着用型自動除細動器 携帯電話から89cmで影響

総務省「15cm」指針維持の問題対応

 心臓ペースメーカーなどの医療機器が、携帯電話などからの電磁波で誤作動を起こさないようにするための指針を策定している総務省は、この指針の改訂案をまとめ、9~10月に意見(パブリックコメント)を募集しました。従来の指針は、携帯電話などと医療機器の距離を「15cm」以上離すというものでした。今回の改訂は、総務省が新たに行った①920MHz帯RFID機器(電子タグなど)からの電磁波が心臓ペースメーカーなどへ与える影響に関する実験、②携帯電話からの電磁波が「着用型自動除細動器」へ与える影響に関する実験-の結果(1)を踏まえたものです。これらのうち、②では最大89cm離れても影響が出ました。この実験を踏まえれば、離隔距離は89cmを相当程度超える距離にすべきです。しかし、今回の改訂案は「15cm」のままという、驚くべき内容でした。
 当会は心臓ペースメーカーなどの誤作動防止のためだけではなく、発がん性など電磁波の長期曝露による健康影響が疑われていることや、電磁波過敏症の方への対応などのため、鉄道などで携帯オフ車両を設ける必要性を訴えてきました。今回の総務省の実験結果により、その必要性はますます高くなりました。

着用型自動除細動器(メーカー「旭化成ゾールメディカル」のウェブサイトより)

 ちなみに、着用型自動除細動器とは「突発性心停止に対する治療選択肢の1つであり、患者さんの心電図を連続して監視し、QOLの向上を図ります。世界初の着用型除細動器であり植込型除細動器のように胸部に植え込むのではなく、常時体の外から着用します」「心電図電極(ドライ)により、生命をおびやかす不整脈を検出するため心電図を連続して監視及び解析し、生命をおびやかす不整脈を検出すると、電気ショックを与える前に患者さんにアラームで知らせます。意識がある場合は患者さん自身によって電気ショックを延期することができます。患者さんが意識を失っている場合は、除細動電極から青いジェルが自動で放出され、正常なリズムに戻すために電気ショックを与えます」(メーカーのウェブサイトより)。
 総務省は11月18日に意見募集結果(2)を公表し、それによると5件の意見が出され、うち2件が賛成、当会による意見など3件が反対でした。【網代太郎】
 
(1)総務省「「電波の医療機器等への影響に関する調査」報告書」2016年3月
(2)総務省「「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器等へ及ぼす影響を防止するための指針」の改訂及び意見募集の結果」2016年11月18日

電磁波研による意見

第1 結論
 本改訂案を撤回して、89cmを相当程度上回る離隔距離を盛り込むための改訂を行うべきである。

第2 理由
 1.本改訂案のもととなった総務省による実験結果では、携帯電話から最大89cmの距離で着用型自動除細動器へ影響が出た(総務省「「電波の医療機器等への影響に関する調査」報告書」平成28年3月・54~56頁)。この実験では、最大距離だった89cm以外にも、「15cm」を超える距離で影響が出たケースが複数確認された。にもかかわらず、本改訂案では「携帯電話端末と装着型医療機器の装着部位との距離が15cm程度以下になることがないよう注意を払うこと。」という現指針における離隔距離「15cm」がそのまま維持されている。

 2.本改訂案には「注: 着用型自動除細動器については、厚生労働省の協力を得て、医療機関を通じ、利用者全員に対して、試験結果に基づく注意喚起が行われている。」と新たに記載することとしているが、利用者本人への「注意喚起」だけでは携帯電話電波からの影響を防ぐことはできない。当然のことながら、携帯電話等を使用するのは本人だけではないからである。

 3.本改訂案には「なお、装着型医療機器に適用される国際規格(IEC60601-1-2等)上の電磁耐性(EMC)に関する要求は、植込み型医療機器本体ほど厳しく設定されていない。」と記されている。しかし、今回の実験でもっとも大きな影響が出た1.5GHz帯の電波は「携帯電話の使用周波数帯として現在日本でのみ使用している」(総務省前掲書59頁)のであるから、「国際規格」は日本国内における指針を厳しくしない理由にはならない。

 4.本改訂案について、総務省電波環境課生体電磁環境係のホサカ氏に、「15cm程度以下」を維持した理由について当会のメンバーが問い合わせたところ、概ね以下の通りの回答であった。
(1)着用型自動除細動器のユーザーへは文書で注意を周知した。
(2)他の人からは着用型自動除細動器を使っているのかどうか一見して分からないので「15cm」のままとした。
(3)実験で見られた影響は「可逆的なもの」であり(影響が出た時に)電波の発生源から離れれば影響がなくなるので問題がない。
 上記(1)の問題点は、既に述べた。
 上記(2)は、携帯電話等を使う立場である「他の人」の利便の確保と、電波影響を受ける側の安全の確保とが衝突している今回のようなケースでは、「電波の利用の促進」を所掌事務とする総務省は明確に前者の立場に立つこと、すなわち、総務省は電波の安全確保について妥当な政策を推進することができない官庁であるという根本問題が如実に表れている。
 上記(3)について、当会メンバーが「人が大勢いるような場所で、電波の発生源から離れられない場合はどうするのか」と尋ねたところ、ホサカ氏は答えることができなかった。また、実験は「あらゆる環境条件等を考慮しているわけではありません」(同指針より)ので、実験で「可逆的な」影響が出たことにより、現実の場面では環境条件等によっては「不可逆的な」影響が出る恐れも否定しきれないと見るべきである。

 5.総務省による調査結果に基づいて携帯電話等と植込み型医療機器との離隔距離を「22cm以上」から「15cm以上」に緩和してきたこれまでの同指針の経緯(※注)に鑑みれば、新たな実験結果に基づいて「89cm」を相当程度上回る離隔距離を本指針に盛り込むべきである。「電波の利用の促進」にとって都合の悪い実験結果が出たからといって、総務省がこれまでと一貫しない対応をとろうとしていることは、厳しく糾弾されなければならない。
※注:総務省による実験は、携帯電話等1台からの電波の影響のみを調べるなど、実際の携帯電話等の使用環境に即しているとは言えないので、当会はこれまでも離隔距離を緩和する改訂には反対してきている。

電磁波研の意見に対する総務省の「考え方」

 携帯電話端末の電波が着用自動除細動器へ及ぼす影響については、厚生労働省の協力を得て、医療機関を通じ、利用者全員に対して、試験結果に基づく注意喚起が行われていること、実験において生じた影響は可逆的であること、周囲の状況等に応じて、本指針等を参考に各自が判断した上で対処
をすることが求められることから、本指針改訂案が適切であると考えます。
 なお、「電波の発生源から離れられない場合」についての御指摘に関しては、指針においては、「身動きが自由に取れない状況等」では、携帯電話端末の所持者は、「事前に携帯電話端末が電波を発射しない状態に切り替えるなどの対処をすることが望ましい。」としております。

エゾモモンガさん(会員、北海道)による意見

 当会会員のエゾモモンガさんが、ご自身が提出した意見をご寄稿くださいましたので、ご紹介します。


 総務省の実験は、たった1台のスマホでの測定であり、満員電車内での鮨詰め状態を考慮していない。通勤電車や地下鉄では、途中の駅々で、次々と乗客が乗り込んできて、植込み型医療機器の装着者は、逃げられない状態と成る。また、植込み型医療機器の装着者を他の乗客は外見で判断できない。「混雑した場所では、注意を払うこと。」などとは、行政側の責任放棄に等しい。
 通勤電車や地下鉄の1両当たりの定員は約150名。首都圏の朝夕のラッシュ時や、イベント終了直後には、定員の2~3倍、1両内に300名~450名にも達っする。通勤電車や地下鉄に携帯電源OFF車両を各1両以上設ける事こそが、行政側が必要とする『配慮』である。それ無くして、植込み型医療機器の装着者が身を守る為には、混雑してきた時点で非常ボタンを押す、事が、日常的に繰り返される。現に首都圏の、ある路線では、植込み型医療機器の装着者が、朝の通勤時間帯だけで、週に2~3回の割合で非常ボタンを押す事態が繰り返されている。
 通勤電車や地下鉄の車両は金属製で、客室の内部の金属壁による乱反射が繰り返され、高周波電磁波が増幅される実験結果が、東北大学での実証実験で明らかと成っている。総務省は、実際の車両を用いて、450台のスマホを使って、実証実験を行うべきである。
 「ワイヤレスカードシステムのリーダライタ部から心臓ペースメーカの装着部位を12cm程度以上離すこと。」と言うが、バスなどは揺れが激しく、降り口付近に立っている場合、12センチ内に近づいてしまう事態も、常に起こりうる。「EAS機器が設置されている場所及びEASステッカが貼付されている場所では、立ち止まらず通路の中央をまっすぐに通過すること。」と言うが、松葉杖を突いている装着者や、足の弱い、装着者には、無理難題に近い。「据置きタイプRFID機器が設置されている場所及びRFIDステッカが貼付されている場所の半径1m以内には近づかないこと」と言うが、総務省は、植込み型医療機器の装着者は、図書館や、食料品店、音楽楽器店、薬屋、百均ショップ、等を利用するな、と言いたい訳か?玄関先などで、郵便局員、宅急便配達者、クリーニング店員、家電店員などに、いきなり、ハンディタイプRFID機器を、目の前に出された場合は、逃げようも無い。玄関先に『ハンディタイプRFID機器の使用禁止』の表示が必要。

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