英国経営者団体 「スマートメーター見直しを」

 「英国経営者協会(IoD)」は、英国総選挙を前に3月27日、国が進めている電気及びガスのスマートメーター計画を「停止、変更、または廃止」するよう、新政権に求める報告書を公表しました。
 英国経営者協会は、経営者が個人の資格で参加する経営者団体です。英国内で約5万人、海外も加えると7万人以上の会員を有し、各種政策に関する調査研究や、経営者の啓蒙活動を行っています(1)。英国でもっとも大きな影響力を持ち尊敬されているビジネス経済分野の政策諮問機関の一つとのことです(2)。日本の経済同友会の「国際協力団体」でもあります。
 「あまり賢くない:スマートメーターは次の政府のIT大惨事になる?(Not tooclever: will Smart Meters be the nextGovernment IT disaster?)」と題された報告書(3)、及びニューズリリース(4)が指摘した、スマートメーターの主な問題点は、以下の通りです。

  • スマートメーター計画は消費者が望んでおらず、信頼性がなく、気が遠くなるほど高価
  • エネルギーへの意識を高めて消費量を減らすスマートメーターの「見かけの」目的は素晴らしいが、その目的を達成できる信用できる証拠がない
  • EU指令にもかかわらず、加盟27カ国中11カ国で電気のスマートメーターをやめ、ガスメーターについては5カ国しか取り組んでいない。その一方で、英国はEU指令を金科玉条にしている
  • エネルギー・気候変動省が行った費用-利益分析は、ほとんど読めないほどひどく編集されている
    スマートメーターネットワークはサイバー攻撃の被害を受けやすい。不正アクセスによって家の住人がいつ在宅していつ外出しているかが明らかになるだけでなく、技術に詳しい消費者が消費量を偽ることができるだろう。不機嫌な供給会社従業員などによる攻撃で百万ものメーターで給電が切られ、全国的な送電網が莫大なダメージを被るだろう
  • 英国のeBorders(電子国境管理システム)やBBCのデジタルメディアイニシアティブ(5)といった、過去のITシステムも失敗している。IoDメンバーの80%がITプロジェクトを管理する英国政府の能力を「程度が低いか、非常に程度が低い」と評価している

 報告書は、「このように目標が非現実的でコストが大きく、利益が不確実なプロジェクトは、電気代値上げに見合わない」として、以下のことなどを要求しています。

  • ガスのスマートメーターの展開停止
  • 家庭のエネルギー使用量を表示する専用ディスプレイの設置義務を廃止し、電話、タブレット、パソコンに接続
  • 消費量が特に大きい家庭のみにスマートメーターを設置
  • 高層ビルにスマートメーター設置しない
  • スマートメーターへの助成金の廃止

 2009年のEU指令は、市場および消費者にとって費用対効果があると加盟国が評価した場合は、電気、ガスメーターの最低80%をスマートメーターにするよう促しました。しかし、EU各国の実情は、前述の通りとのことです。
 IoDは経営者で作る団体ですが、経営者の立場だけではなく、消費者の立場や、費用対効果も視野に入れてスマートメーターを検討していることが印象的でした。そのほうが、長期的にみて、経営にもプラスになるという見識があるからなのでしょう。
 他方、日本の業界は、スマートメーター、スマートグリッドに飛びついています。自分たちが金儲けできさえすれば良いと考えているように見えます。【網代太郎】

(1)経済同友会「欧州調査報告 欧州における「企業の社会的責任(CSR)」
(2)日本能率協会
(3)Smart Meters: a government IT disaster waiting to happen
(4)Not too clever: will Smart Meters be the next Government IT disaster?
(5)この件について、NHK放送文化研究所「英BBC、番組製作と映像管理の完全デジタル化計画を断念」で解説されている

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