GIGAスクールで進むWi-Fi整備 「使用時以外オフ」への取組

 「GIGAスクール構想」により全国の学校で無線LAN(Wi-Fi)整備が急ピッチで進む中、子どもや教職員ができるだけ電波を被曝しないように、せめて授業で使わない間は無線LANをオフにさせようと各地で取組みがされています。
 GIGAスクール構想とは、小中学校でタブレットなどの端末を児童生徒が1人1台ずつ使いながら授業を受けるための端末配備と、校内無線LANなどの高速ネット通信整備とを一体的に行うという政府の施策です。国内で相次いだ災害からの復旧や、東京五輪後の景気悪化リスクに対応するためとして、昨年(2019年)12月に政府が閣議決定した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」の中に初登場しました。その後、新型コロナが流行し、リモート学習のためにと、4年間だった計画を前倒しして、今年度中の整備完了を目指すことにしてしまいました。
 全国の自治体が一斉に端末の購入を進めているため、メーカーの供給が追いつかず、8月末までに端末の納品が済んだのは1811自治体のうち37自治体(2.0%)とのことです[1]。

電源オフに消極的な自治体も
 会報前号(第126号)に掲載した通り、東京都新宿区のよだかれん区議が9月定例議会の一般質問で、使用時以外は学校無線LANのアクセスポイント(電波を飛ばす装置)の電源を切るよう求めましたが、教育長は「電源を切ることは考えていません」と拒否しました。当会の10月定例会でよだ議員は「国が安全だと言っているものには逆らえないというのが新宿区の考え方」とおっしゃっていました。
 また、奈良県の方からは「子どもが通う小学校のWi-Fiについて市に問い合わせたら、オン/オフできるスイッチを付ける予定はなく、ルーターが起動時に正常に作動しないことも多いのでオン/オフはしたくないそうだ」とメールをいただきました。

大阪府堺市の事例

手元スイッチ

 しかし、無線LANの電源を切る事例はあります。無線LAN装置はインターネットに常時接続することを前提にスイッチがないなど、オン/オフを簡単にできない場合が多いことから、筆者(網代)は、手元スイッチの利用について会報第111号(2018年3月発行)で提案しました。これを見た「アナログメーターの存続を望む会」の東麻衣子さん(大阪府堺市)が、手元スイッチを購入して学校に寄付を申し出たところ、無線LAN使用時以外は担任が電源をオフにすることになりました(会報第112号既報)

埼玉県日高市の事例
 また、前述の奈良県の方が、埼玉県日高市の事例を教えてくださいました。
 9月定例議会一般質問で松尾まよか市議が、教室のWi-Fiアクセスポイントと子どもとの間の距離をなるべく長くとるよう工夫すべきことと、Wi-Fi通信を使用しない時間はアクセスポイントのスイッチを切ることの2点を求めたところ、市教育部は「Wi-Fiによる電磁波放射が私たちにどのような影響を与えているかは研究しなければいけませんが、電磁波の影響が極力抑えられるよう、アクセスポント位置や、使用していないときはアクセスポイントを停止するなど配慮していきたいと考えています」と答弁しました[2]。
 11月8日にオンラインで開かれた「GIGAスクール・電磁波『自治体の現状と私たちにできること-意見交換会』」(「いのち環境ネットワーク」など主催)に登場した松尾議員は、「もし将来、電磁波過敏症の子が入学して、その時に対応を取ろうとすれば余計な費用がかかる。スイッチだけでも付けませんか」と市側を説得したと報告しました。現在、設計について詰めている段階で、フロアスイッチ(各階ごとのスイッチ)を教室ごとにオン/オフできるようにすることは決まっていて、そのための追加予算も不要だったそうです。ただ、フロアスイッチは教室から離れた場所にあるので、担任が教室で操作可能にできないか検討中とのことでした。

札幌市の事例
 また、同ネットワークの加藤やすこさんは、以前から過敏症の方々と意見交換を続けている札幌市議の働きかけによって、札幌市の学校無線LANは「PoE(アクセスポイントなどへ給電する装置)」を各教室に設置する仕様に既になっていると報告しました(図)。PoEの電源を切ることで無線LANをオフにできます。

札幌市学校用無線LAN環境構築業務の「仕様書」より。アクセスポイント(AP)とLANケーブルの間にPoEを設置

中核市などへアンケート
 この意見交換会では、甲府市の山田厚市議が、政令指定都市を除く中核市、県庁所在地を対象に校内無線LANについて行ったアンケートの興味深い結果を報告しました。
 回答があった59都市のうち、オン/オフ切替については、常時オン38、授業中のみオン1、夜間オフ1、検討中・未定16、その他1でした。また、切替ができる最少範囲は、教室ごと36、アクセスポイントごと1、階ごと2、学校全体2、切替なし6、検討中・未定6、その他1でした。教室ごとの切り替えができる市が多いのにもかかわらず、多くは常時オンという結果でした。
 「コンピュータを長時間使う仕事で腰痛、頸肩腕障害、VDT症候群などが大人に出ているのに、子どもの健康に良いはずがない。(端末に予算はついても、直射日光が当たらないようにするための)カーテン設置には予算がつかない。若い親たちもスマホにはまっている。ICT(情報通信)機器利用について子どもと保護者のためのガイドラインを作る必要がある」という山田議員による指摘も、実にもっともだと思いました。【網代太郎】

[1]「『全生徒にICT端末』わずか2% コロナで前倒しのGIGAスクール構想難航」毎日新聞2020年9月11日
[2]松尾まよか日高市議

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