WHOプロジェクト元責任者レパコリ氏 「EHCとファクトシートの優先度は同等」

経産省WGの不当性が一層明らかに

 6月4日、WHO国際電磁界プロジェクトの元責任者であるマイク・レパコリ(レパチョリ)氏=写真=の講演会が都内で開かれました(電磁界情報センター主催)。講演後の質疑応答でレパコリ氏は筆者の質問に答え、「(WHOの環境保健基準(EHC)とファクトシートは、国の政策決定にあたって)同等の優先度を持っています」(1)と述べました。ファクトシートのみを優先させ、EHCに盛り込まれていた予防的(precautionary)方策などを消極的に評価した経産省のワーキンググループ(WG)の不当性が一層明らかになったと言えます。
 2007年6月にWHOが公表した超低周波電磁波のEHCは、急性的な健康影響を引き起こさない程度の超低周波磁界(0.3~0.4μTを上回る)への長期的曝露と小児白血病のリスク増加について、「因果関係ありとするには充分強固ではないものの、懸念を抱き続けるには充分強固である」(1.1.11 健康リスク評価)と評価。「防護手段」として「予防的方策を採用することが必要」であり、「電力による健康上、社会的、経済的利益(略)が損なわれないという前提で、曝露を低減するために予防的手続きを実行することは合理的であり正当化される」(1.1.12 防護手段)と明記しました。

EHC軽視のWG報告書
 しかし、EHC公表に合わせて設置されたWGでは、座長の大久保千代次氏が「(EHCは)WHOの見解と完全に一致しないこともあり」「一致しない部分はWHOの見解としてファクトシートを示す」(2)と説明。EHCと同じ日にWHOが公開したファクトシートは曝露低減について消極的に記載しており、「予防(precaution)」という言葉は記載されていない、などと強調しました。
 このように、EHCとファクトシートの違いをことさらに取り上げ、相違点についてはファクトシートのほうを優先させるという考え方に基づいてまとめられたWGの報告書には、急性影響は引き起こさない程度の電磁波の長期的曝露から私たちの健康を守るための防護策が、記載されませんでした。
 レパコリ氏は、WHOを辞めた後に電力会社のコンサルタントに就くなど、公平性について疑問を持たれている方です(3)。この日のレパコリ氏の講演も、首を傾げる内容が随所にありました。そのようなレパコリ氏であっても、EHCの優先度はファクトシートと同等であると述べたのです。
 レパコリ氏は当然のことを述べただけであり、WHOの電磁界プロジェクトが10年以上かけてまとめたEHCよりファクトシートが優先するという話は、WGや電磁界情報センター以外からは聞いたことがありません。【網代太郎】

(1)電磁界情報センター特別講演「電磁界の健康リスクとコミュニケーション」の記録
(2)ワーキンググループ(第2回)議事録
(3)『マイクロ・ウェーブ・ニュース2006年11月13日』の抄訳。当会報44号

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