電波利用を助長、ハイテク監視社会へ 悪法「スーパーシティ」が成立

スーパーシティ構想のアイデアに応募した自治体等(内閣府地方創生推進事務局「『スーパーシティ』構想について」2020年5月)

 この会報の冒頭の記事で、新型コロナウイルス感染症対策のもとにプライバシーが犠牲にされている動きを紹介しました。加えて日本では、コロナ対策からみれば「不要不急」でありつつ、プライバシーが脅かされる法律が5月27日の参議院本会議で自民、公明、維新などの賛成で成立してしまいました。それは「スーパーシティ構想」を実現させるための法律です。
 スーパーシティ構想とは、国家戦略特区制度のもと新たに設置される仕組みです。そもそも国家戦略特区制度とは、「国家による経済活動への規制は悪であり、規制を撤廃・緩和すれば経済活動が活発化する」という新自由主義的な考え方のもと、地域限定の「特区」で大胆な規制緩和や制度改革などを行い、その一部については全国展開も可能にさせようというものです。国家戦略特区で皆さんがすぐ思い浮かぶのは、安倍首相のお友だち優遇が問題になった加計学園への国内では52年ぶりの獣医学部新設だろうと思います。

「丸ごと未来都市」
 スーパーシティ構想とは、「AI(人工知能)やビッグデータを活用し、社会の在り方を根本から変えるような最先端の『丸ごと未来都市』を、複数の規制を同時に緩和してつくる」というものです。
 スーパーシティの核となるのがデータです。私たちがSNSやネットショップなどで提供している個人情報は、プラットフォーマー(グーグルやアマゾンなど)に蓄積され、ビジネスに利用されています。国や自治体も公的サービスのために様々な個人情報を保有しています。これら個別に収集・管理されているデータを一元化し、多様な住民サービスに活用することで「便利で快適な暮らし」を実現する。そのために個人情報についての規制を緩和するというのが、スーパーシティ構想です。
 どのようなデータを使ってどのような事業を行うのかは、特区に立候補する自治体が決めますが、(1)移動、(2)物流、(3)支払い、(4)行政、(5)医療・介護、(6)教育、(7)エネルギー・水、(8)環境・ゴミ、(9)防犯、(10)防災・安全のうち、5個以上を広くカバーし、住民の生活全般にまたがることが、特区になる条件とされています。「エネルギー」の項目から、スマートメーターが連想されます。国が電気のスマートメーターを事実上強制している理由の一つに、スマートメーターから得られる30分ごとの電気使用量という個人情報データで新しいビジネスが生まれるというものがありました。そのようなビジネスが成功しているという話はいまだに聞きませんが、スーパーシティは個人情報データを利用したビジネスを、住民の生活全般にわたってさらに大規模に行うというイメージです。
 スーパーシティ構想では、事業主体となる「データ連携基盤(都市OS)」事業者が必要なデータを集めて管理・活用します。法案の条文上では、都市OS事業者が国や自治体にデータの提供を求めることができる規定が盛り込まれています。

個人情報提供のルールがあいまい
 例えば、スマホの配車アプリを介して、市民の自家用車を利用する「通院タクシー」を特区に導入しようとする場合、国や自治体は、情報を一元管理する都市OS事業者から高齢者の住む場所、健康状態、要介護度の情報などの提供を求められる可能性があります。政府は「個人情報保護法令に従い、必要な場合は本人の同意が必要」と説明していますが、行政機関個人情報保護法には、公益に資するなど特別な理由がある場合、本人同意なしで提供できるとも定められています。どちらが優先されるのでしょうか。政府は国会で、区域会議(後述)が判断する、とあいまいな答弁をしています。
 データを収集できなければスーパーシティの意味がありませんから、本人の同意なしで提供することが増えていくと予想できます。「防災・安全」などを名目に、個人情報が勝手に収集、利用されるようになれば、その先に待っているのは、既に中国で実現しているようなハイテク監視社会です。

住民合意の中身もあいまい
 スーパーシティ特区に立候補するためには、自治体や事業者、内閣府をメンバーとする「区域会議」という運営主体をつくり、「住民合意」を得た上で案を総理大臣に提出します。この「住民」の範囲や「合意」の手続について、政府は「決定方法は各区域会議で決めていただく」と述べ、極めてがあいまいであることも、大きな問題点の一つです。自治体が必要と判断すれば区域会議に住民を関与させられると政府は言っていますが、計画に懐疑的・否定的な住民がここに参加できるでしょうか。計画ができあがった後で形式的な「合意」手続がとられるだけになる懸念があります。議会の関与についても同様の心配があります。地方自治、住民主権が破壊されかねないのです。
 さらに、このような実証実験に「参加したくない」住民の権利は守られるのでしょうか。地域全体を「丸ごと未来都市」としてIT化・デジタル化させるのがスーパーシティなのですから、スマートメーターと同様、これに反対する住民にまで事実上の強制がなされる可能性は大きいと言えます。
 参議院本会議で福島みずほ社民党党首は立憲・国民、新緑風会・社民共同会派を代表して質問し、「プライバシーのないミニ独裁国家を生み出そうとする法案」と批判しました。

電波利用がますます増加
 スーパーシティはデータ活用が核です。国の5G推進に見られる通り、データの通信手段は有線より電波が増えていく傾向なので、データ活用が進めば進むほど、電波利用も増えます。
 政府は昨年9月から、スーパーシティについてのアイデアを公募し、53の自治体等から応募がありました(公募は特区選定プロセスには一切影響しない、と政府は説明)。政府が示すスーパーシティの例を見ても、また、自治体が応募したアイデアの中身も、スマホ決済、自動運転車、ウェアラブル端末、ドローンといった、電波を多用するものがほとんどです。そのようなものを使ったサービスを望まない住民も、強制的に巻き込まれてしまうおそれがあります。

海外では失敗例も
 スーパーシティと同様のことをやろうとして失敗した海外の事例もあります。カナダのトロント市で、自動走行車やキャッシュレスだけでなく、監視カメラで得た住民の行動のデータを利用するなどのメニューを含んだ新しい街を作る計画案が2017年に発表されました。ところが住民は当初から計画について十分知らされておらず、また、計画策定の中心企業がグーグル関連企業だったためプライバシーなどへの大きな懸念が生まれました。反対運動や、訴訟を経て、現在、計画は大幅に縮小され再提案される予定とのことです。
 皆さんの住まいや職場がある自治体が特区に立候補しないよう目を光らせておいたほうが良いでしょう。スーパーシティに関心を持っている上記53自治体等は、特に要注意です。【網代太郎】

参照
内田聖子「自治の極北 スーパーシティ構想と国家戦略特区」『世界』2020年6月号

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