静岡県熱海市伊豆山で7月に発生し、死者26名、不明1名の大きな被害を出した土石流。崩落の起点にあった造成地の盛り土が被害を拡大させたとの見方が強まっています。静岡県は、盛り土の総量が7.4万m3で、崩落した土砂5.5万m3の大部分を占める5.4万m3が盛り土だったと推計しています。ずさんな盛り土工事の恐ろしさが見せつけられました。
品川・名古屋間約285.6kmのうち86%がトンネル区間であるリニア中央新幹線の建設工事からは、約5680万m3(東京ドーム50杯分)もの大量の残土が発生します。国土交通省は「建設発生土は、自らの工事内や他の建設工事、または建設工事以外の用途において有効に利用されることが望ましい」としていますが、リニアの着工時に残土の活用先は2割しか決まっていませんでした。
リニア工事からの残土は沿線各地で問題になっていますが、リニア残土廃棄のカムフラージュだと疑われているのが、神奈川県相模原市緑区の山中に計画中の「津久井農場」です。わざわざ山の急斜面に65mもの高さに盛り土をして牧場を造成するという、いかにも不自然な計画です。18~20haの谷を60万m3もの土砂(熱海の盛り土の約8倍)で埋め、250頭の牛を育てると、事業者の「佐藤ファーム」は説明しています。しかし、総工費も、残土の出所も公表しないという不誠実さです。
この牧場の計画に関与しているゼネコンのフジタが昨年6月、牧場計画地から数キロ離れたリニアの「津久井トンネル(東工区)」を落札しました。フジタは「請け負っているのは(牧場)工事の許認可までで、施工は請け負っていない」と東京新聞の取材に回答。また、JR東海はリニア残土と農場の関連を否定しています。しかし地元住民は「残土の処分に困ることを見越した佐藤ファームとフジタが、先回りして受け入れ先を用意した」と見ています。
リニア工事からであってもなくても、残土を受け入れることで、佐藤ファームには30億円とも見られる残土処分費が入ります。そこから、牧場造成費用を払うといいます。地元住民は「結局、佐藤ファームが『やはり事業化は無理でした』と牧場計画を放棄するか、始めても数年で廃業するのでは」と予想しています。廃業後も盛り土は残り続けることになります。
牧場計画に地元住民の94%が計画に反対しており、少し離れた愛川町半原地区でも、牧場の盛り土が崩れると土石流の直撃を受けるため、ほぼ全世帯が計画に反対しています。【網代太郎】
参照
「JR東海「リニア工事」住民が恐れる”盛り土”問題」ZAITENのウェブサイト
樫田秀樹「リニアと関係ある、ない? 不思議な牧場計画の説明会に多数の疑問と反対意見。賛成者はゼロ」記事の裏だって伝えたい2020年12月13日
「谷埋め立てにリニア残土? 豪雨で崩れ集落襲う危険」東京新聞2020年9月20日