ロシアの携帯基地局事情 裁判所が撤去命じる判決も

訳・佐伯靖子さん(東京都)

 会報前号で外国語が得意な方のご協力を呼びかけたところ、大井さんからロシア語の翻訳について、ありがたいお申し出をいただきました。佐伯さんが翻訳してくださった、2014年3月11日付のロシア日刊紙『ノーヴィエ・イズベスチヤ』にジアナ・エフドキモワが執筆した「不安なシグナル 通信基地局電磁波の安全性を問う」を掲載いたします。ロシアの規制基準値は10μW/c㎡で、この記事によると、ロシア国内には基準値違反の基地局が数多く見つかっているとのこと。しかし、違反だと言えるだけ日本よりマシだと言えます(日本ではロシアの基準より強い電磁波で健康被害の訴えが出ても基地局を止めないのですから)。原題「Тревожный сигнал」【会報編集担当】


大都市住民の90%が電磁波の影響下に
 最近、自宅や職場付近に携帯基地局が設置されている人びとの間で、健康に対する不安が高まってきている。
 モスクワ州ザライスクに住むニコライ・レスニコフ氏は昨年末、自宅からわずか20m離れた場所に勝手に基地局が建てられ、これは憲法で保障された望ましい環境に住む権利の侵害であると携帯通信会社「MTS」に撤去を要求し、裁判にかけた。その結果、基地局の撤去が認められ、2月28日、ザライスク市裁判所は「MTSはこの判決が効力を発する時点から4か月以内に携帯基地局を撤去すること」と言い渡した。
 この裁判でMTS側の言い分は、携帯基地局は「通信・情報技術・マスコミ関連監督局」と「消費者の権利擁護と安全関連監督局」の検査を受けている。どの携帯基地局から放射される電磁波も基準指数に合致しているし、レベルは電子レンジやネオンサインやラジオ・テレビの受信器よりもはるかに低いということだった。
 しかし、通信・情報技術・マスコミ関連監督局の最近の調査では、事業者側による無線装置の放射基準違反件数が15000件を超えていることがわかった。違反の約半分を占めるのが通信会社のビッグスリー「メガフォン」(253件)「ヴィンペル・コム」(商標ビーライン229件)「MTS」(131件)である。これらの企業に対して行政措置を適用するために、無線管理上のデータはすでにそれぞれの地域の通信・情報技術・マスコミ関連監督局に送られている。
 現在、通信・放送分野に盛んに最新技術が取り入れられるようになり、国内の無線装置は急速に増加している。通信・情報技術・マスコミ関連監督局の管轄下にある無線周波数部門のデータによれば、2014年1月の段階で9000基以上増加し、総数では161万4000基を超えている。LTE(第4世代携帯電話4Gと同様のもの)は1月だけで17.4%も増加している。
 「4Gのように複雑に合成された電磁波のインパルスはそれ以前のものより一層、危険です」ロシア非電離放射防御委員会代表であり、世界保健機関(WHO)「電磁場と人の健康」諮問委員会委員のオレグ・グリゴーリエフ氏はこのように指摘し、「4Gが安全かどうかは現在の測定方法では実際のところ判断が不可能です。実質的な研究は目下、なされておらず、安全性の判断はつけられない。しかし、これが多くの人にとってどうでもよいことなら、状況は成り行きまかせということになります」と憂いている。
 「携帯基地局がこの2年の間に大都市の電磁波状況をすっかり変えてしまい、科学者たちは将来の環境問題として取り上げ、真剣に検討し始めています」とグリゴーリエフ氏は言う。「20年ぐらい前までは都市の住民で電磁波の影響を受けるのは1%ぐらいでしたが、今では住民の90%に及ぶでしょう。それだけ基地局が増えたということです。」〈…〉

規制値は2~3μW/c㎡に低減すべき
 さて、基地局と住宅の位置関係については「基地局のある建物の下に住んでも問題はないが、近辺に住む場合が問題です。アンテナの指向方向は地平線のマイナス2~5度の角度に向けられていて、電磁波のパワーとエネルギーはメインビームの範囲内にあります。最悪なのはアンテナが建物の真正面にある場合です。以前、モスクワでは基地局は下の方に建てることは禁止されていました。そのためだれかの家に当たる場合は稀でした。しかし、最近の2年間でアンテナは下へ下へと移ってきたので、高さが5~10mぐらいの1、2階の建物の敷地内に、建物に面して基地局が建っているのをよく見かけます。あるとき、そうした建物の一室で電磁波を測定したところ、規制値の50倍も超えていました。これは熱エネルギーのレベルです。アンテナを移設するほか解決がない、これがわたしたちの結論でした」とグリゴーリエフ氏は語る。
 ロシアでは人の住む場所での電力密度は10μW/c㎡を超えてはいけないという規制値が設定されている。世界の国々ではこの規制値を超える国もあれば、はるかに下回る国もあるが、現代の大都市に住む人びとは、ただでさえさまざまな有害物質に曝されているので、電磁波は2~3μW/c㎡に低減すべきだとグリゴーリエフ氏は提言している。〈…〉
 一方、事業者側は「基地局は法律に則って設置しているのだから安全だ」の一点張り。
 MTSはプレスリリースで「基地局のアンテナから放射される電磁波は平行に、あるいは若干の角度をつけて放射されているので、建物の屋根や壁で放射強度は十分に弱まる。下方に広がる放射強度は指向方向よりも600~1000倍、減衰する。物理学の法則では、放射は距離の二乗減衰するという性質があるので、放射源からの距離が2倍になれば、放射は4倍弱くなる。従って、基地局から何10mも離れていれば、人体への影響はありえない。基地局は国の厳しい管理のもとに稼働しており、基地局が現在、稼働していることこそが、周辺住民や労働者に健康被害をもたらすものではないことを物語っている」という見解を発表している。
 また、ヴィンペル・コムはプレスリリースで「どのタイプの基地局も安全である。電磁波は壁やガラスにぶつかると、減衰する。例えば、基地局が住宅の向かいに建っていたら、窓のガラスによって電磁波のインパルスとエネルギーは2.5倍弱まる。鉄筋コンクリートの壁なら、32倍弱まる」と保証する。
 しかし、科学者たちは事業者側の保証を楽観的すぎると言う。第一に、違反は周期的に繰り返されているから。第二に、オレグ・グリゴーリエフ氏曰く「検査時には基地局を最大出力で稼働させることが義務づけられているにもかかわらず、検査技師が守らないことがよくあるのです」。そのため、所轄官庁の検査結果とフリーの専門家による検査結果が一致しない場合があるということだ。

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