基地局と周辺住民についての研究の 7割が「影響あり」 スペインの研究者によるレビュー論文

影響の種類ごとに比較した、影響有の論文数と影響無の論文数

 携帯電話基地局が周辺住民へ及ぼす影響について、これまで発表されている各国の論文をまとめた、スペインの研究者Alfonso Balmori(バルモリ)によるレビュー論文[1]が、学術誌「Environmental Research」オンライン版で7月14日に公開されました。それによると、38の論文のうち28(73.6%)が「影響あり」でした。著者は「予防原則を採用し、より制限的なレベルを課すことが急務である」と述べています。
 Balmoriは、研究論文のデータベースで「携帯電話基地局と健康」または「セルタワーと健康」という言葉で検索しました。ヒットした中から、携帯電話基地局が住宅の近くに設置されている実際の都市環境で行われた研究のみを選択しました。テレビやラジオの放送タワー、レーダー、携帯電話端末、コードレス電話、Wi-Fi、スマートメーターなど、異なる電磁波源を考慮した研究は除外しました。実験室での研究なども除外しました。
 対象となった38の論文のうち28(73.6%)が「影響あり」でした。Balmoriは各論文を影響の種類によって、高周波病、がん、生化学的パラメータの三つに分類(二つの種類にまたがった研究もあり)。種類ごとにみると、高周波病は影響ありが73.9%(23論文中17)、がんは影響ありが76.9%(13論文中10)、生化学的パラメータでは75.0%(8論文中6)でした。
 「高周波病(radiofrequency sickness)」は、筆者(網代)には聞き慣れない用語ですが、頭痛、睡眠障害、めまい、うつ症状など、住民の様々な症状について調べた論文を、これに分類しています。このことから、高周波病は、いわゆるマイクロ波症候群や電磁波過敏症と同じか、または一部重なっている疾病概念であると、とりあえずは理解しておいて良さそうです。
 「影響なし」と結論づけた論文の中には、首をかしげたくなるものもあります。オーストリアのKlaps(クラプス)は、基地局電波の影響を示す論文が存在していることを認めていながら、実験室での二重盲検試験(それが難しい試験であることは、この会報の冒頭記事でも触れています)のほうを重視して「我々のデータは、携帯基地局が人間の幸福に影響を与えないという証拠を提供する」と結論づけてしまっています。
 Balmoriは、レビューの結果「基地局周辺に住む人々の健康への影響について一貫した見解が得られる」としています。ただし「交絡因子として作用し得る基地局以外の多くの要因(疾患や症状の環境的・職業的決定因子、食事や生活習慣、活動レベル、喫煙、自己投薬、個々の病理や遺伝因子などの個人特性)が存在し得るという制約がある」として、より高品質な電磁波測定機器と、より優れた測定方法を備えることを課題に挙げています。
 Balmoriによるこの論文には、レビュー対象とした各研究について、著者名、影響の有無、主な結論などを一覧にした7頁にも渡る「表1」が掲載されています。その中から、影響ありのすべての研究について、表1の内容を要約して以下に示します。影響なしの研究については省略しました。[ ]は訳注。詳細は論文をご覧ください。【網代太郎・訳も】

[1]Evidence for a health risk by RF on humans living around mobile phone base stations: From radiofrequency sickness to cancer

基地局の「影響あり」を示した論文

論文中表1のNo. ①執筆者②年③国④研究の種類(RS=高周波病 C=がん CBP=生化学的パラメータ)⑤基地局の周波数など⑥研究デザイン⑦主な結論

1 ①Santini(サンティニ)他②2002、2003年③フランス④RS⑤2G。900MHzと1800MHz⑥530人への質問票⑦アンテナから300mまでの距離で影響が出る。高齢者はより敏感である。特に基地局から100mまでの距離では、基地局の正面が最も悪い位置となる。男性に比べ、女性では訴えが有意に高い

2 ①Gómez-Perretta(ゴメス=ペレッタ)他②2013年③スペイン④RS⑤2G。900MHzと1800MHz⑥101人への質問票と電磁波測定⑦申告された症状の重さと測定された電力密度の間に有意な相関。回答者を二つの異なる被曝量グループに分けたところ、被曝量の多いグループで申告した重症度が上昇

3 ①Bortkiewicz(ボルトキエヴィチ)他②2004年③ポーランド④RS⑤基地局⑥既刊のレビュー⑦個々の症状の発生率、曝露レベル、基地局からの距離の相関は、自分の訴えを基地局の存在と結びつけて考える人と、そのような関係に気づかない人の両方のグループで観察された

4 ①Eger(エガー)他②2004年③ドイツ④C⑤基地局2基⑥Naila(ナイラ)市の選択された集団(住民1045名)におけるがん患者数で、内側エリア(基地局アンテナから400m以内)と外側エリア(400m以遠)の結果を比較⑦内側エリアで新たに発生したがん患者数は、がん登録から得られる予想数よりも多い。過去5年間に基地局アンテナから400m以内に住んでいた集団は、平均的な集団の2倍以上のがん発症リスクを有している

5 ①Wolf(ウルフ)、Wolf②2004年③イスラエル④C⑤基地局1基⑥基地局に曝露されたネタニア市A地区622人のがん症例の発生率を、その地区の近くの診療所のがん症例、国全体の発生率、市全体の発生率と比較検討⑦A地区のがん(乳がん、卵巣がん、肺がん、ホジキンリンパ腫、類骨骨腫、腎がん)の1年間の発生率は、市全体の4.15倍

6 ①Hutter(フッタ-)他②2006年③オーストリア④RS⑤900MHz帯の基地局10基⑥365名への質問票調査と曝露測定⑦頭痛や集中困難などの自己申告の症状は、基地局からのマイクロ波被曝との関連を示しており、これらの発生源からの健康影響に対する被験者の恐怖に起因するものではない。一方、睡眠障害などの症状は、実際の被曝よりも健康への悪影響に対する恐怖に起因するようだ

7 ①Abdel-Rassoul(アブデルラッスル)他②2007年③エジプト④2G⑤RS⑥被曝者85名、対照者80名への質問票調査⑦神経精神医学的愁訴の有病率は、曝露された住民の方が対照群よりも有意に高かった。基地局の近くに住む住民は、神経精神医学的問題や、神経行動学的機能の過剰または抑制による何らかの変化を生じる危険性がある

10 ①Kundi(クンディ)、Hutter②2009年③オーストリア④基地局⑤RS、C⑥既刊のレビュー⑦疫学的には被曝が健康や福祉に影響を及ぼすことが示唆されているが、ヒトでの誘発試験による裏付けは弱く、動物実験やin vitro試験(試験管内試験)による証拠では結論が出されていない。基地局周辺のがんに関する二つの生態学的研究は、それぞれ半径350mと400m以内で発生率が強く増加することを報告している。このデザインには限界があるため、確固とした結論は出せないが、この結果は、基地局に関する包括的な調査が緊急に必要であることを強調している

11 ①Eger、Jahn(ヤーン)②2010年③ドイツ④基地局⑤RS[1]⑥255名への質問票調査⑦調査参加者の平均被曝量と報告された健康症状との間に有意な相関。基地局から半径400m以内の住民には、遠く離れた住民と比較して19の症状群のうち14の症状群で高い症状率を記録し、その差は統計的有意。平均被曝量の減少に相関して症状スコアが減少

13 ①Khurana(クラーナ)他②2010年③各国④基地局⑤RS、C⑥既刊のレビュー⑦基地局との距離と神経行動学的影響との関連を調べた7件、がんとの関連を調べた3件の、計10件の研究中8件が、基地局から500m未満に住む集団において有害な神経行動症状またはがんの有病率が増加することを報告した

16 ①Alazawi②2011年③イラン④基地局8基⑤RS⑥375名の質問票調査⑦携帯電話基地局の近くに住む住民は、非特異的な健康症状を発症するリスクがあり、携帯電話基地局からの距離が100m未満では、正面位置が最も悪いようだ

17 ①Dode(ドーデ)他②2011年③ブラジル④基地局⑤C⑥ベロオリゾンテ市で1996年から2006年の間に、基地局とがん死亡の間に相関があるか検証⑦基地局から半径500m以内の住民の死亡率および相対リスクは、市全体の平均死亡率と比較して高く、基地局から遠ざかるにつれて減少する量反応関係が観察された

18 Li(李)他②2012年③台湾④基地局⑤C⑥2003年から2007年にかけて、15歳以下のすべての新生物(がん)、白血病、または脳の新生物に罹患した症例を調査。各調査対象者の高周波電磁波への曝露は、腫瘍の診断前5年間の年間平均電力密度によって示された。対照群は無作為に選択⑦基地局からの電磁波の曝露量が中央値より多い台湾の子どもは、すべての新生物を合わせたリスクが有意に上昇。白血病と脳の新生物のリスクは上昇したが統計的有意ではない

21 ①Pachuau、Pachuau②2014年③インド④2G。900MHz⑤RS⑥成人64名(女性31名、男性33名)を対象とした質問票調査および電磁波測定⑦基地局から50m以内に住んでいる住民の方が、50m以遠に住んでいる住民よりも、健康への不満が多い。女性の方が男性よりも訴えが多い

22 ①Shinjyo(新城)、Shinjyo②2014年③日本④基地局2基。3G。800MHzと2GHz⑤RS⑥基地局運用中と撤去後の107名の住民の健康状態を比較する健康診断と健康調査票。電力密度の測定⑦800MHz基地局設置後、健康被害を受けた住民は34名、撤去後3カ月で13人に減少。2GHz基地局設置後に健康被害を受けた住民は41人で、撤去後は15人に減少。800MHzと2GHzの両方の運用時に健康被害を受けた住民は合計49名で、2GHz基地局撤去後に25人に減少。住民たちは、高周波電磁波の健康への悪影響について予備知識を持っていなかった

23 ①Gandhi(ガンディー)他②2015年③インド④基地局⑤CBP⑥基地局の近くに住む63名と、近くに基地局のない対照群28名からの質問票調査と血液採取。電磁波測定⑦遺伝子損傷は、基地局の近くに住むグループで有意に増加。すべてのがんが修復されないDNA損傷を介して始まることを考えると、携帯電話基地局の近くにいる人の末梢血リンパ球におけるDNA損傷が2.5~45倍増加していることは深刻な懸念である

24 ①Meo他②2015年③サウジアラビア④学校2校に近い基地局2基。925MHz⑤CBP⑥電磁波測定と血液採取⑦基地局から強い電磁波に曝露された学生は、弱い電磁波に曝露された学生に比べて、HbA1c[ヘモグロビンエーワンシー。糖尿病患者では顕著に増加]と2型糖尿病のリスクが有意に高い

25 ①Pachuau他②2015年③インド④2G。900MHz⑤RS⑥被曝者50名と対照者50名への質問票調査。電力密度測定⑦基地局の近くに住む住民は、基地局のない地域に住む住民に比べて、より多くの健康上の不満を抱えている

26 ①Al-Quzwini他②2016年③イラク④基地局⑤CBP⑥100組の不妊症の夫婦と、100組の不妊症ではない夫婦への質問票調査。精液分析⑦携帯電話電波への曝露は、不妊症ではない夫婦は12%、不妊症では29%で有意差が見られた

29 ①Singh(シン)他②2016年③インド④基地局4基⑤RS、CBP⑥20名(曝露群)と20名(対照群)への質問票および唾液の分析⑦基地局周辺に居住する被験者の大多数は様々な不満を抱え、大多数は対照群と比較して刺激時唾液分泌量が有意に少なかった

30 ①Premlal、Eldhose②2017年③インド④基地局14基⑤RS⑥質問票調査(229名)および電力密度測定⑦32種類の疾患の中で、4種類が基地局からの電磁波と明らかな関係があった

31 ①Taheri(タヘリ)他②2017年③イラン④基地局⑤CBP⑥自宅が基地局の近くにある健常者(曝露群)45名と、アンテナから離れた場所にいる健常者45名(対照群)⑥曝露群では、白血球の全数、ヘマトクリット値、単球、好酸球および好塩基球の割合が対照群より有意に低下した。赤血球数、その平均容積、平均赤血球ヘモグロビン濃度は対照群に比べ顕著に高かった。ヘモグロビン、平均赤血球ヘモグロビン量、血小板数、リンパ球と好中球の割合、サイトカインIL-4、IL-10、インターフェロンγの血清レベルについては、両群間に有意差は観察されなかった⑦基地局からの電磁波は、血液や免疫系に影響を与える

32 ①Vijay(ヴィジェイ)、Choudhary(チョードリー)②2017年③インド④基地局40基。900~1800MHz⑤RS⑥質問票調査⑦基地局設置後に、頭痛、睡眠障害、喘息、がん、アルツハイマー病、多発性硬化症などの不調をきたす人がいることが示された

33 ①Zothansiama他②2017年③インド④基地局6基。900~1800MHz⑤CBP⑥質問票調査、血液採取、リンパ球培養、電力密度測定⑦基地局から80m以内に居住する曝露群40名は、基地局から300m離れた場所に居住する対照者40名と比較して、小核[染色体のダメージの結果として生成]の発生頻度が有意に高く、血漿中の種々の抗酸化物質が有意に減少

34 ①Meo他②2019年③サウジアラビア④基地局(925MHz)が近くにある二つの異なる学校⑤RS⑥認知機能、運動スクリーニング課題、空間作業記憶課題のテストを生徒に実施。電磁波測定⑦基地局から強い電波(10.021μW/cm2)に曝露した学校の生徒は、弱い電波2.010μW/cm2)に曝露した生徒(に比べ、運動スクリーニング課題、空間作業記憶課題の成績が有意に低下

35 ①Ali(アリー)他②2021年③イラク④基地局。900~1800MHz⑤RS⑥質問紙調査、電磁波測定⑦最初のグループ(79名)は、100m未満の間隔で三つの基地局がある町に居住。第2のグループ(79名)は、基地局のほとんどない地域に限定。電磁波測定⑦肌荒れ、脱毛、睡眠障害、不妊と基地局までの距離の間に有意な関連性が見られた。距離が近いほど問題が多い。異常(abnormalities)、血圧の問題、腫瘍、記憶・集中力の問題に関しては統計的有意でなかった

36 ①López他②2021年③スペイン④基地局9基⑤RS、C⑥曝露地域174名、対照地域94名への質問票調査。および電磁波測定⑦高い電磁波にさらされた人に、より深刻な頭痛、めまい、悪夢。調査対象者のがん患者は5.6%で、スペインの全人口の10倍である

38 ①Rodrigues(ロドリゲス)他②2021年③ブラジル④基地局⑤C⑥都市を分析単位とした生態学的研究。がん別、性別、年齢層別、一人当たり総生産、死亡年、生涯の被曝量に関する情報を収集し、すべてのがん種といくつかの特定のがん種(乳がん、子宮頸がん、肺がん、食道がん)について調査⑦基地局からの電波への曝露は、すべてのがん、特に乳がん、子宮頸がん、肺がん、食道がんによる死亡率を増加させる。これらの結論は、被曝量が多いほど、特に子宮頸がんの死亡率が高いという事実に基づいている。空間解析の結果、最も高い曝露が観察されたのはブラジル南部に位置する都市で、この都市はすべての種類のがん、特に肺がんと乳がんの死亡率が最も高いことが示された。

[1]原文はCだが誤記と思われる

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