リニア 非常口建設予定地の相模原市牧馬を訪ねる

 2016年11月26日、数日前に降った雪がまだ積もる神奈川県相模原市緑区牧馬(まきめ)を訪れた。
 牧馬は、標高330m程の山里で、昔から「ざるを落とすと沢まで転がる」と言われるほど多くの沢が流れる急傾斜地で、水道はなく、生活用水は沢の水か井戸水である。その沢は、神奈川県営水道・横浜市水道の水源である道志川に流れ込む。現在の世帯数は代々住んでいる人と移住者を合わせて9世帯ほど。

のどかな里山に降ってわいたリニア
 牧馬の沢や谷は、以前から建設残土処理場として狙われてきた。そして、現在ではリニア中央新幹線の本線が地下を通り、非常口が地上に建設予定となっている。
 2015年7月頃、相模原市緑区橋本のリニア神奈川県駅予定地付近にある不動産業者が、牧馬の土地を買いに頻繁に訪れていた。当初は、あたかもJR東海の下請けのような感じで「この辺りはリニアを作るので土地を売って欲しい」ということを言っていたようだが、JR東海はこの不動産業者を全く無関係としている。しかし、工事が進めば、この不動産業者はJR東海に土地を売り飛ばすつもりであるのは間違いないだろう。
 のどかな里山に降ってわいたような非常口の問題。知り合いの移住者にその予定地を案内して貰った。

絶滅危惧種の蛙が
 牧馬の中に中沢という集落がある。牧馬を貫く県道から1本道を入り、沢沿いにしばらく歩く。この沢には、絶滅が危惧されている希少な蛙が生息している。道は、軽自動車とバイクがすれ違えないほど細い。

中沢集落への細い道

 工事に伴い、56万立方メートルの残土を運ぶために、1日最大240台の工事車両が県道を通るとされている。この細い道をどうやって県道まで通るのか。道を拡幅するのも難しそうだし、新たに橋脚を建てて県道に通じる広い道を作るのではないかとも推測される。いずれにしても、蛙が生息するのは難しくなるだろう。
 しばらく歩くと家が1軒あり、その横に荒れた草原とゆず畑が広がっている場所に出た。ここが非常口の予定地である。

非常口予定地

 ここからさらに奥に地区長の家があり、その下を本線のトンネルが通ることになっている。地権者の1人は「ノイローゼになりそうだよぉ」と仰っていたそうだ。隣の荒れた草原は売却の仮契約、家の大家さんは本契約をしてしまったので、その家を借りて暮らしている住人は、現在は大家が不動産業者となってしまっている。
 非常口予定地横の家を訪れてみた。ここには、牧馬で唯一、小さい子が2人暮らしている。非常口の問題さえなければ、隠れ里のような場所である。お母さんと立ち話をさせて貰ったが、大家になってしまった不動産業者に毎月家賃を払うのが癪であるとのこと。無理もない話である。また、不動産業者との新たな契約の影響で、庭に建設中だったゲストハウスも中断を余儀なくされ、骨組みが風雨にさらされている状態であった。

建設が中断されたゲストハウス

牧馬の生活を引き継いでいく
 牧馬住民地区会は、2015年2月にリニア計画凍結要望で合意。篠原・牧馬自治会では、JR東海に、水涸れ対策や、非常口の集落外への移動などを含めた要望を出しているが、まだ十分な回答は得られていない。不動産業者は、「非常口の建設残土をどこかに持っていくのではなく、牧馬に残土処理場を作ればダンプの往来がなくなる」という謳い文句だったようだが、2016年にも篠原・牧馬自治会では残土処分場は作らせないという確認をしている。
 相模原市では、橋本に神奈川県駅、小倉に変電所、鳥屋に車両基地と、他にもリニアにまつわる問題が沢山あり、それぞれの場所で疑問の声が上がりつつある。鳥屋では、2016年4月よりトラスト運動が始まり、今後は自然に親しむイベントを随時企画していくという。
 案内してくれた知り合いは、牧馬の社の鳥居が壊れたのを移住者も含めて修復しようであるとか、本線トンネル予定地の上にある田んぼを復活させようという動きがあることを話してくれた。牧馬の生活を引き継いでいくことをもって、狭い意味でのリニア問題にとどまらず、リニアに体現されるような価値観に対抗していこうという意志が感じられた。【渡邊幸之助】

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