福岡高裁「住民控訴棄却」の不当判決  12月5日 延岡大貫基地局裁判

なぜ、司法は命の叫びをわかろうとしないのか

症状発生は認める、という矛盾
 宮崎県延岡市大貫町で住民たち30名が原告になり、KDDIを相手取り、基地局の操業差し止めを求めた控訴審判決が、12月5日、福岡高裁宮崎支部(田中哲郎裁判長)で出されました。判決は一審同様、「症状の発生は認めるが、基地局電磁波との因果関係は認められない」とする、住民側請求を棄却する不当なものでした。
 8年前の2006年10月からKDDIの基地局は稼働しました。3階建てアパート屋上という低層アンテナから発信される基地局電磁波は周辺住民を直撃しました。周辺住民に耳鳴り、頭痛等の症状が発症したのは2006年11月からです。住民たちは基地局撤去を求めて、様々な取り組みをしましたが、KDDIは一切誠意を見せなかったため、住民たちは2009年12月に「止むに止まれず」、KDDIを相手取り、提訴しました。1審判決(住民側敗訴)は2012年10月17日に出ました。住民側はただちに高裁に控訴し、今回の判決に至ったのです。
 争点は大きく行って3つです。つまり、①基地局設置以降に実際に健康被害が生じたのか、②健康被害は基地局電磁波の影響によるものか、③被害と電磁波との因果関係を認めて場合、住民の症状は忍耐できる限度を超えているかどうか、です。
 判決は、「(住民たちが訴える)症状が発生していることが認められる」としました。しかし「基地局から発射される電磁波が、訴えているような症状を引き起すほど異常な強度であるとは認められない」としました。そして、宮田幹夫医師の所見書と新城哲治医師の供述を「認め難い」「証拠が不十分」として斥けました。

マイクロ波ヒアリング効果も「困難」と否定
 1審と異なり、住民側(原告側)は新たに吉富邦明九州大学教授(環境電磁工学専門)の「マイクロ波ヒアリング効果」論を健康被害の根拠として展開しました。電磁波を曝露されることで、人はザーザーなどの音を感知する、というマイクロ波ヒアリング効果は、WHO(世界保健機関)やICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)でもその存在は認められています。吉富教授はアナログ波の測定器でなく、最新のデジタル測定器で基地局の最大値を正確に測定し、証拠として提出しました。「基地局電磁波の最大値は、人間の脳が音として感知してしまうほど強く、それが頭痛や耳鳴り等の諸症状を引き起こす原因だ」という趣旨です。
 しかるに判決は、マイクロ波ヒアリング効果はレーダーなど強い出力では起こるが、基地局電磁波の出力等とレーダー波の出力等を同視できるかは疑問とし、(最大値でなく)電波法が定める「6分間平均値」では本件基地局電磁波強度は基準内なので、「健康被害を引き起すほど明らかに異常な強度であるとまでは認められない」としました。

「最低、最悪の判決」(弁護団長見解)
 原告側弁護団長の徳田靖之弁護士は判決後の報告会で、「我々の問いかけを裁判所は全く理解しておらず、最低最悪の判決だ」と述べました。また次のように述べました。「一審判決はある程度、被害の原因を説明しようとしたが、今回は何一つ説明しようとしていない。判決は逃げているとしか言いようがない。本来ならば、KDDI側が“大丈夫”だと立証すべきで、どこまで住民側に立証させようというのか。健康被害が生じた時の立証責任をすべて住民側に押し付けている。過去の公害訴訟の考え方に真っ向から反し、司法の使命感をまったく顧みていない」。
 一方で、判決がパルス波測定の測定結果を認めた点については、「電磁波をめぐる裁判に大きな役割を果たすのではないか」と一つの基準を示せた成果としてプラス面と評価しました。

「撤去まで闘い続ける」(原告団長)
 岡田澄太原告団長は、「本当に長い長い月日で、電磁波という見えない鞭でたたかれ消耗し、裁判で消耗し、生活もある。悲しさも怒りも通り越し、解決しようにもできず、やけになってはいけない。どうしようもない思い」と無念さを語りました。
 しかし、「電磁波で苦しんでいる方たちは決して落胆しないでいただきたい。延岡の裁判は基地局健康被害の証明の第一歩だ。必ず基地局のありようを変えさせることができると信じている。勝った負けたで終わるものではない。撤去するまであらゆる方法を使って闘い続ける」と決意を披露しました。

最高裁に上告して闘う
 原告団、弁護団はこの不当な高裁判決を不服とし、最高裁に上告して争うことを決めました。皆さん、引き続き延岡大貫の住民たちの正義の闘いを支援しましょう。【大久保貞利】

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