EU機関による過敏症のための画期的意見 採択されず

 欧州連合(EU)の諮問機関である欧州経済社会評議会(EESC)が、電磁波過敏症についての意見を公表する動きについて、会報前号でご報告いたしました。過敏症発症者のために、電磁波曝露を低減または緩和する拘束力のある法令の制定を求めるという、画期的な内容の意見でした。しかし、対案が出され、1月21日のEESC本会議で対案が先に採決された結果、賛成136、反対110、棄権19で可決され、もとの画期的な意見は採択されませんでした。採択されなかったのは残念ですが、欧州では電磁波過敏症の認知を求める世論がかなり大きいことがうかがわれました。
 もとの意見を出したのは、EESCの中の「輸送、エネルギー、インフラおよび情報社会セクション(TEN)」メンバーのベルナルド・エルナンデス・バタレル氏(スペイン)で、対案を出したのは、同じTENメンバーのリチャード・アダムス氏(英国)ら17名です。

意見を提案したバタレル氏(左)と、対案を提案したアダムス氏(右)=1月21日EESC本会議のウェブ中継から
意見を提案したバタレル氏(左)と、対案を提案したアダムス氏(右)=1月21日EESC本会議のウェブ中継から

 英国の電磁波問題団体「パワーウォッチ」によると、アダムス氏は、電波で通信を行うスマートメーターの普及促進を行っているチャリティ団体「Sustainability First(持続第一)」の理事であり、「BEAMA」(300以上の電気技術企業を代表し、英国そして国際政治において政治、標準化、及び商業政策に係る重要な影響力を持つと主張している)などの産業団体、英国の電気産業監督当局、英国の電力ネットワークなどが、このチャリティのスポンサーになっているとのことです。

 対案は「EESCは電磁波過敏症の蔓延を認めて、関心を持ちます」としつつも、「問題とその原因を理解するためにさらに相当な研究が進行中であることに注目することを推奨します」と述べ、もとの意見が主張する法制化を含む発症者のためのさまざまな具体的対応を否定しました。その理由として対案は「(もとの)意見は、十分な証拠がないまま、かなりの数の誤った断定を行っている」と指摘しています。
 筆者は欧州の事情に詳しくないので、もとの意見が出され、後に対案が出され、結果としてもとの意見が否決された背景については、わかりません。しかし、過敏症の方々の人権をなんとかして保証したいと奮闘した方々が、産業や政治権力を後ろ盾に「十分な証拠がない」と強調する人々に、今一歩及ばなかったという構図が見えるような気がします。今後、今回についてのレポートや見解が発表されると思いますので、注目していきたいと思います。
 採択されなかった意見の内容の一部を、以下にご紹介します。【網代太郎】

1.結論と勧告
 1,1 テクノロジーの発展に伴い近年電磁波への曝露が増大し続けている。それは健康問題に加え、特に建物内に無線通信設備が設置されていることにより、公共及び私的な施設(図書館、病院、あるいは公共交通機関さえ)の利用の制限をもたらしている。
 1.2 これらの人々は、この症候群を専門的に扱っておらず、それにより適切な診断と治療を与え損ねる医師の無理解と猜疑心に苦しめられることがある。これには、現在の健康問題のあり得る理由に気付いていないかもしれないすべての他の人々のことは入っていない。
 1.3 科学的意見に重大な違いがあるため、最大値を策定する組織の独立性は強化されるべきである。
 1.4 電磁波過敏症候群は、立法やその他の手段の組み合わせにより解決すべき複雑な問題だ。基本的権利に関して、一方では患者が身体的に万全で健康である権利と、他方で通信の自由の権利の間に対立がある。この問題に関する法律が採択される前に、これらの権利は考慮される必要がある。EESCは、本意見が唱えたポイント(ラベル表示、保険、広告、職業リスクの改善、生産物登録、リスクの開示と周知。都市計画や環境問題と同様に)に見合った、人々の電磁波曝露の軽減と緩和を含んだ拘束力のある防護法の採用を提唱する。
 1,5 EUは現在影響を受けているグループを助け、特に曝露が機能障害と環境病の原因であることの認知に関して本意見で示した提言の見解により曝露フィールドを制限すべきである。これらの技術を使う装置の増大により将来患者数が次第に増加することを防ぐための措置もとられるべきである。
 1.6 EESCは、電磁波の非熱的な生物影響のリスクの心配から、アララ(As Low As Reasonable Achievement)原則適用へとステップアップする必要性を強調する。さらに、この分野の研究を促進することは重要だ。(略)

2.イントロダクション

3,症候群の症状診断病名としての電磁波過敏症
 3.3 電磁波過敏症患者は生活の質の深刻な低下を経験する。それは常に伴う肉体的症状のためだけではなく、被曝を避けるための必要から生活が完全に混乱させられるためでもある。実際、それは交通機関、病院、図書館のようなほとんどの公共施設だけでなく、しばしば患者自身の家も避けなければならないことを意味する。それは欧州連合基本権憲章が重視する権利への違反である。

4.電磁波過敏症の原因
5.電磁波過敏症の影響
6.モバイル・テクノロジーの電磁波
7.EU法的枠組みの文脈における電磁波

8.総合コメント
 8.1.1 EUが現在の患者を助けて、これらの技術を使う装置の増大により将来患者数が次第に増加することを防ぐために曝露フィールドを制限する措置をとるべきであるとEESCは信じている。また、この症候群によってもっとも悪い影響を受けている人々のための緊急措置として、ホワイトゾーンを創設することも支持する。
 8.5 製品使用のための電磁波の安全限界値が規制されるべきだ。そして、送電線と中継基地局の計画に関する以下の規制が法律制定によりとられるべきだ。
・高圧送電線やその他の電気設備と家との間の安全距離
・最大許容曝露レベルと効果的でわかりやすい制御機構
・公共及び私的な電磁波フリーゾーン(たとえば医療センター、病院、図書館、職場のような公的空間や家庭で設けられなければならない電磁波汚染のない「ホワイトゾーン」)を含めるための都市計画手段の必要性
 8.6 特に、拒絶反応を起こさない技術の利用による関連医療費、労働経費を最小にするための予防、早期診断及び治療のための適切な標準手続が確立されるべきである【訳・網代】

最終案
対案 http://www.toad.eesc.europa.eu/ViewDoc.aspx?doc=ces%5cten%5cten559%5cEN%5cEESC-2014-05117-01-01-AMP-TRA_EN.doc(現在リンク切れ)

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