携帯電話などの電磁波と青少年の脳腫瘍関連を調べた国際疫学研究の結果

網代太郎(電磁波問題市民研究会会報編集長)

[1]の論文に付された図表

 無線電話(携帯電話とコードレスフォン)から出る電磁波が、青少年の脳腫瘍リスクを増やすのかを調べた、日本を含む14カ国による疫学調査「MOBI-Kids(モビ・キッズ)」の結果をまとめた論文が昨年(2021年)12月に発表されました[1]。結論は「本研究は、若年者における無線電話の使用と脳腫瘍との因果関係を示す証拠を提供しない」が、この研究の限界により「わずかなリスク増加を否定することはできない」というものでした。電磁波による健康影響の可能性について警鐘を鳴らしている専門家からは、この研究は問題があるため「データは解釈不能であり、この研究結果は却下されるべき」との指摘も出されています。青少年を対象とした電磁波問題と脳腫瘍についての疫学調査としては過去最大規模とされるこの研究の概要を紹介し、問題点を検討します。

大人への研究で「携帯電波で脳腫瘍」の疑い
 この論文が引用した報告によると、脳および中枢神経系がんの年齢調整罹患率は、全世界で1990年と2016年の間に17.3%増加しました[2]。
 その原因の一つとして、端末を頭の至近距離で使うことが多い携帯電話やコードレスフォンが放出する電波が疑われてきました。
 スウェーデンのHardell(ハーデル)らは2015年、携帯電話使用と関連した脳腫瘍の大規模な疫学研究を複数実施しました。1498人の神経膠腫(悪性脳腫瘍の一種)患者群(18~80歳)と3530人の対照群を対象としたプール解析で、携帯電話の使用により、リスクが1.3倍(95%CI 1.1-1.6)増加すると報告しました[3]。
 2010年5月に公表された、日本を含む13カ国による「インターフォン研究(INTERPHONE study)」は、2708人の神経膠腫患者群と2972人の対照群について調査しました(30~59歳。神経膠腫のほか、髄膜腫などの脳腫瘍も調べています)[4]。その結果は、以下のようなものでした。

(1)過去6カ月以上にわたって平均週1回以上携帯電話を使用しているグループは、使用がそれ未満のグループと比べて、神経膠腫のリスクは0.81倍(95%CI 0.70-0.94)(この数字が正しければ、携帯電波には神経膠腫の予防効果があることになる)。
(2)累積時間の長さで全体を10のグループに分けて調べると、最長曝露グループ(累積通話時間1640時間以上)でのみリスクが上昇(1.40倍(95%CI 1.03-1.89))。
(3)(電磁波を浴びやすい)側頭部にできる神経膠腫をみると(2)で言う最長曝露グループではリスクが1.87倍(95%CI 1.09-3.22)に、いつも携帯電話をあてる側にできる神経膠腫は同じグループで1.96倍(95%CI 1.22-3.16)。
(4)生物学的には考えにくい(1)のような結果が見られたのは、患者群と対照群とで、インタビュー調査への参加率の違い(非参加者は携帯電話の使用期間を参加者よりも短めに報告する傾向があるという)や思い出し方の違い(患者の方が対照よりも使用時間を多めに報告する傾向があるという)などによる、統計的なバイアス(偏り)や誤差があるためだろうから、同じ理由で(2)や(3)の結果も因果関係があると言えるほど強い証拠とは言えない。

 国際がん研究機関は2011年5月、こうした研究成果を踏まえ、発がん性について限定的な証拠があると評価し、通信・放送で利用される電波(高周波電磁波)を「2B(ヒトに発がん性があるかもしれない)」に分類しました。

青少年を対象に
 インターフォン研究は成人を対象としていました。成人と比べると、子どもは成長途上のため有害因子に対して、より脆弱であることは、よく知られています。そこで、子どもを対象とした国際研究プロジェクト「MOBI-Kids」が行われることになりました。
 この研究は症例対照研究で、2010~2015年に、10~24歳の脳腫瘍患者899人と、診断日、研究地域、年齢が脳腫瘍患者と一致する対照者(虫垂炎患者)1910人について行われました。対照者として虫垂炎患者を選んだことについて論文は、研究対象である年齢の青少年を一般から募っても応募者が少ないと予想されたため、研究参加施設の地域にある一般外科で虫垂炎の疑いで手術を受けた患者を用いた旨、述べています。
 研究の参加者(患者及び対照者)は、電磁波(通信用電波(高周波電磁波)だけでなく、送配電線や家電から漏れる超低周波電磁波も)の被曝について調べるため、無線電話の使用履歴などについての質問票に記入しました(一部は親が代わりに書きました)。両親はまた、妊娠前、妊娠中、および参加者の生後1年目に受けた可能性のある曝露について質問票に回答しました。
 患者899人のうち、神経上皮型の脳腫瘍(主として神経膠腫)患者671人が、そして、対照群のうち1889人が、それぞれ解析の対象となりました。その結果は以下の通りでした。

(1)無線電話の累積通話時間の長さによって5個のグループに分けた[5]とき、一番短いグループと比べて、2番目のグループの脳腫瘍リスクは0.90倍、3番目のグループは0.73倍、4番目は0.68倍、もっとも長いグループはは0.74倍であり、全体としては累積通話時間が長いほど脳腫瘍のリスクが低下(この数字が正しければ、携帯などの電波には脳腫瘍の予防効果があることになる)。
(2)上記(1)の結果が無線電話からの曝露による脳腫瘍の予防効果を示すというそもそも(アプリオリ)の理由はなく、子ども本人でなく親が回答したことなどによる複数のバイアスが原因である可能性があり、未知のバイアスが影響している可能性も否定できない。未知のバイアスの影響は計算できず、その大きさを評価できないので、低下した(ように見える)リスクの下に、弱い(けれども本物の)リスク上昇が隠されてしまっているかもしれない。したがって、この研究では、無線電話の使用と脳腫瘍のリスクとの間に強い正の相関があることを否定することしか言えない(数字上は負の相関なので、バイアスを考慮しても、強い正の相関は否定できる)。

研究結果への批判
 電磁波による健康影響などについてウェブサイト「Electromagnetic Radiation Safety」で情報発信している、Joel M. Moskowitz(ジョエル・モスコウィッツ)博士(カリフォルニア大学バークレー校公衆衛生学科)は、この研究について「私たちの意見では、データは解釈不能であり、この研究結果は却下されるべきものである」「これだけの資源と時間を費やしたにもかかわらず、若者の無線電話使用による脳腫瘍のリスクについて、MOBI-Kids研究からほとんど学ぶことができないのは残念なことである。この研究は公衆衛生にとって重要な問題を扱っており、資金の大半が欧州委員会から提供されたものであるため、MOBI-Kidsのデータセットを科学界に提供し、異なる仮定や方法を用いてデータを再分析できるよう、二次分析に供するべきである」とコメントしています[6]。
 この研究の問題点として、Moskowitz氏は以下を指摘しています。

①対照群と症例群の参加率の差
 研究の参加率は、対照群(54%)を症例群(72%)で大きな差がありました。このことによって脳腫瘍のリスクの値に下方バイアスがかかっていると思われ、リスクの値の多くが1未満になったことは、これで説明がつくと、Moskowitz氏は述べています。
 Moskowitz氏はあまり詳しく述べていないのですが、たとえば、この研究のように対照群の参加率が少ない場合、携帯電話についてより不安が強い人が参加する傾向が強まり、質問に対して実際より「長めに通話した」と思い出す人の割合が高くなり、そして結果的に、長く通話しているのに脳腫瘍にならなかった対照者が多めに含まれるという偏り(バイアス)が生じた可能性があるというようなことが考えられます。

②サンプルの少なさ
 この研究は当初、患者2000人、対照者4000人を集める計画でしたが、実際は、その半分も集められませんでした。未成年の脳腫瘍の発生率は、100万人あたり数十人程度のようです[7]。このような発生率が小さい病気については、それなりの人数を集めなければ統計的な「検出力」(ある影響(この研究の場合は、電磁波が脳腫瘍を引き起こす影響)が実際に存在する場合に、その影響を検出する検査能力)が低下して、はっきりした結果を導くことが難しくなります。当然、大人数を集めるためにこそ、14カ国で協力体制を組んだのです。

③対照者の選び方
 「虫垂炎と診断された若者を対照として用いることが、携帯電話使用者の研究に適した選択であるかどうか、我々は疑問視している。なぜこの研究では、先行するインターフォン研究のように一般集団からの対照群を含まなかったのか」とMoskowitz氏は指摘しています。

④より長期の追跡が必要か
 この研究で解析された患者671人のうち、約8割の529人は携帯電話の使用期間が10年未満でした。10年以下では、この若い集団で携帯電話に関連する脳腫瘍が診断されるまでに十分な時間とは言えないかもしれないと、Moskowitz氏は指摘しています。
 また、この研究の問題点ではありませんが、携帯電話がスマートフォンへ移行したことが影響した可能性についてMoskowitz氏は言及しています。以前の携帯電話は電話の上部にアンテナがありましたが、多くのスマートフォンは電話の下部に携帯電話の送信アンテナがあり、頭部ではなく首が強い電磁波に曝されます。このため、脳腫瘍のリスクが減り。他の腫瘍、特に甲状腺腫瘍のリスクが増加したかもしれないという推測です。

日本で担当したのは
 MOBI-Kids研究を日本で担当したのは、東京女子医科大学の山口直人教授らと、首都大学東京(現東京都立大学)の多氣昌生教授ら(肩書きはともに当時のもの)で、総務省が研究費を支出する「生体電磁環境研究」の一環として行われました。
 非常に奇妙なことに、日本では「電波の利用の促進」(総務省設置法第4条)を所掌事務とする総務省が、利用促進とは相反する電波の規制も担当しています。総務省は膨大な電波利用料収入の一部を、電波の安全性を検討する研究へ振り向けています[8]。そして、筆者が知る限り、総務省がお金を出した研究で、電磁波被曝による何らかの生物学的影響を示唆する結果を出したものはありません。ちなみに、世界へ目を転じると、1990年から2020年7月までの30年間に発表された電波(高周波電磁波)についての論文944件の75%(711件)が「生物学的影響あり」であるとの報告があります(電磁波研会報第126号既報)[9]。
 MOBI-Kids研究を日本で担当した山口氏、多氣氏は、総務省で電磁波の安全性について検討する委員会の常連で、平たく言えば「電磁波村」の御用学者です。
 山口氏で特に印象的なのは、山口氏ら東京女子医科大学の研究グループが、日本の20~30歳代で脳腫瘍が増えていると指摘した2016年の論文です(電磁波研会報第122号参照)[10]。調査期間(1993~2010年)の17年間は、携帯電話が普及した時期と重なります。しかし論文は「インターフォン研究でみられた携帯電話使用によるリスクの上昇を大幅に超える増加なので、携帯電話が原因とは言えない」という摩訶不思議な論理を展開し、因果関係を否定しました。
 この研究について論文の筆頭著者・東京女子医大の佐藤康仁講師へジャーナリスト植田武智氏が取材を依頼したところ「上司の了解が得られないので回答できない」と言われ、最終著者・山口氏は「佐藤氏に聞いてほしい」と、たらい回しだったとのことです[11]。
 脳腫瘍が増えすぎているから携帯電話のせいではないという奇妙な論考にしても、市民との対話を拒絶する(しかも国からの支出で行った研究について)姿勢にしても、科学者として極めて不誠実であると言えます。
 MOBI-Kids研究についての本題から外れましたが、少なくとも日本においては、このような研究者がこの研究を担当していたという事実があります。たばこや農薬など、産業界と対立しがちな健康影響問題をテーマとした研究について、つきまといがちなモヤモヤとしたものを、この研究からも感じます。この研究の評価や今後の課題について、さらに多くの外部の研究者に検討してほしいと思います。

[1]G.Castaño-Vinyals et al. 2021. Wireless phone use in childhood and adolescence and neuroepithelial brain tumours: Results from the international MOBI-Kids study
[2]Brain and Other CNS. Cancer Collaborators. 2019. Global, regional, and national burden of brain and other CNS cancer, 1990-2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016.
[3]L. Hardell, M. Carlberg. 2015. Mobile phone and cordless phone use and the risk for glioma – Analysis of pooled case-control studies in Sweden, 1997–2003 and 2007–2009
[4]INTERPHONE Study Group. 2011. Acoustic neuroma risk in relation to mobile telephone use: results of the INTERPHONE international case-control study
[5]年齢が高いほど当然ながら累積通話時間が長くなりがちなので、10~14歳、15~19歳、20~24歳の年齢グループに異なる基準で5グループに分けた
[6] Joel M. Moskowitz.”My Comments on the International MOBI-Kids Study” 
[7]小児(0~14歳)の脳腫瘍の発生率は100万人あたり約20人(良性・良悪不詳の腫瘍を含めると約30人)。国立研究開発法人国立がん研究センター 「脳腫瘍〈小児〉」https://ganjoho.jp/public/cancer/brain_tumor/print.html
[8]電波使用料収入720億円のうち「電波の安全性に関する調査及び評価技術」に14億円を支出(総務省「電波利用料の事務の実施状況(令和2年度)」)
[9] “Effects of Exposure to Electromagnetic Fields: Thirty years of research”(Joel M. MoskowitzによるHenry Laiの研究の要約) (会報第126号既報)
[10]Y. Sato et al. 2016. Time trend in incidence of malignant neoplasms of the central nervous system in relation to mobile phone use among young people in Japan
[11]植田武智 2020.「20~30代で脳腫瘍増加も『ケータイ使用のリスクを超える増加なので』と因果関係を否定する東京女子医大〝疑惑の論文〟佐藤康仁、山口直人ら」マイニュースジャパン(会報第122号既報

 

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