原文は、WHOとIARCが報道発表したものです。原文では、高周波の電磁波を radiofrequency electromagnetic field と表記しており、直訳すれば、無線周波数電磁場となります。電磁場は電磁波と同義ですので、翻訳文としては、無線周波数電磁波(場)としてあります。一部のメディアは、この報道発表を携帯電磁波だけのようにしていますが、WHOは高周波電磁波一般を対象としています。WHOの前向き姿勢がこの翻訳文でわかるかと思います。【訳・渡海伸】
◇
国際がん研究機関
WHO
プレスリリースNo208
2011年5月31日
IARCは無線周波数電磁波(場)を「ヒトへの発がん可能性あり」と評価する
2011年5月31日に、フランスのリヨンにおいて、WHO/国際がん研究機関(IARC)は無線周波数電磁波(場)を、ヒトへの発がん可能性あり(グループ2B)と評価した。その根拠は、携帯電話使用により、悪性タイプの脳がんの一種である神経膠腫(グリオーム)のリスクが上昇するからである。
背景
ここ数年の間に、ワイヤレス通信機器から放射される、無線周波数電磁波(場)の曝露による健康への悪影響の可能性について、人々の関心(懸念)が高まっている。世界的に、携帯電話は約50億台も普及している。
2011年5月24日~31日において、フランスのリヨンにあるIARCでは、14ヶ国31人の科学者で構成される、作業部会の会合が開かれた。その会合では、無線周波数電磁波(場)の曝露が、発がんハザードの可能性を持つかどうかについて評価が行われた。この評価はIARCモノグラフ(文書)第102巻として発表される。
IARCモノグラフ作業部会は、無線周波数電磁波(場)が長期間健康影響を引き起こす可能性について討議した。特に、がんリスク上昇の可能性について討議した。このことは公衆衛生と関連し、とりわけ携帯電話ユーザーと関連するからである。なぜならば、携帯電話ユーザー数は多く、日々その数は増加しているし、特に若者や子供たちに普及しているからだ。
IARCモノグラフ作業部会は、無線周波数電磁波(場)に関係する、以下の曝露カテゴリーに関する利用可能な文献を討議し評価を行った。
- レーダーおよびマイクロ波の職業的曝露
- ラジオ放送、テレビ放送、無線通信用の信号伝送と関連する環境的曝露
- 携帯電話使用と関連する個人的曝露
曝露データ、ヒトに関するがん研究、動物実験に関するがん研究、メカニズムやその他関連データ、などそれぞれを取扱う複雑な作業は、国際的専門家たちが分担した。
結果
証拠は批判的に検討された。最終的に、神経膠腫・聴神経腫と携帯電話使用との関係の証拠は限定的と評価され、その他のがんに関する結論は、不十分と評価された。上述した職業的曝露・環境的曝露の証拠については、同様に不十分と判断された。作業グループは、リスクの定量化は行っていない。しかし、2004年までの携帯電話の研究のうち一つだけは、ヘビーユーザーの中の最も高いカテゴリーにおいて、神経膠腫が40%リスク上昇することを示した。ヘビーユーザーの中で最も高いカテゴリーとは、10年以上携帯電話を使用し、さらに一日の平均で30分携帯電話を使用するグループを指す。
結論
ジョナサン・サメット博士(米国・南カリフォルニア大学)は作業部会の統括責任者だが、現在蓄積中の証拠からすると、結論と2B評価を支持する証拠は十分であると述べた。この結論とは次のことを意味する。「なんらかのリスクが存在するので、携帯電話とがんリスクの関係は注意深く監視していく必要がある」。
IARC長官クリストファー・ワイルドはこう語った。「今回の評価と研究結果が、公衆衛生に与える潜在的な影響を考慮するならば、携帯電話の長期間でヘビーな使い方をする人たちに対し、追加的な調査を実施することは重要である。そのような追加的な研究結果が手に入れるまでは、ハンズフリーキットの使用や携帯メール使用のような、電磁波曝露低減に役立つ実践的な対策をとることが重要である」。
作業部会は、何百という科学論文を考察した。それらの全ての論文リストは、モノグラフで発表される。インターフォン研究に基づく、公表前のいくつかの最新科学論文が、集約期限前にもかかわらず、素早く集約されて作業グループで利用され、同時に、公表可能なように準備され、そして評価の中に組み入れられた、と言及されていることは、注目に値する。
IARC作業部会の主要な結論と、(携帯電話を含む)無線周波数電磁波(場)の発がんハザードの評価を手短に述べた簡潔な報告は、ランセット・オンコロジーの7月1日号に発表される。そしてその数日後には、オンラインでも発表される。