送電線の電磁波がミツバチの活動に悪影響 チリの研究  屋外と研究室で調査

カリフォルニアポピー群生地と、現地調査中に花を訪れるミツバチの様子(論文より)

 高圧送電線からの超低周波磁場が、ミツバチの活動に悪影響を与えていることを示す論文が5月12日に、ウェブ上の学術誌「Science Advances」で発表されました。南米チリ・タルカ大学のMarco A. Molina-Montenegro(マルコ・モリーナーモンテネグロ)教授らの研究チームは、高圧線から近いカリフォルニアポピー(ハナビシソウ)群生地と実験室の両方で、ミツバチの体内にストレスを受けたことを示すタンパク質などが超低周波磁場によって増えるどうかをを調べました。ミツバチの行動に影響を与えるメカニズムを探ろうとしたことがこの研究の特徴であると、著者らは述べています。さらに、群生地のハチの行動を観察して、磁場と関連があるかも調べました。
 ハチの減少は世界的に問題になっています。植物の花粉を媒介するハチが減れば、農産物の収穫量が減り、地球環境への悪影響にもつながるからです。ハチ減少の原因は、ダニ等の寄生虫や害虫、周辺環境の変化などの複合原因と言われていますが、近年、ネオニコチノイド系農薬が関わっていることを示す研究発表が相次ぎました。同農薬によるヒトへの健康影響も指摘されており、EUをはじめ海外ではネオニコチノイド系農薬の規制を強めています(ただし、日本は逆に緩和!)。そして農薬以外では、人工電磁波がミツバチの方向感覚を狂わせているという研究報告も以前からありました。

送電線に近いミツバチにストレス
 研究チームは、チリのQuinamavida(キナマビダ)村にある高圧送電線鉄塔3基(高さ約20m)と、比較用に稼働していない送電線の鉄塔3基の周辺のカリフォルニアポピーの群生地を実験場に選びました。超低周波磁場を測定したところ、稼働していない鉄塔の周辺の磁場は1.5μT(15mG)以下でした。一方、稼働中の送電線の鉄塔から10mの地点は平均9.47μT、50mでその半分、200mで送電線の影響はほぼなくなりました。
 合計6基の鉄塔の近く(15~25m)と、遠く(210~235m)に、合計72個の箱形のケージを置き、一つのケージに1匹のミツバチを15分間入れたあと、ケージを他の場所へ移しました。そして、ミツバチの体内の熱ショックタンパク質(Hsp70)の量を調べました。Hsp70はストレスを受けると増えます。稼働中送電線の鉄塔に近いミツバチでは、ケージを移してから5分後のHsp70の量が鉄塔から遠いミツバチの2倍になっていました。稼働していない送電線では、鉄塔からの遠近で差がありませんでした。
 以上は野外での実験ですが、実験室でミツバチに装置から低周波磁場を曝露させる実験も行いました。平均7.8μTの超低周波磁場(鉄塔から25~30m離れた野外で測定した平均7.3μTと同程度)を曝露させる装置をオンにして曝露させたミツバチと、装置をオフにして曝露させなかったミツバチを比較したところ、前者のHsp70の平均濃度レベルは後者と比べて52%高くなりました。また、遺伝子発現についても、前者と後者で有意な差が見られました。

花への訪問回数を3日続けて観察
 今回の研究では、ミツバチが花を訪れる回数などについて現地での観察も行っています。稼働中・非稼働送電線の鉄塔各3基について、東西南北の4方向で鉄塔から近い場所(10~25m)、遠い場所(210~235m)を選び、そこにある花の数が多いカリフォルニアポピーの個体(平均9.6個)、少ない個体(平均4.9個)を1本ずつ選び、2015年10月(南半球の春が始まる時期)の3日連続で晴れた日に、経験豊富な観察者チームが午前9時20分から午後7時20分まで観察。ミツバチがカリフォルニアポピーの花を訪れた回数を記録しました。ハチが花の葯(雄しべの先の花粉の袋)や雌しべに触れた場合のみ、ハチが訪れた(花粉媒介者の役割を果たした)ものと見なしました。
 ミツバチの生息数も調べ、稼働中送電線の鉄塔、非稼働中の鉄塔ともに、鉄塔までの距離による大きな違いは見られませんでした。
 鉄塔からの距離にかかわらず、花の数が多いカリフォルニアポピーの個体の方が、少ないものよりも、ハチが訪れた回数が多いことが観察されました。そして、稼働中送電線の鉄塔は、非稼働中の鉄塔に比べて訪問回数が少なくなり、特に稼働中送電線の鉄塔に近い場所の花への訪問回数は、大幅に減りました(論文の図3)。
 論文は「本研究は、EMF(電磁界)がミツバチの受粉行動に有害な影響を及ぼし、植物群落に悪影響を及ぼすという決定的な証拠を提供するものである」と、強い調子で述べています。【網代太郎】

論文の図3(一部)ミツバチがカリフォルニアポピーを訪れた回数

 論文のタイトル: Electromagnetic fields disrupt the pollination service by honeybees

Verified by MonsterInsights