リニア中央新幹線の電磁波

 昨年7月に「リニア中央新幹線を考える町田の会」が東京都町田市で開いた「リニア中央新幹線 専門家に聞こう!シンポジウム」(参加70名)で、筆者はリニアの電磁波について報告しました。講演のためにあらためて調べると、自分の中で漠然としか理解していなかったことがハッキリしたり、新たな疑問点が出てきました。筆者の報告内容を再構成してここに掲載して皆さんと情報共有し、この問題をご一緒に検討していく一助とさせていただきたいと思います。

リニアが走行する仕組み
 リニアの電磁波は、リニアが走行する仕組みと密接に関係します。
 リニアは1両ごとの両端の台車部分(車輪がある部分)に超電導磁石を載せています。N極の磁石とS極の磁石が交互に配置されています。これらの超電導磁石から発生する磁場と、地上に配置した「推進コイル」に電流を流すことにより発生する磁場との間で、N極とS極の引き合う力と、N極どうし・S極どうしの反発する力により車両が前進します(図1)。

図1 推進コイルと浮上案内コイル[1]

 車両の超電導磁石が高速で通過すると地上にある「浮上案内コイル」に電磁誘導の仕組みで電流が流れ電磁石となり、車両を押し上げる力と引き上げる力が発生し、車両が浮上します(図1)。リニアは発進時には車輪(ゴムタイヤ)で走行します。加速して時速150kmに達すると車輪を引っ込めて浮上走行に移り、駅間を時速500kmをキープして走ります。停車のため減速するときは、時速150kmまで下がると車輪による走行に移ります。
 現在はコスト削減のために、これら「推進コイル」と「浮上案内コイル」の機能を兼ねた「一体型地上コイル」が開発されています。

超電導磁石からの磁場
 超電導磁石から放射される磁場は、静磁場なので0Hzです。
 ですが、時速500kmで走行しているリニアの超電導磁石は、地上に5.7Hzの変動電磁場を放射します。リニアの1両の長さは24.3m(中間車)で、その両端にある台車に超電導磁石が積まれています。時速500kmは秒速約139mなので、
 139m/s÷24.3m=5.7回/s
となり、超電導磁石が1秒間に5.7回通過します。超電導磁石はN極とS極が交互に並んでいるので、約5.7Hzの変動磁場を放射することになるのです[2](JR東海は説明資料などで、この数値をさらに丸めて「約6Hz」と表現しています)。時速500kmより遅い速度で走っているときは当然、この周波数は小さくなります。
 停車中のリニアと時速500kmで走行するリニアがすれ違う場合、双方の乗客らは相手車両の超電導磁石から、やはり5.7Hzの変動磁場を浴びます。時速500kmで走行するリニア新幹線どうしがすれ違う場合は、相手の車両は相対的に倍の時速1000kmになるので、双方の乗客らがあびる変動磁場の周波数も倍の約11.4Hzになります(JR東海はこれを「約12Hz」と表現しています)。
 JR東海は「超電導リニアから発生する磁界の主な発生源は、車両に搭載された超電導磁石です。浮上案内コイルや推進コイル、それに接続するケーブルなどからも磁界が発生しますが、超電導磁石による磁界に比べて非常に小さいものです」[1]として、超電導磁石以外から発生する磁場(磁界)を、ほぼ無視しています。リニアの磁場は「0~12Hz」であるとJR東海による資料に記載されているのは、このように超電導磁石からの磁場だけを取りあげているためです。しかし、後述するように、これはJR東海によるごまかしであり、実際にはもっと様々な周波数の変動磁場が発生します。
 超電導磁石の磁場の強さは、表面で1T(テスラ)と説明されています。国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)による指針値400mT(0.4T)を超過しています。JR東海は磁気シールドを設けて車内の磁場を低減していると説明しています。
 JR東海による測定(図2)によると、静磁場は車内でも0.90~0.92mTに達しているところがあります。シールドによってICNIRPの指針値を下回ったとされています。しかし、厚生労働省は「植込み型心臓ペースメーカー等承認基準の制定について」において、国際規格である1mTを国内のペースメーカーの承認基準としており、これに迫るぐらいの強さとなっています。他の要因が重なればペースメーカーに悪影響するかもしれません。また、事故でシールドが破損したり、車外への避難が必要になったときに、超電導磁石の磁場を瞬時になくす(消磁する)ことができるのかという問題もあります。

推進コイルからの磁場
 リニア新幹線には運転手は乗っていません。通常走行時は、車両の外から「運転」します。従来の電車と比べてリニアに特徴的なのは、速度に比例した周波数の交流電流を推進コイルに流して「運転」することです。
 時速500kmで走行しているとき、推進コイルへは変電所から約51.4Hzの三相交流電流が供給されています。超電導磁石は1.35mの間隔でN極のものとS極のものが並んでいるので、
 1.35m×2×約51.4Hz×3600秒=500km/h
となります[3]。
 リニアは発進して加速する時に、変電所からケーブルを通して推進コイルに送る電流の周波数を、速度に比例して0Hzから約51.4Hzまで徐々に上げます。減速時には逆に徐々に下げます。つまり、推進コイルには時速500km走行時には51.4Hzの電流が流れ、加速時と減速時は速度に応じて0~51.4Hzの電流が流れるのです。当然、流れている電流と同じ周波数の変動磁場が推進コイルと給電ケーブルから放射されます。
 前述の通りJR東海は「推進コイル、それに接続するケーブルなどからも磁界が発生しますが、超電導磁石による磁界に比べて非常に小さい」として、これらの電磁波をほぼ無視しています。しかし、筆者らがリニアに体験乗車したときには、さまざまな周波数の電磁波が測定され、最高値は床のすぐ上で加速時に8.181μT(28Hz)でした(会報104号既報)。これは周波数から考えると、推進コイルからの磁場を測定した可能性があります。なお、ご自身の体調悪化を覚悟のうえで筆者とともにリニアに試乗した当会測定担当の鮎川哲也さん(低周波電磁波への過敏症がある)は、約24分の試乗の終わり近くで頭痛を訴え、その日一日中、体調は良くなかったそうです。
 また、JR東海による測定で、車内の変動磁場はICNIRPの指針値の3.1~3.5%と報告されています(図2)。磁場の強さ「μT」ではなく指針値に対する「%」で発表していることについて「分かりにくい」「データ隠し」だと批判されています。磁場は周波数によって指針値が異なる(表2)ので、いろいろな周波数の変動磁場の総量を指針値と比べるために「%」を用いるのは不当とまでは言えませんが、磁場の強さのデータも公表すべきだと筆者も考えます。
 そもそもJR東海によるこの測定結果は、測定器の諸元、測定した周波数の範囲、測定時間などの詳細な測定条件が不明であり、安全性を判断するにはデータがまったく不足しています。
 それでもあえて、示された数値だけから検討してみます。「%」では分かりにくいので、リニアの推進コイルなどに関係しそうな周波数についてのICNIRP指針値のうち一番小さい200μT(25~400Hz)(表2)で仮に計算すると、その3.1~3.5%は6.2~7μTとなります(図2)。電力設備から放射される50Hz、60Hzの磁場で小児がんのリスクが増えるのは0.3~0.4μTです。単純な比較はできませんが、それより1桁大きい数字です。「超電導磁石による磁界に比べて非常に小さい」という理由で無視して良い数字ではなさそうです。リニアに乗り続ける乗務員の健康影響が特に心配されます。もちろん、乗客にとっても安全だと断言はできません。
 もっとも、この「%」がリニアから発生する磁場だとしてJR東海が説明している「0~12Hz」に限って測定した結果だとすれば、リニアから現実に発生している変動磁場は、上記の推計よりはるかに大きな数値となるでしょう。

リニアは磁界で波乗りする?
 JR東海はさらに「超電導リニアは、リニア同期モータで走行しますので、車両の超電導磁石の磁界と地上の推進コイルの磁界とを同期させて、車両を駆動します。従って、推進コイルの磁界に乗って車両が一緒に波乗りをするように走行するため、車上の人から推進コイルの磁界は自分に対して動かない=変動しないように見えます(この推進コイルによる静磁界成分は、走行時に測定される磁界に重畳します)。原理的に車上では推進コイルによる変動磁界は、推進力の変化による緩やかな変化以外生じません」とも説明しています[4]。意味が分かりにくいのですが「推進コイルのN極S極の切り替わりが車両の走行に同期しているので、乗客から見ると、自分の席のすぐ横にある推進コイルは、常にN極、または常にS極となり、乗客が推進コイルから浴びるのは変動磁場ではなく静磁場である」という意味だろうと筆者は解釈しました。
 その解釈に基づいて筆者なりにシミュレーションをしてみたのですが、推進コイルがN極、S極に切り替わるのは、推進コイルの長さである0.9mおきであることを考えると、座席の位置によっては切り替わるタイミングにズレが生じて「波乗り」できない=変動磁界を浴びる場合がありそうです。この点については、今後とも検証していきたいと考えますが、論より証拠で、実際に車内で変動磁界が測定されていることは事実です。

沿線への磁場
 沿線の磁場について、JR東海の測定結果は図3の通りで、変動磁場についてはICNIRPガイドラインの1.0%(別の日の測定では②について1.1%)とのことです。これも上述の車内での測定と同様の問題がありますが、やはり指針値を200μTとして計算すると2~2.2μTとなり、小児白血病が増える0.3~0.4μTより1桁高いです。沿線の場合はリニア新幹線が通過する瞬間だけ曝露するので、長時間曝露し続ける車内や、寝室の磁場の強さを測定した小児白血病などの疫学調査とは曝露の条件とは違いますが、安全だと言い切れる根拠もありません。さらに言えば、この後に見るように、リニア新幹線で発生する電磁波は、他にもあり、それらが複合的に沿線住民へ影響する可能性も否定できません。

地上ループからの磁場
 以上見た超電導磁石、推進コイル、給電ケーブルの他にも、リニアによる電磁波の発生源は、さまざまなものがあります。
 図4は、リニア車内の照明や空調、超電導磁石の冷却などで使用する電気を車両へ供給する仕組みです。リニアは浮上して超高速走行するため、従来の電車のようなパンタグラフは付けられません。そこで、線路上に「地上ループ」を設置してそこに電流を流し、電磁誘導により車両に設けた集電コイルに電力を発生させ、その電力を車内で使うという仕組みが考えられました。地上ループからの磁場は9.8kHzで、強さはICNIRP指針値の1%未満であると説明されています(表1)。9.8kHzの指針値は27μTなので、1%未満ということは、0.27μT未満ということになります。

図4 集電コイルと地上ループのイメージ[5]

リニアの通信システム
 リニア新幹線車両が外部と通信するためのシステムで電波が利用されます。電波による通信じたいは従来の電車でも行われています。リニアの場合、交差誘導線、LCX(漏洩同軸ケーブル)に加え、ミリ波無線が使われると解説されています[6]。
 交差誘導線は、主としてリニアの車両の位置を検知するためのものです。リニアでは車載の超電導磁石の位置に合わせて推進コイルのN極S極を正確に切り替えなければ車両を動かすことができません。車両から送信した電波を線路上の交差誘導線が受信して正確な位置を検知します。
 LCXは同軸ケーブルに規則的に穴を空けたもので、そこから漏れる電波を利用して車両と通信します。既存新幹線などでも使われており、乗務員と車外との連絡、電光表示している文字ニュース情報、列車公衆電話、車内ネット接続サービスなどに利用されています。
 ミリ波無線は列車無線としてはリニアで初めて採用されるとのことで、車上との画像伝送などに利用されるとのことです。
 以上見たように、様々な周波数の電磁波がリニアで利用されたり、リニアから放射されています。このことについて、JR東海の情報公開はまったく不十分です。リニアは、人体と電磁波にについての「実験線」でもあると言えます。【網代太郎】

図5 三つの無線システム[6]

[1]JR東海「説明会資料(平成24年5月~9月) 磁界の影響」
[2]株式会社プレック研究所「平成24年度リニア中央新幹線に係る適切な環境影響審査のあり方に関する調査検討業務報告書」2013年3月
[3] 北野淳一「超電導磁気浮上式鉄道の電力供給システム」IEEJ Journal,Vol.124,No.8,2004
[4]JR東海「超電導リニアの磁界測定データについて(平成25年12月)」
[5]国土交通省「第19回「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」の開催結果について 参考資料」2011年9月
[6]財団法人鉄道総合技術研究所『ここまで来た!超電導リニアモーターカー』2006年

 

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