5G基地局周辺をEMF-390で測定してみた

網代太郎(電磁波問題市民研究会会報編集長)

EMF-390

 身の回りの電磁波を測定したいと思っても、従来の測定器では第5世代移動通信システム(5G)専用の周波数に対応していないものが多いです。EMF-390という測定器は10GHzまで測定可能なため、5Gのミリ波(28GHz帯)には対応しないものの、5GのSub6(3.7GHz帯、4.5GHz帯)は測定できます。価格も通信販売で2万数千円程度と手軽であるため、電磁波過敏症の方々の間で人気があるようです。また、当会と協力関係にあるNPO法人市民科学研究室でも、この機器を使って生活環境中の電磁波を測定するプロジェクトを行っているそうです。
 もちろん、安価である分、測定値の正確性には限界があるでしょう。この前の記事(スカイツリー周辺の測定)で使った測定器EMR-300の測定値は信頼できるとされていますが、このEMF-390のほうは、数値を厳格には受け止めず、目安程度とするほうが良さそうです。
 このEMF-390の使い勝手はどうか、どのような機能があるか、実際に5G基地局周辺を測定したらどのような数値が出るのか、試してみるつもりで、5G基地局周辺で測定してみました。

ドコモ以外の5Gがない地域
 測定日は5月3日(祝)です。
 測定場所は、北総線・京成線の千葉ニュータウン中央駅の南側(千葉県印西市)。ここを選んだ理由は、以下の通りです。
・携帯各社のサービスエリアマップによると、この地域で、ドコモ以外の3社は5Gを展開していない。Sub6より低い周波数の5G(いわゆる「なんちゃって5G」)も展開していない
・ドコモは5Gを展開しているが、エリアが狭い。Sub6のみで、ミリ波がない
 つまり、5Gの展開状況がシンプルであり、測定器を試してみる環境として適していると考えました。このような地域は、東京近郊で鉄道などでアクセスしやすい場所では、もう多くは残っていなさそうです。
 筆者は今回初めてこの場所を訪れました。一から計画的に造られた「ニュータウン」で道路が広く、タワーマンションなど極端に高い建物がなく平坦で見通しのきく町並みで、基地局を見つけやすいという印象でした。

ドコモのエリアマップ

KDDIのエリアマップ=5Gなし

ソフトバンクのエリアマップ=5Gなし

楽天のエリアマップ=5Gなし


6秒ごとの最大値を記録
 EMF-390は多機能で、測定時に、いろいろな「モード」を選べます。今回は、市民科学研究室代表理事の上田昌文さんにお勧めいただいた「RFブラウザ」モードで、6秒ごとの最大値を観察しました(1、3、6、12秒ごとから選べます)。電磁波による健康影響を考えるときは、平均値よりも最大値のほうが重要だと考えられているためです。6秒ごとに切り替わる最大値を記録するために、ハンディビデオカメラで液晶画面を1分間、撮影しました。
 クリップボードの上に記録用の紙、ボールペン、EMF-390を置き、左手でEMF-390を支えて測定したい方向へ固定し、右手にビデオカメラという格好でした。2人組だったら、もっとラクだったでしょう。

データをパソコンへ転送
 また、EMF-390は、記録したデータをパソコンへ転送する機能があります。パソコンに専用ソフトをインストールして、EMF-390とUSBケーブルでつなぎ、ソフトを操作して転送します。
 パソコンに取り込まれたデータは、同じ時刻あたり60組のデータ群でした。それらの測定値は、最大値よりかなり小さいので、1秒間ごとの平均値であると考えられます(1分間あたり60個なので)。EMF-390本体を「RFブラウザ」モードにして6秒ごとの最大値を測定したのですが、本体内に記録できるデータはモードにかかわらず1秒間あたりの平均値になるという仕様なのかもしれません。
 測定時には、そこから見える風景もビデオカメラで撮影し、見える携帯基地局アンテナの数も記録しました。アンテナの数は便宜上、ポール(柱)の数としました。ポール1本に複数のアンテナが設置されていても1と数えました。ビルの2箇所に設置され(ポール2本)、それぞれ別の方向を向いている基地局は、それらが一体となって運用されていれば基地局としては一つなのでしょうが、ポール2本なので2と数えました。
 また、このエリアでは、4Gと共用している「なんちゃって5G」がないはずなので、典型的な5G基地局である平面型アンテナを5Gとみなし、その他の形状のアンテナは5G以外とみなしました。

分かったこと
 測定結果は、上の表の通りです。「転送した値の平均」は、パソコンに転送された1秒間の平均値の60個を平均した値です。
 5G基地局(平面型アンテナ)が見える場所では、概ね高い測定値を示しました。ただし、5G基地局が見える場所では5G以外の基地局も複数見えるので、測定値の大きさに5Gがどの程度寄与しているかは分かりません。
 また、ドコモのエリアマップは、細かい部分では、実際とずれがありそうだと分かりました。ドコモのエリアマップは、図1、図2の「A」の交差点の南東側が5Gエリアになっていますが、実際にはAの西にあるビルの上に5G基地局があり、それらは北や南西を向いています。マップ上の5Gエリアを北西方向へ数十mずらすと、実際のエリアになりそうな印象でした。

この調査の限界
 この調査は、以下の限界があります。
 (1)基地局について平面型は5G、その他は5G以外とみなしました。「なんちゃって5G」のないエリアなので、その見方で良い可能性は大きいですが、本当にその通りかどうかは分かりません。
 (2)基地局は目視で確認できるもののみ記録しました。測定地域は新しい街で道路が広く、タワーマンションなど極端に高いビルもなく、基地局を見つけやすい場所ですが、見えない場所に基地局がなかったとは言い切れません。
 (3)祝日の昼間に測定したので、曜日や時間帯によって異なるかもしれません。
 (4)EMF-390がアンテナ内蔵型なのでEMF-390自体から出る電磁波も拾ってしまう恐れがあることなど、この測定器の性能じたいの限界。

 今回の測定について、上田昌文さん(NPO法人市民科学研究室)からコメントをいただきました。

上田昌文さん(NPO法人市民科学研究室)によるコメント

 網代氏の今回の測定報告は、5Gアンテナ設置が各地ですすむなかで、自分の住む地域での電波の強さをおおまかながら把握していくための、よい手引となるだろう。
 周波数を特定しての精密な測定は非常にコストを要するために、一般の市民が手掛けることは難しい。そこで、EMF-390という、ハンディで、拾える周波数の範囲も従来の簡易型の計測器よりも広く(10GHzまで)、そしてデータの蓄積と読み出しが容易な測定器を使って、どのようなデータの取り方をすれば、5G基地局から電波の寄与を推定していけるか、その方式を確立することが重要になる。
 そのためのポイントは4つある。
1)4Gならびに5Gのそれぞれの基地局アンテナの所在を明らかにしてマッピングする
 そのために、携帯電話事業者が公開しているエリアマップも活用する
2)測定地点は、(調べようとしている)アンテナをいろいろな方向と様々な距離をとって、できるだけ多数とする
3)測定は、(調べようとしている)アンテナをいろいろな方向から見通せてアンテナからの距離も様々になる、できるだけ多数の地点で行う
4)現状は、5Gアンテナが未設置である地域もこれからそのアンテナの数が次第に増えていくことになるので、経時的に定点測定を行うことで、その変化から見えてくることがあるはず
 今回の報告では、「5G(平面型アンテナ)が見える場所では、概ね測定値が高い」という非常に興味深い結果が得られている。通常の屋外環境(路上)では、5G出現以前では、基地局アンテナがそれなりに多く見通せる場所でも、筆者の経験では(携帯電話端末をOFFにして測定すると)平均値で0.1μW/cm2を超えるような値になることはあまりなかった。
 室内でWi-Fiを用いる場合にそのルーターの周辺部位(30cm以内くらい)で数から10μW/cm2になることはあっても、路上で1μW/cm2を超える値を計測したことは非常にまれだった。今回の測定値の最大値でみた場合に、1.5μW/cm2を超えるところも出てきている。網代氏が言うように、今回のデータだけからは「測定値の大きさに5Gがどの程度寄与しているかは分からない」のだが、4)を行いつつ、似たような状況にある別の地域でのデータとも比較することで、「5Gアンテナがどの程度普及が進むと、周辺地域の電波強度がおよそそれくらいのレベルになるか」という相関が見えてくるのではないかと筆者は考えている。各地で同様の測定活動がなされ、そのデータが共有されていく―そのネットワークを構築できるかどうかが、私たちの課題だろう。

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