フィンランド紀行

日本に一番近い欧州国

 この8月、フィンランドを11日間旅した。途中2日間バルト3国の一つエストニアに行った以外はじっくりフィンランドを見てきた。
 フィンランドは北回りで行くと日本に一番近い欧州国である。スウェーデン、ノルウェーに行く人はほとんどヘルシンキ経由なので、乗った便の8割の乗客はフィンランドに入国せず、そのまま経由便に乗り換えていた。

ムーミンとサンタクロースの国

 フィンランドの面積はほぼ日本と同じだが、人口は650万人で日本の20分の1。国土の3分の1が北極圏だが、それを割り引いても人口密度ははるかに日本の方が高い。ムーミンとサンタクロースの国である。
 教育水準は世界一高く、特に読解力に優れている。GDPは日本とあまり変わらないが、企業ばかり豊かな日本と違い国民の豊かさを感じる。
 福祉の国であり、旅行中ホームレスはほとんど見なかった。
トラムがとにかく楽しい
 首都ヘルシンキの人口は64万人。私の住む千葉県船橋市(62万人)とほぼ同じ規模。縦横にトラム(路面電車)が走っている。3両編成で2~3分間隔で走っている。トラム、バス、メトロ、鉄道のどれも改札はなく、そのまま乗降できる。タダ乗り自由だ。一度だけ検札が来た。切符がないと即罰金1万円を支払わされる。驚いたことに全員乗客が切符を持っていた。公衆道徳心の高さに感心した。料金は乗り換えても同じなので、私はトラムを乗りまくった。やっかいなのは表示がすべてフィンランド語とスウェーデン語なことだ。だがほとんどの人に英語が通じるので不安はない。犬はそのままトラムに乗ってくる。
 車のマナーは洗練されていて歩行者優先は徹底している。教育水準の高さは公共心の高さを表す。点数は高くてもどこか日本の教育は歪んでいるように思うのは私の偏見か。

携帯アンテナは見つけにくい

 携帯会社の巨人ノキアはフィンランドの会社である。携帯電話は北欧の自動車電話から普及した。冬寒い北欧では道路で車がエンストすると凍死するおそれがある。そのため自動車電話が発達し、車からSOSを発信できるよう工夫した。しかしヘルシンキで注意深く周囲を見たが、携帯基地局アンテナはほとんど見つからなかった。北欧は「大規模エリア方式」なので基地局の数が日本と比べて少ないことが理由としてあろう。
 それとトラムやバスで日本のようにケータイメールに耽っている光景はあまりない。たまに車内においてケータイで電話している姿を見るが、多くは移民系か無軌道な若者だ。

デザインが優れている

 フィンランドはマリメッコやイッタラやアルテックといった優れたデザインの服、家具、食器、生活雑貨、小物のメーカーで知られている。おしゃれな人なら「北欧デザイン」といえばピンとくるであろう。息子のパートナーの依頼で柄にもなく私もそうしたおしゃれな店をショッピングした。
 世界的な建築家アルヴァ・アアルトを生んだ国である。郊外のアアルト自邸を見学した。アアルト以外も建築デザインは優れている。写真は中央駅近くにあるカンピ礼拝堂だ。宇宙船のような不思議な外観だがすべて木でできている。窓はないが上からうまく採光している。この街には岩の教会として知られるテンペリアウキオ教会など奇抜な建物が複数ある。プロテスタントのルーテル派が多いため、カトリック派と違い自由な発想が許されていることが大きく関係している。冬が寒く長いので、その分建物や家具で生活を豊かにしようとデザインが発達したのだそうだ。

否が応にも目につくカンピ礼拝堂

動物園にみる日本との違い

 ヘルシンキの動物園は島にあり島全体が動物園になっていて広い。起伏のある敷地にそれぞれの動物がゆったりと住んでいる。動物が隠れる場所が多くなかなか見つけられない。上野動物園は見学者にとっては便利だが、見られる側からすればストレスだ。「動物ファースト」を地でいっているようでいろいろ考えさせられた。
 第3の都市トゥルクにも行き「ムーミンワールド島」にも行った。浦安ディズニーランドと違いどこまでものんびりしたところである。
 映画『かもめ食堂』というヘルシンキを舞台にした映画がある。小林聡美、片桐はいり、もたいまさこらが出た佳作でフィンランドのゆったりと時間が流れる生活を描写していた。野次馬の私は舞台となった食堂も見てきた。店の表示が日本語で「かもめ食堂」とある。

めちゃ面白いエストニアのタリン

 船で2時間でエストニアに行ける。首都タリンの旧市街は城壁に囲まれたエリアで世界遺産になっている。陸のベネチアのような街で中世の街並みと楽しいお土産屋と史跡がいっぱいで観光客にあふれている。一泊した帰りの船でフィンランド人とエストニア人の夫婦とおしゃべりした。夫はファッション関係、妻は陶芸家だった。夫の話が面白かった。「フィンランドのレストランが高いのはアル中対策だ。冬が寒く長いのでアルコールに依存する人が多い。だから意図的に高くしてアル中発生を防止している」「都市で一戸建が少なくアパートに住むのは農業優先政策のためだ。農耕用適地が少ない(北極圏が3分の1)ので、農地確保のため意図的にそうしている」「英語が話せるのは国が小さいので外国の交流がないと生きていけないためだ。反対にだから米国人は外国語が話せない」。結婚が3度目という夫は妻が英語がわからないことをいいことに「男と女が理解し合うのは難しい」。その部分は妙に説得力があった。
 とにかくフィンランド人は素朴でフレンドリーだ。泊まったヘルシンキのホテルは国立博物館のそばにあり、ロケーションが便利で快適だった。【大久保貞利】

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