第5次エネルギー基本計画案へのパブリックコメント(2018.6.14資源エネルギー庁に)

1.該当箇所

「エネルギー基本計画(案)」36頁に「2020年代早期に、スマートメーターを全世帯・全事業所に導入するとともに、」とある箇所。

2.意見内容

上記1の箇所を「2020年代早期に、スマートメーターを原則として全世帯・全事業所に導入する(ただし、スマートメーター設置を希望しない需要家については、従来型の機械式メーター(アナログメーター)を設置するものとする)とともに、」に変更する。

3.理由

3-1.需要家がスマートメーターを忌避する合理的で正当な理由がある

3-1-1.プライバシーの侵害、監視社会化助長の恐れ

 スマートメーターにより各家庭などの30分ごとの電力使用量を電力会社などに知られる。30分ごとの電力使用量データは、家をいつ留守にしているかなど、その家庭の生活パターンを把握できる高度なプライバシー情報である。犯罪などに利用されたり、国家による家庭内の監視にもつながりかねない。電力会社が、住人の承諾を得ないままプライバシー情報を収集していることには法的な問題がある可能性がある。

3-1-2.電磁波曝露

 ほとんどのスマートメーターは、電力使用量などのデータを電力会社と通信する手段として電波を利用している。その電波の強さは国の基準を下回るので人体への影響はない、と国は説明している。しかし、基準を下回る携帯電話の電波に長期間にわたって繰り返し曝露されることにより脳腫瘍のリスクが上昇するとの各国における疫学調査結果などから、国際がん研究機関は、電波について「2B(人への発がん性があるかもしれない)」と評価している。自分たちが不要と考える電波への曝露を回避する権利は、尊重されるべきである。
 また、生活環境中のさまざまな電磁波への曝露により、さまざまな症状に苦しむ「電磁波過敏症」の方々の中から、スマートメーターが設置されたことにより症状が悪化したとの訴えが、数多く出ている[1][2][3]。

3-1-3.火災

 米国などでは、スマートメーターから発火して火災になったと報道されている[4][5]。
 日本でも、スマートメーターから出火する火災が都内で10件発生している[6]。

3-1-4.計量の正確さへの疑念

 スマートメーターに交換したところ、交換前と比べて、電気料金が急に上昇したとの訴えが海外で多く出ている[7]。国内でも、そうした声が出始めている。
 オランダの研究者らは、スマートメーターを含む電子式メーターで不正確なものが少なくともオランダで75万戸に設置されていると推定する論文を発表している[8]。

3-1-5.大停電などのトラブルの恐れ

 スマートメーターは、外部からのハッキングなどの攻撃や、内部のソフトウェアのエラーなどに対して脆弱で、大規模停電などが起こる恐れがあると、専門家は指摘している[9][10]。

3-2.省エネ、電力自由化との関係

3-2-1.個人を危険にさらす省エネは行うべきではない

 スマートメーターを、すべての家庭に導入する目的として、「エネルギー基本計画(案)」がまず挙げているのが「ピーク時間帯の電力需要を有意に抑制することが可能となる環境を実現する」ことである(36頁)。具体的には晴天時の盛夏の昼間におけるエアコン利用の抑制などを想定していると思われるが、そのような時間帯では熱中症防止のために、家庭におけるエアコン利用は最優先されるべきものである。省エネの名のもとに、個人の生命を脅かす政策を国が主導して行うべきではない。

3-2-2.個人に省エネを強制すべきでない

 省エネの推進が必要であるとしても、それを各家庭で行うかどうかの判断は、最終的にはその住民らに委ねられるべきであり、国家が一律に強制すべきものではない。時間帯により単価が異なる料金メニューを選ぶかどうか、HEMSを導入して「見える化」や「スマートハウス」の構築を行うかどうかは、各家庭の住人がそれぞれの考え方に基づいて自由に決めることであり、住人がそれらを選択しない場合、スマートメーターは不要である。

3-2-3.スマートメーターが省エネに貢献するという根拠は不十分である

 「英国経営者協会(IoD)」は2015年3月、「エネルギーへの意識を高めて消費量を減らすスマートメーターの『見かけの』目的は素晴らしいが、その目的を達成できる信用できる証拠がない」として、国が進めている電気及びガスのスマートメーター計画を「停止、変更、または廃止」するよう求める報告書を公表している[11]。
 HEMSを介しての電気使用量の「見える化」については「日ごとにあまり変化が無く、三日で飽きてしまい、見なくなってしまうケースが大半」[12]と指摘されている。
 また、「ピーク抑制・省エネの継続性評価のためには、数年以上の検討が必要である」[13]ので、従来行われている2~3年間の実証実験の結果からだけでは、需要家がピークカットに協力し続けると言うことはできない。

3-2-4.電力自由化にスマートメーター全戸導入は必須ではない

 スマートメーターは、電力自由化に伴って必要となるインバランス料金の精算のために必要と説明されることがある。しかし、「ロード・プロファイリング」などの方法を採用すれば、スマートメーターが導入されていなくても、インバランス料金の精算は可能である[14]。
 海外においては、スマートメーターが登場する以前から電力自由化を行っており、また、3-3で見る通り、現在でもスマートメーター導入を必ずしも全戸に強制していない。これらのことからも、スマートメーター全戸導入が電力自由化のために必須ではないことは明らかである。

3-3.海外における状況

3-3-1.米国

 消費者からのスマートメーター撤去希望が相次ぎ、カリフォルニア州、フロリダ州、イリノイ州、メーン州などではアナログメーターを選択できるようになった[15]。

3-3-2.英国

 デイビッド・キャメロン・エネルギー・気候変動省大臣が「人々にスマートメーターを持つ法律的な義務はない」と明言している[16]。

3-3-3.フランス

 国立消費研究所は「ERDF(フランス電力の子会社である配電業者)がそれを拒否するユーザーの家に押し入ってスマートメーターを押し付けることはありません」[17]。

3-3-4.オランダ

 スマートメーター義務化法案に対し、オランダ消費者協会などが反対運動を展開し、上院は2009年に同法案を否決。需要家はアナログメーターも選択できることになった[18]。

3-3-5.ドイツ

 年間電力消費量6000kWh超の大口需要家のみスマートメーター設置を義務付けた[19]。

3-3-6.スウェーデン

 電磁波に関して不快感を示すなど、設置を拒む消費者にはスマートメーターを設置していない[20]。

3-3-7.オーストラリア

 ビクトリア州のみがスマートメーターを大規模に導入し、同州住民から健康影響を訴える声が出た[21]。他の州では、ビクトリア州のような導入プランはあまり予定されていない[22]。

3-3-8.

 以上に見るように、日本のようにスマートメーターを「全世帯・全事業所」に対して事実上強制している国は、ほとんどない。行政機関は、個人が望まないことを法的根拠もなく強制すべきではない。

参照

[1]消費者庁、独立行政法人国民生活センター「事故情報データバンクシステム」(「スマートメーター」で検索。本意見提出日当時)http://www.jikojoho.go.jp/ai_national/

[2]東麻衣子「スマートメーターによる健康被害を受けて」電磁波問題市民研究会 2016年3月 http://dennjiha.org/?page_id=11011

[3]網代太郎「スマートメーターで健康被害 11台を交換・撤去させる」電磁波問題市民研究会2016年11月 http://dennjiha.org/?page_id=11714

[4]Movellan, J.「相次ぐスマートメーター設置拒否 米電力会社の憂鬱」日経テクノロジーオンライン 2014年10月28日 http://www.nikkei.com/article/DGXMZO78472460W4A011C1000000/

[5]today tonight「オーストラリア スマートメータと火災」2012年 https://www.youtube.com/watch?v=_583Uj3gQNg

[6]消費者庁、独立行政法人国民生活センター 前掲サイト

[7]EYE WITNESS NEWS「アメリカ スマートメーター 電気の請求額が急に上がった!」2010年2月 https://www.youtube.com/watch?v=qxzDCdcy-yE

[8]Leferink, F et al., 2016. Static energy meter errors caused by conducted electromagnetic interference. IEEE Electromagnetic Compatibility Magazine, 5(4), 49-55.

[9]Ross Anderson, Shailendra Fuloria. Who controls the off switch? First IEEE International Conference on Smart Grid Communications (SmartGridComm) 4-6 Oct. 2010, 96-101.

[10]陰山遼将「電力網がサイバー攻撃されたらどうすべきか、先行する米国のセキュリティ対策事例」2015年6月9日 http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1506/09/news033.html

[11]IoD. Not too clever: will smart meters be the next government IT disaster? 2015年3月 https://www.iod.com/news-campaigns/news/articles/Not-too-clever-will-smart-meters-be-the-next-government-IT-disaster

[12]「単なる“見える化”は商売にならず『Bルート』を活用した協業に商機」『日経コミュニケーション』2015年9月

[13]向井登志広ら「スマートメーターデータを活用した情報提供と行動変容―集合住宅におけるピーク抑制・省エネ実証事例―」電力中央研究所、2015年9月

[14]資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会電気事業分科会第2回系統利用制度ワーキンググループ会合配付資料 2012年11月5日

[15]Movellan, J.前掲資料

[16]Stop Smart Meters!(UK) http://stopsmartmeters.org.uk/a-reminder-your-rights-in-relation-to-smart-meters/

[17]French consumers, town halls resist ERDF smart meters. telecompaper 2016年2月15日 https://www.telecompaper.com/news/french-consumers-town-halls-resist-erdf-smart-meters–1128160

[18]三菱総合研究所「スマートメーターの導入・活用に関する各国の最新動向」2013年11月

[19]一般社団法人海外電力調査会「スマートメーター設置に関するエネルギー転換デジタル化法案、閣議で了承」『海外電力』2016年2月

[20]三菱総合研究所「海外のスマートメーター及び柔軟料金に関する動向」2012年3月

[21]A Current Affair「オーストラリア スマートメーター反対運動」2013年1月 https://www.youtube.com/watch?v=tjv2hqBtez8

[22]三菱総合研究所「スマートメーターの導入・活用に関する各国の最新動向」2013年11月

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