延岡控訴審が結審 裁判官は勇気をもって 真理に向き合って!

 日本で初めて「携帯電話基地局の電磁波で現に健康被害が起こっている」ことを理由に基地局の操業停止を求めた延岡大貫基地局裁判控訴審(福岡高等裁判所宮崎支部)が、9月5日に結審を迎えました。2年前の2012年10月17日に、宮崎地方裁判所延岡支部は、住民原告請求を棄却する判決(1審)を下しました。1審判決は、基地局設置後に住民の間に耳鳴り・頭痛・鼻血等の症状が実際に生じていることは認めておきながら、原因が基地局電磁波かどうかは科学的裏付けがないとし、「ノセボ効果」(電磁波を受けているという思い込みが症状の出現の引き金になりうる)等を理由に原告主張を斥けました。
 今回の最終準備書面などで、原告住民側は吉富邦明九州大学教授の「マイクロ波ヒアリング効果」証言を基に、基地局電磁波で耳鳴り・頭鳴りは起こることを立証しました。「マイクロ波ヒアリング効果」は、WHO(世界保健機関)やICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)も認めている効果であり、この真理を裁判官がどう判断するかが判決内容の鍵になります。判決日は12月5日と確定しました。

基地局電磁波が耳鳴りを起こす「マイクロ波ヒアリング効果」
 マイクロ波ヒアリング効果とは、普通の聴覚を持つ人が200MHz(1秒間に2億回の周波数)から6.5GHz(同65億回)までの高周波パルス電磁波を曝露されると音を感知するものとされている効果です。マイクロ波ヒアリング効果は、過敏症の人ではなく、正常な聴覚の人で起こります。
 マイクロ波ヒアリング効果は、1962年にアラン・フレイ(Allan Frey)論文で指摘されました。一定の強度(ピーク電力密度)の電磁波を脳に当てるとクリック音と呼ばれる音を正常人は感知すること、理論的には3μW/c㎡のピーク電力密度で生じること、というのです。1974年にはメリーランド海軍医学研究所のフォスター(Foster)らがフレイ論文を実験等で検証しました。フレイのマイクロ波ヒアリング効果を科学的に証明したのです。クリック音は、「パルスマイクロ波照射によって熱的に発生した音響過渡応答の骨伝導による知覚」であるとされています。フォスター論文では、理論的に導かれる閾値は「0.0004μW/c㎡」という小さな値です。

WHOもICNIRPもマイクロ波ヒアリング効果を認めている
 WHOは、ファクトシート№226で、マイクロ波ヒアリング効果とは、普通の聴覚を有する者が200MHzから6.5GHzまでの周波数のパルス状電磁波の曝露により、ザーザー、カチカチ、シューシュー、ポンポンといった音を感知するというものとし、「長時間の曝露や繰り返しの曝露はストレスを生じるでしょうから、できる限り回避すべきです」と注意喚起しています。
 1998年に出されたICNIRPのガイドラインでは、フレイ論文を引用し、マイクロ波ヒアリング効果は「脳の聴覚皮質における熱弾性的相互作用に起因されているものとされており」と指摘し、WHO同様その効果を認めています。ICNIRPは、2009年に発表した「高周波電磁界への曝露、生物学的影響及び健康影響」でも、マイクロ波ヒアリング効果に論及しています。

原告30名中24名が耳鳴り訴え
 延岡裁判では原告30名中24名が共通の症状として「耳鳴り」を訴えています。
各人が感じている「音」は単なる「耳鳴り」というよりか、「頭の中をうじ虫が這い回る頭鳴りのような感覚」「頭の中でモーターが回るような耳鳴り」「ニイニイゼミの鳴くような音」「キーンという高い音」「シャーという耳の中に水が入っているような音」等であり、基地局から離れると症状が消失する特徴があります。住民らの訴える耳鳴り・頭鳴りがマイクロ波ヒアリング効果と考えればうなずけます。

異常に高い値の延岡市大貫町の基地局電磁波
 証人の吉富教授は環境電磁工学が専門で、電磁波測定に関しては学会に論文も提出している専門家です。吉富教授は、最新の測定器、最新のアンテナで現場を測定しました。測定にあたっては当該の基地局電磁波量を正確に測定しており、当該基地局以外の電磁波測定値は1000分の1以下で無視できる範囲です。14か所を測定しましたが、一番高い値は岡田原告団長宅で、最大値は「22.021μW/c㎡」でした。2007年2月にKDDIが当該基地局停波時に測定した値は「0.00014μW/c㎡」でした。最大値と比較すると実に15万7千倍の電磁波を浴びたことになります。総務省の電波防護指針値は「1000μW/c㎡」(1.5~300GHzの場合)で指針値の45分の1ですが、スイスの基準値「9.5μW/c㎡」や中国・イタリア・ロシアの基準値「10μW/c㎡」を超える値です。欧州評議会の屋内勧告地は「0.1μW/c㎡」で、将来的には「0.01μW/c㎡」が望ましいとしており、それと比較するといかに高い値の電磁波を住民たちが受けているかが明らかです。
 総務省は「通常の基地局電磁波強度は電波防護指針値の1万分の1以下」としています。それからしても、大貫町の基地局電磁波の値が異常に高いということになります。吉富教授によれば、1秒間に1200回の頻度で最大電力レベルの信号が基地局から照射されます。総務省の電波防護指針は「電力束密度の規制を6分間の平均値」で行うとしていますが、1秒間に1200回も最大電力レベルのパルス波で構成されている以上、そうした平均値規制は意味を持ちません。

ノセボ効果では鼻出血は説明できない
 周辺住民は、耳鳴り・頭鳴りの他に肩こり・不眠・イライラ感等の不定愁訴を訴えています。このことは、正常人でも起こる「耳鳴り・頭鳴り」の他に、電磁波過敏症を発症している可能性は否定できません。常時「耳鳴り・頭鳴り」で悩まされているほどの電磁波曝露ですから、このような「騒音被害」に起因して頭痛・肩こり、めまい、不眠等の体調不良が生じるのは当然といえます。
 こうした不定愁訴というか自律神経失調症状は外部からは判断しにくいという反論がうけやすいのは事実です。それと決定的に異なるのは「鼻出血」です。基地局周辺で鼻血を出す人が多いが、大貫町でも鼻出血は多発しています。鼻出血は外部から容易に判断できる症状です。鼻出血はノセボ効果では説明できません。
 9月5日付「最終準備書面」をつぶさに読めば、延岡市大貫町のKDDI基地局電磁波が住民の健康破壊と関係していることは明らかです。住民たちの中には転居を余儀なくされている人もいます。KDDI側は、体調不良の原因・要因を、精神に異常をきたしている者のせいとして、人格まで否定しようとしています。吉富教授のマイクロ波ヒアリング効果説はまだ周知されていません。また、裁判所は新しい判例を出しにくい体質を色濃く有しています。

判決は12月5日
 判決は12月5日に出ます。裁判官が真理に基づき、勇気ある判決を出すよう強く訴えます。全国の皆さん、原告と弁護団を支援しましょう。【大久保貞利】

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