臨床環境医学会での研究発表より

 化学物質過敏症に関する研究が多く発表される「日本臨床環境医学会」の第26回学術集会が6月24、25の両日、東海大学高輪キャンパス(東京都)で開催されました。電磁波、電磁波過敏症(EHSまたはES)に関する発表の中から、筆者が特に印象的だったものをご紹介します。

新しい方法の曝露試験を準備
 東北大学大学院の本堂毅准教授(共同研究者は、かくたこども&アレルギークリニックの角田和彦さんら)が、EHS(本堂さんは「電磁場不耐症」と呼称)発症者に対して二重盲見による曝露試験を行いEHSの存在を証明するための新たな手法の開発について経過報告しました。
 昨年の同集会で角田さんが、赤外線酸素モニタ(NIRO)による脳血流変化の観察と起立試験を組み合わせる方法によって、電磁波曝露による他覚的変化を高感度で捉えることができることを報告しました。しかし、角田さんによる従来の方法は被験者を起立させるタイミングを医師が決めているため、二重盲見ではありません。
 本堂さんは、電磁波(50Hz、10μT)の曝露や偽曝露、起立・着席などを、すべてコンピューターが判断、指示する手法を開発。この研究がうまくいけば、EHSを客観的に証明できる可能性があります。本堂さんによると、今後「健常者」に対する曝露試験を経て、2年後ぐらいに発症者に対する試験を行いたいとのことでした。

小学生、電磁波環境と体調など関連
 近藤加代子・九州大学教授らは、九州のある小学校の全校児童600名にアンケートを配布し、以下の項目などを質問しました。
・SDQ(子どもの行動上の問題に関するスクリーニング尺度)
・既往・現病歴
・家庭内の無線LAN・IHヒーター・コードレス電話・ゲーム機などの有無
・家族および子どもの携帯・スマホの使用の有無
・携帯電話基地局との距離
・新築・改築・塗装(3年以内)の有無
・殺虫剤・防虫防かび剤・芳香剤の使用頻度
・受動喫煙の頻度
 回答を分析したところ、「体がだるい」と「基地局から300m以内」、「目の充血」と「防虫剤の使用」、「口内炎」と「IHヒーターの使用」、SDQ「支援の必要あり」と「家族のスマホ利用あり」との関連が強く見られました(オッズ比4以上、統計学的有意)。

脳脊髄液減少症で起こる過敏症
 国際医療福祉大学熱海病院の中里直美さんらは、同病院で受診した脳脊髄液減少症患者75名を対象とした問診票調査を行い、同症患者の50.7%にMCSの疑い、33.3%にEHSの疑いがありました。さらに、音過敏を57.5%が、光過敏を59.7%が訴えました。化学物質や電磁波への曝露以外の引き金で過敏症が起こり得ることを筆者は初めて知りました。過敏症の発症メカニズム解明につながるかもしれないと思いました。

携帯基地局からの電波をシールド
 吉富邦明・九州大学教授は、宮崎県延岡市大貫町の携帯電話基地局からの電波により健康影響が出るため使用できなくなっていた事務所で以下の通り電磁波シールド対策を行い、使用できるようになったと報告しました。
(1)窓ガラスに電磁波遮蔽フィルム(住友スリーエム社製LE35AMAR)を貼付
(2)内壁にアルミニウム遮熱シート(ライフテック製サーモバリアスリム)を貼る
(3)上記遮熱シートを合板で覆い、合板にシールドペイント(YSHIELD社製HSF54)を塗布
(4)上記遮熱シートと上記シールドペイント塗布面にアース接地板を取り付け、地面のアース棒とアース線で接続
 以上により、窓を開けたとき最大4.953μw/c㎡、窓を閉めたとき最大0.0126μw/c㎡となりました。
 ただし、シールド後の測定で事務所内のコードレス電話周辺で高い電磁波が計測され、電話をオフにすることで電磁波が低下したとのことです。
 第27回日本臨床環境医学会学術集会は来年7月7、8両日、三重大学環境・情報科学館で開催予定とのことです。【網代太郎】

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