市民公開シンポジウム 「シックハウス症候群・化学物質過敏症・ 電磁過敏症の最新知見と今後の展望」に参加して

 

上田昌文さん(市民科学研究室)

 2017年6月24日と25日に行われた第26回日本臨床環境医学会学術集会のなかで、25日午後に市民公開シンポジウム「シックハウス症候群・化学物質過敏症・電磁過敏症の最新知見と今後の展望」(東海大学高輪キャンパス2号館・2B101教室)が開かれた。主催は日本臨床環境医学会、共催は早稲田大学応用脳科学研究所であり、400名入る大会場が約200名の参加者で埋まった。
 このシンポジウムのコーディネータは『電磁波研会報』第102号(2016.9.25)にもインタビュー記事が紹介された、早稲田大学応用脳科学研究所「生活環境と健康研究会」の代表を務める北條祥子氏である。筆者は1年ほど前から北條氏とやりとりするなかで、まさにシンポジウムの呼びかけ文にある「社会的対策のためには、様々な専門分野の研究者が情報を共有し、苦しんでおられる患者さんや市民の皆さんのご意見を聞きながら検討することが不可欠」との北條氏の考えに共感し、また半年ほど前には仙台で直接お会いするなどして今回の学会での筆者の発表(「バイオマーカーを用いた電磁過敏症診断の可能性」)に対するご助言をいただいたこともあって、シンポジウムのチラシ作りや広報で若干のお手伝いをさせていただいた。
 呼びかけ文にあるとおり、疫学、臨床医学、歯学、看護学、健康リスク学、工学、法学等の9名の専門家がそれぞれの立場から話題提供し、参加者と質疑応答がなされるシンポジウムが実現したが、それはひとえに北條氏の学術交流のネットワーク作りでの尽力と電磁過敏症患者の実態把握への情熱(日本語版EHS問診票による調査など)があってのことだと言えるだろう。

これまでの取り組みをどう生かすか
 電磁過敏症(EHS)は現時点では、原因の特定(周波数と曝露状況)、その発症メカニズムの解明、多様な症状の系統的関連付け、統一された診断方法の確立、治療や症状の緩和に向けた社会的対策、のどれをとってもいくつもの障壁を抱えていて、専門家が「全体的な見通し」を語ることも容易でない。そうした状況において一つの重要なアプローチは、EHSより調査や対策や規制がいくらか先んじているアレルギー疾患、シックハウス症候群、化学物質過敏症(MCS)で得られた知見や経験から、EHSへの適用の可否を推理し、打てる手を構想することだろう。確証度が高い検査法と標準的な治療法の普及(そのためのガイドラインの作成)が小児喘息対策に不可欠であったわけだが、その取り組みを、現在増加が著しい鼻炎、食物アレルギー、スギ花粉症にどう生かせるのか。また、MCSが保険病名に収載されたとはいえ、これまた最近の傾向として柔軟剤や香料がきっかけで発症する人が増えているなかで、対象となる化学物質の広がりをどうカバーしていくのか。例えばこうした課題は、従来の対策の拡張という角度からみると、EHSを取り込むことの可否をあわせて検討してみることもできそうだ。

「MCS診療は不採算」率直な提起も
 また、化学物質(例えばトルエン)吸入負荷試験とその吸入前後の起立試験を組み合わせて調べると、脳内の血流の変化がMCS患者に顕著であることが判明しており、MCSの診断の手がかりとして確証度が高そうだとの報告があったが、電磁波を2分から3分ほど浴びただけで、NIRO(赤外線酸素モニタ装置)を用いた脳血流の動態測定で起立試験の結果に差が生じるとの報告もあわせて考えると、MCSにしろEHSにしろ、脳の調節機能を低下させること(その結果の一つとして血流変化が現れる)がメカニズムとしてどこか共通しているらしい、と解釈できそうだ。学会一日目での「脳脊髄液減少症患者にはMCSとEHSの発症が高率でみられる」という報告もそれを傍証しているのかもしれない。
 MCSの診療外来が採算のとれない部門になりがちで、医学・看護教育にも過敏症のことが取り込めていない、という厳しい現実があることや、消毒液(ホルムクレゾール)などの化学物質や電動機器を多用する歯科治療現場のMCSやEHSの患者さんへの対応がいかに困難を極めるか、といった医療現場からの切実な報告もあり、会場の参加者に大きな共感を呼んだものと思われる。
 発表する専門家(9名)の数が多かっただけに、個々の発表の時間も、そして質疑や発表者の間でのパネル討論の時間も十分にとれなかったのはいたしかたない。会場からの質疑応答では、参加していたEHS患者さんから過敏症治療現場の医師・看護師に対する切実な要望も出された。今後、このシンポジウムでみえてきたいくつかの手がかりや課題を整理し、学術的にもしっかりと「次なる展望」を描くことは、有意義な作業になるだろう。今回のような学際的な市民公開シンポジウムの開催も含めて、次なる展開を期待したい。

カテゴリー: 過敏症, 調査研究 

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