業務用IH調理器と調理師の健康

上田昌文さん(NPO法人市民科学研究室代表)

 以下に掲載するのは、スイス連邦政府発行(2011年11月)の研究結果報告(全93ページ)Magnetfeld-Expositionen durch professionelle Induktionskochherde – Gesundheitsschutz am Arbeitsplatzの日本語による概要『業務用IH調理器(IHクッキングヒーター、電磁調理器)と調理士の健康』である。
 IHクッキングヒーターは、震災の影響で出荷台数が2011年は前年度比で約8割に落ちたが、2012年度の見込みでは、再び増加の傾向がみられ、今年の出荷台数は78万台に達すると予測されている(一般社団法人日本電機工業会の「2012年度電気機器の生産見通し資料」より)。
 この出荷台数のうち、レストランや学校給食の調理室など、大型の厨房に設置されることが多い、業務用のIHクッキングヒーターがどれくらいの割合を占めているのは、残念ながら統計データが公開されていない。ただ、2008年の時点でIH全体の全国の累計出荷台数は500万台を超えていたので、現時点でおおよそ25万件ほどに達しているのではないかと思われる。(これは、東北電力で公開されている「オール電化住宅の導入」数と「業務用電化厨房システムの導入」数とを比較して、後者は前者の約5%ほどの割合になっていることから推測した。)
 業務用IHについては、以下に示すような報告書を以前から公開している。
 緊急報告「業務用IHクッキングヒーターからの電磁波 ICNIRPの基準値を超える強さ」でわかるように、業務用IHが一般家庭用IHに比べて、10倍ほども強い電磁波を発していること、そして従業者が場合によっては1日数時間にも及ぶ長時間の曝露を強いられること、といった点から、「中間周波数電磁波による職業被曝」として、実態調査が必要であることを、筆者はかねてから訴えてきた。(2010年に国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)はガイドラインを緩和し、IHで問題となる中間周波数についても、以前の規制値である、6.25μTから27μTに大幅に引き上げた。この改訂の根拠についても、現在私たちは調査をすすめている。)

母親も胎児も基準値超過
 今回紹介するスイス政府の報告書では、妊婦や妊婦の子宮内にいる胎児の体型と位置のデータからコンピュータシュミレーションによって曝露強度を算定し、
●調理台の縁に立ったり、調理台の縁によりかかったりして調理する妊婦は、どの妊娠月でも、一般人の基準値を上回っていること
●9ヶ月の胎児については、ほとんどの調理器で基準値を上回っていること、そして、7ヶ月の胎児でも、複数の調理器で基準値を上回っていること
などを明らかにしている。
 報告書の最後には曝露を低減するための「使用上の注意」をまとめており、日本でも、上記の業務用IHを導入した職場およそ25万件で働く、おそらく総計100万人ほどの人たちに対して、最低限、このスイス報告書の「使用上の注意」にみるような、低減策の採用や注意喚起を促していくことが必要だろうと思われる。
 なお、市民科学研究室では今後もこの問題の調査をすすめていくことにしています。何らかの形でこの調査にご協力いただける方は、ぜひ連絡をいただければと思います。

『業務用IH調理器と調理士の健康』は、こちら

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