ケータイ使用が原因と疑われている脳腫瘍の発症率が若者で上昇

 携帯電話使用がその原因の一つであると疑われている脳腫瘍の発症率が上昇しているとの報告が相次いでいます。
 携帯電話などの通信や放送に使われている電波(高周波電磁波)について、国際がん研究機関(IARC)は「2B(ヒトに対して発がん性があるかもしれない)」と評価しています。その重要な根拠となったのが、国際的な疫学調査「インターフォン研究」でした。携帯電話使用時間と脳腫瘍罹患率との関係を調べたこの研究の結果は、累積使用時間の長さで全体を10のグループに分けて調べると、最大曝露グループ(1640時間以上)でのみ、神経膠腫のリスクの上昇(1.40倍。すなわち40%上昇)が見られました。
 携帯電話の使用が脳腫瘍の原因に本当になるのだとしたら、近年の携帯電話の爆発的普及に伴って、脳腫瘍も増えているはずです。

総務省委託研究
 東京女子医科大学の山口直人教授(当時)らのグループは、総務省の委託研究で、日本の若い世代(10~30歳代)の携帯電話の使用状況と、脳神経系腫瘍の関連についてシミュレーション分析する研究を行い、総務省の報告書[1]に発表しました。総務省報告書に発表した後で、この研究についての論文[2]も公開されました。

10~30代の脳腫瘍罹患率が上昇
 罹患データについては、国立がん研究センター「地域がん登録全国推計」の脳神経系腫瘍のデータを利用。このデータを統計学的な手法で分析したところ、1993~2010年で、年間変化率(APC)は、10代男性1.6%、10代女性1.8%、20代男性3.9%、20代女性12.3%、30代男性2.7%、30代女性3.0%と、すべて罹患率が上昇していました。10代男女の上昇は統計学的有意ではなく[3]、20・30代男女の上昇は統計学的有意でした[4]。
 1993~2010年の10万人あたりの罹患率の増加は、20代男性が0.92、20代女性が0.83、30代男性が0.89、30代女性が0.74でした(図1)。
 一方で、40代以上で統計学的有意な罹患率上昇が見られたのは50代男性のみでした。

図1 10万人あたりの脳腫瘍の罹患率。aが10代、bが20代、cが30代。●が女性、■が男性。点線が女性について統計学的手法によって推計された増減、実線が男性について推計された増減。

携帯電話「ヘビーユーザー」も増加
 携帯電話の使用状況については、全国の学校を通して募集した協力者にインターネットのアンケートに答えてもらいました。
 インターフォン研究で脳腫瘍リスクの上昇が見られた1640時間以上の携帯使用者の割合は、男性では1990年ごろから増加が見られ、2010年には20代21.0%、30代24.8%に。女性では1996年ごろから増加が見られ、2010年には20代12.0%、30代12.3%になっていました(図2)。
 前述した10万人あたりの罹患率増加の原因が1640時間以上の携帯電話使用だと仮定した場合、そのリスクは30代男性で4.0倍、20代男性で6.0倍、30代女性で7.0倍、20代女性で12.0倍という計算になり、インターフォン研究結果の1.4倍を大きく上回りました。

図2 累積使用時間1640時間以上の者の割合

それでも「携帯電話が原因」に消極的
 この結果から「特に若い世代においては、携帯電話による脳腫瘍のリスクは従来考えられている以上に高い可能性がある」または「脳腫瘍の増加原因の少なくとも一部は携帯電話である可能性が強まった」という分析が成り立つのではないかと思われます。
 ところが、山口教授らは総務省報告書に「実際のリスクが4.0~12.0倍もあると考えることは難しい」「この罹患率の上昇を携帯電話利用で説明することは難しいと考えたが、携帯電話利用が罹患率の上昇に影響している可能性をすべて排除することはできない。今後は、罹患率の変化を注視しつつ、携帯電話利用の安全性を確かめる疫学研究をさらに進める必要がある」と書き、携帯電話を原因と考えることに極端に消極的です。
 また、山口教授らは論文のほうで、インターフォン研究と、この研究とでリスクに大きな差が出た「矛盾」について、以下のように説明しています。
 携帯電話が原因と仮定すると:インターフォン研究で報告された相対リスクが実際のリスクを過小評価した可能性。または、リスク増加のしきい値が1640時間よりも低い可能性。
 携帯電話が原因でないとすると:CTやMRIの普及によって、脳腫瘍が発見される機会が増えたためである可能性。
 しかし、後者(CTやMRIの普及)が原因であれば、若者よりも自身の健康に関心が高そうな中高年で罹患率が統計学的有意に上昇していない理由が説明しづらいです。前者(携帯電話の使用)が原因と考えたほうが自然です。より上の世代より20~30代で増加が目立つことについても、脳が発達途上のころから携帯電話を使用し、潜伏期間を経て発症したと説明可能です。
 実は、この山口教授は総務省での電波の人体影響に関わる審議会等の委員の常連であり、つまり御用学者です。そのことを踏まえれば、これら総務省報告書と論文の不自然な結論も納得できます。

スウェーデンの研究は総務省委託研究と似た結果で、携帯電話の影響を示唆
 スウェーデン・エレブルー大学のLennart Hardell(レナート・ハーデル)らは、スウェーデン入院患者登録(Swedish Inpatient Register)のデータを使って、1998~2015年の未知のタイプの脳腫瘍の発生率を分析しました[5]。全世代の男女とも増加が見られましたが、診断時20~39歳の若者で、最大の増加(平均年間変化率(AAPC)2.71%で統計学的有意)が見られました。この点について著者は「20歳になる前に最初に携帯電話を使い、考えられる潜伏期間を経た者について脳腫瘍のリスクが高くなるということで説明されるかもしれない」と述べています。

米国の研究
 米国・イリノイ大学のTherese Dolecekらは、地域がん登録制度であるSEERの2004~2011年のデータを調べました[6]。良性髄膜腫の人口10万人あたりの平均年齢調整平均発生率は7.18と統計学的有意に増えました。【網代太郎】

 この総務省受託研究報告と関連論文についてはジャーナリストの植田武智さんから情報をいただきました。この件について植田さんも取材中で、近日中にMy News Japanに記事を掲載する予定ですので、ぜひご覧ください。※掲載されました。

[1]総務省「平成27年度研究報告書 無線通信等による電波ばく露の定量的把握と脳腫瘍の罹患状況に基づくリスク評価」
[2]佐藤康仁、小島原典子、山口直人 Time trend in incidence of malignant neoplasms of the central nervous system in relation to mobile phone use among young people in Japan.(日本の若者における携帯電話使用との関連で見た中枢神経系悪性新生物の発生率の時間的トレンド)
[3]統計学的有意かどうかは目安の一つでしかなく、増加が統計的有意でない場合も「増加していない」と言うことはできない(会報前号の本堂毅・東北大学准教授へのインタビュー記事参照)。
[4]20代女性は1993~1997年は罹患率が上昇(統計学的有意ではない)、1997~2002年は罹患率が減少(同)、2002~2010は罹患率が上昇(統計学的有意)。
[5]Hardell L, Carlberg M. Mobile phones, cordless phones and rates of brain tumors in different age groups in the Swedish National Inpatient Register and the Swedish Cancer Register during 1998-2015
[6]Dolecek TA, Dressler EV, Thakkar JP, et al. Epidemiology of Meningiomas Post Public Law 107-206 – The Benign Brain Tumor Cancer Registries Act

 

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