イージス・アショア2基配備方針 強い電磁波で健康影響の懸念

 政府は2017年12月19日、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア(地上イージス)」2基の導入を閣議決定しました。費用は最低でも1基あたり1000億円。設置場所はまだ決定ではないものの、秋田市と山口県萩市とする方針とのことです。
 高性能のレーダーやコンピューターを搭載し、味方を攻撃する多数の航空機やミサイルに対して同時に迎撃する能力を持つ艦船のことを「イージス艦」と言います。「イージス」はギリシャ神話の言葉で「盾」を意味します。イージス艦に搭載されているミサイル迎撃機能を地上に固定配備する装備が「イージス・アショア」で、アショア(ashore)は「陸上に」という意味です。

毎日新聞のウェブサイトより

 2基のイージス・アショアには日米が共同開発している新型の迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」を搭載する計画で、射程距離が従来型の倍程度になり、2基でほぼ日本全土をカバーできるとされています。

毎日新聞のウェブサイトより

 閣議後の記者会見で小野寺五典防衛大臣は「北朝鮮の核・ミサイル開発が、わが国の安全に対する、より重大かつ差し迫った新たな段階の脅威となっておりますが、イージス・アショア2基の導入により、平素からわが国を常時・持続的に防護できるようになり、弾道ミサイル防衛能力の抜本的な向上が図られると考えております」と、設置の理由を説明しました。
 イージス・アショアは、現行の防衛計画の大綱(防衛大綱)や5年ごとの装備品導入を定めた中期防衛力整備計画(中期防)に記載がないため、特別に閣議で導入を決めたとのことです。トランプ米大統領が2017年11月に来日した際の記者会見で「日本が大量の防衛装備を買うことが好ましい。そうすべきだ」と訴えたことに、早速応じたように見えます。

全方向にレーダーの強い電磁波
 イージス・アショアに設置されるレーダーの種類は決まっていませんが、米国がイージスシステム用に開発したSPY-1を例にとると、周波数3.1~3.5GHz(Sバンド)の電磁波が、最大4MW、平均64KWという高出力で1、あらゆる方向へ放射されます。4MWは、単純計算で20Wの携帯電話基地局20万基分です。
 レーダーの電波が強力なので、イージス艦の場合、乗員はレーダーの稼働中は甲板に出ることができず艦内にいることが義務づけられます。2
 このような施設が仮に本当に必要だとしたら、住民に影響が及ばないよう慎重に立地場所を選ぶべきです。しかし政府は経費を抑えるためとして、既存の陸上自衛隊施設の中から、秋田市の新屋演習場と山口県萩市のむつみ演習場を選ぶ方針です。
 新屋演習場は市街地に近接しています。地元紙は「南は道路を隔ててすぐに秋田商業高校や勝平小中学校、住宅地があり、東は秋田運河を挟んで工業団地、北は県立総合プールやこまちスタジアムがある。他の(イージス・アショアの)配備地や実験施設と比べると、秋田市の配備候補地は生活圏の近さが際立つ」と指摘しています。3 軍事評論家の前田哲男氏は「(秋田市の)演習場周辺を視察したが、こんな住宅密集地のそばに配備していいものか」と懸念を示しました。4
 萩市の演習場は山間部にあるものの、グーグルアースを見ると数百mしか離れていない所にも民家や農地が点在しているようで、やはり住民への曝露が心配です。
 米ハワイ州カウアイ島にある米軍のイージス・アショアの実験施設が1月10日、小野寺大臣の視察に合わせて日本メディアに初めて公開された時、レーダーが発する電磁波による人体や通信への影響、騒音について小野寺大臣が質問したのに対して、グリーブス米ミサイル防衛局長は「全く問題ない」と回答しました。その模様を取材した毎日新聞の秋山信一記者は「記者が周辺で撮影した動画には、ジジジという雑音が頻繁に記録されており、電磁波が影響した可能性がある」とレポートしています。5
 イージス・アショアに反対する野党各党も、電磁波への懸念を表明しています。
 共産党は「レーダーは強力な電磁波を発するため、電波障害などの影響が懸念されています」と指摘。6
 社民党の又市征治幹事長も12月19日に発表した「『イージス・アショア』導入に断固抗議する」談話の中で「レーダーが四方に放出する強力な電磁波による健康被害や生活への影響なども懸念されているにもかかわらず、候補地とされる地域の住民に対する詳細な説明が全くなされないまま、一方的に計画を進め既成事実化することは許されない」と述べました。

イージス・アショアは不要
 そもそも、イージス・アショアの(およびイージス・アショアを含むミサイル防衛システム(MD)全体についての)有効性や費用対効果について、疑問が呈されています。東京新聞論説兼編集委員の半田滋氏は、「これ(MD)を米国から導入したのは世界中で日本だけ。欧州のイージス・アショアや韓国のTHAAD、PAC3はいずれも米軍が配備したものであり、配備先の国が購入したわけではない。他国が導入を見合わせるのは、どんなに技術が進んでも百発百中とはいかず、一発でも撃ち漏らした場合、核弾頭であれば未曾有の被害が出ることになり、費用対効果に見合わないからだ」と指摘しています。7
 半田氏はさらに、イージス・アショアの設置は日本の国土防衛のためには過剰な装備であるとして、以下の通り説明しています。「防衛省はイージス護衛艦のうち弾道ミサイル対応艦について、『こんごう』型に加え、『あたご』型4隻も追加して8隻態勢とすることをすでに決めている」「現状では搭載する艦対空ミサイルが『SM3ブロック1』のため、日本海に2隻配備する必要があるが、日米で共同開発中の『SM3ブロック2A』にバージョンアップされた場合、射程圏が広がり、1隻で足りることになる。すると近い将来、日本海に1隻浮かべれば十分となるにもかかわらず、弾道ミサイル防衛に8隻を保有するのは過剰な装備というほかない」「これにイージス・アショアが加わるのである」「小野寺五典防衛相は8月10日、グアム周辺に弾道ミサイルを発射するとの北朝鮮の威嚇に関連して、もし発射された場合は集団的自衛権を行使できる『存立危機事態』として認定し、自衛隊のイージス護衛艦が迎撃することは法的に可能だとの認識を示した」「2015年の安保国会でこのような想定の議論はなかった」「北朝鮮からグアムまでは3400kmあり、日本海配備のイージス護衛艦は能力的に迎撃できないが、太平洋に配備したとすれば、対応可能となる。安全保障関連法の拡大解釈を支えるのが、日本防衛には過剰な8隻のイージス護衛艦であり、イージス・アショアだとすれば、国民不在の防衛力強化というほかない」。8
 イージス・アショアはまた、中国やロシアといった近隣諸国との緊張を高めるとも批判されています。

議論なしに決定
 2000億円以上かけてイージス・アショアを導入する必要があるのか、必要だとしたら、どこに設置すべきかについて国会で一切議論せず、また、地元との協議もなく、突然導入を決定するという政府のやり方は、民主主義的な手続を無視したものです。当然、設置候補地とされた場所の住民からは怒りと懸念の声が上がっています。
 「地元を置き去りにしたまま話が進んでいる」「住民の不安は大きい。レーダーの電磁波の影響を心配する声も上がっている」「配備されることで秋田が標的にならないか」「配備が長期化するならば、子どもの世代まで緊迫した状態が続く」という秋田市民の声が報道されています。9
 萩市民からも「子どもがいるので目に見えない電磁波は怖い。地元に説明がないのにとんとんと話が決まっているようで心配」「どんなものができるのかよく分からないので、地元にはきちんと説明をしてほしい」といった声が出ています。10
 このまま配備を進めさせるべきではありません。【網代太郎】
1 空軍事用語辞典++ 
2 半田滋「新兵器の『押し売り』で、日本はまたアメリカの金ヅルにされる 武器を通じた自衛隊の『対米追従』」
3 秋田魁新報のウェブサイト1月23日
4 河北新報12月20日
5 毎日新聞1月12日
6 しんぶん赤旗のウェブサイト12月20日
7 半田滋 前掲記事
8 半田滋 前掲記事
9 河北新報12月20日
10 山口新聞のウェブサイト12月20日

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