当会主催講演会 携帯基地局周辺の電磁波と健康被害

 ~延岡ほか九州各地の実例から~

この記事のポイント

  • 人間の健康影響を防ぐための電磁波の基準について、日本・米国・カナダ(1000μW/c㎡)、フィンランド・スウェーデン・ICNIRP(国際指針値)(900μW/c㎡)は、体温上昇による影響(熱作用)のみを考慮している(規制値は1800MHzの場合)。
  • これに対して、中国(38μW/c㎡)、ロシア・イタリア(10μW/c㎡)、スイス(センシティブエリア等で9.5μW/c㎡)、フランスのパリ市(1.0μW/c㎡)は非熱作用も考慮して規制している。
  • 総務省は「携帯基地局からの電波は、地上では1μw/c㎡未満(基準値の数千分の1)になる」と説明している。
  • 携帯電話基地局による健康被害を訴えている地域の電波を測定すると、数μw/c㎡(基準値の数百分の1)以上である。
  • 携帯電話は0.00002μW/c㎡(基準値の3000万分の1)で通信が可能である(800MHz帯での例)
  • 以上から、携帯電話基地局周辺の電波は、不必要に強い、と言える。
  • 携帯電話基地局周辺の住民が訴えている耳鳴りは「マイクロ波聴覚効果」で説明できる。

 

記事本文

 講演会「携帯基地局周辺の電磁波と健康被害~延岡ほか九州各地の実例から~」が2月14日、当会主催で都内で開かれ、75名が参加しました。九州大学教授の吉富邦明さんにご講演いただきました。吉富さんは携帯電話基地局からの電磁波によって健康被害を受けたと訴える近隣住民らの要請に応じて九州各地で測定調査を行いました。そのうち、宮崎県延岡市については、基地局差止めを求めた訴訟の原告側(住民側)証人として、「マイクロ波聴覚(ヒアリング)効果」により、基地局電波で耳鳴りは起こりうると証言しました。実際の測定値に基づく分かりやすいお話で、また、理不尽な現状への吉富さんの憤りがヒシヒシと伝わってきました。ご講演と質疑応答の概要を紹介いたします。【会報編集担当】


講演する吉富邦明・九州大学教授

講演する吉富邦明・九州大学教授

 簡単に自己紹介します。私の専門は環境電磁工学で、これは、電波工学の一分野です。数年前に亡くなられた東北大学の佐藤利三郎という立派な先生が「わが国でも環境電磁工学をしなければならぬ」ということで研究会を立ち上げられて、大学の助手だった私も参加しました。電気機器から発する電磁波などで他の電気機器が誤動作する電磁障害の低減など電磁環境の整備を議論する研究会であり、当時は人体への健康影響を考えることはありませんでした。
 今回は、過去のいろいろないきさつから九州での電磁波問題に関わり、私が測定の分野から協力し、それで分かったことやその周辺のことをお話ししたいと思います。

電磁波が生物に及ぼす作用
 これ(図1)は電磁波の説明図で、皆さんよくご覧になったことがあると思います。送電線に関係する低い周波数から、周波数が高いエックス線、ガンマ線まであります。図に描かれているような用途で電磁波が使われています。

(図1)電磁波の説明(周波数と用途、性質)

(図1)電磁波の説明(周波数と用途、性質)

 生体作用として、100kHzを境に低い周波数では「刺激作用」、高い周波数では「熱作用」があります。エックス線とガンマ線の「電離作用」は、多量に浴びると細胞の遺伝子が損傷してがんなどの原因になり得るという強い作用です。「非電離放射線」は、光、電波などの電離作用を起こさない電磁波という意味です。
 総務省の説明によると、刺激作用は、電磁波の曝露で流れる電流により神経や筋の活動に影響する、要するにビリッとすること、それと、血流の変化です。これは携帯電話の話にはあまり関係ありません。
 熱作用とは、電磁波エネルギーが体内に吸収され、体温が上昇することです。どのくらいの上昇を意識すべきかというと「1℃以上」で、動物の行動パターンの変化、生理学的変化が発生するとのことです。
 総務省が言及していない「非熱作用」は、加熱を生ずるよりもずっと低いレベルのパルス及び振幅変調電磁界による生物への影響です。その例として、振幅変調電磁界による細胞からのカルシウムイオンの放出が報告されていますが、これは影響が有りと無しの両方の報告があります。神経細胞のカルシウムイオンは情報伝達に関係しているとのことです。また、パルス変調マイクロ波による発がん作用の増強の報告がありますが、再現する試みがないとのことです(1)。さらに「マイクロ波聴覚効果」があり、これは、よく知られています。

日本-体温を1℃上げなければOK
 国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)と日本が現在の電磁波規制基準値を決めた出発点は、全身平均SARです。SARとは、kgあたりの吸収電力です。何かのサンプルで調べたのでしょうが、SAR4W/kgを30分吸収すると体温が1℃上がるというのですね。これに50倍の安全率を考慮して、全身平均SARを0.08W/kgとし、どれだけの強さの電波を当てるとこの程度のSARになるかを計算で見積もった結果、周波数2GHzのときで電力密度1mW/c㎡(1000μW/c㎡)という基準値になったのです。
 体に穴をあけて体内を測るわけにはいかないのでSARは測れませんが、電力密度は普通に測れます。
 日本の基準値のほうが、ICNIRPより若干高いです。

ロシア-非熱作用も考慮
 一方で、ロシアは熱作用だけではなく、非熱作用を含めた影響を考慮し、安全基準を10μW/c㎡とし、SARの規制はありません。総務省の資料(2)に「ロシアの電磁界規制の専門家によれば、ロシアでは50年間に及ぶ電磁界研究の蓄積に基づいて規制を制定しているという。その規制の根拠は、さまざまな強度や周波数の電磁界にばく露した動物実験および疫学調査等から影響があると認められたときに、動物と人間の反応の違い、体の大きさの違い等を考慮し、しかも悪影響の認められた周波数範囲において許容値を定めるとしている」と書いてあります。ちなみに、ポーランドやドイツも、計測できないという理由でSARを基準値に導入していません。
 世界で比較すると、日本、米国、カナダが一番高く(1000μW/c㎡)、フィンランド、スウェーデン、ICNIRPが少し低い(900μW/c㎡)が、いずれも熱作用防護を考えています。しかし、中国(38μW/c㎡)、ロシア・イタリア(10μW/c㎡)、スイス(9.5μW/c㎡。センシティブエリア等以外ではICNIRP規制)、フランスのパリ市(1.0μW/c㎡)は非熱作用の予防のため、ずっと低いです(1800MHzの場合)(3)
 欧州評議会議員会議は、屋内環境で0.1μW/c㎡(中期的に0.01μW/c㎡)を勧告しています。オーストリアのザルツブルク州は、屋外0.001μW/c㎡、屋内0.0001μW/c㎡ですが、これがどの程度に厳しい値なのかについては、後で述べます。

健康問題はないという総務省
 電磁波の健康影響について総務省のホームページには、こう書いてあります([ ]内は吉富さんのコメント)。「我が国を含め、全世界的に見てこれまで50年以上の研究の蓄積があります[50年間に及ぶ電磁界研究の蓄積に基づいて、とハッキリ書いてあるのはロシアですが、日本は意図してなのかどうか、ロシアは外していますね]。これらの科学的知見を基に、十分に大きな安全率を考慮した基準である『電波防護指針』が策定されています[安全率は化学物質は500倍で、なぜか電磁波は50倍]。ここで定められている基準値は、ICNIRP等が策定している基準値と同等のものであり[実は日本のほうが少し緩い]、我が国のみならず世界各国で活用されています。この基準値を満たしていれば、人間の健康への安全性が確保されるというのが、世界保健機関(WHO)やICNIRP等の国際機関をはじめ国際的な考えとなっています」。
 これが本当ならば皆さんがここに来られる必要はないのですが、本当ではないわけです。

健康問題を示唆する報告
 たとえば、オーストラリアのテレビ・ラジオタワーについての疫学調査で、タワーから近く(電力密度は8.0~0.2μW/c㎡)の住民は、タワーから遠い住民(同0.02μW/c㎡以下)より白血病が多いというホッキングによる報告があり、これは非熱効果ですね。
 また、0.02μW/c㎡で脳のアミン(神経伝達物質)のレベルが変化するとの報告もあります。先に挙げたカルシウムイオンの放出も神経関係で、その他の報告もみると、神経という繊細なところへの、わずかな電力の影響が疑われていることがわかってきます。

基地局周辺で出た症状
 私がここ3年間ぐらい関わった電磁波問題です。
 太宰府東小学校(福岡県太宰府市)の父兄の方が、測定してほしいと相談に来られました。子どもたちにイライラ、頭痛、無気力、皮膚炎、筋肉痛、口内炎、めまい、難聴・耳鳴り、胸痛・動悸などの症状が出て、学級崩壊になったクラスもあるというのです。
 宮崎県延岡市大貫町の住民からも依頼があり、測りました。耳鳴り・頭鳴り、肩こり、不眠、頭痛、めまい、鼻血、小動物園のウサギの不妊(一年中子どもを産むウサギが産まなくなった)などがありました。
 宮崎県小林市の保育園からも依頼がありました。園児に鼻血、不眠、耳鳴り・頭痛、倦怠感が出ているとのことでした。

太宰府東小-窓のシールドで改善
 太宰府市東小学校で2012年3月に調査しました。3階建て校舎で1階が0.3640μW/c㎡、2階が2.2342μW/c㎡、3階が3.7564μW/c㎡(800MHz帯と2GHz帯の合計)と、階が上がるにつれて電波が強くなっていました。これらの測定値は、欧州評議会が勧告している屋内0.1μW/c㎡の3.6~37倍です。基地局と校舎の間に低層の給食室があって、基地局の電波は1階には直接当たりません。3階の窓からは基地局が見えます。距離は約100mです。

太宰府東小学校3階の教室の中から見た基地局

太宰府東小学校3階の教室の中から見た基地局

 窓ガラスへの電磁シールドフィルム貼付を父兄の方々が市の教育委員会に申し出たところ、許可が出て貼ることができました。貼ったのは「YSHIELD(ワイシールド)」という会社の「RDF50」で電磁波遮蔽率99.82%、光透過率は50%です。
 貼ったところ、窓を開けたときの最大電力密度が3.30μW/c㎡(800MHz帯)、0.126μW/c㎡(2GHz帯)に対し、窓を閉めると0.0814μW/c㎡、0.00142μW/c㎡に減りました。
 貼った後は、やはりクラスが落ち着いてきたそうです。それ以前は3階のクラスでは学級崩壊も生じたそうですから、健康影響が大きく改善されたことが分かります。

延岡市-最大電力が問題
 延岡市大貫町では、高さわずか10mのマンションの上に基地局が建てられました。写真の右側の3階建ての住宅には、ほぼ真横から電波が来ます。

延岡市大貫町KDDI基地局と周辺の住宅

延岡市大貫町KDDI基地局と周辺の住宅

 2013年8月、アンテナから半径約100m以内で30カ所以上測定しました。「最大電力密度」は多くの測定場所で0.1μW/c㎡以上でした。もっとも高いのが22.0μW/c㎡で、前述の住宅の3階ベランダでした。アルミ板を貼るなど電磁遮蔽対策をとった家もあり、そこは0.001μW/c㎡に近い数値でした。それでも、この家で携帯電話で普通に通話できます。測定結果からみると、ザルツブルク州の勧告値である屋内0.0001μW/c㎡が守られれば、延岡の人たちは楽になるのではないかなという感じです。
 同じ測定場所での「平均電力密度」は、最大1μW/c㎡でした。この値ならば、ロシアの基準値(10μW/c㎡)を満たしますし、パリ市の基準値(1μW/c㎡)もぎりぎり満たすことになりますが、ロシアやパリの基準値の対象は最大電力密度なのか平均電力密度なのかはわかりません。
 それぞれの測定箇所での最大電力密度と平均電力密度の比を計算してみたら、どこもほぼ20~30倍と一定していました。これは当然であって、携帯電話の電波はある制御に基づいて出ているわけです。電磁波の影響について議論されるときには、一般的には平均電力密度が対象になります。しかし、大事なことは、電磁波の非熱効果は最大電力密度が問題となるということです。

小林市の測定
 次に、小林市です。保育園の周りに基地局が二つあります。約80m離れたNTTの巨大タワーで、KDDIも相乗りしています。もう一つは、保育園のすぐ横のマンション(距離約40m)屋上にKDDIが単独で建てた基地局です。この保育園だけでなく、周囲には病院や学校がたくさんあります。2014年12月に調査した保育園の屋上では、KDDI基地局(800MHz帯)とNTT基地局(同)の電波を合わせた最大電力密度は9.27μW/c㎡でした。

小林市保育園近くのNTT基地局(KDDI相乗り・右)とKDDI基地局(左)

小林市保育園近くのNTT基地局(KDDI相乗り・右)とKDDI基地局(左)

数μW/c㎡以上で体調不良
 以上の測定値をまとめると、一つの傾向が見えます。電波が強い所で、太宰府東小は3.76μW/c㎡、延岡市大貫町は22.0μW/c㎡、小林市の保育園は9.27μW/c㎡。体調不良が発生している場所は数μW/c㎡以上という共通点があります。

総務省の説明と実態との比較
 総務省は、基地局の鉄塔、マンションの屋上のアンテナは高い位置にあるから、地上では基準値の何千分の一程度以下になると説明しています。「何千分の一」とは、具体的にどの程度でしょうか。簡単に「千分の一」で考えると、900MHzの電磁波の基準値は600μW/c㎡ですから、その千分の一は0.6μW/c㎡です。また、1.5~2GHzの基準値は1000μW/c㎡ですから、千分の一は1μW/c㎡です。総務省は「数千分の一」以下になると言っているのですから、これら0.6μW/c㎡や1μW/c㎡よりはるかに小さくなるはずだ、だから安全だと言っているわけです。
 それから、総務省は「アンテナは指向性があり、数百m先の地点を中心に電波が進む」ので「アンテナに近ければ電波が強くて、遠ければ弱いわけではない」「アンテナのある建物の真下でも基準値をはるかに下回る」とも言っています。
 以上の総務省の説明は、携帯基地局周辺の電波の実態を正しく説明しているのでしょうか。
 地上で何千分の1になる、というのはウソではありませんが、延岡で電波が一番強かったのは地上ではなく、住宅の3階でした。3階だと基地局にずっと近くなります。
 これ(図2)は、総務省がよく使う測定結果データです。小さい点が総務省の測定値で、ある基地局の1km四方を測定したものです。点々が距離に関わらず同じぐらいのレベルになっていて、これが、総務省が言っている「近ければ電波が強くて、遠ければ弱いわけではない」ということです。それは、その通りですね。この基地局は、約500mの距離の所に密集している住宅等へ向けて電波を出しているので、そのあたりの距離で電波がやや強くなっています。

出典:平成18年度報告書「通常の電波伝搬環境下における携帯電話基地局に関する電界強度測定の報告書」(平成19年1月)66項を元に総務省にて作成

(図2)携帯電話基地局からの電波の実測値  ◆総務省の実測値(Maxhold)  ●延岡市大貫町携帯電話基地局周辺の実測値 出典:平成18年度報告書「通常の電波伝搬環境下における携帯電話基地局に関する電界強度測定の報告書」(平成19年1月)66項を元に総務省にて作成

 総務省が測定した最大値は基準値の1万分の1より下ですから、基準値の「何千分の1」になるという総務省の説明は、この実測値についてはウソではない。何千分の1以下であれば、欧州評議会の勧告値0.1μW/c㎡以下もおおむね守られていることになるので、非常に結構な話です。
 しかし、延岡の測定結果は、大きな丸印です。延岡の最小値は、総務省が測定した最大値と同じくらいです。延岡の最大値は、総務省が測定した最大値の440倍です。ロシアの基準値の2倍以上で、これは安全ではないでしょう。大貫町の基地局の周辺住民の多くが病気になったことは裁判所も認めていて、かつ、ロシアの基準値を超えているというのが実態です。
 福岡市の私がいる九州大学宿舎で2013年9月、電波を測定してみました。KDDIの800MHz帯だけが0.01μW/c㎡(国内基準値の6万分の1)程度と比較的高かったです。しかし、ドコモ、ソフトバンク、イーモバイル、ウィルコム、KDDI(2GHz帯)はすべて0.001μW/c㎡以下でした。0.001μW/c㎡は国内基準値の100万分の1であり、ザルツブルク州の勧告値でもあります。ザルツブルク州の勧告値が守られたら、携帯電話が使えなくて大変不便になると思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、私の宿舎では普通に使えます。
 以上をまとめると…

  • 総務省の説明で示される「一般的な携帯基地局の電磁波の強さ(最大電力密度)は国内基準値の1万分の1(0.1μW/c㎡)以下である
  • 延岡市大貫町基地局周辺の最大電力密度は国内基準値の数十分の1程度
  • 健康問題が発生していない地域の最大電力密度は国内基準値の数万分の1~100万分の1程度

 …ということになります。だから、健康問題が発生していない地域の話を延岡市などでしても仕方がないわけです。

基準値の3千万分の1で通信可能
 私が持っているスマートフォンでない普通の携帯電話を「電波暗室」に入れて実験しました。電波暗室は鉄板でできた大きな箱のような部屋で、中にスポンジ状の電波吸収体が貼り付けてあって、扉を閉めれば中には電波がまったく入りません。
 電波暗室の扉を少し開くと携帯電話が電波を受けて、電波の強さを示すアンテナマークが3本立ちます。少し閉めると2本になり、また少し開けると3本になる、ということを繰り返し、扉を約20cm開ければギリギリ3本立ちました。その状況で基地局からの電波を測定したら、平均電力密度12.1nW/㎡(0.00000121μW/c㎡。基準値の5億分の1)、最大電力密度0.2μW/㎡(0.00002μW/c㎡。基準値の3000万分の1)でした。この強さでちゃんと通信ができるわけです。

マイクロ波聴覚効果とは
 基地局の周辺で耳鳴りがするという話をよく聞きます。最初は「耳鳴りがする人はどこにでもいそうだな」程度に思っていました。しかし、いろいろ調べていくと、WHOのファクトシート「レーダーと人の健康」(1999年6月)の中に「マイクロ波聴覚効果」の文言がありました。パルス化されたRF界(高周波電磁界)がネズミの行動に変化をもたらすことが書かれており、「普通の聴覚を持つ人は200MHzから6.5GHzまでの周波数のRF界パルスを聴くことができました。これをマイクロ波聴覚効果といいます。RFパルスの特性によって、ザーザー、カチカチ、シューシュー、ポンポンなどそれは様々な音に説明されています。長時間の曝露や繰り返しの曝露はストレスを生じるでしょうから、できる限り避けるべきです」と書かれています。
 今の携帯電話はデジタルなので、基地局からの電波は「パルス化されたRF界」です。最大電力密度が数μW/c㎡程度で耳鳴り、頭鳴りがすると住民は言います。延岡の裁判で住民から提出された陳述書(2014年9月)には「頭の中で蝉が鳴くような音」「ジージー、キーンという耳鳴り」がすると書かれています。
 マイクロ波聴覚効果はアラン・フレイという神経科学者が1962年に最初に報告しました。レーダーの近くで働く人たちから「音がする」という話を聞いて興味を持って実験したところ、70~90dBという相当うるさい騒音環境下で、最大電力密度275mW/c㎡のパルスマイクロ波を与えたら即、音が聞こえたそうです。フレイはいろいろ調べた結果、0dBの静かな環境なら、最大電力密度3μW/c㎡でもマイクロ波聴覚が発生するだろうと予想しました。
 フレイはいろいろ調べていて、2インチ(5cm)四方ぐらいの金属防虫網を(図3の)網がかかった位置に置くとRF音を遮断できたそうです。

(図3)

(図3)

マイクロ波聴覚効果の二つの説
 マイクロ波聴覚効果のメカニズムはまだ分かっていませんが、二つの説があります。
 デヴラ・デイヴィスの著書『携帯電話 隠された真実』によると、フレイは「電磁波が脳内の神経細胞に直接届き、振動場を作る」と述べたとのことです。何の振動場か書いていないのが、もどかしいところですが。また、フレイ自身による別の著作の中では「蝸牛(内耳にあり聴覚を司る感覚器官)内での熱音響膨張が作用している可能性」を述べています。
 一方、ICNIRPが認めている説が「熱弾性理論」です。「パルス化マイクロ波エネルギーの吸収の結果として、非常に小さいが急激な温度上昇が柔組織物質の熱弾性膨張を生じ、圧力の音響波を発し、それが蝸牛に伝わり、有毛細胞によって検出され、中枢神経系に中継されて感知される」という説明です。
 熱弾性理論だと非常に強い電磁波でないとマイクロ波聴覚効果は起きないことになり、フレイの説だと弱い電磁波でも起きることになります。
 大事なことは、メカニズムよりも、延岡の人たちは実際に耳鳴りがしているということです。耳鳴りで眠れないから、段ボール箱にアルミホイルを貼り付けて、その中に頭を入れて寝ると少し楽だいう住民の方がいらっしゃいます。その話を聞いて、どれくらい電波が弱くなるか、実験しました。1辺25~30cmのポリバケツの底と周囲をアルミホイルで覆うと、バケツ内では電力密度が約20~30分の1に減りました。この結果から考えると、マイクロ波による耳鳴りの閾値は、最大電力密度数μW/c㎡か、あるいはもっと低いかもしれません。
 これ(図4)は、延岡の基地局から出た電波の時間波形です。横軸は時間で、端から端まで、たった20ミリ秒(0.02秒)です。時間とともに、どんどん変化していきます。右の方の棒のように突き出しているのがパルスで、強い電波が一瞬出て止みます。これはパイロット(制御)信号で、お客さんが通話していようがいまいが、毎秒1200回、必ず出ています。左側は、たまたまお客さんの通信電波が出ていて、右側は、出ていない時です。平均電力レベルは、通話していない時の電力も合わせて平均するので最大電力レベルよりもずっと低くなりますが、この図でわかるように、最大電力レベルに近い強さの信号は、ほぼ常時出ているのです。

(図4)延岡市大貫町KDDI基地局の2GHz帯電波の時間波形

(図4)延岡市大貫町KDDI基地局の2GHz帯電波の時間波形

 以上をまとめますと、携帯基地局の電波はパルス化されたRF界であり、延岡の方々は数μW/c㎡程度の電力密度で音(耳鳴り、頭鳴り)を感じているし、フレイもその可能性を示唆している。したがって、耳鳴りと携帯電話基地局電波の因果関係は十分考えられると私は思います。
 まとめです。

  • 携帯基地局周辺の電磁波による健康問題は、非常に深刻である
  • 問題が起きている基地局周辺の電力密度は、基準値の数十分の1程度なのに対して、携帯端末の受信感度は基準値の1千万分の1以下。このことから、基地局周辺の電力密度は、携帯の受信感度に比べて不必要に大きいと言える
  • 携帯基地局周辺で発生する耳鳴り・頭鳴りと電波の因果関係はマイクロ波聴覚効果により説明できる

 以上です。

質疑応答

子どものほうが影響は大きい?
 -電磁波の影響は子どものほうが大きいのですか?
 吉富さん(以下敬称略) 子どもの頭の大きさが、ちょうど携帯電話の電波と共鳴して、頭の中にホットスポットができやすいという話がよく言われています。でも、そのような物理的な話を持ち出すまでもなく、小さい子どものほうが弱いのは当たり前だと思います。小林市の保育園では2~3歳の子どもが、突然、鼻血を出すのです。私が測定に行っていた時もそうでした。今日のように風のない良い天気の日に子どもが近づいてきて、立って私の様子を見ていたら、タラーッと鼻血が出たのです。梅雨時など屋内で遊んでいる時には、あまり鼻血は出ず、天気がよく、運動会の練習や外遊びが多い時に鼻血の件数が多いと園長先生はおっしゃいました。
 当会事務局長・大久保 私はカネミ油症(ダイオキシン類などによる食品公害事件)被害者の支援も行っていますが、毒物は子どものほうが影響が大きいというデータは出ています。電磁波も毒性因子です。ヨーロッパでは16歳未満には携帯電話をなるべく使わせないという国がありますし、ベルギーでは7歳未満の子ども向け携帯のコマーシャルが禁止されています。16歳未満や7歳未満とした根拠として「頭蓋骨が薄い」「臓器や組織が未発達段階にある」等のことから、成人より影響が出やすいことを欧州では取り上げています。

スマホも微弱電波でOKか?
 -携帯電話は微弱な電波でも通信可能というお話でしたが、スマホなどのパケット通信も微弱な電波で可能なのでしょうか?
 吉富 1秒間にどれだけのデータを遅れるかを「通信容量」と言い、通信容量は帯域幅を広くすると容量が増えます。800MHz、2GHz、1.5GHzと、使う電波をどんどん増やしていますが、これは帯域幅を広げているのです。また、電力を上げれば、通信容量を増やせます。だけど、私が住んでいる職員住宅は、先ほど示した通りKDDI以外は電波はものすごく弱いです。数百人が住んでいて、私はガラケーですが、多くの人はスマホです。しかし、通信しづらいという文句は出ていません。本当のデータが通信会社側から出ないのが問題です。地下街にどうしても電波を飛ばしたければ、わざわざ基地局を作らなくても、入口に金属の反射板を置けば、電波が跳ね返って入ってきます。その程度の電波で通信できます。

基地局が建ってしまったら
 -友人のお子さんの幼稚園のすぐそばに基地局ができて、急いで園長と(地主に)言いに行ったが、建ってしまったので仕方がないと言われた。建ってしまった場合は、どうすれば良いですか。
 吉富 電波を跳ね返すには「サーモバリア スリム」という建築資材が一番良いと思います。太陽熱を跳ね返すためのもので、ポリエチレンシートに丈夫なアルミ箔が貼ってあるものです。はさみで切れます。幅1.2mで1巻40mで2万円程度です。それを壁に立てかけてタンスで押さえて、簡単な測定器で下がったかどうかを確認する。ダメだったら外して、他の所に置けば良いわけです。海水浴に行く時などに車が熱くならないように置く銀色の遮光シートは、電波を遮る効果は全然ありません。
 大久保 私は運動家ですから、建ってもあきらめないで頑張ってほしい、と言います。これまで住民と協力して約210基の基地局を中止してきました。もちろん計画段階のものが圧倒的に多いですが、建ってから撤去させたものもあります。

総務省にマイクロ波聴覚をきいてみた
 -マイクロ波聴覚効果について、総務省関東総合通信局に電話で質問したら、先ほどお話があった熱弾性理論を説明されました。その時に「音はどこから聞こえるのですか」と質問したら、「耳から聞こえるわけでも骨伝導ではない」と言われたのですが。
 吉富 では、どこから来るのでしょうか。おかしいですよね。1979年にフレイはホログラフィック評価をやりました。昔、レーザーで立体的に物が見えるホログラフィーがはやりましたが、ホログラフィーはそれだけでなく、物が振動する時の変化や圧力の分布などが分かります。フレイは当時米国のものすごく優秀な研究者の一人に選ばれていて、海軍から十分な研究資金がもらえたのですね。それで、最先端のホログラフィーを使って猫の解剖をしながら調べましたが、マイクロ波聴覚効果では、どこも振動する所はなかったそうです。力学的なものではないので、神経に直接作用しているのではないかとフレイは考えました。しかし、蝸牛をバラバラにしては意味がありませんから、蝸牛の中までは調べられませんでした。
 では、総務省が言う、ICNIRPも認めている熱弾性理論はどうやって確認されたのかと言うと、プラスチックのタンクに入れた水に強いマイクロ波のパルス波を当てたら、水が一気に膨張して水中に入れたマイクロフォンが音を拾ったわけです。これは数式でも再現でき、この理論にしたがって延岡の電力密度を数式に入れても、人間の耳に聞こえるレベルの音になります。
 熱弾性理論で音圧が発生したら、それが音として認識されるためには、音圧が頭の中を伝わるか、頭蓋骨を伝わる(骨伝導)か、何らかの方法で蝸牛まで届かなければなりません。だから、総務省が「耳から聞こえるわけでもない、骨伝導でもない」と言うのなら、ではどこで聞くかというと、神経になります。神経で聞くとなると、フレイの理論になってしまいます。フレイの理論を認めながら、熱弾性理論だと言っているのでしょうか。

マイクロ波聴覚の再現実験は
 -マイクロ波聴覚効果について再現実験をすれば補強できると思いますが。
 吉富 良い着眼点だと思いますが、では、あなたが被験者になってください、と言われたら、どうしますか。病気になるかもしれません。また、延岡では、基地が稼働してから2週間たって耳鳴りが始まった人もいれば、4週間たって始まった人もいた。だから、実験するとしても、2週間以上続けてマイクロ波を曝露させなければならないかもしれません。

基地局からの電波はなぜ強い?
 -携帯電話は弱い電波で通信できるのに、なぜ基地局から強い電波を出すのでしょうか。
 吉富 総務省はユビキタスネット社会を作ろうとしていますが、ユビキタスとは「いつでもどこでも」という意味です。地下街だろうがどこだろうが電波が通じるように、普通の所では十分すぎると思われるほどの電波を発射しているのでしょう。また、スマホでインターネット経由で情報を取ろうとしたが遅い、といった苦情を恐れてという面もあります。

今後の課題
 -マイクロ波聴覚効果を今後争点にしていこうとすれば、乗り越えなければいけない壁があると思います。一つは症状をどうやって検出するのか。鼻血など他の原因でも起こりうる一般的な症状について、電磁波の影響だと確定するためには相当大変で、基地局周辺の人たちを調べる場合、きちんとした拾い方をしていかないと、そこを突かれてしまう。もう一つは個人の感受性の問題です。ある強さの電波だとほとんどの人に耳鳴りがするが、それより弱い電波のときには耳鳴りがする人とそうでない人がいる、というようなことが分かるために、電波の強度と症状の分布を丁寧に調べていかないといけないと思います。これは質問ではないですけれど、今後、精密な調査がないと因果関係の証明や裁判に勝っていくという方向へはなかなか行かないのではないかと思います。
 吉富 おっしゃる通りだと思いますが、基地局周辺での疫学調査の結果を第一に重視し、健康影響を低減する対策を講じつつ因果関係の調査も併せて行うということが正しい手順だと思います。因果関係の証明には大変な手間と時間がかかることは容易に想像がつきます。一方、周辺住民の方々は電磁波に曝露されている限り、耐えがたい健康被害が24時間365日続くのです。また携帯基地局を撤去したことで症状が改善した例も多数報告されています。基地局周辺の健康被害を受けている住民の方々にとって必要なことは因果関係の自然科学的な精密な解明よりも元の健康で平穏な生活を取り戻すことであると思います。
 電磁波の強さに関する個人の感受性の問題に関しては、健康影響が訴えられている基地局周辺での電磁波強度の観測値に100倍あるいは500倍という安全率を適用して新たな防護基準値とすることが必要と思います。化学物質の毒性試験でも動物実験から求めた最大無毒性量を経験的な安全率100で割った量、あるいは実験に不確実性が高い場合や深刻な毒性の場合は300~1000の安全率が使用されて求められた量で安全基準が定められています。

(1)ICNIRP「時間変化する電界、磁界及び電磁界による曝露を制限するためのガイドライン(300GHzまで)」1998年p.19
(2)総務省「電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査 平成18年度海外基準・規制動向調査報告書」2007年3月p.159
(3)総務省上記報告書pp.10-15,pp.98-99

 

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