山梨リニア実験線に試乗 低周波磁場を計測

 2027年の品川-名古屋間の完成を目指して建設が決まったリニア中央新幹線。電磁波、環境などさまざまな問題があります。そこで当会として電磁波の値がどれくらいか、そして実際に乗ってみてどうなのか、当会の網代と鮎川が2016年10月18日に山梨県のリニア実験線での試乗会に参加してきましたので、その報告をします。

JR東海山梨実験センター(山梨県都留市)に停車する、試乗会で使われたリニア車両。乗客らは一心にリニアの写真を撮っていた

 まず、もし、私、鮎川はこのような機会がなければ多分リニアモーターカーには乗ることはなかったでしょう。
 というのも、私は電磁波過敏で、特に低周波に弱いので、全般的に電磁波が高いことがすでに分かっているのにわざわざ無理して乗車するつもりはありませんから。
 仮にリニアに乗ったとしても、その後、自分の体調がどうなのかも心配なので、名古屋に行くなら現在の東海道新幹線で十分短時間でいけるので、今後もリニア中央新幹線は選択肢にないでしょう。
 かつてハイブリッド自動車のプリウスで電磁波を測定したとき、助手席でもかなり高い電磁波が計測され、測定開始から1時間ほど経過したころから体調が悪くなり、「できれば、そろそろ止めませんか?」と測定の終了をお願いしたこともあったほどです。
 しかしながら、電磁波が高いといわれていますが、本当はどれほどのものかは当会の測定担当として単純に興味はありました。そこで、試乗会に当選した網代さんと山梨の実験センターへ向かったのでした。
 当日は、リニア試乗日和(?)のよい天気でした。別に屋内なので天気は関係ないのですが、精密機器を扱うので雨よりは晴れている方が断然いいのです。
 さて、我々は東京という比較的近い地域から向かいましたが、この日のため遠くから来た人もいるようです。なにせ抽選ですから、簡単には乗れないようです。
 大月駅から実験センターへバスで向かい、実験センター前で降り、係員の案内に従いエントランスへ向かいます。バスの中は多くの人がこれからリニアに乗れる幸運と期待ですでにウキウキ状態の人ばかりでした。そんな中、不安を抱えるのは多分、自分一人だったのかもしれません。当日は実はあまり体調がよくないこともその不安を増幅させていました。
 バスを降りると、そこに屋台の出店があり、お祭りのような雰囲気がありました。これもリニアの経済効果の一つなのでしょうか。そんな屋台を横目で見ながら実験センター方面に歩いて向かいます。

バス停近くに並ぶ出店、かなりの経済効果(?)

測定器は車内に持ち込めるか!
 さて、ここで第一の関門を迎えました。簡単な目視とX線による手荷物検査があったのです。測定器がここで持ち込めないとなると来た意味がないので、なんとかして測定器を車内にもちこまないとならないのです。持ち物の検査があることは承知していたので、いつもは緩衝材がある大きなケースに測定器を入れているのですが、この日はトートバックに無造作に測定器を入れ、普通の精密機器に見えるように対策をしてありました。
 検査員はあまり詳しく調べることもなく、あっさりと通過できました。これで測定器を持ち込めることができたので一安心です。

乗車する前に待合室でリニアの説明を受ける。みんなワクワクしている様子

  搭乗券を発行してゲートを進むと待合室みたいなところがあり、そこでこれからリニアに乗車する際の説明があります。多くの人がワクワクしているでしょうが、それでもまだ実はとても心配でもありました。説明が始まる前に掲示されているパネルを見たら、電磁波にもついても触れており、国の基準以下だから問題ないとされていました。

待合室の掲示物。電磁波は国の基準以下だとか。それにしてもかなりの数値である。

 さて、乗車できる実験車輌は2車輌で4列の座席があります。実験車輌ということもあるかもしれませんが、あまり座り心地がいいものではない、一昔前の新幹線の座席という感じでした。
 ここで第二の関門です。測定器をセットし、測定をしなければなりませんが、黄色の大きな機械はとても目立ちます。車輌に乗り込む前に、周囲に怪しまれずにセットするにはどうすればとあれこれ考えていたのですが、まわりのみんなは他人のことなす。

走行中に低周波はかなり上下変動
 測定器のスイッチを入れ、発車を待ちます。コースを2往復するとのことで、まずは前進します。低速時は車輪で走行し、ある一定の速度にあがると浮上するしくみで、スタート時はやはり強く振動がありました。速度があがり浮上するときは確かに浮き上がっている感じが少しました。電磁波の数値は別の表の通りですが、その数値も大きさもそうですが、かなり変動するのが気になります。
 実験線の距離もそれほどないので、すぐに速度が下がり車輪走行になりました。飛行機が着陸するほどではないのですが、それに似た感じがしました。この車輪走行への変更のショックで子どもが突然泣き出しました。確かに他の乗り物ではあまり体感しない衝撃だったので、驚いたのでしょう。
 次に、同じ路線をバックで進みます。このときバックで進んでいるときに感じる違和感や、体が前に置いていかれる体感があまりなく、スムーズに進むのはいいところに感じました。このバック進行ではじめて500km/hを超す速度での走行を体験しました。窓が小さい上、景色があまり見えないこともあり、Gがかかることもあまりなく、300km/hも500km/hもそれほど差がなく、スピードが出ているという体感もあまり感じないのが率直な感想です。
 走行中に 床のすぐ上で測定したら最高80mG台の数値が計測されました。床から50cm程度離れていても最高11mG程度はあります。

車内を測定、他の乗客は誰も気にしていない

 その後もう一往復し、試乗は終わりました。その間無事計測も行い、終了したのですが、体調はというとあまりいいものではありませんでした。

試乗を終えて大月駅行のバス停近くに戻りました。実験センターに併設されている「どきどきリニア館」があるのでちょっと覗いてみようかと思ったら入館料420円が必要とのことで、こんなところにお金を落としたくないので、入館は止めました。

有料の「どきどきリニア館」。山梨県立の施設である

 この日は体調は回復することもなく、一進一退どころか悪くなったのが事実です。ほうほうの体でなんとか家にたどり着き、そのまま朝まで寝込んでしまいました。
 測定の依頼があり、電磁波が強いところで測定をした際は、できるだけ帰りに日帰り温泉などに寄り、一休みして帰るのを常としています。そうしないと、かなりの疲労感で帰られなくなることもあるからです。今回はそういうこともできず、とにかく帰って休みたいというのが本心でした。

これからも東海道新幹線で十分
 電磁波過敏症の一人としてリニアに乗った感想は、どんどん頭が重くなる感じで、あまり快適とはいえませんでした。もし体調万全だったらどうでしょうか。短い時間でもそれなりの負担を体に感じました。さらにリニアが開通しても景色はあまり見えず、旅ではなく、単なる移動としか考えられないでしょう。それならやはり東海道新幹線で十分です。
 大阪までなら、数分に1本新大阪行が出ているので、時間を気にせずに東京駅へ向かっても、そこで待てば必ず座れます。細かなセキュリティーチェックもありません。
 これからも東海道新幹線で十分です。【鮎川哲也】

JRの説明を超える幅広い周波数の磁場が発生

 JR東海による企画に応募をしたら思いがけず当選して実現した、今回のリニア試乗。山梨リニア実験線(42.8km)を、約24分かけて2往復しました。その終了に近いころ、鮎川さんは頭痛が始まったと訴えられました。前の記事でお書きの通り、鮎川さんは電磁波過敏症で、症状が出ることを覚悟の上で、リニアへの強い関心から試乗されました。たいへんお疲れ様でした。
 私たちが今回使用した測定器はnarda社製EFA-200で、測定範囲は5Hz~32kHzです。走行中の車内で測定したところ、幅広い周波数(5~2.1kHz)の低周波磁場が確認されました。JR東海は、リニアによる電磁波は0~12Hzの範囲だと説明しています(1)。実際は、その範囲を超える様々な周波数の磁場も、かなり強く出ることがわかりました。
 測定器に表示された最大値は81.81mG(8.181μT)で、床のすぐ上で加速時に測定されました。この測定器は一番強く測定された周波数の電磁波の測定値のみを示すそうです。今回の測定中、測定器に表示される周波数の値は刻々と変化したので、実際には様々な周波数の電磁波が同時に出ていた可能性があります。その場合、本当の電磁波の強さ(発生していた全周波数についての値の総和)は、測定器に表示されていた値よりも大きかったことになります。81.81mGも相当な強さですが、実際はそれよりもっと強かったかもしれないのです。

今回の最高値

 ちなみに、試乗前の待合室の掲示物には、座席での変動磁界の強さは「時速500km/h走行時でICNIRP国際指針値1.22mTの約3分の1」と書かれていました(7頁写真参照)。約406μTなので、かなりの強さです(1.22mTは、5.7Hzの低周波磁場の国際指針値に相当します)。
 また、JR東海は2013年12月にリニア走行時の電磁波測定調査を行っています(2)。それによると、車内の静磁場は0.43mT(430μT)、変動磁場は国際指針値の3.2~3.3%とのことです。静磁場については、今回の測定器では測定できないので、何とも言えません。変動磁場についてのJR東海の測定値はおそらく、測定可能な全周波数についての値の総和と国際指針値との比率だと思われるので、今回の測定器で得られた値との比較は難しいです。
 いずれにしてもリニア車内は、私たちが普段あまり経験しないような強い磁場環境であると言えそうです。【網代太郎】

(1)JR東海「磁界に関わる法令等及び当社の考え方」2013年12月11日
(2)JR東海「超電導リニアの磁界測定データについて]2013年12月11日

大部分がトンネル内にある、山梨リニア実験線。手前が実験センター。高川山頂より2017年1月網代撮影

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