米・国家毒性プログラムが最終報告書 携帯電波による雄ラットのがん発症は「明確な証拠」と結論

米国国家毒性プログラム(NTP)のプレスリリース

 携帯電話の電波をラットに長期間浴びせたら、脳腫瘍の一種である神経膠腫と、心臓の神経における神経鞘腫と呼ばれるがんが増加したとの研究成果の一部を米国の「国家毒性プログラム(NTP)」が2016年5月に発表していました(会報第101号既報)が、この研究の最終報告書が今年11月1日に発表され、携帯電磁波により雄ラットが心臓の悪性神経鞘腫を発症したという「明確な証拠(clear evidence)」があると結論付けました。また、雄ラットの悪性神経膠腫の発症については「いくつかの証拠(some evidence)」があり、雄ラットの副腎の腫瘍(良性、悪性、またはそれらが複合した褐色細胞腫)についても「いくつかの証拠」があるとの結論でした。NTPは証拠が強い順に「明確な証拠」「いくつかの証拠」「不十分な証拠」「証拠なし」と分類しています。

10年、3000万ドルかけ
 この研究は米国国立衛生研究所(NIH)の下部にある共同研究集団、NTPに所属する研究者が10年の期間と3000万ドルもの費用とをかけて行った大規模なものです。NTPは、工業、農業、医薬化粧品、食品添加物等々、化学物質の種々の毒性、とりわけ発がん性に関しては、省庁を横断して様々な試験を行い、試験法・評価法の開発を含めて、その結果が規制政策に反映されることが何度もあったという、大変影響力の大きい研究プログラムです。
 今年2月に発表された研究報告書の草案について3月に外部の科学者とNTPによるパネル(検討会)が行われ、そこでの合意が最終報告書に示されていると、プレスリリースは述べています。
 プレスリリースは、また「研究で使用された最も低い曝露レベルは、現在携帯電話ユーザーに許容される最大局所組織曝露量に等しく、この電力レベルは典型的な携帯電話の使用ではめったに発生しない」として、実験における全身曝露と人が携帯電話を使用するときの局所曝露との違い、電波の強さの違いなどから「この研究で使用された曝露は、人間が携帯電話を使用して経験する曝露と直接比較することはできない」とも述べています。
 また、研究で使われた電波は2G(第2世代移動通信システム)と3Gであり、Wi-Fi、4G、5Gについては調べられていません。
 しかし、条件の違いはあっても携帯電磁波の発がん性が動物実験レベルでほぼ確認されたことには、重大な意味があります。

新しい通信技術の素早い評価を目指す
 NTPは今後の研究のために、より小さな曝露室を作っているところであり、新たな通信技術がもたらすかもしれない危険を、発がん性評価よりも早く容易に評価できる物理的指標やバイオマーカーの開発に焦点をあてる、とプレスリリースは述べています。【網代太郎】

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