臨時総会で基地局設置契約を白紙撤回 東京・葛飾のマンション


 東京都葛飾区のマンションで楽天モバイルの基地局を一旦定期総会で承認しましたが、その後有志たちが立ち上り、臨時総会を開かせ白紙撤回させました。住民代表の方から10枚に及ぶ報告資料が届きましたが、要約して報告させていただきます。

築42年のマンション、管理会社が画策
 事の発端は管理会社の基地局設置提案にあります。内容は、東京の下町葛飾区の築42年、総戸数61戸のマンション屋上に楽天モバイルの3基のアンテナを設置したいというものです。提案は今年(2019年)3月に管理会社から前理事長あてにありました。この提案を理事長は居住者に書面通知し、6月に開催されたマンション管理組合定期総会において基地局設置の特別決議として出され、出席者の賛成多数で可決されました。賛成多数といっても大半が委任状提出者によるものです。
 定期総会の可決承認を受けて7月にマンション管理組合理事長と楽天モバイル(株)との間で「設置許諾契約書」が結ばれました。基地局の設置で賃料年額72万円(月6万円)が管理組合に入り、管理会計と長期修繕積立金会計に寄与する「メリット」が出るというわけです。

総会後、基地局問題に気付き始めた
 「おいしい話」に見え、基地局がどういうものかほとんどの居住者が知らなかったのです。きっかけは、その後闘いの中心になるT.Cさんの妻の知人から妻に届いた手紙に同封された「5G」情報です。T.Cさんは電磁波に懸念を抱き基地局について調べ始めました。そうすると疑問・懸念だらけです。「築40年以上経年のマンションへの基地局荷重負荷はどうか」「電磁波の人体・健康に及ぼす影響はあるのかないのか」「基地局設置によって管理組合が不測のトラブル・困難に直面しないと言えるのか」等々です。
 定期総会に出席した複数の人からも「なんだかわからないまま総会が終わった」という声があるのがわかりました。話を進めた前理事長は月額6万円の賃貸料が収入になると喧伝しましたが、それに約30%が課税されるマイナス面には触れませんでした。

工事開始日がわかり危機感は頂点に
 8月中旬すぎに「基地局設置工事」が9月5日から開始される旨の張り紙が提示されました。危機感を感じた有志は「臨時総会を開いて基地局設置を再審議し可否を問おう」「再決議まで予定の工事を認められない」と署名活動を始め19名の賛同署名を集めました。
 管理会社は「定期総会ですでに決定済み」という姿勢でしたが、渋々工事開始予定日の9月5日に工事関係者を呼び「工事説明会」を開きました。説明会では、これまでの管理会社の進め方の不明朗さを問う声が多く、設置反対派のペースで終始しました。
 説明会では、契約を解除してもペナルティ(違約金)は発生しないことを楽天側は認めました。

9月の臨時総会で白紙撤回勝ち取る
 9月30日にマンション管理組合の臨時総会が開催されました。臨時総会で「楽天モバイル屋上基地局設置契約解約承認」が出席者全員によって可決承認されました。文字通りの白紙撤回です。
 基地局問題とは何か、を書いた「居住者向け文書」の要旨を紹介しましょう。
 「基地局設置の問題」の第一は、基地局から放射される電磁波の問題です。電磁波の健康に及ぼす影響があることです。健康リスクが立証されていないから“安全”は誤りです。リスクの可能性があるなら回避するという予防原則が大切です。
 もう一つの問題は、築40年以上経年したマンション屋上にアンテナを3基も建てたり無線装置を屋上に設置して大丈夫かということです。建築基準法に基づいているから大丈夫というが基準法を守っていても倒壊したり傾いた事例はいくつもあります。
 さらに、基地局を設置したために発生する問題があることです。物理的な被害の検証の問題や居住者・近隣住民に及ぼす問題、あるいは補償・賠償問題など解決困難な事態に直面させられる問題も起こるかもしれません。
 これらは「賃料」というお金の問題より大切なことです。

便利と金銭に替えられぬリスクとどう向き合うか
 有志の中心にいたT.Cさんは臨時総会でマンション管理組合の新しい理事長になりました。この貴重な取り組みを多くの人に知らせたいと報道関係にも文書を送りましたが、残念ながら反応はまだないそうです。闘いに当たっては電磁波問題市民研究会の本や資料が大変役に立ったとお礼を言われました。
 T.Cさんはこう言います。「無関心である限り“国の基準値”は頼りになるでしょう。しかしきっかけがあり関心を生めば、基地局設置の現実の心配・不安を理解し寄り添うことができます。国・電話会社がその逆なら、住民との衝突は後を絶たないでしょう。」【大久保貞利】

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