数万基以上の通信衛星が地球を包囲 衛星コンステレーションとは

 ついに第5世代移動通信システム(5G)商用サービスが始まってしまうことから、5Gについてのご相談や問い合わせが増えています。その中で人工衛星についての質問も寄せられています。この前の記事にある「国際アピール:地上と宇宙での5G廃止に向けて」が「人工衛星からの5G電波」について強調していることを知った方々からの質問です。
 たしかにここ数年間で、膨大な数の通信衛星が配置されようとしているようです。筆者が調べた限りでは、これらの通信衛星は、5Gのためだけのシステムではないようです。

複数の衛星を連携して運用
 人工衛星による通信サービスは、既にさまざまな場面で用いられています。代表的なものは、テレビのBS・CS放送や、航空機内でのインターネットサービスです。これらは、高度3万6000km付近を地球の公転と同じ速度で回る静止衛星からの電波によって提供されています。
 これに対して、静止衛星よりも地球に近い距離(低軌道の曝合は上空2000km以下、中軌道の場合は2000~3万6000km)に配置された衛星を利用する通信方法があります。これらは静止衛星ではないので、一つの衛星だけでは地上の特定の場所と常時通信することはできません。そこで、数十基以上の通信衛星を打ち上げ、それらを連携させて一体として運用することにより特定エリアまたは地球全域をカバーします(図1)。

図1 衛星コンステレーションのイメージ[1]

 この仕組みは「衛星コンステレーション」(略して「衛星コンステ」)と呼ばれています。コンステレーションは「星座」の意味の英語です。 すでにサービスが提供されている衛星コンステの例としては、66基の衛星による衛星電話(イリジウムシステム)が1998年から開始され、日本でも利用されています[2]。周波数は1.6GHz(Lバンド帯)です。

高速データ通信提供が目的
 近年、衛星コンステを構築して地球上のあらゆる場所へ高速データ通信サービスを提供しようというビジネスの競争が激化しているそうです。衛星機器が小型化しコストが低くなったため、表1の業者などが参入しました。ほとんどの業者はまだ準備中で、サービス開始は来年以降のようです。
 表1の業者以外にも、たとえばネット通販のアマゾンが3236基の衛星の設置許可を米当局に求めたと報じられました。アマゾンは「世界中の38億人と、アメリカの固定ブロードバンドにアクセスできない2130万人に、より信頼できるアクセスとブロードバンドへの接続を提供する。遠隔地でサービスを受けていない消費者にくわえ、航空機や船舶、車両向けにも移動ブロードバンド接続を提供する」としています[4]。
 アマゾンが言う「38億人」は、世界人口約76億人の半数であり、現在インターネットを使うことができない人々の数です。アマゾンの目的は、アフリカやインドなど人口が多いのにネット環境がない地域を中心に、通信衛星によってネット利用を可能にし、そこの住民らをネット通販の顧客にしたり、住民らの個人データを収集することであると考えられます。

数万以上の通信衛星が地球を囲む
 各社が衛星を数十~1万基以上打ち上げるのですから、計画通りなら全体で数万基以上の通信衛星が地球を取り囲むことになります。ちなみに2017年2月時点で軌道上を回っている人口衛星は通信目的以外の衛星も含めて全部で「4400基以上」[5]なので、文字通り桁違いの数です。
 新たな衛星コンステでは、Kuバンド(12~18GHz)、Kaバンド(26~40GHz)、Vバンド(40~75GHz)が利用されます。通信速度は5Gの8分の1~50分の1程度のようです(表1)。

表1 衛星コンステによる主なインターネット提供事業者[3]

 総務省の情報通信審議会 衛星通信システム委員会は2017年5月から「小型衛星から構成される衛星コンステレーションによる衛星通信システムの技術的条件」の検討を開始しました。
 同委員会は今年2月、衛星コンステのうち「Ku帯非静止衛星通信システム(地上1200km)」の技術的条件について報告書案をまとめました[1](以下「委員会報告書案」と言います)。
 委員会報告書案によると、このシステムは「多くの利用シーンが想定」されており、移動通信・固定通信の両方での利用が見込まれるとのことです。例として、法人・官公庁向け災害時バックアップ回線や、携帯電波がない地域に基地局を建てて衛星経由で通信事業者の施設と結んだり(バックホール)、航空機・船舶など地上基地局がカバーしずらいエリアへのサービス提供などが考えられているとのことです。委員会報告書案に掲載されたものではありませんが、分かりやすいので図2をご紹介します。

図2 想定されている通信衛星の利用場面[6]

衛星コンステの問題点
 衛星コンステの問題点として、以下のことが指摘されています[3][4]。
・スペースデブリ(宇宙ごみ)
 大量の人工衛星を軌道上に投入するため、運用終了後の衛星がスペースデブリとなります。適切に軌道外へ放出しないと、運用中の機器のじゃまになります。
・地上でのシステム管理
 非静止衛星の場合、静止衛星と異なり地上から見ると動いているため、ある特定のエリアに対して通信を提供する衛星が定期的に切り替わります。切り替わりのタイミングで通信が不安定になる可能性が指摘されており、地上の管理・モニタリングが求められます。
・定期的な衛星の交換
 小型化・軽量化のために人工衛星のスペックを絞っており、静止衛星よりも寿命が短いとされています。定期的に新たな衛星を軌道上に投入し、寿命を終えた衛星と交換する必要があります。
・天体観測への支障
 天文学者の地上観測に影響を与えると批判されています。

通信衛星からの電磁波の影響
 急増した通信衛星からの電磁波がどのような影響を及ぼすのか、心配です。
 「国際アピール:地上と宇宙での5G廃止に向けて」には「人工衛星から地上に届くエネルギーは、地上に設置される基地局ほど強くはありませんが、他の基地局からの電波が届かない地域を放射し、地上にある何十億ものIoT装置からの5G電波に追加されます」と書かれています。一般的に、衛星からの電波は地上の基地局より弱いですが、衛星の数が膨大になったときに、電磁波過敏症の方の症状を誘発したり、またはその他の健康影響を引き起こすかもしれません。
 「国際アピール」はまた、多数の人工衛星が大気圏の電気的性質に影響を与え、ヒトや鳥などの野生動物、虫などの生物に深刻なダメージを与える可能性があると指摘しています。
 実際にどの程度の影響が起こるのか、まさに5Gと同様に、衛星コンステも人体実験です。

通信衛星と5Gとの関係
 衛星コンステと5Gの関係について委員会報告書案には、双方の電波による干渉防止対策について記載されていますが、システムやサービスの連携などについては触れられていません。委員会の議事概要には「5Gが使えない場所において衛星通信システムが補完することが必要だと考えている」[7]という発言があります。地上の基地局が整備されている日本においては、都市部などで個人が衛星電波を利用してネット通信を行うことを、総務省委員会は今のところ想定していないのかもしれません。【網代太郎】

[1]総務省「情報通信審議会情報通信技術分科会衛星通信システム委員会報告(案)諮問第82号『非静止衛星を利用する移動衛星通信システムの技術的条件』のうち『高度1200kmの極軌道を利用する衛星コンステレーションによるKu帯非静止衛星通信システムの技術的条件』」2020年2月
[2]総務省「情報通信審議会情報通信技術分科会衛星通信システム委員会報告(案)諮問第82号『非静止衛星を利用する移動衛星通信システムの技術的条件』のうち『L帯を用いた非静止衛星システムの高度化に係る技術的条件』2019年2月
[3]野村総合研究所・山口結花「衛星コンステレーションを用いた次世代インターネットの可能性と課題」
[4]「アマゾンが3000機以上のブロードバンド通信衛星の打ち上げをFCCに申請」TechCrunch Japan2019年7月10日
[5]JAXA「地球の周りを回っている人工衛星の数はいくつくらいありますか?」
[6]唐島明子「これが未来の衛星通信だ!――あらゆるモノをつなぐブロードバンドインフラへ」businessnetwork2017年12月14日
[7]情報通信審議会情報通信技術分科会衛星通信システム委員会(第34回)会合議事要旨

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