イージス・アショアの目的と問題点

 日本の新たなミサイル防衛システムとして、陸上配備型の「イージス・アショア」の導入が閣議決定された。この問題を探る。

イージスアショアって何

朝日新聞のウェブサイトより

 イージスとは盾を意味する。アショアは海岸とか陸上を意味する。したがってイージス・アショアとは「陸上イージス」のことである。イージス艦という言葉は新聞テレビでよく報じられる。そのイージス艦の機能を地上に移した施設がイージス・アショアだ。

配備は2か所(秋田市と萩市)、予算規模は千葉市並み
 現在イージス艦は4隻ある。陸上イージスは2か所に設置され2基で日本全土をカバーする。2か所とは秋田県秋田市新屋(あらや)地区と山口県萩市・阿武町にまたがる地区で、2か所とも現在自衛隊の演習場がある。予算は2基で4664億円、県庁所在都市千葉市とほぼ同じ規模だ。実施計画は5か年で2019年度~2023年度。

イージスシステムの目的は
 イージス艦は1983年に誕生した。イージスシステムは、フェイズド・アレイ・レーダー(後述する)という高度な情報処理可能なレーダーを使って200個以上の飛行物体を同時に捕捉追尾し、10個以上の迎撃ミサイルを同時発射し敵飛行物体を打ち落とすというものだ。味方の空母機動艦隊の盾として当時の仮想敵ソ連(今はロシア)の多数の攻撃機から発射される対艦ミサイルを無力化する目的で開発された。
 陸上イージスは現行のイージス艦より大型で高性能なミサイル(SM-3ブロックⅡA)を搭載するとみられ、2基で日本全土をカバーできるとしている。

現行のミサイル防衛システムとの違い
 これまでのミサイル防衛システムは、敵が発射した弾道ミサイルに対して宇宙空間を飛翔中に迎撃して打ち落とすことを基本としている。しかし最近の傾向として巡航ミサイルの拡散・高性能化が注目されている。大陸間弾道弾といわれるようにこれまでのミサイルはいったん大気圏外(宇宙)に飛び出し再び大気圏に突入し目標を攻撃するタイプである。一方巡航ミサイル(代表がトマホーク)は主翼を持ちジェットエンジン(ロケットエンジンでなく)で推進し、小型飛行機に形状が似ている。航法誘導装置は前部にあり、地上に近い所を飛ぶため山があればそれに沿って飛ぶ。そのため通常のレーダーでは捉えにくい。いわばAI(人工知能)無人攻撃機である。陸上イージスではアメリカが開発中の新型ミサイル(SM-6)を搭載し、弾道ミサイルだけでなく巡航ミサイル迎撃も可能としている。

トマホーク(ウィキペディアより)

イージス艦との違いはあるのか
 なぜ、あえて地上固定型を導入するのか。イージス艦は一度航海に出ると、一日24時間、最低でも60日以上ミサイル監視防衛作業を続けなければならない。乗員負担は大きく、それがネックになっている。1艦に300人以上が操船も含めて必要となる。これに対し陸上イージスは20名ほどで、交代要員を含めても数十名で済む。

ハワイの太平洋ミサイル試験場に設置されている、試験用のイージス・アショア施設(日経ビジネスオンラインより)

問題点は何か~基地は攻撃される
 問題点はいくつもある。まず固定基地から起こる問題だ。陸上イージスは半永久の固定基地でなく、分解して移動が可能である。しかしそれには相当時間がかかり事実上の固定基地だ。イージス艦は港に停泊中は脆弱だが、一度出航すれば探知捕捉は困難になる。移動の強みだ。それに反し陸上イージスは地上ゲリラ部隊やミサイル・攻撃機による脅威がすこぶる高い。
 秋田市新屋演習場は中学校と高校が隣接しているし住宅密集地も近い。戦争となれば「基地からたたく」は鉄則である。となれば周辺住民も危険にさらされる。佐竹敬久秋田県知事は「状況次第では協力もやぶさかではないと思っていたが、不安を覚えざるをえない」と語り、山口県阿武町の花田憲彦町長は「配備反対の意思」を明確に表明した。2018年6月に開かれた秋田市の住民説明会で「万が一攻撃された時どうなるんだ」と質問した住民に対し、防衛省は「そもそも攻撃されないようにするものだ」と答えた。答になっていない。そもそも論でなく、万が一の時の対応を住民は知りたいのだが、ただ逃げただけの答弁だった。

強力な電磁波による周辺住民への健康被害
 同じ秋田の住民説明会で住民が「365日、常に電磁波を発している。副作用が起きないということは考えられない」と質問した。当然な不安だ。これに対し防衛省は「発信するビームが住民に当たらないようにする。基本的には人体に影響ないと考えている」と答えた。陸上イージスは全天型(全方位型)レーダーを使用する。しかも水平に飛ぶ巡航ミサイルも捕捉するレーダーだ。住民に照射されないわけがない。人体に影響ない、とは電磁波の熱作用を基にした甘い総務省電波防護指針値を下回ることを根拠にしているのであろうが、いま国際的に問題になっているのは「電磁波の非熱作用」である。すでに熱作用以下の電磁波基準値を採用している国はいくつもある。「人体への影響はない」発言は無責任極まりない。
 イージス艦は沖合50海里以上に出てからイージスレーダーを稼働する。またイージスレーダー稼動中は「乗員を甲板上に立たせない」ことを決めている。海上自衛隊はイージスレーダーの人体への影響(副作用)を熟知しているのだ。

フェイズド・アレイ・レーダーについて

アラスカ州にあるフェイズド・アレイ・レーダー(ウィキペディアより)

 イージスレーダーは「フェイズド・アレイ・レーダー」(Phased Array Radar=位相配列レーダー)を使う。縦にした平板上にアンテナ素子を配列し、アンテナ素子から発射される電磁波の周波数を変えたり様々な走査方向やパターンを組み合わせて、目標から反射して帰ってくる電磁波を瞬時にコンピュータ処理し目標を探知する。あるいは目標物が発射する電磁波を捕捉しこれも瞬時にコンピュータ処理する。その両方を同時に処理できる高性能レーダーである。これまでのレーダーはアンテナが360度回転するため何秒間か捕捉にタイムラグが生じた。しかしフェイズド・アレイ・レーダーにはそれがない。

北朝鮮が主目標ではない、核バランスを壊し軍拡に繋がる
 昨年(2017年)北朝鮮の弾道ミサイル発射が相次いだことを受け、政府は陸上イージス導入を決めた。ところが今年になって米朝首脳会談が開かれ情勢は大きく変化した。巨額の予算をかけて導入する必要性の根拠が揺らいでいる。そもそも北朝鮮のミサイルはまだ発展途上で、これほどの高性能な陸上イージスは不要である。世界に陸上イージス計画は3か所(ルーマニア、ポーランド、ハワイ)しかなく、欧州2カ国の導入理由は「イランのミサイルを防ぐため」とされている。今回の「北朝鮮のため」と似ている。プーチンロシア大統領は「イランではなく、実際にはロシアへの対応措置だ」と正しく認識している。今回の日本の計画に対しても日露外相会議でロシアは「懸念」を表明している。陸上イージスの主仮想敵はロシアと中国である。迎撃システムが高度化すると相手側もそれを上回るシステムを対抗上開発せざるをえない。限りない軍拡への道で極めて危険だ。
 ルーマニアとポーランドの陸上イージスは両国のためでなく、中欧(ドイツ、フランス、イギリス)と米国の防衛のためといわれている。今回の日本の計画も「米国のため」といえる。米国を守る盾が日本の陸上イージスなのだ。

イージス艦を倍増化する計画との齟齬、米国への貢物か
 じつは政府は現行のイージス艦を4隻から8隻に増やすことを決めている。それなのにどうして陸上イージスが必要なのか整合性がない。評論家副島隆彦氏は近著で、トランプ米大統領が日本に仕掛けようとした「自動車への25%追加高関税」をかわすために「たくさんアメリカ製兵器を購入する」材料として、陸上イージスが出てきた、と分析している。なにが真実かは政府が本音を言わない以上仮説でしかないが、あまりにも整合性がない話なので、そう考えたくもなる。
 最後にXバンドレーダーとの違いを述べる。京都府京丹後市経ヶ崎のXバンドレーダーは8~12G(ギガ)帯を使う。イージスレーダーはSバンド(2~4G帯)を使う。一般的に周波数帯が高いと直進性が高まり距離が遠くまで飛びにくい。それからするとXバンドレーダーは北朝鮮と中国対策、イージスレーダーはロシアと中国対策と考えられる。【大久保貞利】

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