EU機関が電磁波過敏症の意見 来年1月に公表へ

 欧州連合(EU)の諮問機関である欧州経済社会評議会(EESC)が電磁波過敏症についての意見を来年1月に公表することとし、それへ向けての公聴会を11月4日に開いたことが、英国の電磁波問題団体「パワーウォッチ」のウェブサイトで紹介されていました。かなり前向きな意見が出されるのではと、パワーウォッチは期待を寄せています。
 EESCは三つのグループを代表する353人の評議員によって構成されています。三つのグループとは、雇用者、労働者、そして、その他の利益を代表するグループ(農民、職人、中小企業・中小の製造業、専門職者、消費者代表、科学・教育関係者、共同組合、家族、環境保護運動)です。EESCはベルギーのブリュッセルで開かれており、相当数の決定が採択される前に必ず諮問を受けることになっています。また、独自の発議権に基づいて意見を発表することもあります(EUのウェブサイトより)。
 パワーウォッチの記事をご紹介します。【網代太郎・訳は網代及び市民科学研究室代表の上田昌文さん】

題名:ヨーロッパは電磁波過敏症に真剣になりだした

 欧州経済社会評議会(EESC)は2014年11月4日に電磁波過敏症(EHS/ES)に関して公聴会を開き、約50人が参加しました。続いて、電磁波過敏症問題を最も前進させる方法を決めるために、午後にワーキンググループが開かれました。公聴会は(諮問されてではなく)EESCの自発的な考えのようで、ベルナルド・エルナンデス・バタレルが提案しました。彼らは、欧州委員会がより多くこの問題に注意を払わなければならないと考えています。

EESCとは何か?
 EESCは、ヨーロッパと組織的な民間団体の間のブリッジとして機能するEUの諮問機関です。「欧州議会、理事会及び委員会は、諮問機関である経済社会的評議会と地域委員会によって支援されなければならない」(欧州連合条約第13.4条)。EUの28加盟国の民間団体代表353人のメンバーで構成されます。メンバーは、各国政府が作成したリストに基づいて、閣僚理事会によって更新可能な5年間の任期で任命されます。EESCは、欧州議会、欧州委員会、及び欧州理事会に、意見を送ります。

これまで言われていること
 電磁波過敏症はますます多くのヨーロッパ人に苦痛と生活の質の低下を引き起こしています。電磁放射(EMR)汚染の最も一般的な出所は携帯電話基地局、コードレス電話と、家庭に設置されるWi-Fiルータです。これら全ては、設置場所で恒常的に(週7日24時間)マイクロ波を発します。
 日々、電磁波過敏症に苦しむ人の数は増加しています。そして、彼らはしばしば医者の懐疑的な見方や誤診に対処しなければなりません。新しい推計によると、人口の3~5%が電気過敏で、これは約1300万人のヨーロッパ人がこの症候群を患っているかもしれないことを意味しています。そして、いろいろな名前(電気過敏症、Wi-Fi症候群、マイクロ波症候群、電磁波過敏症など)があります。
 2008年のEU GSM指令に関する意見(TEN/308)の採用以来、EESCは、電子通信(例えばインターネット使用と情報社会の一部をなす他の家庭用装置)からの電磁波放射に対して市民をどう守っていくかという、現在も進行中の問題に取り組んできています。
 意見作成作業の一部として、地方自治体、輸送サービスのほか、文化・スポーツ・レジャーセンターに対して、無線インターネット接続の設置状況に関して聞き取りをします。最近開発された技術であるWiMax環境(Wi-Fiと同様だが距離がより長い)が、コンスタントに電磁波汚染を放出し始めています。意見はまた、自宅と職場の両方で、電磁波曝露を特定し、最小化し、防ぐために、そして市民が電磁波汚染のない、いわゆるホワイトエリアで生活できるために、EU、加盟国、地方レベルでの取り組みの強化を提唱するかもしれません。EESCは、これらの利害関係者に向けた信頼されるアドバイザとして機能することができます。

スケジュールは?
2014年11月4日:作業文書
2014年12月5日:意見の素案
2015年1月7日:意見の草案
2015年1月21~22日:意見の完成版

パワーウォッチのコメント
 我々は、EU全体でまじめにEHSに問題を扱うためのこの取り組みを喜んでいます。パワーウォッチや他の電磁波および電磁波過敏症団体は、開催わずか9日前にこの会議について聞かされ、驚きました。そのため、出席して現時点の情報を聞くことができる時間がある人を探すために、たくさんのメール、スカイプ、電話が飛び交いました。どういうわけか、EESCはヨーロッパ全域の多数の電磁波/電磁波過敏症団体のいずれも招くことができませんでした。我々は、これは我々を遠ざける努力ではなく、むしろ本物の管理上のエラーであったと信じています!
 以下の人々によるショートプレゼンテーションは、なぜEUが電磁波過敏症に対処しなければならないのか、最良のアプローチは何かという観点から行われました。

○スサナ・ガレラ・ロドリゴ、行政法教授、ファン・カルロス王大学 マドリード
○アイザック・ジェーミソン、欧州委員会保健・消費者総局の電磁界のステークホルダーグループのメンバー
○オーレ・ヨハンセン、神経科学、実験的皮膚科学部門、カロリンスカ研究所、ストックホルムの教授
○マルク・サンドリエ、Robin des Toits(無線技術の衛生的な保安のための全国協会)、フランス
○アイネス・アヤラ・センダー、欧州議会議員

 プレゼンテーションの後に聴衆との討議が行なわれました。そしてその時に取られた記録は電磁波過敏症に関するEESC研究会の午後の会議に持ち込まれました。
 アイザック・ジェーミソンは、多くの研究が曝露の結果による影響を示した一方で、影響がないことを示したり、どちらでもない/確定的でなかった研究もあったことを説明した非常に参考になるプレゼンテーションを行いました。これには、影響あり/なし、あるいは、どちらでもない/確定的でなかった、といったことが電磁波研究でそれぞれ何パーセントを占めたのかを919の研究をレビューして調べたラフマニほか(2011)の研究が含まれていました。彼はまた、大多数が曝露の結果による影響を明らかにした113の研究のレビューにおいて、ククラーキほか(2013)が類似の結果を得たことに言及しました。彼は、個人が電磁波の有害な影響を受けたときに生じるかもしれない潜在的なコストと、リスクを減らすためにとることができる実践方法について論じました。
 オーレ・ヨハンセンは、EHSを病気として扱うことと、スウェーデンのように機能障害として扱うことの違いについて論点を集中しました。電磁波それ自体についてというより障害と平等に対する社会の態度(ESSCが向かっている方向である)について、すなわち、私たちの周りに現在ほとんど普遍的に存在しているエレクトロスモッグによる社会的排除を防ぐために、彼は本当に雄弁に良いポイントを指摘しました。
 マルク・サンドリエは良いプレゼンテーションをしました。そして、ヨーロッパの電磁波過敏症を代表して正式な声明を発表しました。
 「Electrosensibles Derecho Salud(電気過敏症健康権利)」と「Une Terre Pour Les EHS(電磁波過敏症の人たちに土地を)」は、会議でプレゼンテーションによってEESCの「輸送、エネルギー、インフラおよび情報社会セクション(TEN)」の研究会にこの共同声明を提出する用意を急いでしていました。
 「電磁波が電磁波過敏症を引き起こすと結論するのに十分な証拠が大いにある」と主張するポジションの人々がたくさんいましたが、議論は、しばしば起こりがちなほどには過熱していなかったように感じられました。しかし、最後に、モバイル産業「携帯電話製造業者フォーラム(MMF)」からの2人は、予防的措置に賛成するとのプレゼンをした1人をとりあげて非難しただけでなく、既存の曝露レベルがすでに100%安全であるので、曝露を減らしても無駄であるというばかげた主張をしました。危険はすでにないので予防原則は適用できない、そして、機器に放出値のラベルを付けることはできない、なぜなら、それらはすでに「安全」であり、「安全よりも安全」(ママ:直接引用)にすることはできない、と1人は言いました。予測された通り、そして、無理もない話ですが、他の人から若干のリアクションがありました。しかし、会議はその時までに時間がなくなっていたので、論争はあまり進みませんでした。
 それで、大部分の時間において、議論の主要な論点は、とるべき適切な方法を、極端な少数事例にとらわれずに非常に建設的に、探ったのでした。EUのいろいろな条約のいろいろな条項によって以下のことをさせることができるのかという、若干不可解ながら、おそらく非常に重要な議論がありました。概して、委員会または委員会の統一した発言は、責任は加盟国にあると主張していました。しかし、EUができることがもっとあると言う人々もいました。たとえば、単一市場ルール規則を適用して機器類の共通規定にするように求めたり、他の分野ではすでに行われていることですが、公衆が参加しての協議を行うように求めたりすることです。
 多くの公衆が抱く懸念と苦しんでいる人にとっての事の重大性の両方について、そしてさらに問題を偏りなく現実的にとらえる感覚が必要であることについても、委員会は、かなり釣り合いのとれた考え方をしてくれるだろうという希望がそれなりに持てそうです。しかし、ある人にとっての「釣り合いをとること」は、もう一人の人にとっての「十分な措置をとることに関する恥ずべき怠慢」であり、さらに別の人にとっては「ヒステリックな感情の流れで科学を捨てる」ことであり、私たちは彼らが1月の期限に発表する意見で実際に何を言うか見なければなりません。
 しかし、ありそうもないことではありますが、もし委員会自身の検討プロセスにおいて(主に「新興及び新規に同定される健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)」の場で)この案件が正当とみなされプッシュされないとすると、欧州委員会はどんな新しい措置をとろうとしても説得に多大の労を要することになるでしょう。しかし、EESCのこれまでの様子を見る限り、電磁波過敏症の人々が近代的で公共的な生活への参加から除外されていることから助けるために、より予防的なスタンスを支持する意見をEESCは持っているだろうことが見てとれるのです。

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