総務省「第6回生体電磁環境検討会」 電波発がん性2B評価などの安全強調に躍起

 総務省の「第6回生体電磁環境に関する検討会」が7月22日に開催されました。同検討会は、委員20名中10名が過去に電波産業会の委託研究を請け負っていたことがある(1)一方、電磁波による健康影響の可能性を示す研究を行った研究者や、電磁波障害の診療に取り組んでいる医師、電磁波問題に詳しい市民団体等は参加していない偏った構成となっています。事実上「電波は危険ではない」という国の見解にお墨付きを与えるための組織ですが、新しい情報が公表され、また、検討会構成員の方々の考え方や言動を知ることができる意味でも傍聴の価値はあります。

山口教授が注目の研究結果を報告
 この日は、まず総務省が予算を出している研究3本の報告がありました。
 そのうち、検討会構成員である山口直人・東京女子医大医学部教授は、自身らのグループによる携帯電話使用と聴神経資料の関係についての症例オンリー研究(ケース・ケース研究)結果について、おそらく初めて公の場で報告しました。
 この研究結果は、聴神経腫瘍診断時から1年前の携帯電話ヘビーユーザー(1日平均20分以上使用)の聴神経腫瘍リスクは、携帯電話を使用しない人と比べて2.74倍、また、5年前のヘビーユーザーは3.08倍というものでした(ともに統計学的有意。詳しくは本会報第67号参照)。
 国際的な学術誌『Bioelectromagnetics』に掲載されたこの論文は、この結果について「思い出しバイアス」や「発見バイアス」が作用した可能性があるとしながらも、「我々としては、この結果を全部説明できるようなバイアスの証拠を見いだすことはできなかった。したがって、リスク上昇の可能性は否定し得ない。今回見いだされたこととそれを成り立たせているメカニズムについて、さらなる研究が求められる」と結論づけました。
 この論文に比べて、山口教授はリスク有りの可能性というインパクトをどうにかして薄めようと説明に腐心する様子がうかがわれました。
 たとえば、疫学研究の肝である、リスク比(2.74倍、3.08倍)について、山口氏は口頭で述べただけで、説明用スライド及び配付資料には全く記されていませんでした(!)(ただし、グラフの中の点としてのみ示されています)。
 また、「まとめ」と題した最後のスライドには「リスクの増加が観察されたが、それが真のリスクを反映するか、バイアスを反映するかは断定できない」と書かれています。上記の論文の結語部分より、だいぶ消極的だと感じるのは、筆者だけではないでしょう。
 「まとめ」にはまた、「(携帯電話使用が聴神経腫瘍に対し)真のリスクを反映するとしても、診断5年前には腫瘍は既に存在しており、携帯電話による通話は腫瘍の発生には直接は影響しない可能性が高いのではないか」という、論文の結語部分にはない記述もありました。
 自分たちの研究成果であるにもかかわらず、自分の政治的立場を優先し、「安全」だと印象づけようとする-山口教授の姿はそのように見えました。

携帯使用で睡眠の質低下も、電波の影響は確認されず
 検討会構成員である宇川義一・福島県立医科大学神経内科教授らのグループによる「携帯電話からの電波の睡眠に対する影響」の研究結果が報告されました。
 アンケート調査結果では、携帯電話の使用時間が長いほど、睡眠の質を低下される傾向が示されました。しかし、携帯電波の曝露実験では、電波曝露群と擬似曝露群とで睡眠の質の違いは確認されなかったとのことです。
 電波との関係は認めなかったものの、携帯電話使用で睡眠の質が低下するという研究結果がこの検討会で報告されたことに、ちょっと驚かされました。

発がんの可能性でも「大丈夫」?
 本会報の冒頭記事でも報告されている通り、国際がん研究機関(IARC)が、高周波電磁波の発がん性を2B(発がん性の可能性がある)に分類しました。
 今回の決定を行ったIARCのワーキンググループメンバーだった、検討会構成員の宮越順二・京都大学生存圏研究所特定教授が解説しました。もっとも、守秘義務があるとのことで、医学誌『ランセットオンコロジー』(online June 22,2011)に掲載された範囲での解説のようでした。
 宮越教授によると、電磁波の2B分類について詳細をまとめたモノグラフは、今年秋から来年にかけて国際がん研究機関から出版される予定とのことでした。
 宮越教授による報告の後、検討会座長の大久保千代次氏が「WHOによるリスク評価(環境保健基準の発表)は、来年か再来年になる。それまで待てない、不安であるという人は、用心政策としてIARCも言っているように、ハンズフリーキットやメール利用によって頭部への曝露を減らすという方法もある」と指摘しました。
 また、大久保氏が「2Bについて市民へどう伝えれば良いのか、リスクの専門家として意見を聞きたい」と発言を求められた、検討会構成員の西澤真理子氏は、「電波は2Bだが、2Aにはアクリルアミドというポテトチップスに入っているものもある。リスクはほかのリスクと比較しないと人間は理解できない。発がん因子ということでは、30%がたばこ、30%が食事(野菜不足など)、5%が運動不足だ。こういうものと全体的に考えた中での発がん性だと分かるように伝えないといけない」という趣旨の発言しました。
 たばこや食事、運動に気をつけていたが、電磁波には警戒感をまったく持たずに不用意に被曝し続けた結果がんになる人がいても、そういう(数%以下の?)の人々は西澤氏にとってはどうでも良いようです。
 また、宇川教授は「科学をやっていると『可能性がない』ということはほとんどない。実は『可能性がないとは決定できないけどほとんど大丈夫だ』であっても、どちらなのかと言えば『可能性がある』になってしまう。マスコミの方は『可能性がないことは言えない』というと、あるんだということになってしまう」という趣旨の発言をしました。
 また、構成員の多氣昌生首都大学東京教授は、先に大久保千代次氏らがハンズフリーキットに言及したことについて、「念のため言うが、この検討会がハンズフリーを使うことを推奨しているわけではない。また、今の第3世代の携帯電話の出力は平均すると第2世代の約100分の1という報告もある。携帯電話にあまり神経質になりすぎないということも大事だ」という趣旨の発言しました。
 このような検討会が存続している限り、電磁波に苦しむ人が救われ、また、新たな犠牲者を出さない社会の実現は難しそうです。【網代太郎】

(1)植田武智「電波特定財源の闇 検討会の委員20人中10人が「利益相反」」

カテゴリー: 携帯電話, 行政, 調査研究 

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