デジタル庁構想の狙いは何か 超監視社会に抗するには

宮崎俊郎さん(共通番号いらないネット)


 菅内閣の目玉施策である「デジタル庁」。ハンコ廃止とか、コロナ給付金を早期給付できるといったイメージを持っている方も多いと思います。しかし、実はそのような単純な話ではなく、他省庁より権限が強いデジタル庁を創設することで、この国のあり方を根本から変えようとしているのです。私たちの個人情報の一括管理・利用や、行政手続などのデジタル化強制のおそれなど、電磁波問題やその隣接分野として当会報でも取りあげてきたスーパーシティ、スマートメーター、GIGAスクール構想とも軌を一にしている動きです。
 11月6日に行われた院内集会「デジタル庁構想の狙いは何か」(共謀罪NO!実行委員会/「秘密保護法」廃止へ!実行委員会主催)で宮崎俊郎さん(共通番号いらないネット)が講演し、デジタル庁の問題点を分かりやすく解説しています。講演とそのレジメとを要約したものを宮崎さんのご了解をいただいてご紹介いたします。講演はYouTubeで公開されています。【まとめ・網代太郎】


 私は、学者でも研究者でもない。高名な研究者を招きたかったのだが、この領域で知見を持って発言できる人は残念ながら多くない。デジタル庁構想の概略を明らかにして問題提起をしたい。

デジタル庁で超管理社会になる
 「デジタル」「オンライン」が無前提に良いもので、日本は「遅れている」とマスコミなどで言われている。それに反対できない気分が、特にコロナの状況の中で出てきている。先ほどあいさつして帰られた杉尾秀哉参議院議員にひとこと言いたかったのだが、ぜひ立憲民主党でデジタル庁構想に反対してほしい。同党が反対しなければ、対決法案にならない。
 省庁・行政の縦割りは悪いことだと一般的に言われている。私は、悪いこととは全然思わない。行政は各領域に分かれて担当する。確かに非効率的な面もあるかもしれない。しかし領域ごとに管理、利用されているから、私たちのプライバシーは守られている。自治体もそう。自治体ごとにシステムが違うから非効率だと言われる。しかし、各自治体は苦労しながら地域の特性に合った行政、福祉、教育を長年かけて構築してきたのだ。
 デジタル庁構想がもたらすものは超管理社会。各省庁の壁をぶち抜いて、いろいろな情報を全部共有化して使っていくことがデジタル庁構想の最大の狙いだ。それが国際社会で、資本主義社会の中で勝ち抜いていくために必要という考えだ。デジタル庁構想は、単に何かが便利になるというレベルの話ではない。国の根幹に関わる非常に大きな、菅政権の中でも要の政策だ。
 私たちの情報を管理するのが内閣調査室[1]になるかどうか、まだ明確な指針は出ていないが、それをやろうと思えばできる仕組みがデジタル庁だ。デジタル庁の問題は分かりにくいし、そんなにダメなのか疑問を持つ方も多いと思うが、これは認めたらダメだ。

デジタル庁登場の背景
 デジタル化の動きは、明確には2000年の「IT基本法」から始まった。それに基づいて「e-Japan」戦略が立てられた。国際競争を勝ち抜いていくことを念頭に、2015年「サイバーセキュリティ基本法」、2016年「官民データ活用推進基本法」が制定されていく。
 2019年に「デジタルファースト法」が可決された。私たちは反対したが、対決法案にならず簡単に成立させられた。その内容は次の通り。
 ①行政手続の原則デジタル化(デジタルファースト)
 ②一度提出した情報は二度提出することを不要とする(ワンスオンリー)
 ③官民手続を一度に済ます(ワンストップ)
 その上で、なぜデジタル庁が登場したのか。9月23日の「デジタル改革関係閣僚会議」で「コロナが拡大していく中で、人が集まったり、出かけることを極力避けるために、デジタル化、オンライン化が必要。経済・生活、行政、働き方、医療、教育、防災のあらゆる領域でオンライン、デジタル化を進めるべき」とされた。デジタルファースト法が成立してもデジタル化はあまり進まなかったが、コロナの状況で一転した。

デジタル庁が取り組むべき課題
 9月23日の閣僚会議では「喫緊に取り組むべき事項」として次が挙げられた[2]。

(1)マイナンバーカードのさらなる活用
 マイナンバーカードの交付枚数は2469万枚(9月1日現在)。低迷しているカードを続けるのかどうかという瀬戸際にある中、デジタル庁構想でマイナンバー制度を位置づけ直すということが一つのポイントになっている。

(2)迅速な給付の実現
 コロナ関係の給付が遅かったことばかり言われるが、マイナンバーカードを使ったのは特定給付金だけ。他の給付金は一切使っていない。

(3)コロナ禍での臨時措置の定着・拡充
 デジタル庁が一番狙っている領域は教育と医療だと思う。
 新聞に「オンライン診療恒久化 誤診への懸念根強く」[3]と書かれているように、オンライン医療は決して肯定的なものではない。コロナだからオンライン診療OKを、今後もOKに変えていくことも含めて、医療のオンライン化・デジタル化を進めていこうという流れがあり、保険証をマイナンバーカードにすることに留まらない大きな問題をはらんでいる。もっとも機微な個人情報である医療情報を生まれてから死ぬまで管理していくことに踏み込んでいくだろう。
 教育も「GIGAスクール構想」が出てきている。小学校から大学まで成績の生涯管理という発想が教育のデジタル化の中にあるのではないか。

(4)国と地方を通じたデジタル基盤の構築
 デジタルファースト法は、各省庁でデジタル化を進めなさいということだったが、それではなかなか進まないので、予算、決定権を省庁から奪って、デジタル庁に集中させるという構造だ。国の各府省が利用するシステムは、原則としてデジタル庁が一括して予算計上し、執行する方針が明らかにされている[4]。
 一つ具体例を挙げると、マイナンバー制度が始まったころ、私は、マイナンバーカードの運転免許証化はできないと思っていた。運転免許証は警察の権益の牙城なので、警察が手放すわけがない。ところが今回、国家公安委員長とデジタル改革大臣らが、マイナンバーカードを運転免許証に使うことに合意したと報道された。これは今までの省庁縦割りであれば絶対に起きなかったことだ。これは一例だが、各省庁が持っている権益やシステムをすべて壊してデジタル庁に集める、デジタル庁がすべての省庁を仕切るという仕組みを作ることが、構造面ではデジタル庁の最大の目的だと考えるべきだ。

1月の通常国会に法案を提出
 「デジタル・ガバメント閣僚会議」、その下の「デジタル改革関連法案ワーキンググループ(WG)、さらにその下の「作業部会」(図)で検討し、12月下旬にデジタル改革の基本方針を決定。それに基づいて1月通常国会に法案が提出されると言われている。まだ条文は出来ていない。何本の法律になるのかも分からない。報道によれば5本以上の法案が一括上程されて一括採決される。私たちに残された時間は多くない。対決法案にならなければ、ほぼ確実に法律が成立してしまうと心配しておいたほうがいい。

デジタル庁構想の問題点
(1)個人情報が保護されない
 第2回WGで宮田裕章・慶応大教授が「データ共同利用権」(仮称)という、今までにない概念を提唱した。個人情報を本人同意なしに共同利用できる「権利」を認めるべきだという。自己情報コントロール権とは真逆の考え方で、まさに御用学者の最たるものではないか。デジタル庁が吸い上げた私たちの個人情報を公益性があれば共同利用して良い、という考え方は非常に危険だ。

(2)基盤システムとしてのマイナンバーカード制度の位置づけ直し
 マイナンバーは現在、内閣官房、内閣府、総務省、自治体などが役割分担をして対応している。それを変えて「デジタル庁がマイナンバーカードの普及を含むマイナンバー制度全般の企画立案を行う方向で検討」されている[5]。つまり、内閣府や総務省に任せておくのではなくて、デジタル庁が直轄して仕切っていく。税と社会保障と災害対策に使用が限定されているマイナンバーを、デジタル庁が仕切ってあらゆることに使えるようにするという法案がおそらく出てくるのではないか。デジタル庁のキーデバイスとしてマイナンバー制度を持ってきたのだと私は考えている。

(3)マイナンバーカードの運転免許証利用⇒警察への情報収集
 マイナンバーが運転免許証になったら、警察官は免許証の提示を求めたときに端末でいちいちデータを読み取る。報道では警察用端末はマイナンバーカード内のICチップから免許証データしか読み取れないと書いてある。しかし、免許証以外の情報を読み取れる仕様へ変えるのは簡単だ。つまり国内版パスポートとして私たちに持たせて、常に警察は私たちの情報を読み取ることが技術的にできる素地が作られることになる。まさに警察国家化だと私は考えている。
 マイナンバーカードの交付枚数の目標は8000万枚。運転免許証の保持者は8200万人で、保険証は8700万人。そこまで普及しなければ、おそらくマイナンバーカード制度は破綻すると考えて良いのでは。2469万枚という数字が伸びなければ、マイナンバー制度を葬り去ることができる。ここ1、2年が分かれ目だろうと考えている。

(4)自治体システムの共通化による地方自治の破壊
 国、政府の情報システムだけでなく、自治体のシステムも同じように共通化すべきとされている。自治体は地域に合った福祉や住民サービスを提供してきた。だから自治体ごとにシステムが異なって当たり前。これを国のシステムに統一することは、地方自治の破壊だ。自治体はいらない、国の出先機関で良いという考え方が表れている。

(5)デジタル化の陰に隠れるキャッシュレス
 デジタル庁構想の資料の中には不思議なことに、キャッシュレスについてほとんど出てこない。しかし、デジタル化の裏側にはキャッシュレスが貼り付いている。手数料がかかる申請をするときに、オンライン申請をして現金を払いに行くということはあり得ない。必ずクレジットカードやデジタル決済になる。現金からキャッシュレスへ変わることによって、自分がどこで何を買ったのか記録に残る。これが超監視社会の基礎になる。

(6)一括法=束ね法による国会審議の空洞化
 これはデジタル庁構想の内容そのものではないが、昨年のデジタルファースト法も含めて、最近は、中身がかなり違う複数の法案が、束ね法として一括して提出される。これが国会審議の非常に大きな空洞化を招いている。一つ一つ問題のある法律を、なぜ国会で丁寧に審議しないのか。
 特に今回問題なのは、国の個人情報保護法のルールを、自治体にもあてはめさせる法案だ。皆さんご存知のように、国の法律より、明らかに自治体の個人情報保護条例のほうが先進的だ。それを全部なしにして、国の個人情報保護法のルールに従って自治体の条例を「改正」しなさいという。こういうメチャクチャな話を、束ね法案で一緒に出す可能性があるというのだ。デジタル庁と個人情報保護法は違う問題を含んでいる。それを一括法でやって細かい審議抜きに採決するなどということが行われてしまえば、大問題だ。

アナログを残させる闘い
 具体的にどう闘うのか。デジタルを強制させない。必ずアナログの手続を残させる。保険証であればマイナンバーカードとの一体化を絶対に強制させない。従来の保険証を使えるようにする。運転免許証も、マイナンバーカードでないと免許証として認めないというシステムには絶対にさせない。従来の運転免許証も使えるようにさせる。すべてデジタルでないと認めないということは、デジタルに対応できないたくさんの人たちを切り捨てることにもなる。
 私がうれしかったのは、米国オレゴン州ポートランド市議会が9月9日に、市内の民間企業と市当局に顔認証の使用を禁止する条例を満場一致で可決したこと。これまでもサンフランシスコ州など一部地域で当局の顔認証の使用を禁止する条例が作られた。今回は、民間も含まれた。ポートランド市長の言葉を紹介して私の講演を終わりたい。「すべてのポートランド市民に、個人のプライバシーを危険にさらす人種差別や性差別が確認された技術を使用しない自治体を得る権利がある」。

[1]内閣調査室は「内閣の重要政策に関する情報の収集及び分析その他の調査」などを行う、内閣官房に属する情報機関。日本のスパイ機関とも言われる
[2]デジタル改革関係閣僚会議「デジタル化の現状・課題」2020年9月23日
[3]毎日新聞「オンライン診療恒久化 誤診への懸念根強く」2020年10月19日
[4]デジタル改革関連法案ワーキンググループ作業部会(第1回) 資料4「政府情報システムの見直しの方向性について」2020年10月29日
[5]同上資料3「デジタル化に向けた課題の検討状況」

 

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