5G対策陳情2件、多摩市議会が趣旨採択 基地局設置時などに周波数・出力の情報公開などを携帯事業者に要請へ

5Gについての陳情を採決する多摩市議会生活環境常任委員会。議員全員が趣旨採択に賛成の挙手=12月14日、同市議会のユーチューブチャンネルから

 東京都多摩市議会は昨年(2020年)12月定例会で、第5世代移動通信システム(5G)対策を求める陳情2件を趣旨採択しました。「趣旨採択」とは、当該請願に全面的には賛意を表せないが、その趣旨は理解できるという場合に示すものです。今回は、陳情が求めている「学校などへの基地局設置禁止」などはできないものの、情報公開を求めることなどは賛同できるとして、趣旨採択となりました。多摩市はこれまでも独自の携帯基地局対策を行ってきましたが、今回の趣旨採択をきっかけに、それをさらに前進させようとしており、注目されます。

多摩市の従来の取り組み
 話は約6年前にさかのぼります。多摩市議会に2014年8月、街づくり条例を改正して携帯基地局設置に関する規定を設けるよう求める主旨の政策提案[1]が提出され、同年12月定例会で趣旨採択されました。これを受けて、多摩市は2015年1月、ソフトバンク、ワイモバイル、KDDI、ドコモ、UQモバイル、Wireless City Planningへ、①基地局設置の周辺住民への事前周知、②設置場所・アンテナの高さ・住民への事前説明の内容と実施範囲などの市への事前報告-を市長名で要請しました。さらに2018年に楽天モバイルが設立されたので、2019年10月に同社へも要請しました[2]。条例に基づくものではなく当然、強制力はないので、あくまでも要請(お願い)です。
 この要請行動に対して、全社がほぼ同様の回答をし、その要旨は以下の通りでした。
・基地局設置に際しては、各社の規定により、住民のみなさんに今後もより丁寧な説明を行っていきます
・電波の安全性については、電波防護指針を引き続き遵守し、このことについても住民のみなさんにわかりやすく説明を行います
・基地局等設置等の際、あらかじめ市へ報告することについては、具体的な案件ごとに相談して進めます
 多摩市がこれまで行ってきた通信事業者への要請行動があったからこその今回の趣旨採択、という側面があります。

9月定例会は継続審査
 今回の陳情2件のうち、先に出された陳情第16号について、昨年の9月定例会の生活環境常任委員会で審議されました。
 委員からは、多摩市内の5G基地局の設置状況や、基地局について条例または指導要綱を制定している自治体(神奈川県鎌倉市、東京都国立市、神奈川県三浦市、茨城県つくば市、福岡県太宰府市)の状況、また、前述の多摩市による携帯事業者への要請行動の結果を知りたいなどの要望が出されました。また、同委員会にまだ付託されていない同様の陳情(第18号)も出されていることが委員長から報告され、2件をまとめて慎重に審議するために継続審議となりました。

12月定例会で全会一致で趣旨採択
 12月定例会の同委員会で引き続き審議されました。前回、委員から出された要望などに基づき、多摩市環境政策課の佐藤彰洋課長が、携帯電話基地局や5Gに対する国やWHOの見解、健康影響について科学的根拠があるとした研究結果などを報告しました。多摩市内に設置されている基地局の数は、5GについてはKDDIが3(うちミリ波1)、ドコモが2(うちミリ波1)、ソフトバンクと楽天が0と報告。佐藤課長はまた、鎌倉市の条例制定後の経過について「施工後、周知および説明に関するトラブルや、この条例の施行によって、携帯電話等基地局が設置されず通信状態が悪くなった等の市民からの相談等はない」と、鎌倉市からの聞き取り結果を報告しました。
 委員からは「要請行動後、すべての基地局について説明会が行われているのか?」との質問が出ました。佐藤課長は「今日まで(基地局新設・変更について)57件の事前報告があった。実際に説明会をやったかどうかの確認はとっていないが(報告時には)説明会、周知はすると各事業者とも言っていた。しかし、アンテナの地上からの高さの2倍の距離の範囲の住民に周知をすべてしているかというと、そうではなく、高さの距離の範囲しか周知はできないという業者もいた。また、集合住宅の屋上に基地局を設置する場合は、当該集合住宅の居住者のみを対象にするという事業者もいた」と答弁しました。
 さらに、「5G基地局は(多摩市内の)どこにあるのか? 説明会はあったのか?」との質問に対して、佐藤課長は「5Gがどこなのかは分からない。(事業者からの事前報告のときに)5Gかどうか質問しても、要請内容に入っていないこともあって答えてくれない。しかし、しつこくきき続けたら、最近は答えてくれるようになった」と答弁しました。
 その後、討論、採決が行われました。
 陳情第16号の討論では「(請願内容のうち)『携帯電話等基地局の設置に対する市の要請行動』の方針に従い、携帯電話会社に一層の注意を求めて」いくことには全面的に同意できるが(電磁波による被害の)エビデンスについて(請願者が主張している)すべてには同意できない」「不安に感じている方、被害にあっている方に寄り添う姿勢もしっかり示していくことが重要」などとして、発言した全員が趣旨採択すべきと主張。採決では自民党系会派、公明党を含む全員(委員長を除く5名)が趣旨採択に賛成の挙手をしました。
 陳情第18号の討論では「(陳情項目の)情報公開、住民への説明会、過敏な方の保護は、当然(必要)と思う部分はあるが、人体への影響などについては、さらなる研究が必要」などの発言があり、採決の結果、同様に全会一致で趣旨採択となりました。

再び要請行動へ
 今回の趣旨採択について、生活環境常任委員会の岩永ひさか委員長、岸田めぐみ委員、多摩市環境政策課の佐藤課長、そして、昨年10月に同市で筆者(網代)を招いて開いた5GとGIGAスクールについての学習会の主催者いぢち恭子市議に、同市役所内でお話をうかがいました(皆さん、学習会に参加してくださったそうです)。
 今回の趣旨採択を受けて、市は再び各携帯事業者へ要請を行う予定とのことです。要請内容には、以下の項目を追加したいと、佐藤課長は話しています。
・事前報告の際に基地局の周波数と出力についての情報提供
・住民への周知は、地上からの高さの2倍の範囲内にする
・基地局には近隣住民に分かりやすい表示をする
・年に1回、市内の基地局設置数を市に報告する
 上記の「表示」は陳情第18号が求めていた内容を反映しています。佐藤課長は「分かりやすく表示することで、避けたい人が避けることができる」と述べていました。
 前回、2015年の要請は市が行いましたが、今回は市だけでなく市議会も関わる方向で調整中とのことです。
 多摩市は携帯基地局について条例や指導要綱は策定しておらず、これまで見た通り事業者へ「要請」するという手段をとってきました。このことについて岩永委員長は「基地局の設置などの際は市へ事前相談することについて、事業者は応じると書面で回答しているのだから、市が知らないところで基地局が建つということはあり得ない。もしそのようなことがあったら、企業の責任が問われる。条例以上の効力があると思う」との見解を示していました。
 岩永委員長はまた、「趣旨採択に意味があるのかという声もある。しかし、今回の趣旨採択は、陳情のうち賛同できる部分について、全会派がまとまって一緒の結論を出すことを目指した」と意義を強調していました。

なぜ趣旨採択できたか
 他の自治体は、住民が議会へ5Gについて陳情したり、議員が議会で質問しても、ほとんど相手にされないというケースもある中、なぜ多摩市は趣旨採択できたのでしょうか。
 佐藤課長は「(健康影響などがあるのかどうか)グレーでよく分からない問題について、分からないなりに基本から立ち返って調べることにしている。健康不安を訴える少数派を受け止めていくというスタンスで動いているので、行政でできる限界をみつけて対応するという姿勢で今回も臨んだ」と話していました。
 市議の皆さんによると、多摩市議会は伝統的に、市民の声に寄り添う、そのために合議を重ねるという雰囲気があるとのことです。いわゆる保守系であっても、不安や被害を訴える人に対して「国は問題ないと言っているんだから!」と一蹴するような議員はいないとのことです。
 また、多摩市長が、福島の原発事故を受けて市民が持ち込んだ食品の放射能測定サービスを始めるなど、環境問題に理解があるスタンスであることも大きいと、市議らは指摘していました。
 そして、やはり「カギは市民」と言ういぢち議員は、多摩市でこれまで、基地局反対運動の積み重ねがあったことを指摘しました。多摩市聖ヶ丘の市所有の緑地への基地局の建設計画(当会会報第58号既報)や、同市永山のマンションへの建設(同第89号など既報)が起きた時には、当会の大久保事務局長を招いての学習会も開かれました。「いろいろな政党に対して、問題を理解してもらえるよう動ける市民が増えてきた」と市議らは指摘していました。
 携帯基地局の電波に苦しんでいる方々から見れば、多摩市の対応もまだ生ぬるいと感じられるかもしれません。しかし、「携帯基地局の危険性はない」という国の立場に自治体が真っ向から対抗するためには、さらなる世論の後押しがないと難しいと考えます。ほとんどの携帯電話事業者は、周辺住民に事前に周知せずに基地局の設置や変更(5Gの追加なども)を行います。少なくとも、多摩市では、ある日突然、基地局が建っていたという事態に遭う確率は、他の自治体よりはかなり小さいと言えるでしょう。
 筆者は時々「どうすれば電磁波問題は解決できますか?」という質問を受けることがあります。その時は「電磁波問題にとってのみ良い社会はない。市民の声がきちんと反映されるような民主的な社会にならなければ、電磁波問題もそれ以外のあらゆる問題も解決しない」と答えますが、多摩市の取り組みに接して、その思いを強くしました。【網代太郎】

[1]お話をうかがった多摩市議の皆さんによると、多摩市議会では「政策提案」と「陳情」は実質的に同じ
[2]多摩市のウェブサイト「携帯電話等基地局の設置に対する市の要請行動について」


陳情第16号 令和2年8月26日受理
2020年8月26日
多摩市議会 議長 殿

豊間根香津子

5Gアンテナの設置を携帯各社にやみくもに行わせないことを求める陳情

<陳情事項>
 電磁波(非電離放射線)は従来の4Gまででも人体に被害を与えてきたものですが5Gは被害が一段と大きくなる可能性があります。所有者ないし地上権者・土地賃借人だからといってその土地に何を建ててもいいというわけではありません。多摩市は2015年3月24日付「携帯電話等基地局の設置に対する市の要請行動」の方針に従い、携帯電話会社に一層の注意を求めていってください
<陳情理由>
 4G以前(含4G)でも電磁波(非電離放射線)は人体や環境に被害を与えてきました。しかしこの問題についての報道が日本では皆無にひとしい状態です。しかし報道がないということは安全だということを意味しません。
 5Gは高周波である分4G以前よりエネルギーが大きく、もともと兵器としての使用が想定されていたもので、実際米国では群衆を散らすのに使用されています。当てられると灼熱感を感じるそうです。
 5Gについては諸外国では研究が盛んです。例えばイスラエルのアリエル大学のベン・イシャイ物理学教授は汗腺、ひいて臓器への悪影響を指摘、ワシントン州立大学の名誉教授で生化学の専門家マーティン・ポール博士(電磁波=非電離放射線の専門家)は、「5Gの電磁波は人間の生殖能力、脳、心臓機能に影響をもたらし、最終的には遺伝子(DNA)にも作用を与える」と懸念しています。
 ベルギーのブリュッセルでは5Gの実験、導入が全面的に禁止されることになりましたしスイスでは非電離放射線のもたらす健康被害を調査するシステムが完成するまで、新たな5Gの設置は延期する方針が決定されています。
 アメリカでもニューハンプシャー州では州議会において5Gの健康への影響を調査する委員会の設置が決まり、カルフォルニア州のサンフランシスコ市近郊のミル・バレーでは昨年、新たな5G基地局の設置が禁止されるなどしています。
 英国の保険会社の保険会社ロイズは大手の通信事業会社から5G導入に関連する保険の引き受けを要請された際拒否しました。5Gのもたらす健康被害額が膨大になり、とても保険事業としては採算が合わないと判断したのです。
 多摩市議会の皆さんが、市民の健康のために市行政当局に適切な指導をしてくださることを切に願います。


陳情第18号 令和2年9月11日受理
 2020年9月11日
 多摩市市会議長 藤原マサノリ様

いのちと環境を考える多摩の会
   共同代表 山縣朋子
   和田幸子

第五世代移動通信システム(5G)基地局設置に関する条例制定に関する陳情

1 以下の3点を盛り込んだ5G基地局設置を規制する条例を制定してください。
(1)情報公開
 5G基地局を設置する際は、事前に事業計画を広く周知してください。また、設置した場合は5G基地局であることがわかるような表示をしてください。
(2)住民への説明会
 5G基地局を設置する前に必ず説明会を開き、地域住民の声を反映してください。
(3)環境因子に敏感な人々の保護について
 電磁波過敏症や乳幼児、妊婦、高齢者、病人など、電磁波の影響を受けやすい人を守るため、住宅地やこどもの通う施設(保育園、幼稚園、学校、遊び場など)、公共施設、病院、福祉施設周辺に5G基地局を設置することを禁止してください。

2 陳情理由
2020年より始まった5Gは、これまで使われていなかったミリ波と呼ばれる非常に高い周波数帯を使って超高速・大容量通信を行ないます。
周波数が高くなることから基地局の数も一挙に増え、5Gによる電磁波の被曝量は著しく増えます(これまでの100倍と言われています)。
しかし、ミリ波の安全性はまだ何も証明されておらず、諸外国では予防原則に基づいて、5G導入の一時停止や導入のための規制緩和を拒否する自治体が出てきています。
携帯電話の電波がヒトの健康に影響を与える可能性を示す研究結果はこれまで、数多く報告されおり、実際に電磁波により、体調を崩すなどの被害を受けている方も多くいます。
5Gの基地局が設置されることで、電磁波環境が悪化することは明らかであり、乳幼児や電磁波過敏症の人たちへの影響ははかり知れません。
誰もが安心して暮らしていくことができるように、多摩市においても、5Gを規制する条例をぜひとも制定してください。

 

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