携帯電話の通話長いと高血圧リスク増加 中国の研究

 携帯電話の使用時間と高血圧発症との関係を調べた査読付き論文を学術誌に掲載した欧州心臓病学会による、5月4日付ニュースリリース「Mobile phone calls linked with increased risk of high blood pressure」をご紹介します。【訳・網代太郎】


携帯電話の通話は高血圧のリスク上昇と関連する

 ソフィア・アンティポリス、2023年5月5日: 欧州心臓病学会(ESC)の学術誌「European Heart Journal – Digital Health」に本日掲載された研究によると、週に30分以上携帯電話で話すことは、30分未満と比較して高血圧のリスクが12%上昇することが明らかになった。
 「心臓の健康にとって重要なのは、携帯電話で通話する時間数であり、時間数が多いほどリスクが高くなる。携帯電話の使用年数やハンズフリーの使用は、高血圧の発症のリスクに影響を与えなかった。この結果を確認するためには、さらなる研究が必要である」と、研究著者である中国・広州の南方医科大学のXianhui Qin(秦献輝)教授は述べている。
 10歳以上の世界人口のほぼ4分の3が携帯電話を所有している。世界の30~79歳の成人13億人近くが高血圧である。高血圧は心臓発作や脳卒中の主要な危険因子であり、世界的に早死にする主な原因である。携帯電話からは低レベルの高周波エネルギーが放出されており、短期間の曝露による血圧上昇との関連性が指摘されている。携帯電話の使用と血圧に関する先行研究の結果は一貫しておらず、その理由は通話、メール、ゲームなどを含むためである可能性がある。
 本研究は、電話の発信・受信と新規発症の高血圧の関係を検討した。研究では、UKバイオバンク[1]のデータを使用した。高血圧のない37~73歳の成人212,046人を対象とした。携帯電話使用による電話の受発信の基礎データとして、使用年数、週あたりの時間、ハンズフリー機器/スピーカーフォンの使用など、自己報告式のタッチスクリーン質問票で収集された。少なくとも週に1回、携帯電話を使用して通話を行った参加者を携帯電話ユーザーと定義した。
 研究者らは、年齢、性別、肥満度、人種、貧困、高血圧の家族歴、教育、喫煙状況、血圧、血中脂質、炎症、血糖値、腎機能、コレステロール値や血糖値を下げる薬の使用を調整した上で、携帯電話の使用と新規発症の高血圧の関係を分析した。
 参加者の平均年齢は54歳、62%が女性、88%が携帯電話利用者だった。調査期間(中央値で12年)中、13,984人(7%)が高血圧を発症。携帯電話使用者は、非使用者に比べて高血圧のリスクが7%高かった。週に30分以上携帯電話で通話する人は、通話時間が30分未満の参加者に比べて、新たに高血圧を発症する可能性が12%高くなった。この結果は、女性でも男性でも同様だった。
 調査結果をさらに詳しく見ると、携帯電話の発信・受信が週5分未満の参加者に比べ、週当たりの利用時間が30~59分、1~3時間、4~6時間、6時間以上では、高血圧のリスクがそれぞれ8%、13%、16%、25%上昇することがわかった。携帯電話使用者では、使用年数やハンズフリー機器/スピーカーフォンの採用は、高血圧の発症と有意な相関は見られなかった。
 また、高血圧発症の遺伝的リスクが低いか、中間か、高いかによって、使用時間(30分未満と30分以上)と新規発症の高血圧の関係を検討した。遺伝的リスクは、UKバイオバンクのデータを用いて決定した。解析の結果、高血圧を発症する可能性が最も高かったのは、週に30分以上携帯電話で通話する遺伝的リスクが高い人で、週に30分未満しか通話しない遺伝的リスクが低い人に比べ、高血圧を発症する可能性が33%高かった。
 秦教授は次のように述べている:「今回の結果は、1週間の通話時間が30分以内であれば、携帯電話での通話が高血圧の発症リスクに影響しない可能性があることを示唆している。この結果を再現するためにはさらなる研究が必要だが、それまでは心臓の健康を保つために携帯電話の通話は最小限にとどめることが賢明だと思われる」。

[1]英国のUKバイオバンクは、中高年で有病率の高い疾患(がん、心疾患、脳卒中、糖尿病、関節炎、骨粗鬆症、認知症など)の遺伝的・環境的要因を探索するため、40歳~69歳の英国国民50万人の生体試料とゲノムデータ、健康・医療情報を収集して世界最大規模の情報資源を構築し、世界中の研究者に提供することを目的とした慈善事業団体(三井情報株式会社

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