特別報告 海外の動き

基地局問題院内集会

網代太郎(電磁波問題市民研究会事務局長)

 8月24日の院内集会における、当会の網代太郎会報編集長による特別報告の概要を掲載します。
各国の電波規制値とICNIRP国際指針値。リヒテンシュタイン以外は、総務省「各国の人体防護に関する基準・規制の動向調査 報告書」(2022年3月)による

 なるべく新しい海外の動きをご紹介していきたい。
 携帯基地局から放射される電波について、日本の規制は諸外国に比べて緩いとよく言われる。第2部・省庁交渉の大事なポイントの一つなので、その中身を少し詳しく確認したい。
 日本の規制は緩いが、規制値、つまり、電波の強さをこの数字以下に抑えなさいという数値については、諸外国と比べて日本だけがとんでもなく緩いというわけではない。多くの国などでは電波の周波数によって規制値が変わる。日本の規制値は、周波数によって1000μW/cm2だったり600μW/cm2だったりする。上の表の日本の下に、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が策定している国際指針値がある。この指針値を自分の国の規制値として採用してる国がたくさんある。それらの中で、フランスではパリが独自の厳しい規制値を設定している。これは、先ほど大久保さんがおっしゃったとおり。表のギリシャより下はICNIRPよりも厳しい規制値にしてる国など。イタリアでは4時間以上滞在の建物などは10μW/cm2。日本より1~2桁、低い数字だ。
 先ほど、大久保さんもおっしゃったフランスのパリのように自治体あるいは地方政府が、国とは異なる独自の規制を行ってるケースがある。総務省の報告書(上の表の出典と同じ報告書)には、ソウル(韓国)、リオデジャネイロ(ブラジル)、ブエノスアイレス州(アルゼンチン)、クライストチャーチ(ニュージーランド)などが挙げられている。
 一方で、英国、ドイツ、イタリア、オランダ、スイス、ギリシャ、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、ロシア、ハンガリー、ブルガリア、イスラエル、トルコ、中国、インド、フィリピン、タイ、メキシコ、ペルー、南アフリカでは、地方レベルでの規制はないと同報告書には書いてある。
 この報告書は後で紹介するフランスの法律などもきちんと紹介している。皆さんも先入観を持たずに一度、ご覧いただければと個人的には思っている。総務省だから信用できないかもと私も正直思うが、ただ、私は電磁波研会報の編集をするために外国の情報も注意深く見ていて、今のところ、この報告書と矛盾するような情報は得られていない。もし問題が分かったら電磁波研会報などで発信する。

 日本の規制値と、多くの国が採用しているICNIRP国際指針値は、ほぼ同じ数字。両方とも周波数によって200~1000μW/cm2だが、そもそも私たちの身の回りでこの数値を計測するということはまずあり得ない。日本だけではなく欧米、アジアなども含めて、多くの国が実質的に規制になっていない規制値を採用している。

海外の多くは規制値を厳しくする以外の政策
 では、日本と海外は何が違うのかというと、多くの国などでは①規制値を厳しくする以外の規制などの政策が行われている、②司法・裁判所が機能している、③議員の活動、④研究者の行動・発信がある。この他、日本国内の電磁波問題に関する報道は極めて少ないが、海外ではきちんと報道されているという現実がある。
 規制値を厳しくする以外の政策の例をいくつか挙げる。
 フランスでは2015年成立の法律で以下などを決めた(会報第125号参照)。①3歳以下の幼児を受け入れる建物で幼児の部屋への無線LANなどの禁止、②小学校の教室内で無線機器への接続についてデジタル教育に使用する場合を除き電源オフを義務付け、③携帯電話の広告には頭への電磁波暴露を軽減する手段の利用勧告を分かりやすく記載することの義務付け。
 ベルギーでは王令で、7歳未満の子ども向けに特別に設計した携帯電話の販売を禁止(会報第81号参照)。
 オランダでは、建物に基地局を建設するときは所有者の承認を得ても、住んでいる世帯の過半数の反対がない場合に限り建設を許可している。
 以上のことは、先程の総務省報告書にも書いてある。私は、すごく面白いと思う。皆さんはどう思いますか。総務省は、海外の実情を百も承知のうえで、自国の市民に対してはひどい対応を取っているということだ。

司法(裁判所)が機能
 諸外国で、裁判所が画期的な判決を出したというニュースに接することが時々ある。先程大久保さんが挙げた牛の件もそうだが、アメリカでは1996年、電気通信法により州、地方自治体は電波による環境影響に基づいて個人用無線サービスの設備の建設および変更を規制することができないと規定されてしまった。このため地方レベルによる規制が困難になった。最近になってニューヨーク州フラワーヒル村が、村内の公道上への18基のスモールセル4G基地局を条例に基づいて拒否。携帯事業者側は当然、電気通信法違反だとして提訴した。しかし、連邦地裁は、電気通信法が規制を禁じているのは携帯電話の通話サービスだけであり、既存基地局によって村全体で電話をかけることができているとして、村を勝たせた(会報第138号参照)。裁判所は、電気通信法は携帯電話で通話できるよう自治体の規制から事業者を保護しているものの、より高速なデータ通信サービスを提供したいという事業者の活動までは保護していないと判断したわけだ。
 イタリアでは長時間の携帯電話の使用と、脳腫瘍の因果関係を認めた判決が2回出されている(会報第139号参照)。日本で電磁波による健康影響について裁判所に訴えても、一切、認められてこなかったことを考えると、うらやましい限りだ。
 また、アメリカでは、電波の規制を行う連邦通信委員会(FCC)が規制値を厳しくしないことを2019年に決めたときの手続が違法だったという判決を2021年に出している(会報第132号参照)。規制値の変更を求めた多くの団体、科学者、医師たちの意見について、FCCが検討しなかったことが違法だと判断した。

網代編集長

議員が活発に活動
 議員が電磁波問題について活発に活動している。欧州議会の「科学と技術の将来についての専門家委員会(STOA)」がまとめた報告書「5Gの健康インパクト」(2021年)には、450MHz~6GHzの電波については、①ヒトに対して特に神経膠腫及び聴神経鞘腫についておそらく発がん性がある、②男性の生殖能力に明確に影響する、③女性の生殖能力に影響するかもしれない・胎児および新生児への悪影響があるかもしれない。ミリ波については、十分な研究が実施されていない、と述べている(会報第132号参照)。
 また、欧州議会のある会派がICNIRPを批判する報告書を2020年に発表した(会報第125号参照)。委員の多くに通信業界から研究費を得ているなどの利益相反がある、ICNIRPの委員はICNIRP自身が選んでいる、市民への説明責任も果たしていない、EUはICNIRPへの資金提供をやめて完全に独立した新しい諮問委員会を設立すべき、と指摘している。総務省で電波の指針値策定に関わっている委員の中にはICNIRPのメンバーもいる。指針値については、日本は世界と足並みをそろえている。

研究者による報告と行動
 海外では研究者による研究報告が数多く発表されている。基地局の周辺住民に及ぼす影響について、これまで発表された論文をまとめたバルモリの論文によると38論文のうち28論文、74%で影響ありだった(会報第137号参照)。5G基地局を設置されたアパートに住む夫婦に電磁波過敏症などに見られる典型的な数多くの症状が出たが、夫婦が電磁波の低い別のアパートへ転居すると症状が改善または消失したとの報告もある(会報第137号参照)。先ほどの沖縄のお話とそっくり。この研究の著者は、携帯電話使用と脳腫瘍の関係の疫学調査をリードしてきたスウェーデンのハーデルら。
 そして、ICNIRPに対抗する新しい国際委員会を研究者有志が発足させた(会報第139号参照)。

市民の後押しがあってこそ
 これまで見た議員や研究者が活動できている諸外国では、それぞれの国の市民による後押しがあるだろうことが想像できる。そもそも、議員は市民の支持がなければ当選できない。研究者が研究費を得るためには、すぐに金もうけの役に立たない研究にも研究費を出して良いと市民が支持している必要がある。裁判所がきちんとした判決を出せるのは、広い意味で市民の支持が背景にあると言える。

基準値を下回っていることは何もしない理由にならない
 日本の当局は、私たちの身の回りの電波は規制値より低いので対策しなくてよいという考え方。それに対して多くの諸外国は、規制値より低くても対策を取っている。対策を取ることに合理性、必要性を認めていると言うこともできる。そして数は多くないが、より厳しい規制値を採用している国などもある。私たちは健康が守られるように、先ほど大久保さんも強調していたように規制値を厳しく変更することを目指していきたいが、変更を実現する前でも可能なところから早急に対策を取っていくことが求められる。海外では規制値より低くても対策している。海外でできることが、日本でできないはずはない。環境中の電磁波が規制値より低いことは、対策を取らない言い訳にはならないということだ。【網代太郎】

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