福岡県篠栗町 携帯基地局条例が廃止 議員提案で抜き打ち的に

 携帯電話基地局の設置などに際して、近隣住民への事前の説明会開催などを全国で初めて義務づけた、福岡県篠栗町の「篠栗町携帯電話中継基地局の設置に関する条例」(基地局条例)が廃止されることになりました。12月17日の同町議会本会議で、基地局条例を廃止する条例が賛成9名、反対2名の賛成多数で可決。多くの町民にとって、廃止は寝耳に水でした。基地局条例の制定に中心になって尽力した元町議の村嶋秀樹さんは「(可決翌日付の)西日本新聞の記事で初めて知った」と話しています。

画期的だった篠栗町条例
 基地局条例は、「OFF電磁波ささぐりの会」の町民が中心となって町議会に働きかけて実現。携帯電話中継基地局が「地域住民への事前の説明が行われず住民の合意がないまま建設が行われるため、紛争となる場合もあります」(条例前文)との問題意識に基づき、「紛争を未然に防止し、町民にとって安心・安全なまちづくりのため」(同)、2006年に制定されました。
 同条例は「事業者の役割と責務」として、以下の5項目を規定しました(第5条)。
○基地局の設置・改造にあたり、着工前に町へ事前協議書及び事業計画を提出する
○町との協議後、近隣住民に周知のうえ説明会を開催し、基地局の設置などへの近隣住民の理解を求める
○事業計画が近隣住民の理解の下に進められるように十分配慮する
○基地局などによる近隣環境・景観の保全に十二分に留意し、安全・保全対策に努める。テレビなどへの電波障害や落雷による家電製品の故障などが起こらないように努め、このような事態が発生し近隣住民などに被害を与え、基地局設置などとの因果関係が推測される場合は事業者の責任で補償の協議をする
○基地局の設置などを行う場合、その計画地が保育園・幼稚園・小中学校・児童館・病院・介護施設から、また通学・通園路からなるべく離れた地点となるよう努め、周辺環境に十分配慮する
 また、事業者による説明会開催の後、近隣住民から不同意の意思が表明された場合は、町が調停にあたって合意形成に努めることも規定されています(第4条第3項)。
 実際にこの条例により、幼稚園近くでの基地局建設計画が、上記の条項を根拠とした保護者の反対によって撤回されたこともありました。住民の意向を反映するうえで、この条例は多大な効果があったのです。

町民に知られないように
 一方で通信事業者は町当局に対し、基地局条例廃止について何度も働きかけてきたそうです。通信事業者は大企業なので、町長選などで一定の集票能力があり、事業者からの圧力などによる条例廃止もあり得ると、村嶋さんたちは警戒していました。町当局が条例廃止を議会へ提案するに際しては、同町の要綱により、事前に町民からパブリックコメント(パブコメ)を募集する必要があります。基地局条例廃止についてのパブコメの募集があれば、できるだけ多くの町民から反対のパブコメを提出することで対抗しようと、村嶋さんたちは考えていました。

 ところが、町当局が廃止を提案するのではなく、今回は町議が廃止条例を提案したためにパブコメは募集されませんでした。そのため、廃止が議会で審議されることを、多くの町民は事前に知ることができなかったそうです。
 この廃止案を提案したのは、議会で基地局条例を所管する総務建設委員会の委員長自身であり、本会議の採決で廃止に賛成した他の8人が、提案への賛成者として初めから名前を連ねていました。パブコメを募集しないで条例を廃止したい町当局と廃止賛成町議9人が密かに連携しながら準備を進めたであろうこと、通信事業者による町または町議に対する働きかけが背景にあったであろうことは、想像に難くありません。
 村嶋さんによると、このような条例廃止の場合などは、通信事業者や住民などの利害関係者を議会に招いて公聴会を開くのが通例であるとのことです。しかし今回は公聴会が開かれなかっただけでなく、同委員会でも本会議でも、ほとんどまともな審議は行われず、廃止派が押し切ったとのことです。
電波事情は「大きな問題なし」
 条例廃止可決を報じた西日本新聞の記事には「提案議員らによると、町内の利用者から通話状態が悪いとの苦情が年間数十件、通信事業者に寄せられているという」と書いてあります。この点について村嶋さんは「町の面積の約3分の1の平野部に人々が住んでおり、そこでは現在でも携帯電話の通話状態はほとんど問題ない。残りの約3分の2を占める山間部では電波が通じにくいところがあり、山仕事をする人たちの中から『1人で山に入る時に携帯電話が通じないと不安だ』という声はあがっている。しかし、本当に山の中に電波を通じさせたいのであれば、山に基地局を建てれば良いだけのこと。(人が住んでいない)山であれば、だれも建設に反対しないはず」と反論しています。

コッソリ建てられた昔に戻るのか
 条例廃止により「もう一度同じ条例を作るとすれば、次の町議選で私たちと意見を同じにする議員を少なくとも2~3人は当選させなければならないが、とても困難。通信事業者が近隣住民に知らせずにコッソリと基地局を建ててしまっていた昔に戻ってしまうのだろう。スマートフォン普及で電波の出力も上がり、健康影響が出るのではないか」と村嶋さんは心配しています。
 篠栗町の画期的な条例が廃止されてしまったことは、とても残念です。村嶋さんのお話をうかがって、民主主義を実現するための機関であるはずの議会が、その建前とかけ離れた機能をしばしば発揮することを、あらためて認識しました。私たちが地域や職場、学校など、身の回りの民主主義を推進していくことが、電磁波問題を含めあらゆる問題解決の根本だと思います。【網代太郎】


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