ゴールデンウィーク10連休の最中の4月29日、山梨県に住む米国人ニック・フォレスト(仮名)さんの家を訪問した。JR最寄駅でニックは私を迎えてくれた。
一切の通知も許可もなくスマメを設置
日消連(日本消費者連盟)事務局長の方から「米国人でスマメ反対が理由で電気を止められた人がいる。相談にのってくれないか」という電話があったのがニックとの出会いのきっかけだった。
ニックは日本在住歴が28年。現在山梨県に一人で住んでいる。事件は昨年2018年5月に起こった。ニックはそれまで県内の賃貸住宅に住んでいたが、現在の中古戸建(前居住者は夏の別荘として使用)を購入した。ニックはスマメの問題点を熟知しており、それまで住んでいた賃貸住宅もアナメのままでスマメの交換は許さなかった。現在の住宅を購入する際には、その中古住宅がアナメであることを確認した上で購入契約を結んだ。ところが契約を済ませ、いざ引っ越そうとした時点で、いつの間にかスマメに替えられていた。東電は事前にニックに一切の連絡も、通知も、許可もなくアナメを取り外しスマメを設置した。スマメ設置により、ニックには吐き気、耳鳴り、不眠症等の健康上の問題が生じた。驚いたニックは東電甲府支社に抗議し、即刻アナメに戻すよう要求した。しかし東電はニックの要求を拒否し、スマメを認めないなら「電気を止める」と強硬な態度に出た。その結果、東電はスマメに繋がる電線を切断し(写真)文字通り電気を止めた。
標高1000m、敷地900坪の家
最寄駅から約6km離れた標高1000mの山のふもとにニックの家はあった。敷地は約900坪。元別荘だが家は大きい。家に続く道にはとても小さな小川(せせらぎ)が流れ、途中に小さなお地蔵様もある。静かでいい場所だ。しかし電気は止められている。前の賃貸住宅は今年(2019年)3月まで契約があったので、二つ家があったため、寒さが厳しい日は前の電気が通っている家で寝ることもできた。しかし3月以降は電気のない現在の家で暮らさざるを得なくなった。明かりはソーラーを使った灯りが3台ある。家の駐車場で防犯用に人が近づくとセンサーが感知し電気がつくタイプの照明があるがあれである。暖房は灯油ストーブを2台購入した。別荘には元々大型のファン式灯油ストーブが備え付けられていたが電気でファンを動かすタイプのため使えない。標高1000mの土地は、4月下旬とはいえストーブなしでは暮らせない。
電気を止めたのは生活権の侵害そのもの
ニックはウェブデザイナーと英会話講師で生計をたてている。電気を止められたのでニックは緊急用にガソリンで動く発電機を家の外に設置した。しかしあくまで緊急用で普段はパソコンは使えない。そのためウェブデザイナーとしての収入が見込めず英会話講師だけの収入で生活している。電気を止めた東電の暴挙は明らかにニックの生活権を侵害している。
前の所有者は夏場だけの避暑別荘として使っていたので冬の対策はほとんどなされていなかった。そのためニックは独力で屋根裏と壁と床下に断熱材を入れた。
日本人と違い、欧米人は自ら外装のペンキ塗りや家の改造を行う。それにしても大がかりな改造だ。前所有者は家を長く空家状態にしていたため、屋根裏にハクビシンが住み込んでいたため糞の除去作業がたいへんだったという。
自然派の彼はこの土地を気に入っている
日本に28年住んでいるが、ニックの日本語は達者ではない。当日は英会話の教え子の百合さん(仮名)が通訳代わりに同行してくれた。ニックの家の隣家のYさん夫婦が少しの間お茶を飲みに来た。Yさん夫婦はもう40年もここに住んでいるという。芸術的な仕事で生計をたてているとのことだ。
ニックは米国ミシガン州出身で実家は牧場を営んでいる。ニックの自然派志向はこうした生立ちと無縁ではないだろう。
「アナメに替えてほしい」は当然の要求
ニックの東電への要求は以下である。①スマメを取り外しアナメに戻し、アナメによる電気の供給をしてほしい、②私たちにはアナメを選択する権利がある、③私がスマメを要求するのは、スマメによって健康障害が生じるからだ、④経産省は「閣議決定に基づくもので、スマメ設置義務の法律はない」と認めている。
ニックの要求は正当であり、非は東電にあることは明白である。東電はすぐに通電すべきである。
東電に抗議しましょう
この東電の暴挙に対して私はニックに訴訟を提案した。しかし転居でお金を使いかつウェブデザイナーの収入がないので訴訟はできないとニックは答えた。今年(2019年)5月9日に私たちは東電パワーグリッド本社とニックの問題を話し合ったが、「本人から電気供給の申請がないから」と東電は回答した。冗談じゃない。ニックはアナメによる電気供給を再三再四東電甲府支社に申し出ている。東電側が「スマメ設置以外は電気を供給できない」と通電を拒否しているのが事実だ。
全国の皆さん、このような東電の卑劣な行為に抗議の声を上げようではありませんか。【大久保貞利】