが総務省消防庁にとって望ましい状況なのでしょうか。
注意喚起を怠った点では、東京消防庁も同罪です。
不良スマメは97000台に激増
東光東芝メーターシステムズは昨年12月26日、新たな不良品が見つかったとして、交換が必要なスマートメーターが東電エリアで24000台から90000台に、中部電力エリアで1600台から7000台に、それぞれ大幅に増えたと発表しました。
東京新聞は1月10日付「こちら特報部」でもスマートメーター火災を続報。それによると、東電が不良メーターを全部交換するのに今年12月末までかかります。いつ出火するか分からないものが、今後最長1年間も家などに付いたままになるのです。
話はそれで終わりません。この次に見るように、いつ出火するか分からないという状態は、実はほとんどすべてのスマートメーターについて言えるのです。【網代太郎】