スマートメーターを設置した東電との闘い

渡邊幸之助(電磁波問題市民研究会事務局)

 私たち夫婦は、神奈川県北部の中山間地域に住んでいます。1歳半になる子がいます。昨年、アナログメーターをスマートメーターに交換されてしまいましたが、電磁波研の協力も得て、それを新しいアナログメーターに交換することに成功しました。この闘いを皆様の参考にしていただければと思います。
 私も妻も過敏症ではないですけれども、電磁波をなるべく避けたいと思って生活してきました。私たちは東京電力に一貫して4点を要求してきました。

  1. 私たちは従来より電磁波の健康に対する影響に懸念を持っており、日本の基準も甘いと考えている。スマートメーターは電磁波を発生させる装置である。特に小さい子どもへの影響もより心配なので、電磁波の影響はできるだけ少なくしたい。よってスマートメーターをアナログメーターに交換してほしい。
  2. プライバシーの問題。電気の使用状況が把握されてしまう。これは、プライバシーの侵害と考える。
  3. 東京電力は「お客様のために導入する」などと言っているが、スマートメーターを必要ではないという人も当然いる。必要だという人もいるかもしれませんが、であれば、消費者に選択の自由を与えるべきではないか。
  4. 私たちが直接、間接に聞いた話の中で、東京電力管内で電気メーター交換の時点で拒否の意思表示をした人については従来型のアナログメーターが設置されている。スマートメーターが設置されてしまった私たちが交換できないというのは、顧客に対する対応としては不平等ではないか。

スマートメーターへ交換
 2015年4月ごろ、「電気メーター交換の取替えにご協力をお願いします」という東京電力のチラシが、ポストに入っていました。その時点で私、スマートメーターのことを全然知らなくて、5月7日にスマートメーターに交換されてしまいました。この時点では新型のメーターなのだなと思った程度で、ちょっとお恥ずかしい話なのですけれども。
 私たちはとある市民団体の会員でもあります。その事務局の方が電磁波問題に理解があり、自分の家にスマートメーター交換のチラシが入りましたが、アナログメーターにしてほしいと東京電力に要求したら、アナログメーターに交換されたと、同会の会報で報告しました。それを6月に見て大変に驚いたというか、痛恨の極みの気持ちになりました。あらかじめ知っていれば、私たちは絶対に拒否したであろうことなので。東京電力のチラシの内容が詳しくなかったことも問題ですが。
 かなり悩んで、その方に相談したり、ネットで検索をして電磁波問題市民研究会に行き当たって、大久保事務局長に電話で相談をして、いろいろアドバイスを受けました。「ぶれずに最後までアナログメーターにしてほしいと要求し続ける」ことを大久保さんは強調しました。また「東京電力は平気でウソをつく」「常識的な対応でやっても、らちが明かないこともある」とも言われて、当時の私は「大久保さんは、大げさに言っているのではないか。電磁波研に相談して大丈夫だったのか」と実は思ってしまったのですが、その後のやり取りの中で、自分の考えが甘かったことを知りました。

電話しても返事が来ない
 まず、6月26日に東京電力相模原支社に電話しました。「スマートメーターをアナログメーターにしてほしい」と要求しました。「判断しかねるので担当者より連絡させます」との答えでした。
 29日に、相模原支社ではなく、本社のスマートメーター推進室(以下、推進室)のMという女性から電話がありました。Mさんは「スマートメーターの電磁波については総務省の基準はクリアしています」「アナログメーターは製造中止で在庫が少ない」「(前述の会長さんがスマートメーターを拒否できたケースについて)その対応は、よくわかりません」と言いました。重ねて「アナログメーターに替えてほしい」と言ったら、「検討してまたご連絡します」と答えました。
 しかし、全然連絡がきません。仕方がないので7月14日、こちらから推進室のMさんに電話をしました。「スマートメーターをアナログメーターに交換することはしていません」「実際に健康被害がある人については対応を検討中」と言われました。
 大久保事務局長と相談して、もう少し強い態度に出てはどうかと言われたので、30日、Mさん宛てに再び電話をしました。今度は強い態度に出て、「あなたの説明を文書にして出してほしい、上の人に替わってほしい」と要求しました。そうしたら少し態度が変わって「アナログメーターに交換したとしても、またスマートメーターへの交換をお願いすることになることになるが、それで良いですか」「明日にもこちらから電話します」という回答を得て、「これで解決できるかな、こちらが強い態度に出ると譲歩するのかな」と思いました。
 しかし、翌日、電話がこないので、推進室に電話したら「Mは外出中で不在」とのこと。
 仕方がないので8月3日にまた推進室に電話すると「Mは会議のため席を外しています」と言われました。
 6日11時に推進室に電話したら「Mは席を外しています。夕方には戻ります」ということでした。この日は残念ながら夕方に電話することができませんでした。
 7月30日の電話で、交換を前提としたようなことをMさんが言ったので、私たちは「交換してくれるだろう」という感触を持ったのですが、言った本人と全然連絡が取れなくなったので、「私たちはごまかされているのではないか」と次第に思うようになりました。結局、ごまかされていたのですね。大久保さんが言った通りだったと、痛感しました。

他の職員が対応
 8月10日、推進室に電話しましたが、応対したKという男性は「Mは先週から体調を崩して病欠となっています。いつ出社するか分かりません」とのこと。「東電はここまでやるのか」と思いましたね。Kさんにこちらの要求を伝えたのですが、電磁波に対する私たちの懸念については、論争をふっかけてくるような対応でした。「電磁波を、スマートメーターの近くではなく、居間で計測したら数値は低いのではないですか」などと当たり前のことを小馬鹿にしたように言ってきました。前述の会長さんがスマートメーターではなくアナログメーターに交換させた例を伝えましたが「それはどこの話ですか? それは不適切な対応だから是正しなければいけないから、場所を教えてください」と。要は「アナログメーターへの交換はできません」の一点張りで、30分ほど話をしましたが、全くらちがあきませんでした。Mさんの対応がこちらに押され気味だったので、彼女を隠して、上からねじを巻く形でKさんが登場したのではないかと私たちは考えました。「これが顧客に対する態度か。なぜに私たちがこんな目にあうのかが、まったくわからない。東京電力を許すことはできない」という思いで、寝られない日もありました。

内容証明を送る
 電話でこれ以上やりとりするのも限界だと考え、大久保事務局長とも話して、やり方を変えてみました。東京電力に内容証明郵便を出すことをKさんに伝えたら「どうぞ出してください」という対応でした。内容証明を社長と推進室長に宛てて、この後何回か出しました。
 8月12日、私たちの基本的な主張、これまでの電話でのやりとりの経緯と、その対応の不誠実さについて指摘し、責任のある方からの回答を要望しました。
 21日、スマートメーター推進室オペレーションセンタのーチームリーダーSさん名の回答が来ました。内容は、「オペレーターの対応の行き違いにより不快な思いをさせてしまいました」というおわびのほか、最初に網代さんが説明したようなスマートメーターの「メリット」を延々と述べたあと、「電磁波は国の基準に基づいています」「プライバシーについては国際基準に準拠した高度なセキュリティ技術でデータ漏洩の防止を図っているので、ご理解ください」というものでした。
 25日に2通目の内容証明郵便を出して、「大久保事務局長同席のもと、直接話し合いがしたい」と要求しました。
 9月4日にSさん名で回答が来ました。国のエネルギー基本計画で「2020年代早期に、スマートメーターを全世帯・全事業所に導入する」ことが閣議決定されていることが強調されていました。法律ではないから義務ではないのですが「閣議決定」だから替えなければいけないという脅しだと、私たちは受け止めました。話し合いについては「電磁波研との意見交換会という形でよければ実施可能」との回答でした。
 8日に3通目の内容証明郵便を出しました。「意見交換会ではなく、私たちの家のメーターをアナログメーターに交換することについて話をしたい。仕事の関係から夕方にしてほしい」と要求しました。
 回答が来ないので、20日に4通目の内容証明郵便を出しました。28日にSさん名で回答が来て、「電磁波研との意見交換会の形でなければ開催しません。開催するとしても平日日中、場所は本社、時間限定。それを認めないならば、今までと同じく書面等での対応になる」という、あまりにも居丈高な対応でした。
 これ以上このやり方では事態の打開は難しいと考え、29日に5通目の内容証明郵便を出しました。その中で私たちは「直接の話し合いに応じられないのなら、私たちも別の手段を考えざるを得ない」と書きました。
 10月9日、Sさん名で回答が来て、「現在は、すべてのお客さまにスマートメーターの設置を予定していることから、交換の時点で拒否をしてアナログメーターになった人についても、次回のメーター交換時にスマートメーターへの取替えをお願いします。話し合いの場については、電磁波研との意見交換会をやって、その後に私たちについての意見交換をやることも可能です。場所は本社で平日18時以降実施の方向で調整をします」とありました。「別の手段を考えざるを得ない」と書いたことが、私たちの場合は有効であったのかなと考えています。また「現在は~予定している」という部分から、スマートメーター交換はあくまでも目標である、というニュアンスを感じました。これは勝てるかもしれないと初めて思いました。

東電と直接交渉
 10月29日18時30分より東京電力本社1階にてスマートメーター推進室の担当者と電磁波研事務局、私たち夫妻、子どもが参加して直接の話し合いの場を持ちました。1時間の話し合いの前半部分は電磁波研会報97号でも報告されている通りで、こちら側の質問には「セキュリティのため」と言って答えず、スマートメーター設置を希望しない人については「説明して納得してもらえるよう努力します」と繰り返すのみ。
 後半部分の私たちの家に設置されたスマートメーターについての話では、最初は「選択の自由は与えない」「交換は出来ない」という態度でしたが、予定された時間ぎりぎりになって「個別の対応として、このケースに関してはアナログメーターに交換します」という回答をし、ようやく交換されることとなりました。
 11月19日、ついに新しいアナログメーターへの交換に成功しました。
 余談ですが、我が家のメーターがスマートメーターにされた後の7月に検針員が来ていました。どうしてと思って聞いたところ「スマートメーターの通信は9月から開始するから、まだ検針員が検針する」とのことでした。アナログメーターに交換する直前の11月に電磁波研事務局の鮎川さんに測定してもらいましたが、その時点でもやはり通信をしていない様子でした。我が家のスマートメーターは東芝製で、東芝製は通信に不具合があるという報道があり、そのせいかどうか分かりませんが。

終わりに
 新しいアナログメーターを見て、私たちはとても晴れ晴れした気分になりました。ささやかな勝利ではありましたが、さまざまな教訓をもたらしてくれました。福島第1原発事故以降の東京電力の対応に強い不信感と疑問を持ってきた私たちですが、いざ自分たちが当事者となってみると「これほどひどい会社だとは思わなかった」というのが正直な感想です。
 やり方については、それぞれのやり方があると思います。自分たちの場合は回り道をしてしまった部分もあります。重要なことは、あきらめないで要求すること。気迫で道が開けるような気がします。
 まずはアナログメーターの交換の通知が来た時に拒否して新しいアナログメーターに替えるということを、どんどん広めていく必要があると思います。また、希望しない人に強制されることがないよう、強く電力会社に働きかける必要があると考えています。

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