各国の科学者・医師180人以上、EUに第5世代携帯普及の一時停止を提言

 携帯電話使用と脳腫瘍の関係の疫学調査をリードしてきたスウェーデンのレナート・ハーデル教授ら35カ国180人以上の科学者と医師が、第5世代携帯電話(5G)の普及の一時停止などを求める声明を9月13日、欧州委員会の当局者へ送りました。これまで普及している3G、4G(LTE)、Wi-Fiなどの電波による健康影響は明らかであるとして、これらに5Gが加わることの安全性をまず確認すべきであることなどを訴えています。この声明をご紹介します。原文:Scientists and doctors warn of potential serious health effects of 5G【訳・網代太郎】


科学者や医師が5Gによる健康への深刻な影響の可能性を警告
2017年9月13日

 私たち、世界36カ国180人以上の科学者と医師は、ヒトの健康と環境に対する潜在的な危険性が業界から独立した科学者によって十分に調査されるまで、第5世代電気通信(5G)の普及を一時停止することを勧告する。5Gは、すでに導入されている2G、3G、4G、Wi-Fiなどに加えて、高周波電磁界(RF-EMF)への曝露を大幅に増加させることになる。RF-EMFは、人間や環境に有害であることが証明されている。

5Gは、無線放射への強制曝露を大幅に増加させる
 5G技術は近距離でしか効果を発揮しない。5G電波は固体を伝わりにくい。多くの新しいアンテナが必要となり、本格的に導入することにより都市部では10~12戸ごとに1本の割合でアンテナが設置されるため、強制的な曝露が大幅に増加する。
 「無線技術のこれまで以上に広範な使用」により、だれも曝露を避けることができない。なぜなら、推定によると、5G送信機の(住宅、店舗、病院内にも)増加に加えて、「(冷蔵機、洗濯機、監視カメラ、自動運転車・バスなどへの)100億~200億の接続」が、モノのインターネットの重要な要素になるからだ。これらすべてを合わせると、すべてのEU市民への長期的なRF-EMF曝露の大幅な増加を引き起こす可能性がある。

RF-EMF曝露の有害な影響はすでに証明されている
 5Gの展開が追加される以前に、40カ国の230人以上の科学者が、すでに電気・無線機器によって発生している電磁界への遍在的で増加する曝露について「深刻な懸念」を表明している。科学者らは「最近の多くの科学的な発表では、電磁界がほとんどの国際的および国のガイドラインをはるかに下回るレベルで生体に影響を与えることが示されている」という事実に言及している。影響には、がんリスクの上昇、細胞ストレス、有害なフリーラジカルの増加、遺伝子の損傷、生殖器系の構造的・機能的変化、学習・記憶障害、神経障害、および人間の一般的な幸福への悪影響が含まれる。植物と動物の両方への有害な影響について証拠が増えているため、被害は人類だけにとどまらない。
 2015年に科学者のアピールが書かれた後、さらなる研究では、無線技術からのRF-EMFからの深刻な健康リスクが説得力を持って確認されている。世界最大の研究(2500万USドル)である国家毒性プログラム(NTP)は、ほとんどの国が従っているICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)指針値を下回る電磁界に曝露された動物の脳および心臓のがんの発症率が統計的有意に増加したことを示した。これらの結果は、高周波電磁波と脳腫瘍リスクに関するヒトの疫学研究結果を支持するものである。多数の査読された学術報告は、電磁界によるヒトの健康への害を示している。
 2011年に世界保健機関(WHO)のがんについての機関である国際がん研究機関(IARC)は、周波数30KHz~300GHzの電磁界がヒトに対して発がん性がある可能性がある(グループ2B)と結論付けた。しかし、上記のNTP研究のような新しい研究や、携帯電話使用と脳腫瘍リスクに関する最新の研究を含むいくつかの疫学的調査では、RF-EMFがヒトに対して発がん性があることが確認されている。
 EUROPA EM-EMFガイドライン2016は「特定の電磁界への長期曝露は、ある種のがん、アルツハイマー病、および男性不妊などの疾患のリスク因子であることを示す強い証拠がある…一般的なEHS(電磁波過敏症)の症状には、頭痛、集中困難、睡眠障害、うつ病、気力の低下、疲労、インフルエンザ様症状などがある」と述べている。
 ヨーロッパ市民のうちますます大勢が、科学文献で長年にわたって電磁界や無線放射の曝露に関連している病気の症状に影響を受けている。EHSと多種化学物質過敏症(MCS)に関する国際科学宣言(ブリュッセル2015)は、次のように宣言している。「私たちの現在の科学的知見に鑑み、私たちは、すべての国内および国際機関…に対して、EHSとMCSを、今後数年の間に世界的に、すなわち電磁場を利用した無線技術と市販の化学物質の無制限使用を実施しているすべての国において、 定点把握対象疾患として作用し、公衆衛生上の大きな懸念を引き起こす可能性のある真の医学的状態であると認識することを強調する。…不作為は社会のコストであり、もはや選択肢にはならない。…私たちは満場一致でこの公衆衛生上の重大な危険を認める。…この主要な一次予防策が採用され、優先順位が付けられ、この世界的な汎流行の見通しに直面する」。

予防措置
 2005年にEUで採択された予防原則(ユネスコ):「人間の活動が、科学的にはもっともらしいが不確実な道徳的に受け入れがたい危害をもたらす可能性がある場合、その危害を回避または軽減するための行動を取らなければならない。」
 決議1815(欧州評議会、2011年):「電磁界、特に携帯電話からの高周波への曝露(特に頭部腫瘍によるリスクが最も高いと思われる子どもおよび若者への曝露)を減らすためのすべての合理的な措置を講じること…電磁波のいわゆる熱効果と、非熱効果または生物学的影響の両方をカバーするALARA(合理的に達成可能な限り低い)原則が適用されること、およびリスクアセスメントの基準とを改善することを強く推奨する。」
 ニュルンベルクコード(1949)はこのように新しい、より高いRF-EMF曝露と5Gの展開を含め、ヒトへのすべての実験に適用される。すべてのこのような実験は「実験を正当化する予備知識(例えば、動物実験から得られた知見)に基づくべきである。死亡または後遺症を引き起こす可能性があると信じる先験的な理由がある場合、実験は行うべきではない。ただし、実験する医師自身も被験者となる実験の場合は、例外としてよいかもしれない」(Nuremberg code pts 3-5)。既に公表されている科学的研究は、実際の健康被害において「先験的な理由があると信ずる」ことを示している。
 欧州環境庁(EEA)は放射線量がWHO/ICNIRP基準を下回っているにもかかわらず「日常的な機器からの電磁波リスク」を警告している。EEAはまた「過去に予防原則を使用しなかったことで、健康や環境への深刻でしばしば取り返しのつかない被害をもたらした例は数多くある…長期の曝露による害の「説得力がある」証拠と、その害がどのように起こるのかについての生物学的理解(メカニズム)の両方がそろう前に、有害な曝露が広範囲に及ぶ可能性がある」と結論している。

「安全指針」は健康ではなく、産業を守っている
 現在のICNIRPの「安全指針値」は時代遅れである。電磁波がICNIRPの「安全指針値」を下回っているにもかかわらず、上記のすべての有害性の証拠が発生している。したがって、新しい安全基準が必要だ。誤解を招くような指針値の理由は、「ICNIRPメンバーの電気通信会社や電力会社との関係による利益相反が、非電離放射線の公衆被曝基準規制を管理すべき公平性を損なっている」からである。がんのリスクを評価するためには、医学、特に腫瘍学に精通した科学者の参加が必要だ」。
 電磁界の現在のICNIRP/WHO指針値は「ヒトの健康と安全に関わるRF-EMF曝露の重要な影響は、曝露された組織の加熱である」という時代遅れの仮説に基づいている。しかし、科学者たちはICNIRP指針値をはるかに下回る電磁波レベルで多くの異なる種類の病気や害が加熱なしで起こされる(「非熱効果」)ことを証明してきた。

私たちはEUに勧告する:
 1)独立した科学者がRF-EMF(5Gと同時に2G、3G、4G、およびWiFi)による総放射量がEU市民、特に乳幼児、子ども、妊婦、環境に対して有害でないことを保証できるまで、5GのRF-EMF拡大を停止するためのあらゆる合理的な措置を講じること。
 2)すべてのEU諸国、特にその放射線安全機関が、決議1815に従い、教師や医師を含む市民に、RF-EMF放射線による健康リスク、とりわけ保育所、学校、家庭、職場、病院、高齢者介護施設の中や近くで無線通信を避ける方法と理由について情報を提供すること。
 3)健康リスクを再評価するために、業界の影響を受けずに、利益相反のない独立した、真に公正な電磁界と健康分野の科学者からなるEUタスクフォースを直ちに任命すること。
 a)EU内のすべての無線通信について、新しい安全な「最大総曝露基準」を決定する。
 b)EU市民に影響を及ぼす総被曝量と累積被曝量を調査する。
 c)市民、特に乳幼児、子ども、妊娠中の女性を保護するために、すべての種類のEMFに関する新しいEUの「最大総暴露基準」を超える曝露を避ける方法について、EU内で規定・施行される規則の作成。
 4)ロビー団体を通じて無線通信業界が欧州の5Gを含む電磁波のさらなる普及を決定するようにEU当局を説得することの阻止。
 5)無線ではなく有線デジタル通信を支持して導入すること。

 2017年10月31日までに、RF-EMF、特に5G電磁波からEU住民を保護するためにどのような措置を講じるかについて、最初の署名者2名へあなたから回答されることを期待しています。このアピールとあなたの回答は公開されます。
ライナー・ニーバリ(Rainer Nyberg)フィンランド オーボ・アカデミー大学名誉教授
レナート・ハーデル(Lennart Hardell)スウェーデン エレブルー大学病院医学健康学部腫瘍学科教授

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