リニア中央新幹線 南アルプストンネル(山梨工区)工事現場を訪ねる

 10月下旬は週末が台風続きだった。台風22号が甲信越に最接近した29日に、山梨県南巨摩郡早川町最奥部の奈良田温泉に出掛けた。奈良田温泉には、数年前に1度泊まったことがある。この間、南アルプストンネルの長野工区側である大鹿村は何度も訪れているが、山梨工区側の早川町の状況はどうなっているのだろうと思い立ち、再訪することにしたのである。台風の最中でもあり、得られた情報は少ないが、ここに報告したい。

南アルプストンネルからの残土で道路を建設
 早川町は、人口約1000人と、全国で一番人口の少ない町である(福島第一原発事故による避難で人口が減った町を除く)。南アルプスを挟んで、西は長野県大鹿村、東が早川町となる。南北に細長い形をしていて、町の中央を早川沿いに県道37号(南アルプス公園)線が南北に走っている。奈良田は北部に位置しており、ここに行くためには町の南部から北上するしかない。県道37号線は、北上するに従って道幅が狭くなり、すれ違い困難箇所も増えてくる。
 
 南アルプストンネル工事の状況だが、2015年12月18日に起工式を行っている。2016年10月には、開業時には非常口となる斜坑の工事現場を報道陣に公開している。そして、本年11月7日より、関連工事となる、奈良田と奈良田のほぼ東側に位置する南アルプス市の西端とを結ぶ県道早川・芦安連絡道路建設のために残土運搬が始まる。南アルプストンネルの工事で、山梨工区では約329万m3の残土が出るとされているが、そのうち約120万m3の残土を、この道路の建設に使用するのだ。これによって早川町北部へのアクセスは飛躍的に向上するとされているが、北上するほど狭くなる県道を残土を乗せたダンプが行き交うようになると、住民の日常生活や観光への影響が懸念されてくる。
 さて、10月29日の早川町の状況はどのようなものだっただろうか。県道37号線を奈良田に向けて北上していると、途中何カ所も道路工事をしている。一般的な法面の補修もあれば、残土を運ぶダンプが通過する橋の補強工事(写真1)もしていた。概ね片側1車線であり、この辺りはすれ違い困難な箇所はない。

(写真1)残土を運ぶダンプが通過する橋の補強工事

山奥に巨大構造物
 新倉地区にある青崖トンネルの手前で旧道と別れる。リニア工事現場は旧道をたどった先にある。車を停めて歩いて行くと、すぐに道の右側に白い金属塀に囲まれた工事現場が見えてくる。これは、第四南巨摩トンネルの斜坑(非常口)工事現場である。少し歩くと、栃ノ木橋があり、橋を越えてすぐ左側も白い金属塀に囲まれた工事現場である。こちらが、南アルプストンネルの斜坑(非常口)工事現場である(写真2)。金属塀には「1日ずつ、トンネルができていく。1日ずつ、私の自信もできていく」とのコピーが添えられた、トンネル工事中の女性作業員のイラストが貼られている。リニア中央新幹線は2つのトンネルの間で早川の谷にかかる橋梁を通過することになる。騒音防止用のフードが被せられるので、車体を見ることはできない。フードを透明にすることもできないので、中の見えない巨大な構造物が山奥に忽然と出現することになる。

(写真2)南アルプストンネルの斜坑(非常口)工事現場

 新倉地区から奈良田に向かう県道は所々細くなってくる。初めて来る人は山奥の秘境を想像するらしいが、奈良田温泉は奈良田湖(西山ダム)の前にあるので、意外と開けている。この地区では1955年頃までは焼き畑が行われており、自給自足の生活が営まれていた。しかし、水力発電所の建設によって元の集落は湖底に沈み、その歴史は途絶えた。猟師でもある奈良田温泉の主人にリニア工事の影響について聞くと、「これからですね」とのことであった。

住民の声が聞こえない
 翌30日は月曜日だった。平日なので、どれほど工事車両が行き交うのかに興味があった。正確に数えた訳ではないが、採石事業者や各種工事のダンプも含めると、県道37号線を1分間に2台程は通過していただろうか。時々、リニア中央新幹線工事車両も通過している。これからもっと台数は増えるだろう。
 早川町では伝統的に林業や木工業、養蚕や焼き畑など複合的な生業が営まれてきた。1950年代になり、東京電力や山梨県企業局による電源開発のため、早川水系には次々と水力発電所が建設されて活気を帯び、最盛期は人口1万人を数えた時もあったという。その熱が去り、住民の生活も激変し、次第に人口が減少して、現在では消滅可能性自治体にもあげられている。早川町の辻町長は、全国でも最多の多選町長で、10期目となる。山梨県でリニア反対運動に関わっている知人に話を聞いても、みんなが諸手を挙げて推進している訳ではないようだが、早川町からはなかなか住民の声は聞こえて来ないそうだ。早川町は、現在リニアのみならず中部横断自動車道の延伸や早川・芦安連絡道路の建設など交通インフラの整備で揺れており、表だって色々な意見を言いにくい雰囲気もあるのだろう。
 都市で消費される電力を山奥で発電して送電し、都市から都市へ高速で移動するために山々に穴を開ける。経済成長に伴う闇を引き受けてきた早川町の未来は、果たして明るいのだろうか。【渡邊幸之助】

 

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