第5世代(5G)移動通信システムとは

 国内の携帯電話事業者は、新しい通信方式である「第5世代移動通信システム(5G=ファイブジー=5th Generation)」のサービス開始を準備中です。NTTドコモとKDDIが2020年中の開始を表明しているほか、ソフトバンクも「2020年ごろを目指す」としています。報道や総務省の資料によると、米国、欧州、ロシア、中国、韓国などでも2018~2020年ごろの5Gサービス開始を目指しているとのことです。
5Gの技術的条件を審議する総務省の「情報通信審議会 情報通信技術分科会」の「新世代モバイル通信システム委員会」が9月27日に報告書(以下「今回の報告書」と言います)をまとめたので、この内容などをもとに、5Gについて調べてみました。なお、ここでご紹介する内容は今回の報告書で初めて盛り込まれた内容ばかりではなく、以前から決まっていた内容も多いことを念のため申し添えます。
 携帯電話は、アナログ方式だった第1世代から、第2世代以降はデジタル方式に変わりました。第2世代は、日本では2012年7月にサービスが終了。現在使われているのは、日本では2001年に開始された第3世代と、「3.9世代」とも呼ばれるLTEなど、そして第4世代(4G)の「LTE-Advanced」「WiMAX2」です。
 世代が代わるにしたがって、携帯電話の通信速度が上がり、大量の情報をより短時間で送信できるようになりました。通話やメールだけでなく、インターネットのホームページを閲覧したり、高精細な動画を見ることが可能になったのです(図1)。

今回の報告書より

 5Gは、さらなる高速化を含め以下の性能を目指しています。
○超高速化=2時間の映画を3秒でダウンロード。LTEの100倍、4Gの10倍の速度
○多数同時接続=接続機器数100万台/k㎡。LTEの100倍、4Gの10倍の台数
○超低遅延=タイムラグ1ミリ秒。LTE、4Gの10分の1

電話以外の幅広い産業分野で利用
 5Gは携帯電話やスマートフォン(スマホ)での利用を超えて、様々な産業分野で利用されることを政府は目指しています。今回の報告書には、以下の活用法などが例示されています。
○安全・安心分野=高密度、広域に配置された監視カメラから高精細映像を5Gで人工知能(AI)へ送り、従来捉えられなかった犯罪などに関わる事象を捉えて警備員へ警報を送る。
○建築分野=現場から離れた場所で、現場の高精細画像を見ながら重機を遠隔操作する。5Gは低遅延でタイムラグが小さいため、操作する者の疲労が軽減される。
○デジタルコンテンツ(VR)分野=商品がその場になくても体験シミュレーションをリアルタイム配信する自動車や住宅設備などのバーチャルショールーム。
 また、身のまわりの様々な物がインターネットに接続され情報交換する「IoT(モノのインターネット、Internet of Things)」の基盤の役割を「多数同時接続」可能な5Gが担うことも期待されているようです。政府はIoT社会の実現が日本の経済成長の「鍵」の一つだと考えています。1
 今年度から「5Gの実現による新たな市場の創出に向けて、様々な利活用分野の関係者が参加する5Gの総合的な実証試験」が開始されています(表1)。

表1 総務省「5G総合実証試験の開始」2017年5月26日より

 このうち、ソフトバンクは、5Gを使ってトラックを自動運転で隊列走行させる実験を来年1~3月に茨城県つくば市で行うそうです(図2)。隊列走行とは、複数の車両が車間距離を詰めながら縦に並んで走ることです。自動運転による隊列走行では先頭車だけに運転手がいて、後続車両は自動運転で先頭車を追随します。先頭車の加減速やハンドル操作などの情報を後続車へ5Gで高速、低遅延で伝えることによって、自動運転を実現しようというものです。隊列走行の車間距離を縮められると、後続車の空気抵抗が減り燃費が改善する効果があるので省エネになり、また、複数のトラックを一人で運転できるので、輸送業界の熟練ドライバー不足の解決にもなるとされています。

図2 ITpro「5Gで世の中どう変わる?」2017年10月26日

5Gの電磁波
 今回の報告書は、3.7GHz帯、4.5GHz帯、および28GHz帯を5Gに割り当てるべきと述べています。現在携帯電話で使っている周波数は5G開始後も使い続ける「ヘテロジニアス(異種混合)」な通信環境の構築が想定されています(図3)。

図3 今回の報告書より「ヘテロジニアス・ネットワークの構成イメージ」。NRは5Gの新たな無線技術(New Radio)のこと

 5Gでは、従来の携帯電話基地局アンテナとは形状も仕組みも大きく異なるアンテナが導入される可能性があります。5Gの技術候補として有望視されている「Massive MIMO(マッシブ マイモ)」です。Massive MIMOでは、水平方向と垂直方向に多数のアンテナを配します(図4)。これらのアンテナ一つ一つがそれぞれ、特定の携帯電話やスマホ1台に向けてビームのように電波を飛ばす「ビームフォーミング」という技術が用いられ、駅や繁華街などの人が多く集まる場所でも通信速度が落ちないといいます(図5)。ソフトバンクは自社のウェブサイトでMassive MIMOについて、車ごとに専用の道路を用意するので渋滞がなく快適な走行が可能になるようなものだと説明しています。ビームフォーミング自体は既にWi-Fiなどで実用化されています。

図4 ソフトバンクのウェブサイトより

図5 今回の報告書より

 Massive MIMOの基地局の形状は、現在の棒のような形ではなく、板のような形です(図4)。
 Massive MIMOは、現在のように中継基地局ごとに特定のエリアをカバーするのではなく、ユーザーをスポットライトで照らすように電波を出します。したがって、今のようにエリアを綿密に計算して基地局を設置しなくても、基地局を起きやすい場所に置くことができ、ビルの壁などにアンテナが設置される時代がやってくるだろうという予想もあります。2

5Gは必要なのか
 経済産業省は「電波政策2020懇談会」に提出した参考資料で5Gによる経済効果を産業別に試算し、それらを合計すると約46兆8000億円になります。3
 一方で、経済効果について慎重な見方もあります。夏野剛・慶応大学特別招聘教授は「高速・大容量、低遅延、多数接続と言われてもユーザーには価値が分かりにくい」として、料金が安くならない限りユーザーは5Gを選ばないのではと予想しています。4 また、4K(フルハイビジョンの4倍高精細)映像の配信サービスは4Gでも可能であり「個人ユーザーが毎秒10ギガビットもの超高速送信を生かせる用途が無いのが現状」です。5
 米国のIT情報サイト「RCRワイヤレス」も「他のシステムではできず5Gならできるものは何かという問いには、今のところ明確な回答はない。IoTにとって5Gは必要条件ではない」と指摘しています。
 総務省は5Gの経済効果を強調しますが、本当に必要とされているのか疑問です。
 また、システムが複雑になるほど、社会はトラブルに対して脆弱になります。トラブルは不慮の場合もあれば、悪意ある攻撃でも起こります。前述の自動運転によるトラックの隊列走行にしても、5G通信に障害が発生したときの安全性は確保されるのか、不安を感じるのは筆者だけではないでしょう。

ますます増える電磁波
 もちろん、最大の問題は生活環境中の電磁波が、ますます増えることです。5Gが使う3.7~28GHz帯の電波は、現在利用されている700MHz~3.5GHz帯より周波数が高く電波が届く距離が短いので、より高密度に基地局が設置されそうです。
 また、前述の通り、5G開始後も現在の周波数の使用は続くので、環境中の電磁波は格段に増えそうです。基地局からビームフォーミングで飛んでくるギガヘルツ電波が体にどう影響するのかも非常に気になるところです。
 5G実用化へ向けた取り組みは海外各国でも進められていますが、各国の科学者・医師180人以上が欧州委員会に対して、独立した科学者が5Gと既存の電波が有害でないことを保証するまで5Gの普及を一時停止するよう求めました(会報前号既報)。
 現在使われているLTEや4Gさえ、安全性についての研究(3Gとの比較なども含めて)は、ほとんど行われていないように思われます。技術革新に安全性のチェックが追いついていません。
 米国カリフォルニア州上院には、携帯電話業界の支援を受けて、5Gのアンテナを設置しやすくするために地方自治体による認可プロセスを縮小する法案が提出されましたが、ジェリー・ブラウン州知事は10月15日、この法案を拒否しました。ブラウン知事は声明で「この革新的な技術を迅速かつ効率的に拡張する」ことの価値を見いだしながらも、法案は市や郡からあまりにも多くの支配権を奪う、と述べました。7
 海外でのこれらの動きは、日本ではまったく報道されていません。【網代太郎】

1 内閣日本経済再生本部「未来投資戦略2017」2017年6月9日 1頁など。
2 『すべてわかる5G/LPWA大全』日経BP社22頁
3 総務省「新たなモバイルサービスの展開が特に期待される分野」
4 日経BP社前掲書39頁
5 日経BP社前掲書10頁
Transitioning to a 5G World
7  California: Gov. Jerry Brown vetoes bill easing permits on cell phone towers

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